新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アーチャーが挑む3つの射殺事件

 1963年発表の本書は、「動く標的」でデビューし20冊弱の長編ハードボイルドを遺したロス・マクドナルドの<リュウ・アーチャーもの>。先輩格のハードボイルド探偵フィリップ・マーロウが「非情の世界で希望を抱く孤高の騎士」なのに対し、アーチャーは悲劇を見るに諦観の域に達してしまった男である。

 

 今回の依頼人アレックスは好青年だが、結婚式の翌日に妻ドリーに失踪されてしまった。よくあることだと警察に取り合ってもらえず、私立探偵に人探しを依頼に来たのだ。曰く「愛し合っていたし、全く理由に心当たりはない」。失踪当日訪ねてきた中年男ベグリーの話を聞いて、何かが弾けたらしい。

 

 100ドル/日の報酬で引き受けたアーチャーは、3日でドリーの居場所を突き止めた。彼女は偽名で大学に入学し、大学の補導部長宅で住み込みのアルバイトをしていた。しかし彼女は夫のもとに戻る気はないと、アーチャーに告げる。

 

        

 

 アーチャーは、ベグリーや大学関係者からの聞き込みを続けていたが、ドリーの担当女性教授ヘレンが射殺され、容疑がドリーにかかった。彼女は錯乱しており、血まみれの手をかざして「殺した」というのだが、彼には信じられない。

 

 過去を探るアーチャーが見つけたのは、ドリーの母親が父親に殺されたとされた事件と、ヘレンが目撃したらしいイリノイ州での拳銃暴発死亡事件。10~20年も前のものだが、ヘレン殺しと並んで、3つの射殺事件ではないかと彼は睨む。複雑に絡まり合う事件捜査をする彼の前に、多くの悲しみを抱えた人たちが現れる。アーチャーは、知り合いの弁護士や探偵の助けを借りて、複雑な事件の真相と悲劇に迫る。

 

 多くの家庭が壊れ、米国社会に例えようのない不安が渦巻き始めたころです。作者はアーチャーの視点で多くの(家庭の)悲劇をなぞっていきます。本書は作者の作品中でも、ベスト3に入る傑作と思いました。