2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧
著者松村劭は元陸将補、在日米軍との共同作戦計画にも関わる一方、防衛研究所研究員も務め、英米の軍事研究機関との付き合いも深かった人だ。2010年に亡くなるのだが、35冊ほどの著作があり僕はその半分程度は読ませてもらった。陸自の人だが、海洋関係の著…
以前「わらの女」「目には目を」を紹介した、フランスのサスペンス作家カトリーヌ・アルレーのデビュー作が本書(1953年発表)。悪女もので一世を風靡した作家で、第二作「わらの女」は映画化もされた。いずれも登場人物を絞って、心理的な葛藤を描きながら…
「国家安全法」が施行されることになって、香港の自治は風前の灯になった。香港は英国が1997年まで租借、共産主義中国が自由社会に開いた数少ない窓だった。返還後も50年間は「一国二制度」で自由市場であるはずだったのが、今その歴史を終わろうとしている…
横溝正史の金田一耕助シリーズは、巨匠市川崑監督によって多くの作品が映画化された。監督はいくつかの大作を発表した後、「女王蜂」で大きな挑戦をした。それは、前3作に起用した大物女優をすべて出演させるということ。 「犬神家の一族」 高峰三枝子 「悪…
本書は正統派ハードボイルド作家、、ロス・マクドナルドの後期の作品(1969年発表)。大家だと思っていた作者だが、リュー・アーチャーものを18編、その他を6編しか発表していない。1949年「動く標的」でデビューした作者とアーチャー探偵、以前紹介した「…
僕は、電力会社一家で育った。親父は東邦電力(今の中部電力)入社で、職場結婚だった。伯父もいとこ達2人も中部電力社員である。親父はまだJRが国鉄だったころ、 「電力がなければ電車は動かん。しかし鉄道が国有で、電力は民営だ」 と言っていた。なぞか…
以前紹介した、シャーロット・マクラウドのシャンディ教授ものの第二作が本書。前作「にぎやかな眠り」で同僚のエイムズ教授の奥さんが殺された事件を解決したばかりか、シャンディ教授は50歳代半ばを過ぎて人生の伴侶ヘレンと結ばれる。幸せいっぱいの教授…
本書(1988年発表)は、ご存じエド・マクベインの87分署シリーズの第40作目。1956年の「警官嫌い」で始まったシリーズは、1/3世紀を経て続いている。主人公の刑事たちは、ほとんど年も取らず昇進もしない。「時が止まった刑事部屋」である。 このシリーズの…
普通のミステリーは、殺人のような重大事件があり、探偵役が登場して事件を調査し、最後に犯人(たち)を名指しないしは逮捕して終わる。Why、Howという謎もあるのだが、「WHO done it?」と言うのが主流。しかし本書(1946年発表)でデビューしたパトリシア…
本書は米国のミステリー作家ポーラ・ゴズリングのデビュー作で、英国推理作家協会賞を受賞した作品である。この作者の作品を読むのは初めてだが、噂では作風の広い人だという。裏返すと、パターンのない作家という評価も聞こえてくる。 殺し屋につけ狙われる…
本書は、ジャック・ヒギンズの「ショーン・ディロン」ものの第三作。歴史ものを除いて作者のスパイスリラーは、英国の特別情報部の責任者ファーガスン准将が登場する。しかし彼自身はいつもわき役のような存在で、主役は別にいる。本書では主役は元IRAのテロ…
本書は加藤廣の「信長の棺」以来連綿と書かれてきた、戦国時代の真実に迫るシリーズの一作。実はこの後には、作者の死去直前に発表された「秘録島原の乱」しか作品はない。75歳で作家デビュー、1年1作のペースで新作を出し87歳での大往生は惜しまれるもの…
本書は、アガサ・クリスティ晩年の74歳の時(1965年)に発表されたものである。古き良きロンドンをそのままに維持する「時のないホテル」という設定のバートラム・ホテルが舞台となったミステリーである。このホテルは架空のものだが、モデルはメイフェアの…
冒険小説のなかでも航空ものが得意な作者、ジャック・ヒギンズの初期の作品が本書(1971年発表)である。舞台は、第二次世界大戦直前のアマゾン流域中央のエリアである。まだ暗黒大陸と言ってもいい土地だった南米、その中でも地上からの人が簡単に出入りで…
サイバーセキュリティなどという(一般の人からの印象では)陰気で危険なことに関わりあっていると、どうしても犯罪からみや軍事からみの話が多くなる。中学生の頃から海外ミステリーに溺れ、大学生になっては軍事関係の書を読み漁り「机上演習」までやった…
本書はE・S・ガードナーの「ペリー・メイスンもの」の一冊。このシリーズ、最初に「ビロードの爪」が発表されたのが1933年。まさに本格ミステリーの黄金期に始まっている。その後40年にわたって書き続けられ、長編80余冊が出版されている。僕が読んだことがあ…
三野正洋という人は大学教員(工学部)が本職だが、数多くの戦争関連著作がある。いずれも工学研究者らしい、エンジニアリング視点に立ったものだ。そこに示される冷徹な数値は、「無敵皇軍」とか「撃ちてし止まん」などという感情論とは無縁のものだ。 本書…
著者は1917年生まれ、幼いころからヒコーキというものに魅せられた生涯を送った人である。実家が写真館で飛行機の写真に触れる機会も多く、子供の頃に実際に乗ってみた経験もある。当時の飛行機は原始的なものだったが、大人になった著者は「飛行機映画がタ…
ご存じ神聖ローマ帝国第18代大公マルコ・リンゲ殿下だが、170冊あまりのもの登場作品がある。東京創元社が60冊あまりを翻訳したところで日本に紹介されなくなり、扶桑社が新しく翻訳を始めたのが2002年発表の本書。 このシリーズは1965年の「イスタンブール…
昔は何度も旅行に行っていた韓国、特に文政権になってからは困った隣人になってしまい渡航する気も起きない。さて、と考えてみるとかの国のことは、 ・伊藤博文暗殺 ・閔妃暗殺 くらいしか知らない。太平洋戦争後、徴用工問題/慰安婦問題など持ち出されて、…
1956年発表の本書は、同名の有名な映画の原作である。大西洋上で特命を帯びたUボートと、哨戒中の対潜駆逐艦の1対1の対決を描いたものである。作者は両艦の艦長を中心に、Uボートと駆逐艦の主に司令室でのアクションを交互に描いていく。 映画でクルト・…
本書は、アン・クリーヴスの<シェットランド四重奏>第三章。「大鴉の啼く冬」「白夜に惑う夏」に続くもので、2009年発表作品である。北海にあるシェットランド諸島は英国領土ではあるが、古来ノルウェー、デンマークやドイツとのかかわりが深い。僕が「Bre…
ドナルド・ハミルトンという作者の名前は、どこかで聞いた記憶がある。狙撃手とギャング風の男のイラスト、魅力的なタイトルなので買ってしまってから作者のことを調べてみた。ハミルトンは「マット・ヘルムシリーズ」の原作者だった。それで名前に記憶があ…
壮&美緒シリーズで有名な作家、深谷忠記。おおむね2作に1作はこの2人がレギュラーを務め旅情も盛り込んだシリーズだが、残りは単発ものである。読者が読みやすいのはシリーズもの、ごひいきの探偵が出てきてある程度ワンパターンな展開になる「安心感」…
トランプ政権になってホワイトハウスからグローバリストが駆逐されてしまったという話は、別ブログでご紹介した。WTOの上級委員の補充を妨害して、アゼベド事務局長を任期1年を余して辞めさせたり、「COVID-19」騒ぎの最中にWHOへの資金拠出を止めてしまう…
江戸川乱歩に続いて登場した本格探偵小説の旗手、横溝正史と高木彬光の作風には対照的な部分がある。横溝流は怪奇ものと見せかけて合理的な解決に持ち込むもので、ディクスン・カーの手法に近い。高木流は怪しげは雰囲気の中にも科学の眼が光っていて、より…
アメリカ海兵隊は、独立戦争前の1775年に設立された。もともとは艦上勤務の警察組織だったらしい。NCISのギブス捜査官も海兵隊出身という設定だが、警察組織だったというのはうなずけることだ。その後、前進基地防護・陸上部隊支援・水陸両用強襲・即応部隊…
「猿丸幻視行」でデビューした井沢元彦も、知見の深い人だ。ミステリーよりも「逆説の日本史」など、歴史の研究書と呼ぶべきものを多く発表している。古代からの日本社会を冷徹な目で分析し、他の学者が触れなかったことを暴くことに情熱を傾けた。一方ビジ…
本書の作者A・A・フェアは知らないという人も、ぺリー・メイスンという弁護士のシリーズには記憶があるのではなかろうか。A・A・フェアとは、ペリー・メイスンシリーズの原作者E・S・ガードナーの別名である。ガードナーは、私立探偵ドナルド・ラムと…
米国のSF小説ブームの第一波は1950年代、アイザック・アシモフやA・C・クラーク、R・A・ハインラインなどの諸作が評判を呼んだ。しかし、その後米ソ冷戦や核戦争の恐怖もあって、SF小説は下火になった。現実のサイエンスがフィクションに追いつき始めていた…