ソ連の独裁者スターリンは、1953年3月5日に死んだ。自国民を2,000万人も殺した男というのは、おそらく史上唯一だろう。1987年発表の本書は、在英国としか情報がない冒険小説家ジェイムズ・バーウィックの初邦訳作品。
WWⅡの後、ソ連中枢部は西ヨーロッパ侵攻作戦を検討していた。作戦名は<ゴパック>。極秘裏の研究だったが、西側はそれを察知した。しかし空軍を囮に使い圧倒的な陸軍で攻めれば、パリもおとすことができる。しかし米軍のみが持つ核兵器を使われれば、勝者は無くなってしまう。だから発動されないはずだったが、死期が迫り妄想にとらわれた独裁者スターリンは作戦発動を命じる。
指令を受けた参謀総長は米国に逃亡、米国諜報部に独裁者暗殺をもちかける。参謀総長の暗殺を命じられたのは、赤色革命のときジョージアに取り残された米国少年アレックス。彼はKGBの前身MGBに入り、トレントン大尉として能力を示していた。

一方参謀総長に協力している米国情報部のジョーンズ准将は、ロシア通の学者トレントン教授と作戦を練るのだが、彼こそは生き別れになったアレックスの父親だった。暗殺任務を帯びて米国に渡ったアレックスは、父親に会い亡命の意思を告げる。それを聞いた准将はアレックスを保護し、その意思を確認しようとする。二重三重スパイは当たり前の世界ゆえの用心だが、意志は固いと思われた。ただ准将は<ゴパック作戦>を中止させるためにはスターリン暗殺しかないとも考え、アレックスに極秘任務を与えてソ連に送り返すことにした。
共産党の狭い世界で育ったアレックスが、モスクワ市中で知り合った19歳の娼婦に「共産主義の真実」を教えられるシーンが興味深い。共産党がないといっている、博打場・売春宿・闇市場が蔓延していたのだ。
あり得た侵攻作戦とスターリンの寿命、なかなか迫真の軍事スリラーでした。核兵器がなくても、ソ連は西欧侵攻をしかねなかったという話です。ましてや米国並みに持っている今では、当然来ますよねプーチン先生は。