本格から社会派ミステリー、犯罪小説など幅広い作風で社会課題を追求した巨匠、松本清張。ヘビースモーカーだったことは有名だが、カメラ趣味もあったらしい。その特徴が顕著に表れているのが本書(1981年発表)。
A新聞が主催する「読者のニュース写真年間賞」でこの年優勝したのは、藤沢在住の保険会社員山鹿恭介。御殿場近くの東名高速で起きた6台の車が衝突した事故の現場に居合わせ、3台の車が炎上したその瞬間を捉えた「激突」という作品でだった。この事故では、死者6、負傷者3が出た。賞を選考した委員は、事故現場にカメラを持った山鹿が居たことを「十万分の一の偶然」と評した。
先頭を走っていたトラックが急ハンドルを切って横転、緩いカーブの下り路線だったことから他の車が追突して大事故になった。先頭のトラックがなぜ急ハンドルを切ったのか、トラックの2人は死んでいるので不明のままだ。後続車で重傷を負って生き残った男は赤い閃光が2度光ったというのだが、現地には何かが燃えた形跡はない。警察は事故として、本件を収束させた。

死者の中に山内明子という23歳の女性がいた。彼女の婚約者沼井正平は、事故の現場に都合よく素人カメラマンの山鹿が居合わせたことに疑問を持つ。山鹿は地元の写真クラブで他の人達と折り合いが悪く、一人で事件・事故などを追いかけるカメラマンだった。「年間賞」の審査委員長でもある大家が山鹿の師匠格で「最近迫力ある報道写真が少ない。ある程度演出も必要」と言っていたこと、山鹿がそれを鵜呑みにした可能性があることを、沼井は突き止める。
沼井は現場を歩いて、そこに何かが仕掛けられていたことを確信する。山鹿がわざと事故を起こしたと考えた沼井は、正体を隠してカメラマニアとして山鹿に接近する。このあたりのカメラ談義は、事件の必然というより作者の趣味が反映されているように思う。撮影の旅に出る時何を持っていくか、カメラは何台、レンズは何本、三脚は、ストロボは、フィルムは・・・という具合。
作者の晩年の愛機は、Nikon-F3だったそうです。本書にも「ゴールデンN」というものが出てきます。これはブラックボディのNikon-Fが塗装が擦り切れて金色の地金がでてしまったもの。そのくらい使い込んだカメラということです。山鹿が事故を起こした手口は、カメラが趣味の僕にはすぐに分かりましたよ。本筋とは関係ないですが。