新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒギンズが描く「D-Day秘話」

 1986年発表の本書は、冒険小説の雄ジャック・ヒギンズの「D-Day秘話」。多くの作家が取り組むテーマだが、「鷲は舞い降りた」をはじめとする歴史冒険小説を得意とし、リアリティにこだわる作者ゆえなかなかの傑作に仕上がっている。

 

 舞台となるのは、ドーバー海峡のフランス側に位置する英国領ジャージィ島。ナチスドイツにとっては、唯一占領した英国領である。「D-Day」を間近に控え、上陸訓練をしていた米軍がEボートに襲われ、数百人の犠牲者を出した。連合国にとって痛かったのは犠牲者よりも、負傷してジャージィ島に流れ着いてしまった土木技師ケルソゥ大佐の件。彼はノルマンディ海岸を秘密裏に調査し、上陸作戦の場所や日付も知る人物だった。

 

        

 

 英国特殊作戦執行部は、彼を脱出させるかあるいは口を封じるべく、英独混血のマーティノウ大佐と島の伯爵家の娘セアラを派遣する。大佐はヒムラー長官の命令書を持つSS大佐に化けて潜入に成功する。

 

 一方沿岸防衛の責任者ロンメル元帥は、ヒトラー暗殺の陰謀に加担していて、秘密裏に会合を持とうとしていた。その時間を作るため、ユダヤ人の物まね名人ハイニに目をつける。彼を自分として最前線のジャージィ島視察に赴かせることにした。

 

 マーティノウはセアラの親族がかくまっていたケルソゥを見つけるのだが、脱出手段に苦慮していた。ロンメルを見つけた彼は、ロンメルの指揮権を利用しようと探るうち、彼がドッペルであることに気づく。

 

 スパイスリラーには、替え玉や成りすましはいくらでもあるが、偽物同士の対峙というシーンは出色。見破られたハイニも決して威厳を失わず、マーティノウも冷静に事態に対処する。加えてイタリア貴族オルシニ中尉や、IRAの闘士ギャラハー、ドイツ秘密警察ミュラー隊長らの行動も興味深い。

 

 WWⅡ末期、欧州各国の国民性の違いが際立ち、勧善懲悪ではない面白いスパイスリラーでした。