2024年発表の本書は、東京大学名誉教授(財政学)神野直彦氏の「社会再生論」。厳しい新自由主義への批判が込められていて、それが共同体社会を壊し、格差を広げて人間相互の信頼関係を失わせたとある。財政を単なる国家の「勘定」と思っていた僕には、大きな気付きをくれた書である。
「財政」の役割は、市場では供給できない財・サービス、つまり公共財を提供することで、
1)市場経済が機能できない分野での「資源再配分機能」
2)所得分配が公平でないときの「所得再配分機能」
3)市場経済は好況・恐慌・不況を繰り返すので、これに対する「経済安定化機能」
を担っている。政治・経済・社会の3システムを結び付け、好循環をもたらすのが「財政」で、WWⅡ以後先進各国は福祉国家を作り上げた。

ところが1973年チリで軍事クーデターが起き、新政権は市場原理主義の経済政策を取り始めた。その後、米国(レーガン政権)、英国(サッチャー政権)、日本(中曽根政権)で小さな政府(財政)を標榜する新自由政権が生まれた。これらが地域の共同体を壊し、地球環境までも破壊したと筆者は言う。
本来共同体は、民主主義の土台である。共同体の中の助け合いは、金銭授受を伴わない。赤子が家庭内で(無償で)そだてられるように、協働でことにあたるのだ。家族よりもっと大きな単位で普通にあった共同体を、市場原理主義によって壊したのが新自由主義者たちだとある。新自由主義は、民主主義の敵らしい。
具体的な対策として、富裕税の導入が推奨される。金融所得だけでなく、資産にも課税するのが望ましいとある。各国で人口(人間)が問題になっているが、北欧の「共同体諸国」の意識は、人口は目的であって手段ではない。しかし新自由しょぎのアングロアメリカン諸国では、人口は(経済成長の)手段であって目的ではない。
筆者の主張は「ゲゼルシャフト」を取り戻せと言っているように聞こえます。その欠陥を追求した書(*1)をたくさん読みました。それらとは真逆の主張で、こういう考え方もあるのだと理解した次第です。
*1:例えば、ゲゼルシャフトが残る日本 - 新城彰の本棚