2007年発表の本書は、ピューリッツァー賞作家マイケル・シェイボンの<IFワールドもの>。作者は東欧ユダヤ系三世で、本書でSF三賞(ヒューゴー・ネビュラ・ローカス)を独占するという快挙を成し遂げている。
WWⅡ後、イスラエルを建国しようとしたユダヤ人はアラブ諸国との戦争に敗れ、パレスチナの地を追われ世界に散った。その居住地の一つが、アラスカ州の離島シトカ特別区。小さな酷寒の島に320万人のユダヤ人が暮らしている。しかし米国との協定で、2ヵ月後にはアラスカ州に再編入されてしまう。そんな島にはマフィアが巣食い、怪しげな宗教指導者が影響力を持っていた。
そんな街の安ホテルで、後頭部に1発の銃弾を受けてヤク中男が死んでいた。酒浸りの刑事ランツマンは、死体の傍らにあったチェス盤に興味を持って捜査を開始する。被害者は、ユダヤ教正統派からチェスの天才と呼ばれた男だった。

捜査を進めるランツマンに、上司として赴任してきた元妻は「再編入までに未解決事件があってはいけない」と、この殺人事件を直ちに迷宮入りファイルに収めてしまった。しかしランツマンは同僚のシェメッツ刑事と、捜査を続ける。種々の妨害が入り、バッジも取り上げられてしまうが、昨年死んだ妹ナオミの死もこの件にからんでいるだけに、手を引くことができない。
痩せた寒い土地で、先住民らに白眼視されながら暮らすユダヤ人たち。その中で先鋭化した集団もいて、彼らが事件の黒幕らしい。何度も命の危険にさらされながら、ランツマンは執念で黒幕に迫る。
<IFワールドもの>としては、ディックの「高い城の男*1」などがあるが、本書は立派なハードボイルド。ただ背景となるユダヤ文化が、僕らには難しい。ヘブライ語とイディッシュ語があり、宗派も細かく分かれている。そんな勉強をしながら、IFワールドを楽しむことができました。