1938年発表の本書は、本格ミステリーベスト10の常連だった作品。ディクスン・カー(*1)の諸作の中でも三本の指には入るだろう。銀行家ヒューム氏は、かつては金庫室だった堅牢な部屋を書斎にしている。今日、彼はここでアンズウェルという青年を待っていた。2つしかない窓にはブラインドを下ろさせ、内部からボルトを掛ける。青年を迎えてからは、唯一のドアにもボルトを掛けた。
アンズウェル青年はヒューム氏の一人娘メアリーと恋に落ち、結婚の許しを得るためにヒューム氏を訪れたのだ。氏はあまり機嫌は良くなさそうだが、壁に飾ったアーチェリーの矢のことなどは説明してくれた。本題に入る前に、勧められたウイスキーを飲んだアンズウェル青年は昏倒してしまった。気付いてみると、ヒューム氏の心臓には例の矢が刺さって死んでいた。ドアには内側からボルトが掛ったまま。彼は駆け付けた官憲に逮捕され、殺人罪で裁判に掛けられることに。

陪審員の評決は有罪に決まり・・・と思われたのだが「世の中の食い違いを糺す」のが趣味である、H・M卿が弁護を引き受けてくれた。陸軍情報部勤務が長く、もう15年も弁護士業をしていない卿である。ワトソン役のブレイク夫妻も固唾をのんで見守る中。卿は法廷で密室トリックを暴く荒業を見せる。
ヒューム氏の弟、秘書、執事、娘、さらに隣人や青年のいとこなど、現場近くには多くの関係者がいた。卿は犯行時刻と思われるPM6:00~6:30の間の時刻表を示し、関係者の証言を改めていく。印象として「すべての関係者が、何らかの隠し事をしている」というのだ。
全体の7割が法廷シーン。作者は弁護士志望だったそうで、本書にその想いをぶつけたようだ。題名の「ユダの窓」は刑務所等で個室のドアに付ける監視用の窓のこと。卿は「すべてのドアにあるのじゃよ」というのだが・・・。50年ぶりに読みましたが、このトリックは忘れていません。それでも再読して、細かな伏線が張ってあったことを再認識しました。間違いなく、傑作です。
*1:本書は、カーター・ディクスン名義