新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

封印されたミステリーを追う

 1994年発表の本書は、「迷犬ルパンもの」などで知られる辻真先の文庫書き下ろし。題名にあるように大御所江戸川乱歩が封印したとされる幻のミステリー「仮面の恋」を題材にしたものだ。作者はかつてNHKのプロデューサをしていて、乱歩本人にも会い「月と手袋」をドラマ化したことがあるという。もちろん乱歩ファンであり、力を込めて番組作りをしたのだが、本人によれば失敗作でNHKを辞める遠因にもなったらしい。

 

 昭和初期に熊本で起きた、地域の名士の娘の刺殺事件。「荒城の月」で有名な岡城址で死体が見つかったものだ。容疑者は彼女を争っていた2人の青年だが、いずれもアリバイがあった。そのうちの一人が、作家志望の尾西東行。彼は乱歩に見出だされ数編の耽美的なミステリーを書くが、最後の作品「仮面の恋」は乱歩に出版を止められてしまう。

 

        

 

 そのガリ版刷りの原稿を熊本の古書店で見つけた藤枝青年が、原稿を読み解いていると訪ねてきた娘に原稿を盗まれてしまう。藤枝青年に協力を求められた探偵役の服部夫妻はその娘を追い詰めるのだが、彼女は尾西と張り合ったもう一人の(当時の)青年の孫娘だった。そして「原稿が表に出れば、祖父が殺人の罪に問われる」と訴える。

 

 3部に分かれて読者に示される「仮面の恋」の原稿、藤枝青年が服部夫妻に宛てた手紙、そして現代の服部夫妻の捜査と3つのストーリーが混在して読者を混乱させる。また乱歩がこの作品に限って封印したのはなぜか?もちろん事件の真相は何か?「仮面の恋」には乱歩の作品群から拝借したと思しきシーンや趣向(*1)がちりばめられ、懐かしさを感じる。

 

 作者の「乱歩愛(懺悔?)」が横溢した作品でした。ここまでマニアックだと、書き下ろしでしか発表できなかったのかもしれませんね。

 

*1:古文書に隠された暗号、男装の麗人、アリバイトリック等々、乱歩作品の特徴が満載