新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

静かに、素早く命を奪う

 1951年発表の本書は以前「暗号ミステリ傑作選」を紹介した、レイモンド・T・ボンドの毒薬編アンソロジー。12篇の短編が収められているが、冒頭編者の「毒と毒薬について」が歴史考察として貴重。ソクラテスの自決から、歴史上の毒殺者クリッペン医師らの容疑や所業について詳しい。毒の分析も行われていて、蛇・蜘蛛・キノコ・ニンジンなど自然界のものから科学的に作られたものまで比較研究している。

 

 「疑惑」はウィムジー卿が登場しないセイヤーズの作品。何軒もでヒ素毒殺を繰り返した家政婦が行方不明だという中、ママリイ氏が雇った新し家政婦府はとても料理上手。妻も満足しているのだが、最近彼の胃の具合が良くない。切羽詰まった彼が友人の医師に相談すると「ヒ素中毒」だと言われた。すわ、家政婦が・・・。

 

        

 

 アンソニー・クインの「キプロスの蜂」は、アナフィラキシーを扱った作品。蜂に刺されて人が亡くなる事件があり、警察署長は名探偵ヘイリー博士に相談をもちかける。通常死ぬはずはないのだが、事前に蜂の毒に慣らされていた可能性があると博士は言う。

 

 「利口なおうむ」は、E・C・ベントレーのトレント探偵が登場する貴重な短編。夕食後気分が悪くなるという美女イザベルを姉に紹介されたトレントは、彼女が何らかの毒を盛られていると考えるが、彼女の食べ物はもとより身の回りから毒が見つからない。トレントは、彼女の夫で高名な医師に疑いをかけて・・・。

 

 「バーナビイ事件」は、オースチン・フリーマンの<ソーンダイク教授もの>。ある人物から贈られた食材を食べた時だけ、深刻な症状を呈する男バーナビイ。しかし食材には毒物反応がない。思い余った主治医はソーンダイク教授に相談を持ち掛けると「鳩の卵・鳩の肉・兎の肉にはアトロピンがある」との答え・・・。

 

 確実に殺せないかもしれないのだが、静かに、素早く命を奪い、自分はその場所にいる必要がないのが毒殺のメリット。未遂を含めそれを企んだ12人の殺人者の素顔が面白かったです。