新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ミステリー劇中で起きた射殺事件

 1930年発表の本書は、先月デビュー作「レイトン・コートの謎」を紹介した、アントニー・バークリーの<名探偵シェリンガムもの>。シチュエーションの意外性にこだわった作者ゆえ、本書も面白い趣向のミステリーに仕上がっている。

 

 高名な探偵作家ヒルヤード邸に集まった10名ほどの客、滞在するうち自然とミステリー談議になり、リアルな犯人捜しをしようということになった。探偵役3名は作家たちで、その他の客が犯人・被害者・容疑者を演じるのだ。

 

 主人公ピンカートンには、犯人役が割り当てられた。被害者は、以前から因縁があり、腹に据えかねている相手スコット=ディヴィス。この嫌味な男は、ピンカートンをいじめるだけでなく、彼が大事に想っている娘エルザに求婚し婚約までしてしまった。ピンカートンは正直、殺意を覚えている。

 

        

 

 巡査に扮したピンカートンはシナリオ通り、スコット=ディヴィスを荒地で撃った。もちろんライフルに込められていたのは空包。ところがシナリオが進むうち、もう1発の銃声が聞こえた。ピンカートンが「被害者」を見に行くと、彼は本当に撃たれて死んでいた。動機も機会もあるピンカートンは窮地に陥り、学生時代の友人シェリンガムに助けを求めた。

 

 犯行時刻は明確なのだが「容疑者」を演じていた人たちは(シナリオの関係上)意図的にアリバイを作っていなかったので、みんなに殺人の機会がある。邸宅を取り囲む広い土地の中で、その時どこにいたかは他人には分からないのだ。シェリンガムは捜査の後、関係者を集めて「大団円」を演出する。彼の姦計にはまり、容疑者たちは次々と自白をするのだが・・・。

 

 舞台の上で起きる殺人事件というのは先例がありますが、邸宅の敷地内でゲームとして行われていた殺人劇が本当になってしまったというのは、本書が初めてでした。長く再版されていなかった本格ものの1冊、初めて読めて嬉しかったです。