2016年発表の本書は、米国現副大統領J・D・ヴァンス、31歳の時の「回顧録」。トランプ現象を読み解く書としてベストセラーになり、2020年には映画化もされている。アイルランド・スコットランド系移民の子孫である筆者は、アパラチア山脈の街ジャクソンとラストベルトの一角オハイオ州ミドルタウンで育った。
ミドルタウンも貧しい街だが、ジャクソンは本当の寒村。5度の離婚を経験しアルコール依存症の母親とではなく、彼は寒村に住む祖父母のもとで暮らすことが多かった。祖母も13歳で最初の出産をしてから、3人の子供を持つまでに9度の流産をしている。医療を含めた社会インフラが整っていないゆえである。
ミドルタウンは少しはマシだが、彼は(何人もいる)継父の暴力を受けながら、そこそこ学校には通っていた。ただ、子供たちにも麻薬やアルコールは蔓延している。周りを見渡しても大学へ行ったという人はほとんどいない。

ヒルビリーと呼ばれる田舎者の白人は、経済的には同じくらい貧困でも、
・家族や親族の絆がしっかりしているヒスパニック
・公的扶助がそれなりに充実しているアフリカ系
よりずっと不幸である。晩年祖父がAKスチールに職を得て、少し余裕が出た彼は大学進学を考えるのだが奨学金の申請書の意味がわからず、進学をあきらめる。海兵隊でシェイプアップされ、イラクにも派遣された彼は復員兵の支援制度を使ってオハイオ州立大からイェール大ロースクールに進む。州立大でも昔の知り合いは一人もおらず、イェール大ではオハイオ州立大出身者はほかに一人いただけ。成功者の子弟だけがいる、全く違う世界(日々の暮らしやマナー、衣食住すべて)に戸惑う。
ヒルビリーはオバマ政権を嫌悪した。それは彼が黒人だったからではない。美しいアクセントで話し、完璧な学歴を持ち、大都会で立身出世を果たした「別世界の人間」だからだ。ヒルビリーの多くが、彼をイスラム原理主義者で、米国生まれではないと信じている。
祖父母は筆者に「米国は素晴らしい国」と教えてきた。しかしその能力主義のルールが今やヒルビリーたちのためにあるのではないことに気付かされた。祖父が頼っていたAKスチールも日本資本になって縮小が続いた。ミドルタウンのヒルビリーたちは最後の希望も失ったのだ。
太閤記とは全く違う立身出世物語でした。結局ヒルビリーたちも最大の問題は家庭内にあるようです。虐待されて育った彼らは、キレやすくまともに職に就けません。さて、このような副大統領が何をしてくれるか、トランプ以上に「危険」な気もします。