1940年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーの<フェル博士もの>。2023年になって、60年ぶりの新訳で創元社が出版してくれたもの。中学生の頃にすでに絶版になっていて、僕にとっては全くの新作と同じである。
エセックス州サウスエンドにあるロングウッドハウスは<幽霊屋敷>として知られている。富豪クラークはモノ好きにもこれを購入し、限定メンバーでお披露目パーティをしたいという。相談を受けたジャーナリストのボブは、何人かの知り合いの名を挙げ恋人テスと一緒に参加することになった。招かれたのは建築家、富豪夫妻、事務弁護士の合計6人。
この邸には数々の怪奇な逸話があるが、直近では高齢の執事がシャンデリアにぶら下がる奇行をしてシャンデリアの下敷きとなって死んでいる。建築家はクラークの依頼で建物をつぶさに調べたが、隠し部屋や秘密の通路などは見つからないという。

入館早々、テスが何者か小さな手に足首をつかまれたと騒ぎ出した。しかし絨毯の上には何も見えない。そして招かれた富豪が書斎で射殺された。書斎は外部からボブや庭師らも室内を見られるのだが、怪しい影は見ていない。書斎にいたのは富豪夫人だけ、彼女は「拳銃がひとりで飛び上がって、夫を撃った。部屋が彼を殺したの!」と言う。
凶器は.45口径のリボルバー。夫人の手から硝煙反応は全く出ず、彼女は撃っていない。しかし誰も他の人影は見ていないのだ。そこで不可能犯罪ならこの人と、フェル博士がエリオット警部を連れてロンドンからやってくる。
僕から見れば作者の欠点なのだが、中盤はボブやテスらのラブサスペンスが少し冗長。それでも最後の50ページになると、息もつかせぬ謎解きとどんでん返しが続く。この時期作者は物理トリックを極めようとしていたが、確かに意外な「力」が見えない手となって拳銃やシャンデリアを操っていたのだ。
一つのトリックで(300ページほどとはいえ)長編を支えるのは難しく、トリック+どんでん返しで1冊を仕上げたようです。決して傑作ではありませんが、解決編はとても面白かったです。なにより読めたことが嬉しく、創元社の復刊・新訳には今後も期待しています。