新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

政治・経済書

コンパクト五輪という嘘と国家の負担

今週、パリ五輪が幕を開ける。前回の夏の東京大会が1年遅れだったこともあって「もう来たのか」との印象がある。その東京五輪だが、途方もない金満集団IOCによって「アスリートそっちのけの商業イベント」になってしまったとする書(*1)も紹介している。 2…

普通の国家への道

本書は、安倍元総理暗殺事件の直前に4人の識者(*1)が集まって、官邸主導の道筋・残る課題などを議論したもの。対談は2022年7月に行われ、翌年出版されている。民主党政権での3・11危機管理から、第二次安倍政権の安全保障政策推進、官邸強化の経緯や内在…

Accountability、もう一つの意味

自民党の裏金問題は、政治資金規正法の微修正で決着がつきそうになり、有権者の不満が高まっている。このところの選挙は負け続け、都議選補選も惨敗と評されている。裏金に絡んで昔読んだ本があったなと、探して見つけたのが本書。「小さな政府」に向けた改…

ビッグテックは規制できるか?

2023年発表の本書は、読売新聞記者小林泰明氏の「GAFAM対政府録」。米国では<ビッグテック>と呼称されるこれらのグローバル(&インターネット)企業たちは、世界中で各国政府とコンフリクトを起こしている。筆者は日本と米国で、7年間にわたって政府と彼…

地域の改革政党から中央へ

2021年発表の本書は、ノンフィクション作家塩田潮氏の、日本維新の会を中心に据えた、この10年余りの政党離合集散史。断片的にしか知らなかった、改革政党「維新」の紆余曲折と、現状課題の理由を知ることができる。 種々の問題はあれ、やはり政策を掲げて実…

ハイテク国家戦略の要、丁薛祥

2022年末発表の本書は、以前「ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略」を紹介した、中国問題グローバル研究所長遠藤誉氏による中国の新しい政治局常務委員7人(チャイナセブン)の紹介と、習近平後継者についての考察である。前振りとして、 ・習近平に…

公共放送の改革案

2023年発表の本書は、早稲田大学教授(公文書研究)有馬哲夫氏の「NHK論」。NHK受信料問題は、時折国会でも取り上げられ是非が問われる「広義の税金」。筆者は、各国の公共放送の実装やスタンスを論じながら、NHKのあるべき姿を提案する。1世紀前に「私設無…

日本人のヘイト意識ゆえの事件

2022年発表の本書は、いずれもジャーナリストである安田浩一&安田菜津紀氏の共著。外国人差別の現場を取材し、日本人のヘイト意識などを問題視したレポートである。やや情緒的に過ぎる部分もあるので、事実と主張点を中心にまとめてみた。 冒頭、名古屋入管…

外国人の在留は日本政府次第

今月改正入管法が施行されたが、移民・難民問題は日本でも大きな論点である。きょうから2日、入管法関連の書籍を紹介したい。2019年発表の本書は、法務省難民審査参与員でもある名古屋大学講師の浅川晃広氏の入管法解説。 冒頭「外国人は日本政府の許可に拠…

高橋流「EBPMのススメ」

本書は元財務官僚で、嘉悦大教授の高橋洋一氏の政策論入門編。筆者がYouTube上の<高橋洋一チャンネル>に2022~23年に挙げた内容を書籍化したもの。政策からみの時事ネタを分かりやすく解説したもので、数字に強い財務官僚(*1)らしくEBPM(*2)の手法で、…

現実主義的政権運営の評価は

本書は2022年1月から2023年6月までの間、朝日新聞(&デジタル)に掲載された岸田政権関連の記事を加筆修正して集大成したもの。衆院補選で3連敗しても怯む様子を見せない岸田総理について、 ・聞くことは聞くが、進言を受け入れることはない ・現実主義…

派閥や分派を許さないゆえ

自民党が裏金問題を受けて派閥解消を掲げたが、そもそも規定に「派閥、分派を許さず」と明記している政党がある。それが、日本共産党。党としての行動を一致させるために有用な規定ともみられるが、逆に硬直した組織になって党首が長く居座ることになりかね…

分かりやすい憲法改正論

2020年発表の本書は、「永遠のゼロ」の作者百田尚樹氏の憲法論。以前「偽善者たちへ*1」を紹介していて、巷間言われるほど偏向した論客(要するに極右のこと)ではないと思った。憲法論としてはこれまで、 ・政治家(石原慎太郎) ・法学者(長谷部恭男、佐…

「ガラスの天井」は破れたか?

2021年発表の本書は、英国在住のコラムニスト、ブレイディみかこ氏の「女性の政治指導者論」。2018~2020年にかけて<小説幻冬>の連載した記事を集めて、各国の女性政治家や運動家の姿を通した政治のありようを記したものだ。 英国で女性参政権が認められた…

21世紀を担う人たちへの「リーダー論」

2010年発表の本書は、当時東京都知事だった石原慎太郎氏の「リーダー論」。高名な作家で、政界にユニークな足跡を残した人であり、日本が覚醒するような議論を(ある時は過激に)展開し続けた人である。 日本人に誇りを持たせるためか、真実ではないかもしれ…

安全保障シミュレーション結果Ⅱ

本書は、昨日紹介した「自衛隊最高幹部が語る台湾有事」と同様、中国軍の台湾侵攻をシミュレートした結果のレポートである。シミュレーションは国会議員10名余で、2022年に実施された。筆者山下裕貴元陸将は、その企画・指導役だった。 数ヵ月に渡って偽情報…

安全保障シミュレーション結果

台湾有事について、自衛隊OBや政治家、シンクタンク研究員等が、2021年の8月に丸2日かけてテーブルトーク型シミュレーション(TTX)を行った。その推移と、結果を受けた座談会の模様(*1)を記したのが本書。参加者には僕の知人の名もあった。 シナリオは…

お酒を吞まなくなった為政者たち

2023年発表の本書は、記者からフリーライターに転身した栗下直也氏の「政治家のお酒通信簿」。古来為政者は、周囲の人の真意を知るために酒宴を利用した。ロシアのピョートル大帝などは、3日3晩の宴会に側近たちを閉じ込め酒を呑ませ続けた。もちろん為政…

おクニはどちらですか?

以前文書新書の「世界地図シリーズ」を何冊か紹介した。今日から4日間、おなじ文春新書の「日本地図シリーズ」で書棚にある4冊を紹介したい。初日の今日は、県民性もしくは地域性に関するもの。著者の武光誠氏は、明治学院大学教授で専門は歴史哲学、思想…

四方八方斬りまくり、でも一つの気付き

2022年発表の本書は、気鋭の政治学者白井聡氏と抗う新聞記者望月衣塑子氏の現代政治批判書。安倍元総理が亡くなった後の選挙で、立憲・共産連携がぎくしゃくし、両党が議席を減らし維新の会が台頭した後の政治情勢を分析したもの。基本的には、自民・公明・…

新興国29ヵ国の行方

2023年発表の本書は、比較政治学・国際関係論が専門の東京大学恒川恵市名誉教授の新興国論。多様な切り口と経済指標から、新興国と呼ばれる29ヵ国の経済・政治・軍事を論じたもの。1970年ごろ新興国だったシンガポールや韓国は先進国入りして、今は次の国々…

裏面から見た各国の悩み

2022年発表の本書は、国税調査官出身のフリーライター大村大次郎氏の「世界の歴史・経済論」。もちろん世界を動かしている最大のものは、イデオロギーや宗教、軍事力ではなく「お金」である。その視点から、通常表には出てこない真実がいくつも紹介されてい…

最強安倍官邸の謎は解けず

2022年発表の本書は、第一次・第二次安倍政権で内閣広報官、総理大臣補佐官を務めた長谷川榮一氏の「官邸録」。憲政史上最長となった政権を、主に広報畑から支えた人で、数々の「秘録」をお持ちのはず。しかし前書きの中に「内閣法で職務上知り得た秘密を秘…

海兵隊幹部から見た沖縄問題

2016年発表の本書は、日本文化にも造詣の深い政治学者で在沖縄海兵隊にも所属したことのあるロバート・D・エルドリッジの「オキナワ論」。沖縄にある米軍(専用)基地の再編や削減などについて、米軍も日本政府も失敗したという。例えば、最も大きな争点である…

誰のため、何のための2.6兆円

2018年発表の本書は、毎日新聞記者で福島第一原発事故のその後を取材し続けている日野行介氏が「21世紀最悪の公共事業」の実態を綴ったもの。福島県を中心に広範囲に放射性物質が散布された事故で、その除染のため2016年度までで2.6兆円とのべ3,000万人の従…

家族制度に見る世界の行方

本書は、何度か紹介しているフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏のインタビュー記事の書籍化。2013~21年に文芸春秋誌に掲載された記事を11編収録している。英米から欧州、ロシア、中国に言及するとともに、日本の現状課題や将来の方向性について…

日本型州構想の(ちょっとだけ)具体策

2019年発表の本書は、以前「この国のたたみかた」を紹介した中央大学名誉教授佐々木信夫氏の日本列島構造改革論。「この国・・・」同様、全国を10州に再編し、東京・大阪の2都市州を加えることで、130年前の「廃藩置県」に相当する「廃県置州」をなすとある。…

欠けている中露の視点を補う

2022年発表の本書は、大阪大学至善館教授橋爪大三郎教授と、ご存じ<元外務省のラスプーチン>佐藤優氏が対談した、新時代を読み解く針路。橋爪教授の本は初めてだが、著書を見ると社会学者で中国研究をされているよう。佐藤氏はあだ名の通りのロシア通だ。 …

ゆりかごから墓場まで

2022年発表の本書は、東京新聞論説委員で10年以上厚労省を取材してきた鈴木穰氏の同省概説。内側から見た千正康裕氏の諸作(*1)と併せて読むと、この巨大官庁の実態・課題が良く分かる。 「COVID-19」禍で予算が急増しているが、それ以前から一般会計の1/3…

デジタルロビーイングの歴史に学ぶ

本書は先月発売になったばかりのもの。渡辺弘美氏とは15年程前に知り合い、業界団体の場でデジタル政策を論じてきた縁で、新刊書を送っていただいた。筆者は旧通産省で産業政策を21年、アマゾン合同会社でロビーイング15年の経験を持ち、現在は公共政策を向…