新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

窮地の青年、独力での訴訟

 本書は<週刊小説>に1984年に連載されたもの。これまで「〇法おもしろ事典」や<赤かぶ検事シリーズ>を紹介した弁護士作家和久峻三初期の作品。「仮面法廷」でデビューし乱歩賞も獲ったのだが、初期作品はなかなか手に入らない。

 

 本書は詐欺がらみの民事訴訟を扱ったものだが、面白い法廷ミステリーに仕上がっている。大学中退で定職を持たない小野青年は、富豪の後妻に収まった31歳の女性が経営する喫茶店でバーテンダーの職歴を活かしてアルバイトをしている。彼女とは濃密な肉体関係があるのだが、それとは無関係に喫茶店を譲ろうと彼女が言う。

 

 結構流行っている店の状況を見てやってみようと考えた彼は、賃貸物件の承継手続きに入る。ビルオーナー、不動産業者、オーナーの代理人の弁護士など会い、特に弁護士には難しいことを言われて困ってしまう。保証金を納め、家賃を払えばいいのだろうと思っている彼に、弁護士は「裁判所での手続きが必要」と言って、彼に分からない用語「即決和解」の証明だと告げる。

 

        

 

 実は、弁護士らが企んだ「賃貸契約者からカネをだまし取って追い出す計略」なのだが、小野青年は2年後にそれが発覚するまで必死に働いていた。急に追い出されそうになった彼は、無料法律相談に駆け込み高齢の岡崎弁護士のアドバイスを受けることになる。

 

 カネのない彼は弁護士を雇うこともせず、岡崎老人のアドバイスを受けて独力で訴訟を起こす。全ては仕組まれた罠だと考えたからだ。慣れない法律用語や、訳の分からない手続きに悩まされながら、小野青年は弁護士や不動産業者を相手取って法廷闘争をするのだが・・・。

 

 題名に惹かれて殺人事件の逆転法廷かと思ったのですが、一滴も血が流れない民事訴訟に終始する話でした。ところがこれが面白い。高木彬光「人蟻」ほどスケールは大きくないけれど、個人にとっては人生を掛けた大勝負の法廷でしたね。作者の初期作品、もっと探したいです。