新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ダネイ最後のシノプシス

 本書は、巨匠エラリー・クイーン最後の短編集だが、最後の長編「心地よく秘密めいた場所」の次の長編になるはずだった「間違いの悲劇」のシノプシス(梗概)が中心になっている。1929年「ローマ帽子の謎」でデビューした、フレデリック・ダネイ(1905-1982)とマンフレッド・リー(1905-1971)の従兄弟同士は、長く執筆の方法を明かさなかった。

 

 しかし「心地よく・・・」発表後リーが死去、残されたダネイはこの梗概を小説化できなかった。つまりダネイがストーリーを作り、リーがそれを小説に仕立てる協力体制だったのだ。梗概は、

 

・登場人物の説明

・プロローグ、5幕29場、エピローグという構成

・リーへの短い追加説明

 

 になっている。一部登場人物の会話もあるが、基本はト書きばかり。

 

        

 

 無声映画時代の美人女優モーナは、引退後も金運に恵まれ、70歳近くなった今も半分ほどの年齢の愛人バックとシェークスピアの世界を再現した<エルシノア城>で暮らしている。彼女がバックの浮気に激怒するシーンから、バックが彼女の遺言状を盗み出して若い恋人チェリーに預けるまでが前段。モーナが自殺か他殺か分からない状況で死に、地元警察とエラリーが登場し弁護士や医師らを含めて捜査するのが中段。バックが殺人容疑で裁判にかけられてから、事態は一気に流動化する。

 

 バックの遺言状とモーナの遺書を使った法廷戦術、7つの条件を挙げて真犯人を絞り込んでいくエラリーの推理、「どこかに間違いがある」と再三つぶやくエラリーと二転三転する結末、シェークスピアをモチーフにした懐かしさにあふれる展開である。

 

 ただ最後の犯人とエラリーの会話部分は、僕にも解説のエラリアン有栖川有栖にとっても難解そのものだった。ダネイからリーへの手紙として本書のテーマが3項挙げられているが、これが難しいのだ。

 

 2人の協力執筆体制が、協力というより「挑戦し合うこと」だったのを窺わせる梗概でした。その梗概と中編「動機」、6編のショートショートを収めて1999年に発表されたのが本書でした。長く僕らを楽しませてくれた、2人に感謝です。

 

*1:オセロをミステリー映画脚本に書き直すために、ハリウッドに来ていた