18世紀末期のフランス、「自由・平等・博愛」の旗印のもと起ったフランス革命は、多くの陰惨な事件を生んだ。貴族階級の専横に怒った庶民が政権を打倒し、貴族階級を次々にギロチンにかけた。パリの街に虜囚となり命の危険にさらされていた貴族たちを、イギリス人の秘密結社「紅はこべ」が救う活動をしていた。
1905年発表の本書は、血なまぐさい1792年のパリに始まる。パリから救出された貴族たちは、カレーを経てドーヴァーに至る。ド・トゥルネー伯爵夫人と娘シュザンヌは、そこでかつてのフランス座の花形女優マルグリートに逢う。彼女は英国一の伊達男パーシー卿の妻になっていた。パーシー卿は並外れた大男で、立ち居振る舞いも素晴らしいイケメンなのだが、ノー天気なところがあり仲間内からは「愚鈍」と思われている。パーティの場でだけ役に立つ男というわけ。欧州大陸で一番賢い女と言われたマルグリートゆえ、結婚当初はともかく夫を愛してはいるものの物足りなさも覚えていた。
一方のフランス新政府は、パリの監視を強化しても「紅はこべ」の機略に翻弄されて激怒していた。この秘密結社は「おせっかいなイギリス貴族」の集団だと思われ、切れ者のショーヴランという男を全権大使として英国に派遣する。実は彼は、対「紅はこべ」のスパイ組織の元締めである。

ショーヴランはマルグリートの兄アルマンを人質にし、英国貴族界にいる彼女に「紅はこべ」一味、特に頭目と思しき背の高い男の正体を調べるように迫る。庶民階級に生まれ育った彼女にとって、兄はかけがえのない人。やむなく調べ始めた彼女の前で呑んだくれている夫パーシー、しかし彼女は頭目の意外な正体を掴む。
パリでは毎日100名からの貴族たちが、女子供も含めてギロチンに掛けられ、庶民の絶好の娯楽だった。そんな中イギリス貴族有志20名は、命がけの救出作戦を繰り返す。最初に読んだ40年前には、英仏関係の知識がなく「おせっかい」だなと思った。
歴史はフィクションである - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)
しかしこの本を読んで、英仏100年戦争前は英国南部はフランスの一部、とくに貴族たちは同根だとわかった。再読して、この点は納得できた。作者のオルツィ男爵夫人はハンガリー貴族で英国にわたってきた人。「隅の老人」というミステリー短篇集もある。本書は古典的な歴史ロマン、ちょっと冗長かもしれませんが。