新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マルタの運命と石井部隊の戦後

 1981年「悪魔の飽食」を、森村誠一が<赤旗>に連載する形で発表するや、国内はもとより海外からも多数の反響があった。悪名高い関東軍731部隊(通称:石井部隊)の所業については、関わった人達が「墓場まで持っていく」決意で口を開いていなかった。しかし作者らの調査でその一部が公開されるや、

 

・自分が知らなかったことも公開された

・自分が口を閉じているのは正しくないのでは

 

 との思いで、直接・間接に石井部隊に関わった人たちが告白を寄せてくれた。作者によれば「前作を根本的に書き直す必要があるほどの新事実」も含まれていて、どうしても続編を書かねばならなくなったという。本書には、極めて陰惨なものも含め多くの写真や図面が掲載されている。

 

        

 

 中国人や朝鮮人、ロシア人捕虜などがマルタという名称で施設に送られ、石井部隊は2日に3人の割合でこれを消費したとある。その消費の仕方も、詳細な証言が得られていてよりヴィヴィッドに読者の前に投げ出されている。

 

 敗色濃い日本軍は、すでに本格的な細菌・化学戦をする能力も無くしていたが、細菌培養などについては(多くの人体実験をした成果で)世界一の実力だったらしい。ソ連軍の侵攻を前に、石井部隊の幹部は本土に脱出し終戦を迎える。本来戦犯の罪に問われる彼らだが、占領軍(特に米軍)は彼らを厚遇し2年かけてノウハウを吸収した。

 

 後年ヴェトナム戦争で米軍は「枯葉剤」などを使うのだが、これは石井部隊の研究をベースにしていたと思われる。石井部隊のノウハウはソ連も狙っていて、満州の地に残され焼却をまぬかれたデータはソ連も習得している。作者らは米国にも渡り、石井部隊の尋問にあたった日系1世(通訳)や、米軍軍人とも面会、DC近辺に残された石井部隊の資料なども閲覧している。

 

 作者は、戦争が人間性を歪めた事例だと本件を取り上げました。あとがきには日本が再び戦争をしないことを願った文章が連ねられていました。先年亡くなった作者は、今の世相をどうお考えでしょうか?