新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

全113話、ついに完結

 「帰ってきた木枯し紋次郎」シリーズも、本書が最終短篇集となった。以前この「続編」シリーズを「アラフォー渡世人のリアル」と評したが、当時の40歳は中年から老年への入り口。野宿をし、豆餅をかじり、運が良くても柏布団にくるまって寝る無宿の渡世人の生活では、寿命も長くない。

 

 「無宿」とは人別帳(戸籍)を外れた人の事で、生まれ故郷を出奔したり、犯罪を犯して追放されたりすると、戸籍が無くなってしまうわけだ。渡世と言えば聞こえがいいが、要は流浪しているわけ。主要な街道には関所があるが、それを通過するための手形(パスポート)も得られない。どうしても通りたい時は「関所破り」をするしかないが、それだけでも死罪に相当する罪だ。

 

 笹沢左保のヒーロー「木枯し紋次郎」は、1971年「小説現代」に第一作「赦免花は散った」が掲載されて以降、高い評価と人気を維持し、TVシリーズ・映画化もされている。ある批評家は、高度成長をしながら、どこかで不安(か不満)を抱える現代人の心を捉えたと言っている。僕自身は、日本になかなか定着しなかった<ハードボイルド小説>が、時代を江戸時代に移して成功した例だと思っている。

 

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 小説ではあるが、あくまでリアル。当時の物価や日常の食べ物、食べ方、習慣などは、歴史家からも高い評価を受けている。もちろん「華」の戦闘シーンでも、従来の時代劇のバッタバッタと切り倒すようなことはない。複数の敵に囲まれたり、強敵(剣豪くずれの用心棒など)に立ち向かう時でも、紋次郎は正しい戦略・作戦・戦術を駆使している。

 

 「帰ってきた・・・」シリーズは全6巻、本編の全15巻を含めてそのほとんどを、これまでに読むことができた。「帰ってきた・・・」シリーズでは派手なアクションが減った代わりに、紋次郎がふと示す温情が作品に深みを添えているようだ。

 

 作者によると一番苦労するのは、各編で紋次郎にからむ「準主人公」の設定。紋次郎が「へい」とか「さようで」くらいしか口をきかないので、「準主人公」の役割は大きい。それでいて二度三度使えるわけではない。また(TVシリーズ放映以降)長い楊枝を吹いて飛ばすシーンが必須になり、このバリエーションに悩んだという。

 

 いずれにせよ、時代小説を代表するフィクションのヒーローとして、「木枯し紋次郎は不滅」ですよね。