新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

収奪的でないイノベーション

 2025年発表の本書は、BNPパリバ証券のチーフエコノミスト河野龍太郎氏の日本経済展望。昨日の「ほんとうの日本経済」は政策の中でも作戦/戦術級のものを扱っているが、こちらは戦略級のマクロな視点に立った経済書である。

 

 冒頭、日本経済は生産性が伸びていないから「失われた30年」になり、賃金が上がらないとの説は間違っているとある。帯の絵にあるように、30年間でドイツ等を上回る3割強の生産性向上をしているが、実質賃金はマイナスになっていると説明している。では日本経済の問題点は何なのか、指摘されている「死角」は以下のようなものだ。

 

        

 

・メインバンク制が無くなれば、終身雇用もなくなると見られたが、そうならなかった

・メインバンク制がバブル崩壊で壊れたので、大企業が内部留保を増やした

・終身雇用を守るため、調整可能な雇用として非正規労働者を活用した

・コンプライアンス遵守や働き方改革で、供給できる労働力が減った

・サービス業は対価に比べて高品質過ぎたので、改善しても生産性が上がらない

・製造業はIT化などで生産性は上がったが、これは中間層を犠牲にしてのもの

・エッセンシャルワーカークラス(低所得層)の生産性向上はできていない

・高齢者や女性、外国人など安い労働力が就労参加して、低所得層の人手は十分ある

 

 要するにイノベーションのやり方を間違えたということだ。IT化等のイノベーションは、中間層を低所得にする収奪的なもの。本来低所得層も含めた包摂的なイノベーションをするべきだったが、それに失敗したというのが主張である。イノベーションは(放っておけば)収奪的になって格差を生む。包摂的なイノベーションをして、社会全体を豊かにするべきとある。なかなか難しい注文ではある。

 

 筆者は一流のエコノミストで、20年以上前に政策研究の場でお会いしています。以後企業のメルアドに定期的にレポートを送ってもらっていました。そのころのことを思い出す語り口ですし、鋭い分析は磨きがかかっていると思いました。