2020年(ヴァルキリーという題名で)発表された本書は、以前<ゼロ三部作*1>を紹介した安生正のバイオレンススリラー。8月末に日本で開催されるG20の時に、日本の首相を暗殺する計画と、これを防ごうとする公安警察チームの暗闘を描いたもの。
難民支援NPOの代表村瀬は、難民に対するヘイトや非難の声の高まりを憂えていた。正体不明のテロ集団」<モグラ>が大量殺りくを繰り返していることもあり、これまで難民支援に積極的だった池田内閣が「難民にカネを使うな」との世論に押されて、支援を打ち切ってきたのだ。さらにNPOの本部がある建物が爆破され、匿っていた多くの難民たちと共に妻と一人息子も失った村瀬は、復讐を誓って地下に潜った。
彼は爆破の実行犯雑賀を捕まえると、薬物処置と拷問を加えた後、マイクロ爆弾を体内に埋め込み操れるようにした。雑賀は抵抗のしようもなく、池田首相暗殺をすることになる。

この動きは当局に漏れ、警察庁公安1課の東郷係に捜査命令が下る。東郷はキャリアながら頑固な性格で、35歳になっても警部どまり。ただ腕は確かな係長だ。1週間で「村瀬が首相を狙っているかを確認せよ」と指示された東郷たちは、村瀬のかつての仲間たちを探るが、浮かんでくる人物が次々に殺されてしまう。東郷は、内閣官房副長官の天野まで含めた警察上層部に、捜査情報漏えい源があると考える。
一方村瀬は雑賀にドグラノフ狙撃銃の訓練を施し、8月末のG20で首相の動静が予めわかるときに狙撃せよと命じる。そして雑賀を潜伏させた後、村瀬は東郷の前に姿を現し犯行を予告した上で自殺してしまう。
時代設定は2020年代のどこかとなっていて、移民・難民政策の転換が大きな背景になっています。先進各国で政治の右傾化と移民排斥が顕著な今、日本でもこのような事態が起きるかもしれません。ただ重火器を振り回す<モグラ>と呼ばれるテロ集団については、ちょっと大げさだと思います。
*1:北海道を襲う見えない敵 - 新城彰の本棚など