新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大店を狙う強盗団の背後に

 池波正太郎の「鬼平犯科帳」は全20巻以上だが、ほとんどは短編集。その中で本書(17巻)は、特別長編と銘打たれている。短編が1話完結TVドラマなら、長編は映画にもあたるだろう。おなじみの長谷川平蔵一家、火付け盗賊改方の与力・同心、密偵たちから、時折しか出番のない井関録之助や、死んだ密偵伊三次の愛人およねまで登場する。

 

 一人で街中を歩くのが好きな平蔵が、この日立ち寄ったのは駒込あたりの酒場。誰言うともなく「権兵衛酒場」、老齢の男女だけで営業していて、2人とも無口。

 

・酒は5合まで

・肴はあり合わせ1品のみ

 

 で売っている。

 

        

 

 人づてに「美味い」と聞いてふらりと立ち寄ったことから、平蔵は大店を狙う大規模な強盗団の存在を嗅ぎつける。「権兵衛酒場」には浪人4人組が襲い掛かったが、警戒していた平蔵に撃退された。しかし老女が負傷、老爺は姿を消した。老爺は元侍らしく、重傷を負った老女も何も話さない。また、平蔵自身を50両で暗殺しようと相談している浪人たちの話をおよねが聴いて通報する。実際、平蔵を襲った浪人もいた。

 

 事件の背景には7千石の旗本家や、6百石の御家人家が複数関わり合っているらしい。そうなると火付け盗賊改方ではなく評定所のミッションになるのだが、平蔵の上司である老中京極備前守は「よいようにいたせ」と捜査を支持した。最近皆殺しに遭った薬種問屋からは、高価な薬が大量に盗まれていた。2年前には別の大店も、同様の手口で皆殺しにされている。平蔵は自らを囮に、強盗団の背後にいる大物に罠を掛ける。

 

 平蔵が<本所の銕>とあだ名された放蕩時代から付き合いのある庶民たちと、立派な侍となった平蔵の交流も微笑ましい。もちろん、江戸の美味の紹介もふんだんにある。僕としては、平蔵の妻女久栄の出番が少ないのがちょっと不満でしたけどね。