新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

政治・経済書

海兵隊幹部から見た沖縄問題

2016年発表の本書は、日本文化にも造詣の深い政治学者で在沖縄海兵隊にも所属したことのあるロバート・D・エルドリッジの「オキナワ論」。沖縄にある米軍(専用)基地の再編や削減などについて、米軍も日本政府も失敗したという。例えば、最も大きな争点である…

誰のため、何のための2.6兆円

2018年発表の本書は、毎日新聞記者で福島第一原発事故のその後を取材し続けている日野行介氏が「21世紀最悪の公共事業」の実態を綴ったもの。福島県を中心に広範囲に放射性物質が散布された事故で、その除染のため2016年度までで2.6兆円とのべ3,000万人の従…

家族制度に見る世界の行方

本書は、何度か紹介しているフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏のインタビュー記事の書籍化。2013~21年に文芸春秋誌に掲載された記事を11編収録している。英米から欧州、ロシア、中国に言及するとともに、日本の現状課題や将来の方向性について…

日本型州構想の(ちょっとだけ)具体策

2019年発表の本書は、以前「この国のたたみかた」を紹介した中央大学名誉教授佐々木信夫氏の日本列島構造改革論。「この国・・・」同様、全国を10州に再編し、東京・大阪の2都市州を加えることで、130年前の「廃藩置県」に相当する「廃県置州」をなすとある。…

欠けている中露の視点を補う

2022年発表の本書は、大阪大学至善館教授橋爪大三郎教授と、ご存じ<元外務省のラスプーチン>佐藤優氏が対談した、新時代を読み解く針路。橋爪教授の本は初めてだが、著書を見ると社会学者で中国研究をされているよう。佐藤氏はあだ名の通りのロシア通だ。 …

ゆりかごから墓場まで

2022年発表の本書は、東京新聞論説委員で10年以上厚労省を取材してきた鈴木穰氏の同省概説。内側から見た千正康裕氏の諸作(*1)と併せて読むと、この巨大官庁の実態・課題が良く分かる。 「COVID-19」禍で予算が急増しているが、それ以前から一般会計の1/3…

デジタルロビーイングの歴史に学ぶ

本書は先月発売になったばかりのもの。渡辺弘美氏とは15年程前に知り合い、業界団体の場でデジタル政策を論じてきた縁で、新刊書を送っていただいた。筆者は旧通産省で産業政策を21年、アマゾン合同会社でロビーイング15年の経験を持ち、現在は公共政策を向…

移民先進国フランスに学ぶ

2019年発表の本書は、ジャーナリスト安田浩一氏の「団地は移民のゲートウェイ」との主張を現地取材を重ねて裏付けたもの。高度成長期に近代的な住宅として整備された「団地」だが、50年以上経って老朽化が進み住民も高齢化し、外国人比率も高まった。取り上…

司法制度改革、検察権限の変化

2015年発表の本書は、元東京地検特捜部で現在は「郷原総合コンプライアンス法律事務所」所長の郷原信郎弁護士の著作。本書のタイトルにもなっている「告発」は、刑事訴訟法によって何人でもこれを行うことはできる。しかし組織犯罪(詐欺等でなくても品質偽…

ローカル型産業で地方再生

2021年発表の本書は、実践型の企業再建屋冨山和彦氏が、高名なジャーナリスト田原総一朗氏と4回にわたって対談した結果を書籍化したもの。冨山氏については、 昭和の因習を脱ぎ捨てよ - 新城彰の本棚 (hateblo.jp) 「中堅企業」支援の方向性(2) - 梶浦敏…

社会問題のるつぼ

本書は、BS朝日の「町山智浩のアメリカの今を知るTV」で、2016~22年にかけて放映された内容をもとに書籍化された「現代アメリカの病巣」論。町山氏は映画評論家でジャーナリスト、相方の藤谷文子氏は女優。いくつものインタビューを交えながら、ドラマのよ…

日本の中では空気のような・・・

2022年発表の本書は、日本の中にいると空気のように感じている「国籍」問題を取り上げた、早稲田大学国際学術院教授陳天璽氏の著作。著者自身30年ほど無国籍の状態だった。両親が台湾から太平洋戦争後横浜に引き揚げて来て台湾国籍だと思っていたら、日中国…

日本の「Civilian Control」

2023年発表の本書は、眼光鋭い元海将香田洋二氏の「防衛省に対する喝!」である。一度パネルディスカッションでご一緒したことはあるが、著書を紹介するのは初めて。集団的自衛権行使が可能になり、防衛予算も欧州各国並みのGDP比2%への道筋は付いたものの…

もう1冊、企業変革へのガイド

今月日本経済の行方について、2冊の対照的な書(*1)を紹介した。どうしても生産性向上は悪だとする森永教授の主張は受け入れがたく、もう1冊日本の成長戦略を語る本書(2022年発表)を読んでみた。著者松江英夫氏はデロイト・トーマツの執行役員、主張は…

欧州の排外的ポピュリズムと日本

2020年発表の本書は、欧州暮らしが長く6ヵ国語を話すフリージャーナリスト宮下洋一氏の<排外的ポピュリズム>レポート。筆者は、チェコ・オランダ・ドイツ・イタリア・フランス・イギリスを巡り、ポピュリズム政党党首や市民、移民にもインタビューして事…

「共産党の牙城」と呼ばれた機関

2020年発表の本書は、国際政治評論家白川司氏の「日本学術会議追及」。菅内閣がこの組織の構成員半数の改選にあたり6名を選ばなかったことから、多くの市民にこの組織のことが知られるようになった。本書は同会議の問題を追求したものだが、多少偏向してい…

米国政治を蝕んだ5つの変化

来年の米国大統領選挙も、この顔合わせになると予想されている。2021年秋、バイデン政権が誕生した後に、同志社大学法学部の村田晃嗣教授が発表したのが本書。その年、一応の決着は付いたはずなのに「選挙は盗まれた」と信じるトランプ支持者も多く帯にある…

「ロトクラシー」という考え方

2021年発表の本書は、同志社大学政策学部の吉田徹教授の民主主義体制論。なんと、くじ引きで政策担当者(議員等)を決める「ロトクラシー」という政治手法がテーマだ。 現在多くの民主主義国で行われているのが、代表制民主主義。僕たちは民主主義国対専制主…

生産性向上は人を不幸にする

昨日加谷珪一氏の「スタグフレーション」で、賃金が上がらず物価が上がる経済危機の中では、生産性を上げるしかないとの主張を紹介したのだが、2023年発表の本書は、それとは真逆の主張をしている。著者の森永卓郎氏は獨協大学教授、TVでもおなじみの論客で…

必死で生産性を上げるしか

2022年発表の本書は、気鋭の経済評論家加谷珪一氏のインフレーション論。景気後退期のインフレーションを、スタグフレーションと呼び経済学上極めて良くない事態とされている。今の日本は、そうなりかかっているというのが筆者の主張(*1)である。 本書で引…

王族が数万人いて要職にいる国

G20/B20の会合の中で、中露らとは違った意味で困った国なのがサウジアラビア。「国境を越えるデータ」を決して認めず、グローバル経済の足かせとなっている。ただ、本書(2021年発表)の帯にあるように、謎に包まれていて内実が見えない。そこで宗教学と現代…

生活インフラ維持、3つの道

2022年発表の本書は、シリコンバレーのAIベンチャー「フラクタ」CEOの加藤崇氏が、2019年末から<Foresight誌>に掲載した「水道崩壊」という連載をまとめたもの。地中の水道管の、材質・敷設時期・土壌の性質などのデータから劣化具合を推定(シミュレート…

まさに仰る通り!

2022年発表の本書は、経済学者野口悠紀雄教授の「日本経済復活の処方箋」。このテーマは経営視点で論じられることも多いが、本書は賃金と生産性に焦点を当てている。前半は日本経済の現状を統計値から明らかにしているだけだが、後半「どうすれば賃金が上が…

新GDP3位の国のテレワーク

GDPランキングで、ドイツが日本を抜いて3位になったと報じられている。明らかに円安の影響が大きく、本質的には日本の生産性(特に中小零細企業)が伸びていないことが原因と思われる。 2021年発表の本書は、在独30余年のジャーナリスト熊谷徹氏の「ドイツ…

危機が生む政策起業イノベーション

2019年発表の本書は、アジア・パシフィック・イニシャティブの創設者船橋洋一氏のシンクタンク論。冒頭、シンクタンクは世界的な危機(戦争や恐慌)を受けて、設立されたとある。 ・WWⅠ ブルッキングズ、CFR ・WWⅡ RAND、CSIS ・冷戦 PIIE 公正な政策提言を…

この時何が起きたか、来年は何が?

来年11月の米国大統領選挙に向けて、すでに全ての候補者は助走からトップスピードに加速しつつある。ニューヨークに住む友人は、もしトランプ政権(か類似のもの)が再びできるようなら、国外脱出を図りたいと言っている。 2020年の大統領選挙は、有権者は関…

ソフトパワーとしての中国

2021年発表の本書は、ルポライター安田峰俊氏の国際情勢レポート。<月刊Voice>に2020~21年にかけて連載された記事を、加筆・修正したもの。習政権になって「戦狼外交」が顕著になっているが、それ以前は多くの国が米国や日本より好感をもっていた中国に対…

デジタル社会の行きつく先?

2022年発表の本書は、フリージャーナリスト金敬哲氏の韓国ネット社会の現状レポート。韓国は間違いなくデジタル先進国で、電子政府の充実度などは日本の20年先を行っている。金大中時代に始まったIT先進国を目指したインフラ建設は、IMF管理になった暗黒時代…

道徳と市場、2つの論理の境目

本書(2014年発表)は、NHK「ハーバード白熱教室」でお馴染みのマイケル・サンデル教授(政治哲学)が、市場主義への疑念を著したもの。市場主義の深化でこれまで考えられなかったものが売買され、巨額の利益を生むこともある現状のレポートと市民への警告で…

ハーバード成人発達研究の成果

本書は、2023年6月に出版されたばかりの「幸福の研究書」。「人生の指針を示す書だ」と勧めてくれた人がいて、久しぶりに新刊書を買った。ハーバードの「成人発達研究」は、両大戦間にボストンで始まった。2つのグループの人を、世代を越えてトレースして…