新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

陰画(ネガ)が陽画(ポジ)に変わる

 本書は、これまで「寒い夫婦」と社会派短篇集「媚薬の旅」を紹介した土屋隆夫の本格短編集。長編ミステリーでは「事件÷推理=解決」という余詰めを許さない厳格な姿勢を崩さない作者だが、短編では「意外性」を重視して上記の方程式にはこだわっていない。

 

 本書の作品は、1952~77年にかけて多様な雑誌に掲載された8編である。

 

・推理ストーリー

・カッパまがじん

・探偵実話

漫画読本

 

 など、僕も知らない雑誌があったようだ。昭和は雑誌の黄金期だったのかもしれない。最も古い「青い帽子の物語」では、トレードマークだった青い帽子を酒場で会った男に与えた作家が、男が投身自殺したことによって死んだことになってしまった。うるさい編集者や折り合いの悪い妻から解放されて自由を満喫していたのだが・・・。

 

        

 

 市井の酒場周辺でおきた不可能犯罪を扱った「動機対機会」は、本格的なミステリー。青酸カリ入りのウイスキーを飲んで死んだのはゆすりたかりの常習犯、恨んでいる人物も多いのだが、動機のある人物にはボトルに毒をいれる機会がない。警察は何人もの容疑者を尋問するが、結局迷宮入りに。しかし後日・・・。

 

 本編だけでなく、真犯人や犯行経緯が犯人の遺書などで後日判明するものがある。快刀乱麻を断つ名探偵は、上記2冊の短編集も含めて登場しない。本格ミステリーではありながら、謎解きよりも最後の1ページ、最後の1行で読者をあっと驚かせることが重視されているのだ。そう、陰画が陽画に変わるように、何十ページか読む間に出来上がった「前提」が崩れてしまうのだ。

 

 「変てこな葬列」は、田舎の郵便局に勤める若い男女の愛憎。お互いの秘密を知ったゆえに懇ろになった2人だが、真に愛し合っているわけではない。偶然2人に願ってもない縁談(うーん、昭和だ!)が持ち込まれ、2人とも相手を殺そうと機会をうかがうのだが・・・。

 

 長編13作と短編100作ほどを遺した作者の作品を、光文社文庫が再版してくれています。あと3割ほど埋もれたままの作品があるようで、もっと探してみます。