2023年発表の本書は、TV朝日チーフプロデューサ松原文枝氏の、横浜IR戦記。IR基本法に基づき、横浜にMICE*1(本書ではカジノとある)を誘致しようとした政府に対し、公然と叛旗を翻して横浜市長選を闘い、勝ち抜いた<ハマのドン>こと藤木幸夫氏の物語である。
統合型リゾート施設は、ホテルや劇場、会議施設などを含み、富裕層の社交場でもあるカジノを備えたもの。2014年に安倍総理は、シンガポールの施設を見学し、日本への誘致を考えた。1999年に石原都知事が「お台場にカジノを」と提案したこともあって、政府は「IR基本法」などを準備し、横浜が有力候補に上っていた。

これに対し藤木氏は「ハマで博打は許さん」と反対。地元選出の菅官房長官と対立する。決着は、2021年夏の横浜市長選挙で付けられることになる。藤木氏はこのとき90歳だったが、
・海外にはカジノ依存症でつぶれる街もある
・横浜はそんなさもしいものに拠らなくても食える
・経済界は期待というが、彼らは「おこぼれ」に与りたいだけ
と明確に反対した。藤木氏は沖仲仕時代から、港湾労働者を護る闘いを続けてきた。人間力で「港湾産業」の中心人物となり、政財界にも太い人脈を持つ。自ら「最古の自民党員」という保守派で、政治家菅義偉を育てた人物でもある。
父親幸太郎の代には、田岡組長らとの交流もあった。港湾労働者には博打で身を持ち崩す者もいた。しかし幸夫の代になって、ヤクザや博打とは距離を置いていった。 本題ではないが、麻生元総理について「カネに綺麗で、まずいと思ったら余計なことを言わない」と政治家として高評価していたのが印象的だった。
政府与党のIR推進派は、財務省にIRの制度設計をさせたが、これが「世界で一番マネロンのできない制度」だった。欧米のカジノ事業者が逃げていき、自民党税調のA議員が骨抜き案を出したころから政府の意思も揺らぎ始める。藤木氏の盟友だった小此木議員の息子(当時国家公安委員長)との市長選にも、科学者の山中候補を立てて勝利した。
横浜港を巡るドロドロした顛末、十分理解できるレポートでしたね。