本書は女流作家サンドラ・スコペトーネが、ジャック・アーリー名義で1984年に発表したデビュー作。米国私立探偵作家協会(PWA)賞の新人賞を獲得した作品である。ハードボイルド私立探偵には、その街の影が色濃い。主人公フォーチューン・ファネリはイタリア系の42歳、思春期の娘と息子を育てるシングルファーザー探偵だ。
舞台は芸術の街SOHO。マンハッタンの南に位置し、かつては倉庫街中心の貧しい下町だったが、再開発に伴って先端的な芸術家たちが暮らすようになって栄えている。意味は「ハウストン通りの南:South Of HOuston」だ。ファネリの一家は再開発時になけなしの金で不動産を買い、これが暴騰して小金持ちになった。父親はアル中で死に、姉もアル中、母親は肉屋を経営している。ファネリは7年前に離婚してからも6部屋の広いアパートに住み、探偵業が無くても喰うには困らない。

ファネリは元警官のタフガイで拳銃も持っているが、酒・タバコ・麻薬はやらずコーク(コカインではない)が好物。ある日、前衛的なブテッィクのショーウインドウに、マネキンに模して女子高校生の死体が飾られていた。被害者の伯父だという男の依頼は、誘拐された彼女の弟を助け出すこと。伯父は、姉を殺し弟を誘拐したのは同一人物だという。
芸術の街には不相応のカネが流れ込み、犯罪の街でもある。高校生すらも麻薬とセックスに溺れるような街。自称芸術家が持ち込むギャラリーにも、影の部分が大きい。物語は、殺人・誘拐・児童ポルノなどの暗い事件と、イタリア系の温かい家族の日常が並行して進んでいく。
何度かマンハッタンの下町を舞台にしたミステリーを紹介しているが、SOHOは初めて。観光案内では味わえない本当のSOHOが描かれていて、事実上主人公はSOHOとも言える。
登場人物全てが秘密を抱え悩んでいる中事件を追う子煩悩なタフガイ、ファネリの行動様式は正統派ハードボイルドそのものでした。