2002年発表の本書は、軍事史作家柘植久慶のコンパクトな戦争論。おそらくは文庫書下ろしで、どこかの雑誌に連載したかもしれない34のエピソードを、300ページの中に収めている。三国志の世界を舞台に、覇者や将軍、参謀などの行動を通して、勝敗や生死を分けたものが何か解説している。
時代が変わり、兵器が変わり、国のありよう(封建国家?民主国家?)が変わっても、戦争は人間がやることなので、戦略・作戦・戦術の本質に変化はない。作者が嫌いなのは、
・大局を見ず、現場を見ず、過去の何かにこだわる頑迷固陋な将軍
・立身出世しか考えず、将軍にこびへつらうだけの士官
である。また誉めたたえるのは、

・民や兵士の心を理解し慈愛を持つのだが、必要に応じて冷徹になれる将軍
・自らの信念の下、上司の顔色など窺わず果断に行動する士官
という次第。三国志(*1)の世界で好きなのは、魏の創始者曹操。冷酷な武将とされるが、実は高名な詩人でもある。本書にも、曹操が「屯田兵制度」を作って、兵站の負荷を軽くしたこと、5倍の敵である袁紹軍を打ち破ったことなど再三紹介されている。一方「演義」の主役である劉備については、有能な部下(孔明・関羽・趙雲ら)に支えられた無能な為政者と切り捨てている。
当時のエピソードに他の時代(インドシナ紛争・WWⅡ・ナポレオン戦争等)の似た例を引用しているので、軍事の素人にも分かりやすい。
作者には、近代の紛争を題材にしたフィクション・ノンフィクションから、古代の架空戦記まで幅広い作品がある。「逆撃:三国志」も紹介(*2)している。ただ何冊も読むうち、おおむね主張ポイントは見えてきました。それを1冊で知ることができるのが、本書の特徴でしょうね。