本格ミステリーが行き詰ったかに思われた20世紀末、日本では僕と同世代の若い作家たちがパズラーを続々発表し始めた。「新本格の時代」がやってきたのだ。その代表的な作家の一人が有栖川有栖。小学生の時にミステリーにはまり、中学生の時に「オランダ靴の謎」で衝撃を受けて、エラリー・クイーンに傾倒する。中学時代に100枚程度の小説を書いて懸賞応募したというから、ジェームズ・ヤッフェに匹敵する早熟さである。
そんな作者は何度か習作を応募するうち、賞こそ獲れなかったが鮎川哲也の目に留まり、何度かのリライトを経て完成したのが本書。「鮎川哲也と13の謎」と題したシリーズの1作として、1988年に発表されている。
英都大学ミステリー研の1年生である僕(有栖川有栖)は、部長の4年生江神ら4人で信州の矢吹山にキャンプ合宿にやって来た。キャンプ場には他の大学のワンゲル部など男女の大学生13人がいた。

彼ら17人は仲良く山歩きをし、食事を作り、ゲームをして過ごした。有栖は短大生理代に淡い恋心を抱く。しかし3日目の夜に短大生小百合が書置きを残して居なくなり、さらに矢吹山が噴火して16人は孤立してしまう。そんな中ひとりの男子学生が刺殺体で見つかり、ミステリー研の面々は「本当の犯人捜し」をする羽目になる。さらに失踪、第二の殺人と続き、噴火も激しくなる中、13人に減った彼らは脱出を図るのだが・・・。
作中、何度も本格ミステリーの題名や内容が議論に上り、月を信仰する宗教など怪しげなものが続々でてくる。そしてお約束の「読者への挑戦」があって、最後の40ページは江神部長の謎解きで締めくくられる。
ミステリーには堪能でも実社会経験の少ない作者は、舞台を隔絶された大学生だけの世界に設定した。僕も作者同様学生時代に習作を書いた経験があるが、これが無難な道だと思う。しかしエラリアンとしての作者の情熱は、僕を大きく上回るものでした。最初に読んだ時も、平板さは感じながらも作者の将来を楽しみに思ったものでしたよ。