新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

16人のフィリップ・マーロウ

 本書は、1988年に出版プロデューサーであるバイロン・ブライズがレイモンド・チャンドラーの生誕100年を記念して編んだフリップ・マーロウのアンソロジー。本編は24作の短編を含んでいるが、早川書房が邦訳を出版するにあたり16編に圧縮している。

 

 巻頭作「完全犯罪」は、TVドラマ「CSI」などの原作者マックス・A・コリンズの作品。ハリウッドのTOP女優のボディガードを引き受けたマーロウが、休日に彼女を殺されてしまい、真犯人を突き止めて自ら「完全犯罪」を企む。さすがはコリンズ、本物そっくり(いやそれ以上の)マーロウだった。

 

 いずれの作者も、チャンドラーらに憧れて作家生活に入ったようで、各編の最後に「マーロウ愛」の記載がある。知っている作家の作品を取り上げてみよう。

 

        

 

サラ・パレツキー「ディーラーの選択」

 シカゴの女探偵<VICもの>を何作も紹介しているが、チャンドラー作品はやはり大好き。1944年のカリフォルニアを舞台に、迫害される日系人家族に関する事件にマーロウが「粋な解決」をする。作者はマーロウものの女性の描き方は気に入らないといい、今回の依頼人はナオミという黒髪の女性。男にとって都合のいい女や徹底した悪女しか出てこないマーロウものの枠を超えたかったとある。

 

エドワード・D・ホック「東洋の精」

 <EQMM誌>の常連でトリッキーな作品が多いのだが、本書は正々堂々ハードボイルド。朝鮮戦争後に時代を置き、北朝鮮からの移民娘が無垢な弟をさがしてくれとの依頼。弟が仲良くしている白人青年は同性愛者だと思われ、マーロウは難なく居所を見つけるのだが、白人青年が殺されてしまった。

 

 巻末作はチャンドラーの「マーロウ最後の事件」。実はマーロウもの短編はこれ1作しかない。東海岸のギャング組織から抜けて、西海岸にやってきたユダヤ系の男。組織は鉛筆で彼の氏名に線を引いた(始末するよう指示した)ので、逃走を助けてほしいと5,000ドルの依頼を持ちかける。殺し屋を逆に見つける罠を張り、2度まで彼を逃がすのだが・・・。

 

 600ページ近い短編集、読みごたえがありました。「マーロウものは長ければ長いほどいい、長く雰囲気に浸れるから」とのマニアの名言もあります。全く異議はありませんよ。