新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史小説

100年前の「スモール・ベースボール」

トランプ先生が「中国ウイルス」と連呼したのをきっかけに、米国で東洋人へのヘイト・クライムが増えてきている。日系・韓国系の人も含めて、生命・財産の危険にさらされているが、これは長く蓄積されてきたプアホワイトたちの不満が噴出したものだろう。こ…

伊賀と甲賀

昔少年サンデーというマンガ雑誌があり、小学生の僕は「伊賀の影丸」という連載を一番の楽しみにしていた。先年事故で亡くなった横山光輝の作品としては、「鉄人28号」よりずっと好きだった。忍者というものの実像はかなり歪められていたのだが、それは子…

三国志最大のヒーロー

本書は1991年に5年にわたる連載が終わって文庫化されたもの。作者の陳舜臣については、これまでにも「小説十八史略」や「耶律楚材」など中国の歴史小説をいくつも紹介している。三国志についても「秘本三国志」や「曹操」を読んだことがある。その紹介記事…

チャンドラ・ボースの決死行

本書は、陳舜臣の「わが集外集」の改題短編集である。作者には歴史ものから現代もの、ミステリーから冒険小説まで幅広い作品がある。多くの作品の中で、短編集にまとめられなかった9編がここに収められている。必然的に、上記の幅広い作風の9編を集めたこ…

名探偵織田信長

これまで何作か井沢元彦の歴史ミステリーを紹介しているが、本書はその中にある「謀略の首」と同様織田信長が探偵役を務める。「謀略の首」は石山本願寺攻防戦と毛利水軍との合戦を背景にした長編小説だったが、本書は7編を収めた短篇集。小説現代に、1981…

隋朝盛衰記

田中芳樹という作者の本は、「銀河英雄伝説」を読んだことがあるだけ。それもTVアニメを見て、興味を持ったからである。「アルスラーン戦記」などの著作もあってサイエンスフィクション作家と言われているが、実は中国史に深い造詣を持ち「岳飛伝」など歴史…

軽妙だが深淵なモノローグ集

脚本家で、舞台・映画・TVドラマと八面六臂の活躍を続ける才人三谷幸喜が、たった5日間の「会議」を描いたのが本書。一代の天才織田信長が明智光秀に討たれ天下統一に暗雲がさしたが、その光秀も討たれ「Beyond信長」を決める場になったのは、戦場ではなく…

直木賞に輝いた短編

2ヵ月前、大家藤沢周平の作品を初めて読んだ。歴史小説はあまり読んでいないのだが、さすがに凄いなと思った。そこでもう1冊、短編集を買ってきた。本書には、「オール読物」に1971年から1973年までの間に発表された5編が収められている。 この中の4編が…

史上初の私立探偵

1年ほど前、「ウィーンの密使」を紹介した藤本ひとみの、同じくフランス革命前後を舞台にしたミステリー。事件が起きたのはベルギー国境に近い北フランスの街アラス。この街は、1940年ロンメル将軍の「幽霊師団」が電撃戦を繰り広げたという歴史しか、僕は…

「秘剣」テーマの短編集

池波正太郎作品以外の時代物はあまり読まない僕だが、ふとBook-offで手に取ったのが本書。言わずと知れた時代物の大家、藤沢周平の短編集である。解説によると、続編を含めて17編の「秘剣もの」が収められているという。本書には、 ・邪剣竜尾返し ・臆病剣…

魏の視点からの「三国志」

多くの日本人にとっての「三国志」と言えば、「桃園の誓」に始まり「秋風五丈原」で終わる物語である。三国のうち一番小さかった「蜀」の滅びの美学が心に残る。横山光輝のアニメにもなり、人形劇やTVドラマにもなった。しかしこの原本は「三国志演義」であ…

一生に一度の機会

深谷忠記は、「壮&美緒シリーズ」の合間に年1作程度「ノン・シリーズ」を発表している。「壮&美緒シリーズ」は地方色の強いアリバイ崩し中心の本格ミステリーだが、ライバルとも言える「浦上伸介シリーズ」の方が僕は好きだ。しかしこの作者にはパターン…

市警本部長セオドア・ルーズベルト

1980年代の米国ミステリー界を代表するパズラー、ウィリアム・L・デアンドリアの第三作が本書。1952年ニューヨーク生まれ、子供のころからエラリー・クイーンを読みふけり、クイーンを目指して作家になったという。デビュー作「視聴率の殺人」以降クイーン仕込…

逆説の日本史ミステリー

井沢元彦のデビュー作「猿丸幻視行」は、ファンタジーの味わいを付けた(実は)本格ミステリーである。なかなかに興味深い作品だったが、作者はその後「逆説の日本史」シリーズなど、歴史もので有名になり本格ミステリー作家とは誰も思わなくなっている。 本…

たかが茶道、されど茶道

本書は加藤廣の「信長の棺」以来連綿と書かれてきた、戦国時代の真実に迫るシリーズの一作。実はこの後には、作者の死去直前に発表された「秘録島原の乱」しか作品はない。75歳で作家デビュー、1年1作のペースで新作を出し87歳での大往生は惜しまれるもの…

歴史探偵、芥川龍之介

「猿丸幻視行」でデビューした井沢元彦も、知見の深い人だ。ミステリーよりも「逆説の日本史」など、歴史の研究書と呼ぶべきものを多く発表している。古代からの日本社会を冷徹な目で分析し、他の学者が触れなかったことを暴くことに情熱を傾けた。一方ビジ…

翻訳者の想いと力

以前「特攻艇基地を破壊せよ」や「アドリア海襲撃指令」を紹介したダグラス・リーマンの、やはり第二次世界大戦ものが本書(1985年発表)。この2冊が「海の男の闘い」を前面に押し出したもので、そこそこ気に入ったので「三匹目のどじょう・・・」と思って読み…

鉄甲船と亀甲船の伝説(後編)

石山本願寺攻略に続いて、越後の上杉謙信が死に、甲斐の武田家を滅ぼした織田信長だったが、明智光秀の謀反で横死する。光秀を「中国大返し」で破った羽柴秀吉の天下になるのだが、このあたりは「信長の棺」「秀吉の枷」を読んだ人なら、作者の仕掛けは分か…

鉄甲船と亀甲船の伝説(前編)

「信長の棺」でデビューした作者の加藤廣、このときすでに75歳。プロのバレリーナになろうと思ったら3歳までに決断すべきと言われていて、プロになるには適切な年齢がある。僕らのような技術者であれば、大学卒業時の22歳くらいだろうか。確かに作家の場合…

石山本願寺攻防異聞

ミステリー作家というよりは、歴史家と言った方が井沢元彦という人を正しく表すかもしれない。デビュー作「猿丸幻視行」からして、SF的な手法も入れながら豊富な歴史考証を背景にしたものだった。一般のミステリー読者にはあまりなじみのない国文学者折口…

室町末期の美濃の国

本書は岩井三四二が第五回の歴史群像大賞を得た、忠実な時代考証に基づいた歴史小説である。主人公は、若いころの斎藤道三。小説やTVドラマ等では濃尾地方をとりあげるのは織田信長時代以降がほとんどだから、斎藤道三は冒頭悪役風の老人として出てきて直ぐ…

ヴェルサイユに押し掛ける群衆

昨年12月、偶然だがウィーンとパリへの出張があった。個人的にも何度も訪れたこの2つの街、少し趣は違うがヨーロッパの古都としての重みを感じさせる。そんな感傷もあって手に取ったのが本書。藤本ひとみという人の本を読むのは初めて。西洋史に造詣の深い…

「活人剣」新陰流の創始者

「鬼平犯科帳」「仕掛人藤枝梅安」「剣客商売」「真田太平記」など膨大な歴史小説で知られる池波正太郎の初期の作品で、これまで文庫化されていなかったものを双葉文庫が集めて2007年に編纂したのが本書。著者の死後17年たってのことで、池波人気が衰えてい…

テムジンの参謀(後編)

モンゴル族自身の人口は少ない。しかし降伏させたり捕虜にした民族の兵士を前面に立て、チンギス・ハンの天才的軍事力で西へ西へと攻め上る。敦煌周辺の「西夏」(タングート族)から、天山山脈の北の「西遼」(契丹族)を経てついにカスピ海東のホラズム王…

テムジンの参謀(前編)

以前「中国の歴史」や「小説十八史略」という歴史大作を読んで、陳舜臣の鋭い歴史感に感心したものだが、同時に作者の日本語使いも見事だなと思った。各6~7巻という大部で、難しい(登場人物の名前も・・・)内容なのに、すらすら読めたからだ。 https://nic…

伊賀者、甲賀者のルーツ

徳川家康が石田三成らと戦った有名な「天下分け目の一戦」は、岐阜県関ケ原町一帯で行われた。古来このエリアは北国街道、伊勢街道、中山道が交わるところ、交通の要衝であり過去にも一度「決戦」の舞台となったところである。その闘いとは「壬申の乱」。白…

難しいミステリー手法

深谷忠記という作家は才人である。理系(化学)の出身ゆえに、DNAをモチーフにした作品にも迫力がある。その一方で、日本の歴史にも詳しく「歴史推理もの」も書いている。特に本書は、柿本人麻呂と山部赤人が同一人ではないかとの謎に挑んだもので、大変…

英国海軍のゲリラ戦

ダグラス・リーマンは、海の男の物語を多く残した作家である。彼は第二次世界大戦中、実際に船団護衛等の任務に就いた英国海軍軍人。アレクサンダー・ケント名義で、ナポレオン時代の英国海軍軍人リチャード・ボライソーを主人公にしたシリーズが30冊ばかり…

幕末、京都に咲いた徒花

幕末の中でもほんの一時期、京都で剣を振るい耳目を集めた剣士集団「新選組」。最大でも200名を超えたこともなく、募集・内紛・脱走を繰り返したある意味無頼な浪人の集まりであるのに、日本人の認知度は高い。これは子母澤寛の名著「新選組始末記」に拠ると…

第六天魔王の秘密

加藤廣という歴史作家は、中小企業金融公庫や山一證券を経てビジネスコンサルタントをしていたのだが、2005年75歳の時に「信長の棺」でデビューしている。信長公記の作者太田牛一を主人公に、本能寺の変の真相に迫った出色の歴史ミステリーである。 「信長の…