新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

VIP専属の調査機関

 日本のミステリー界には、20世紀の終わりごろ大きなイノベーションが生まれた。トリックのタネが尽きてもう本格ミステリーは書けないと思われていたところ、多くの本格作家が登場したのだ。島田荘司占星術殺人事件」(1981年発表)あたりがきっかけだったように思う。その後京都大学ミステリー研出身の作家が出てきて、すでに社会人になっていた僕も新作を読むようになった。

 

 新進作家たちは、僕の年代に近い。本書の作者東野圭吾は、2歳下になる。「探偵ガリレオ」のシリーズが面白くて、ほとんど全部読んだ。一方名作と評価の高い長編作品(あえて題名は伏せる)は、トリックは面白いのだが解決前後に過剰な「お涙頂戴」の雰囲気があってちょっと減点である。

 

 作者は「密室や暗号などの小道具が好きで、時代遅れといわれても拘りたい」と語っている。「Who done it?」や「How done it?」に定評があって、それが長編よりは短編で生きると思う。

 

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 本書(1990年発表)は、VIP専属の調査機関「探偵倶楽部」の名前のない探偵男女2人が登場する短編集である。1編は60ページほどと、短編としてはやや長め。主に民間企業のオーナーや役員、あるいは大学教授の家庭内で起きる事件を、「名無しの探偵」が依頼に基づき解決するストーリーだ。

 

 日本のミステリーでは、探偵役のほとんどは官憲(警察官・検察官等)である。ルポライター(浦上伸介)や大学教員(湯川学・黒江壮)にしても、なんらかのつながりが警察にあって事件解決への協力を求められる立場だ。しかし本書の「探偵倶楽部」は依頼人の要求・立場を十分に汲み取って、官憲とは常に距離を置いている。これは「依頼人の秘密厳守」からくる行動様式だ。

 

 かなり特異な探偵役の設定ではあるが、面白い工夫だと思う。作品リストを見る限り続編がないように思ったのは残念である。というのは、この設定もっと広く使えるはずだからだ。裏表紙に<探偵倶楽部とは、政財界のVIPのみを会員とする調査機関>とあったので、政治家や高級官僚、業界団体の長などが出てくるかと思ったのだが、精々スーパーチェーンのオーナーだったのは期待外れ。作者には、もっと大物の絡んだ事件を書いてほしいと思いました。