新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

非凡な凡人警官のデビュー作

 1925年発表の本書は、本格ミステリー黄金期の作家として名の上がるF・W・クロフツのレギュラー探偵フレンチ警部(のちに警視)のデビュー作品、作者の作品としては「樽」「スターヴェルの悲劇」「クロイドン発12:30」を紹介しているが、黄金期の他の作家(*1)に比べて紹介が遅れている。

 

 それは、僕自身が「ケレン味のある名探偵」が好きだからだ。その点フレンチ警部は、天才的なひらめきこそないが粘り強い捜査をし、一歩一歩理詰めで犯人(とその仕掛け)を追い詰める凡人探偵。これまで名探偵の後塵を拝してきたプロの警官、しかもジョン=ブルの登場は、当時は珍しかったが後年の警察小説等のはしりともいえる。

 

 宝石商の老支配人が殺され、没落した貴族(*2)から買い集めた高価な宝石群が盗まれた。ロンドン警視庁から敏腕のフレンチ警部が派遣されるが、手掛かりの少ない難事件である。

 

        

 

 警部は、宝石を古物商に手配し、同時に盗まれたらしい番号の分かっているポンド札を銀行に手配した。同時に失踪してしまった、これらの宝石を買い取った外交員の足取りを追った。

 

 警部は、スイスで見つかった問題の札を追っていくうち、外交員を発見する。しかし、彼は偽装された指示書によって任務に就かされていたことが分かる。続いて宝石がロンドンで見つかるが、これを売りに来た夫人は巧妙な欺瞞をしていて正体を掴めない。長い捜査の結果、警部はオランダ・フランス・ポルトガルなどを駆け回ることに。

 

 フエリーや鉄道を使った追跡劇は、鉄道技師だった作者の面目躍如。加えて2度だけ顔を出す警部の妻エミリーが面白い。夫の話を聞いて、思わぬヒントを与えるのだ。パトリシア・モイーズのティベット警部夫妻の先輩格のような、夫唱婦随探偵ぶりだ。

 

 後年なら複数の警官が手分けして手掛かりを追ったのでしょうが、ほぼ全てを警部自身がやっています。50年前最初に読んだときは感じなかったのですが、ちょっと不自然ですね。本格ミステリーファンにはどうでもいいことですが。

 

*1:アガサ・クリスティ、S・S・ヴァン・ダインディクスン・カーエラリー・クイーン

*2:WWⅠは、ドイツやロシア貴族を困窮させた