今日10月9日は、1983年に「ラングーン事件*1」が起きた日。2013年発表(邦訳は2021年)の本書は、韓国駐日大使でもあった羅鐘一氏の大統領暗殺未遂事件とその実行犯について調査したノンフィクション。
WWⅡの後民族分断国家となった北朝鮮と韓国だが、当初は重工業が盛んな北朝鮮が農業国韓国を上回る国力を持っていた。朝鮮戦争後も北朝鮮は南の傀儡政権を打破するとして、再三侵攻やテロを仕掛けてきた。韓国側も金日成暗殺を企んだ(*2)こともある。
1979年に朴正煕大統領が暗殺され民主化運動が高まったが、翌年全斗煥に代表される新軍部が民主化運動を弾圧する(*3)。全は大統領に就き、強権を振るい始めた。北朝鮮は全大統領の命を狙っていたが、アジア歴訪の最初の訪問国ビルマで罠を仕掛けた。

ラングーンに送り込まれたのは、ジン少佐・カン大尉・シン大尉の3名の特殊部隊員。式典が行われるアウンサン廟にクレイモアや焼夷弾を仕掛け、遠隔操作で爆発させた。しかし式典に全大統領の車が間に合わず、韓国人17名、ビルマ側4名の死者と、50名近い負傷者出したものの、暗殺は失敗する。
シン大尉は逃亡時の銃撃戦で死亡、ジン少佐とカン大尉は重傷を負ってビルマ当局に逮捕された。北朝鮮大使館が彼らに約束した逃亡用の船は、用意されていなかった。2人は本国からは「革命精神が不足して自爆しきれなかった」と批判されている。
失明し両手を失ったジン少佐は尋問に応えず、死刑になった。片腕をなくしただけのカン大尉はそれなりの自供をし、終身刑に減刑されて2008年に獄中で死んだ。毒殺の疑いがあると筆者は言う。彼は故国に妻や多くの子供を残しており、いつか韓国に渡り家族とくらすことを夢見ていたらしい。
今もウクライナ戦線で自爆を強要されている北朝鮮軍の兵士の悲哀を思わせる書でした。