1975年発表の本書は、ノワール作家として知られTV・映画脚本も多いジョー・ゴアズ(*1)が、ハードボイルド小説の祖ダシール・ハメットを主人公に描いた伝記的ハードボイルド。1928年、「血の収穫」「デイン家の呪い」「マルタの鷹」の原稿に手を入れていたハメットが、サンフランシスコでの事件に巻き込まれる。
ハメットは34歳、「キリストより長生きした」と自嘲的に話すものの、アルコールとタバコが手放せず、結核も良くならない。ピンカートン探偵社を辞めて6年、出版社からの小切手を切望する日々だ。
サンフランシスコの街には、中国人・イタリア人らがやってきて闇酒場・売春宿・アヘン窟・ばくち場などがはびこっている。当然違法なのだが、巡査部長・警部補クラスの警官が賄賂をもらって目こぼしをしている。市長のマッケナは野心溢れる男で、警察の腐敗を糺すと公約し対策に乗り出した。

市長は浄化委員会を作って調査をする一方、私立探偵アトキンソンも雇って腐敗の実態を深く探ろうとした。アトキンソンはかつてハメットの同僚であり、彼はハメットも調査に加わらないかと誘ってくる。
返事を濁していたハメットだが、アトキンソンが捜査中に罠に嵌められて撲殺されてしまった。凶器は野球のバット、イタリアマフィアがよくやる手口だ。一方で10歳代なか場の少女を、誘拐・監禁・暴行して売春婦に仕立てる組織も暗躍、中には惨殺された娘も少なくない。組織同士の抗争もあり、東部から殺し屋たちがやってくるとの噂もある。
ハメット自身も狙われるようになり、かつての同僚でコンチネンタル・オプのモデルでもある小太りの探偵ライトの助けを借りて、事件の真相に迫っていく。
ハメットらのばくち場の言動や、酒場でのふるまい、売春婦の扱いなどがとてもヴィヴィッド。訳者稲葉明雄の名訳のせいもある。うーん、雰囲気出ていましたね。端々に上記3作の引用もあり、作者のハメット愛も十分感じました。
*1:ハメット同様、作者も私立探偵の経験がある