新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

15インチ砲老嬢、最後の闘い

 1997年発表の本書は、海の冒険小説家ダグラス・リーマンの海戦もの。これまで数冊紹介しているが、主人公たる船は河川砲艦、掃海艇等々割合小型のものだった。ところが本書では、3万トン超の巡洋戦艦<リライアント*1>である。

 

 巡洋艦の機動力(速力30ノット以上)と戦艦の攻撃力(15インチ砲6門)を持った主力艦だが、その高性能は装甲が薄いという犠牲を払ってのもの。WWⅠの海戦ハイライト「シェットランド沖海戦」では、英独両軍の主力艦で沈んだのは、この種の軍艦だけだった。

 

 このため以後建造されることはなく、英国海軍もWWⅡ開戦時には3隻(本書の設定は4隻)の巡洋戦艦を持っているだけだった。それも最大の巡洋戦艦<フッド>は<ビスマルク>に撃沈され、<レパルス>はマレー沖に沈んだ。

 

        

 

 ローサイス基地で整備中の<リライアント>に、新艦長シャーブルック大佐が赴任してくる。彼の友人でもある艦長が自宅で事故死し、その後任に選ばれたのだ。大佐自身は北海でのドイツ軍との戦闘で、巡洋艦<ピラス>を失っていた。船団は守れたものの<ピラス>の乗組員は、大佐を含む数名以外海に消えた。

 

 1隻の護衛空母と数隻の駆逐艦だけを従え、功名を挙げることに血道をあげる戦隊指令スタッグ少将も乗せて<リライアント>は北海や北大西洋、地中海で戦闘を続ける。

 

・少将とシャーブルックの対立

・カナダ人艦載機パイロットレイナー大尉の活躍

・シャーブルックとレイナーの基地での恋

 

 などが描かれた後、戦隊はシチリア島上陸作戦の支援をすることになった。しかしイタリア海軍が新鋭戦艦<チベリオ*2>を繰り出し、輸送船団を襲おうとしている。防ぐことができるのは老嬢<リライアント>しかいなかった。

 

 15インチ砲の撃ち合いというクライマックスに期待したのですが、あまりにあっさりしていました。ちょっと残念。やはり作者は小型船(特に老朽船)の闘いが得意なようです。

 

*1:これは架空の船だが、<レパルス>の姉妹艦で同仕様という設定。<レパルス>は1941年の12/10にマレー沖海戦で沈んでいる

*2:これも架空の船、<リットリオ・ベネト>級と思われる。15インチ砲9門搭載

哲学者たちの太平洋戦争

 これまで日本海軍についてはさまざまな技術的、経済的な分析をした書を紹介しているが、2001年発表の本書は「思想戦」がテーマ。真珠湾攻撃の直前から、京都学派と呼ばれる哲学者たちが、

 

・日米開戦の回避

・一日も早い有利な条件での終戦

・敗戦後の処理をどうするか

 

 とテーマを変えながら議論した。終戦など唱えれば陸軍(&東条内閣)に摘発されて命も危ないテーマゆえ、すべては秘密会で行われた。それが20世紀の終わりになって、参加者の一人だった哲学者大島康正が詳細なメモを残していたことがわかり、議論の内容が明らかになった。それを読み解いた京都工芸繊維大学大橋良介教授が記したのが本書である。

 

 彼らは国内外に「思想戦」を挑もうとした。しかし米国に対しての工作は困難で、国内については、彼らの<世界史の哲学>が<皇道主義>と対峙することになる。

 

        

 

 京都学派に近い近衛文麿に彼らは期待をかけたが、近衛内閣は総辞職。<皇道主義>の東条内閣が生れる。学派の会合には、海軍省調査課長高木惣吉大佐(のち少将)が加わり、海軍の情報を彼らに与えて時局を論じさせている。大戦中は、東条内閣を打倒し海軍の米内光正を首班とする内閣に入れ替えることを策していた。第二次米内内閣のもとで、陸軍のメンツをつぶさないで、少しでも有利な終戦(講和)を考えていたのだ。

 

 会合は18回ほど行われ、中には吉野山参拝や懇親会のみの回もあった。高木大佐は初期の会合の挨拶で「戦争は責任を持つ。政治・経済・文化の議論を望む」と発言していた。中心人物の一人田辺元は「大東亜共栄圏の論理について」と題し、アジア外交の姿勢について持論を述べている。木村素衛満州・シナ視察報告もあった。鈴木成高は「対英米思想戦方策」を発表している。

 

 メモには当時会合に提出された資料(今ならパワポ)の一部も付属していました。思想研究史として貴重な資料ではありますが、哲学的でかつ難解で、素人は読み進むのが苦痛でした。

<歴史街道>のWWⅡ分析記事

 2019年発表の本書は、PHP研究所の月刊誌<歴史街道>に掲載された、太平洋戦争関連の記事15編を収めたもの。初出は2008~2019年と様々だが、歴史研究なので古い記事でも参考になると考えて買ってきた。著者は複数の記事を書いた人もいるので12人。したがって、何か統一された主張をするものではなく、紙幅の関係で深い分析ができるわけでもない。

 

 開戦の事情については、

 

・日米両国は太平洋の覇権をめぐって50年間緊張関係にあった(中西輝政氏)

・経済学者が対米戦を無謀としたが、陸軍がこれを無視して開戦したとの通説は誤り(牧野邦明氏)

ヒトラーが英国との和平を望んだのを拒否し、米国とともに戦うことを進めたのはチャーチル。実質WWⅡを主導したのはチャーチルルーズベルト(渡辺惣樹氏)

 

        

 

 などとあり、興味深い。確かに日本としては米国を含めず単に英蘭に宣戦布告し太平洋の西半分からインド洋でのみ作戦すれば、勝ち目はあった。それを英米不可分とチャーチル(の情報操作)に思い込まされた結果、2人の陰謀にはまったわけだ。

 

 続いて有名な「零戦」と「戦艦大和」についての分析記事がいくつかあるが、これらについては特に目新しいことはなかった。ただ、戦術ではなく戦略として「大和」をインド洋の通商破壊戦に投入したら(平間洋一氏)という「IF」は面白かった。

 

 史実では南雲機動部隊(損傷していた「加賀」を除く空母5隻)がセイロン島を空襲し、この海域の英国海軍は壊滅していた。アフリカの英軍(ロンメルの相手)はインドから補給を受けており、ここに「大和」が居座って輸送船団を阻止すれば、ロンメルが勝利したかもしれないという。まあ、当時の海軍が艦隊決戦の切り札と考えていた「大和」を通商破壊戦に使うなど、ありえなかったのだが。

 

 <新常識>とタイトルにあったので買ったのですが、ちょっと期待外れでしたね。残念・・・。

旧日本軍の兵器とその開発背景

 2005年発表の本書は、以前「パールハーバーの真実*1」などを紹介した軍事ライター兵頭二十八氏と、歴史評論別宮暖朗氏の共著。WWⅡで使用された旧日本軍の兵器は、速戦即決型の戦争を戦うために開発されたもので、長期の戦争に耐えるものではなかった。特に陸軍の兵器は、対ソ連用のもので、熱帯ジャングルなど太平洋島嶼で闘うことは想定していなかったとある。

 

 WWⅡの前段階で、日本陸軍が対峙したのは中国軍。ドイツ製やチェコ製の高性能兵器を持っていて、兵器の質では敵わなかった。しかし兵の士気が低く、すぐに銃や砲を放り出して逃げてくれた。チェコ製のLMGを、兵士は重宝したとある。

 

        

 

 しかし、ノモンハン事変で相手にしたソ連軍だと、中国軍のようにはいかない。戦車も砲兵も性能が段違いである。その上弾薬の保有量も、長期戦・大規模戦を予想しておらず非常に少ない。「弾切れ」が続出した。そんな中で、兵員のキルレシオがほぼ1対1だったのは、ソ連軍が大粛清の後で弱兵だったからだ。

 

 例えば戦車だが、15トンを超えるものは道路や輸送手段の問題があって、実用化できなかった。幸いこの時は、ソ連軍もT-26やBT-7など軽戦車ばかりだったが。

 

 ついに米軍と戦うようになると、兵器の差は誰の目にも明らかになった。決して精度は良くないが、米軍はBARなどの自動火器を使い、砲兵の能力も圧倒的だった。日本軍にも数は少ないがMGはあったが、しょせん馬匹輸送が中心では大量の実包を消費する戦闘は支えられなかった。

 

 38式歩兵銃が口径6.5mmだったことが、威力が小さいと批判されるが、1発で殺す必要はなく小口径でも傷つければ戦闘力を奪えて合理的だった。後に米軍もM-16では5.56mmを採用するようになる。

 

 ひとわたりは知っていることの再確認でしたが、長期戦を戦うのは無理な軍隊の仕様でしたね。ちなみに海軍関係の記述もあった(*2)のですが、それらはすでに多くの書で紹介しているので本稿では省略しました。

 

*1:冷徹な技術者の結論 - 新城彰の本棚

*2:潜水艦の用法など

密接に連動する「ドル・石油・暴力」

 2020年発表の本書は、経済ヤクザ出身の評論家菅原潮氏(通称猫組長)の投資指南書。「COVID-19」禍と米中戦争で、世界経済は大きな打撃を受ける。今できる最善の投資は「投資しないこと」だというのが本書の主張。

 

 高校時代から株式に興味を持ち、バブルに踊って多額の借金を抱えてヤクザの道に入った著者。後に(表街道の)石油ビジネスも手掛け、今は足を洗って評論家稼業。ドル・石油・暴力は密接に連携しているとのテーゼで、世界経済を見通している。

 

 暴力の最たるものが米軍、今米中対立が(ヤクザ時代の感覚だと)のっぴきならないところに来ていると彼は言う。中国は新興の大国で、手段を選ばない。

 

・AIIBは「中国流のヤミ金

・「COVID-19」禍は中国発、(中国が飼いならした)WHOが拡大に関与した人災

 

        

 

 米国も負けてはおらず、中東危機はイランのスレイマニ司令官を暗殺することで収めるなど、やりたい放題である。米国は中国に対抗するべく、日本との強固なブロック経済を望んでいるともある。

 

 投資についての提案もあった。銘柄選びは今どうかではなく、歴史を見よとある。GAFAの中ではAppleの歴史が優れていると言う。「感性に応じて銘柄を選び、必要に応じて理性を使う」のが筆者の方法論。

 

 結局は、個人がどのような投資をすべきかに力点はなく、世界経済こんなに危ういよ、背後にいるのは、マネー=ドル(を操る力)✕暴力の方程式の世界でいきる輩というのが言いたいこと。まあ、一説として理解はできるのですが、どうしても石油(エネルギー)に引っ張られている解説のように見えます。その意味ではプーチン大統領に近い考えのような・・・。「21世紀は(石油に代わって)データの世紀」とだけ申しあげておきましょう。