2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧
シカゴ育ちのロバート・ウォーカーという作家は、1989年の「デコイ」という作品でデビューし、30作ほどの長編ミステリーを発表している。その中で半分近くを占めるのが、FBIの検死官ジェシカ・コランを主人公としたシリーズ。邦訳されたものの大半も、このシ…
本書は「千草検事シリーズ」などを紹介している、土屋隆夫の長編第二作(1958年発表)。雑誌「宝石」などに秀逸な短編を発表していた作者は、ミステリー評論家中島河太郎の勧めで長編「天狗の面」を書いて好評を得た。続く第二作は、日本では珍しい本格「警…
1914年の今日(6/28)、サラエボでオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻が暗殺されたことで、欧州における100年の平和は破られた。あしかけ5年にわたる第一次世界大戦の始まりである。欧州では「大戦」といえば第一次を指すことが多い。第二次は第一次…
2018年発表の本書は、何冊か軍事関係の書を紹介しているCSIS上級顧問エドワード・ルトワック氏の「闘える日本軍への助言」である。ただ本書出版に時点では「COVID-19」禍もウクライナ紛争も始まっていない。筆者の戦略思考は、現時点ではうなずけないものが…
2022年発表の本書は、ジャーナリスト布施祐仁氏の日本PKO録。闘わなくてもいい軍隊としての自衛隊の実態や課題を多くの書で見てきたが、自衛隊員が本当に撃ち合いになるかもしれないと感じたケースのほとんどは海外派遣(PKO)だった。 筆者はイラク派遣の実…
1920年代は本格探偵小説の黄金期である。ホームズなどの19世紀からのミステリーから、1913年の「トレント最後の事件」を皮切りに新世代のミステリーが続々生まれたと評論家は口をそろえる。クリスティとクロフツがデビューしたのが1920年というのが象徴的だ…
2022年発表の本書は、何冊か著書を紹介した成毛眞氏と実践的な経済(経営?)評論家冨山和彦氏の共著。今月のNHK日曜討論で、政府の新しい資本主義実現会議メンバーでもある冨山氏が、 「地域や労働現場の現実はこうだと言っても、官僚や大企業社長は理解し…
1996年発表の本書は、航空小説作家のスティーブン・クーンツが、第一次世界大戦からベトナム戦争までの空の闘いを記したドキュメンタリーを抜粋・再編したものである。邦題は「撃墜王」となっているが、収められている21の物語には戦闘機だけではなく爆撃機…
本書は、1973年<小説宝石>に連載されたもの。先月紹介した「黄金の鍵」に続く、高木彬光の墨野隴人シリーズの第二作である。明察神のごとき名探偵神津恭介を主人公にした本格推理に行き詰まりを感じたのか、作者は弁護士や検事を主人公にして法律や経済を…
1989年発表の本書は、冒険小説の雄ジャック・ヒギンズのノンシリーズ。これまで「鷲は舞い降りた」などの戦記物や、ファーガスン准将やショーン・ディロンらのシリーズを多く紹介しているが、作者にはノンシリーズの傑作も多い。いろいろな意味でしがらみが…
2020年発表の本書は、日経紙でモスクワ特派員などを経験した古川英治氏のロシア謀略レポート。かつての超大国ソ連は解体され、ロシアが世界有数と思えるものは核戦力くらいしか無くなってしまった。ハードパワーもソフトパワーも、世界10位に入るのは難しい…
「蒼海の尖兵」シリーズは、大鑑巨砲架空戦記作家横山信義の比較的初期の作品。本編7作のほか、何冊か外伝が出版されている。本書は2001年に出版された「外伝1」。どうしても太平洋を挟んで日米両艦隊が戦えば、日本に勝ち目がないのが分かり、作者は本シ…
先週、岐阜県の自衛隊訓練場で、驚くべき事件が起きた。小銃の射撃訓練で3名の自衛官が撃たれ、2人が亡くなったのだ。これは、単なる事故や困った個人の暴走ではなく、自衛隊の組織が抱える問題なのだと気づかされたのが本書(2020年発表)。 著者の二見龍…
2022年発表の本書は、経済評論家加谷珪一氏の日本経済(社会)のそもそも論。筆者のWeb上の論説は時々参考にさせてもらっていて、論理的な思考のできる人だと思っている。書籍としては2年前に「貧乏国ニッポン」を紹介している。この書は日本が安い国になっ…
1964年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ジェーン・マープルもの」。ジェーンはセント・メアリ・ミード村で生まれ育ち、ほとんどその村を出ることはない。生来のおしゃべり好き、人物観察の能力をもって、ほぼプライバシーのないこの村のことは全て…
昨日「満州某重大事件」こと張作霖暗殺事件の首謀者、河本大作(当時)大佐の一代記を紹介した。この事件を戦前日本の凋落のきっかけとなったものと捉えた歴史家大江志乃夫が、昭和天皇が亡くなった後の1989年に発表したのが本書である。 暗殺事件は1928年6…
本書は1978年に発表された、陸軍大佐河本大作の一代記である。河本大佐といえば「満州某重大事件」の首班で、当時北京から中国東北部に勢力を張って「大元帥」と言われた張作霖を暗殺した人物として知られている。1928年、中国大陸の動乱は収まる気配を見せ…
2022年発表の本書は、政治社会学・応用倫理学を専門とする堀内進之介氏の自己追跡技術の解説書。デジタルデータを使った社会構造改革の話かと思って買ってきたのだが、内容はかなり哲学(倫理)的。しかし決して技術排斥や危惧を叫ぶものではなく、筆者のス…
本書は題名の通り、ほとんどのストーリーがバッキンガム宮殿の中で展開する。それなのに、「カナダ推理作家協会賞受賞」ってどういうことだろうといぶかった。実は作者C・C・ベニスンはカナダ人、なのにバッキンガム宮殿フリークだと巻末の解説にある。本書は…
2021年末発表の本書は、何冊か紹介しているジャーナリスト大野和基氏が世界の識者にインタビューした記事の集大成「世界の知性シリーズ」。元原稿は<Voice>誌に2021年3~12月に掲載されたものである。 「COVID-19」禍は、世界に大きなインパクトを与え、…
2014年発表の本書は、寡作家スティーヴン・ハンターの「スワガーもの」。伝説のスナイパーで<ボブ・ザ・ネイラー(釘付けボブ)>とあだ名されるボブ・リー・スワガーも68歳になった。日向ぼっこをしながら孫と遊ぶ日々だが、スナイパーに係る謎を与えられ…
1993年発表の本書は、津村秀介の「伸介&美保」シリーズの1冊。表紙に函館山から市内を見下ろした写真が使われているように、事件の主要な舞台になるのは上野発札幌行きの寝台特急「北斗星1号」と、列車が朝の0424に到着する函館である。 「週刊広場」のア…
この言葉は「秋葉原通り魔事件」で昨年死刑執行された加藤智大死刑囚が、筆者に語ったもの。インターネットの爆発的な普及と、平成時代は重なる部分が多い。2019年発表の本書は、ジャーナリスト渋井哲也氏が多くの犯罪者や被害者にインタビューしてまとめた…
1993年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第10作。アルファベットは"J"となる。長く間借りし、仕事も請け負っていたカリフォルニア信用保険会社の新しい社長ゴードン・タイタスとはソリが合わず、キンジーは新しくキングマン&…
ロバート・キャパは、ハンガリー生まれのユダヤ人。本名をアンドレ・フリードマンという。20歳前に生まれ故郷のブダペストを脱出、ベルリンからパリへ渡り写真家を目指した。彼はスペイン内戦で取材をし、兵士が銃弾に斃れる瞬間を切り取った写真が<ライフ…
このDVDは「NCIS:ネイビー犯罪捜査班」のシーズン11。統計によると全米TVドラマランキングで年間1位を最初に取ったのがシーズン10、その勢いを駆ってよりスケールアップした内容になっている。前シーズンでモサド局長だった父イーライを亡くしたジヴァが、…
本書は、以前「本当の潜水艦の戦い方」を紹介した中村秀樹氏の架空戦記。作者は海上自衛隊で潜水艦長を経験し、防衛研究所での太平洋戦争の潜水艦戦史研究で知られた人。 隠密性が命の難しい艦種 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp) テーマは定番のミッドウェー海…
2020年発表の本書は、憲政史学者倉山満氏の政治言論の戦後史。筆者は、ネット上の<チャンネルくらら>などを通じて保守政策論を発信している。しかし本当の保守論者は近年ほとんどおらず、過激なカッコ付きの「保守」と「ネトウヨ」に分かれて、それらが内…
今日は「本能寺の変」があった日。本書の作者井沢元彦は、織田信長を主人公にした歴史ミステリーをいくつも書いた。以前「謀略の首」という長編と、「修道士の首」という短篇集を紹介している。これらはIFの要素はあると言っても、あり得たかもしれない歴…
1995年発表の本書は、深谷忠記の「壮&美緒シリーズ」中期の作品。津村秀介の「伸介&美保シリーズ」とはちょっと違うアリバイ崩しものの連作である。後者は純然たる公共交通機関の乗り継ぎによるアリバイ工作がメインだが、前者は高速道路やその他の移動手…