新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史小説

一生に一度の機会

深谷忠記は、「壮&美緒シリーズ」の合間に年1作程度「ノン・シリーズ」を発表している。「壮&美緒シリーズ」は地方色の強いアリバイ崩し中心の本格ミステリーだが、ライバルとも言える「浦上伸介シリーズ」の方が僕は好きだ。しかしこの作者にはパターン…

市警本部長セオドア・ルーズベルト

1980年代の米国ミステリー界を代表するパズラー、ウィリアム・L・デアンドリアの第三作が本書。1952年ニューヨーク生まれ、子供のころからエラリー・クイーンを読みふけり、クイーンを目指して作家になったという。デビュー作「視聴率の殺人」以降クイーン仕込…

逆説の日本史ミステリー

井沢元彦のデビュー作「猿丸幻視行」は、ファンタジーの味わいを付けた(実は)本格ミステリーである。なかなかに興味深い作品だったが、作者はその後「逆説の日本史」シリーズなど、歴史もので有名になり本格ミステリー作家とは誰も思わなくなっている。 本…

たかが茶道、されど茶道

本書は加藤廣の「信長の棺」以来連綿と書かれてきた、戦国時代の真実に迫るシリーズの一作。実はこの後には、作者の死去直前に発表された「秘録島原の乱」しか作品はない。75歳で作家デビュー、1年1作のペースで新作を出し87歳での大往生は惜しまれるもの…

歴史探偵、芥川龍之介

「猿丸幻視行」でデビューした井沢元彦も、知見の深い人だ。ミステリーよりも「逆説の日本史」など、歴史の研究書と呼ぶべきものを多く発表している。古代からの日本社会を冷徹な目で分析し、他の学者が触れなかったことを暴くことに情熱を傾けた。一方ビジ…

翻訳者の想いと力

以前「特攻艇基地を破壊せよ」や「アドリア海襲撃指令」を紹介したダグラス・リーマンの、やはり第二次世界大戦ものが本書(1985年発表)。この2冊が「海の男の闘い」を前面に押し出したもので、そこそこ気に入ったので「三匹目のどじょう・・・」と思って読み…

鉄甲船と亀甲船の伝説(後編)

石山本願寺攻略に続いて、越後の上杉謙信が死に、甲斐の武田家を滅ぼした織田信長だったが、明智光秀の謀反で横死する。光秀を「中国大返し」で破った羽柴秀吉の天下になるのだが、このあたりは「信長の棺」「秀吉の枷」を読んだ人なら、作者の仕掛けは分か…

鉄甲船と亀甲船の伝説(前編)

「信長の棺」でデビューした作者の加藤廣、このときすでに75歳。プロのバレリーナになろうと思ったら3歳までに決断すべきと言われていて、プロになるには適切な年齢がある。僕らのような技術者であれば、大学卒業時の22歳くらいだろうか。確かに作家の場合…

石山本願寺攻防異聞

ミステリー作家というよりは、歴史家と言った方が井沢元彦という人を正しく表すかもしれない。デビュー作「猿丸幻視行」からして、SF的な手法も入れながら豊富な歴史考証を背景にしたものだった。一般のミステリー読者にはあまりなじみのない国文学者折口…

室町末期の美濃の国

本書は岩井三四二が第五回の歴史群像大賞を得た、忠実な時代考証に基づいた歴史小説である。主人公は、若いころの斎藤道三。小説やTVドラマ等では濃尾地方をとりあげるのは織田信長時代以降がほとんどだから、斎藤道三は冒頭悪役風の老人として出てきて直ぐ…

ヴェルサイユに押し掛ける群衆

昨年12月、偶然だがウィーンとパリへの出張があった。個人的にも何度も訪れたこの2つの街、少し趣は違うがヨーロッパの古都としての重みを感じさせる。そんな感傷もあって手に取ったのが本書。藤木ひとみという人の本を読むのは初めて。西洋史に造詣の深い…

「活人剣」新陰流の創始者

「鬼平犯科帳」「仕掛人藤枝梅安」「剣客商売」「真田太平記」など膨大な歴史小説で知られる池波正太郎の初期の作品で、これまで文庫化されていなかったものを双葉文庫が集めて2007年に編纂したのが本書。著者の死後17年たってのことで、池波人気が衰えてい…

テムジンの参謀(後編)

モンゴル族自身の人口は少ない。しかし降伏させたり捕虜にした民族の兵士を前面に立て、チンギス・ハンの天才的軍事力で西へ西へと攻め上る。敦煌周辺の「西夏」(タングート族)から、天山山脈の北の「西遼」(契丹族)を経てついにカスピ海東のホラズム王…

テムジンの参謀(前編)

以前「中国の歴史」や「小説十八史略」という歴史大作を読んで、陳舜臣の鋭い歴史感に感心したものだが、同時に作者の日本語使いも見事だなと思った。各6~7巻という大部で、難しい(登場人物の名前も・・・)内容なのに、すらすら読めたからだ。 https://nic…

伊賀者、甲賀者のルーツ

徳川家康が石田三成らと戦った有名な「天下分け目の一戦」は、岐阜県関ケ原町一帯で行われた。古来このエリアは北国街道、伊勢街道、中山道が交わるところ、交通の要衝であり過去にも一度「決戦」の舞台となったところである。その闘いとは「壬申の乱」。白…

難しいミステリー手法

深谷忠記という作家は才人である。理系(化学)の出身ゆえに、DNAをモチーフにした作品にも迫力がある。その一方で、日本の歴史にも詳しく「歴史推理もの」も書いている。特に本書は、柿本人麻呂と山部赤人が同一人ではないかとの謎に挑んだもので、大変…

英国海軍のゲリラ戦

ダグラス・リーマンは、海の男の物語を多く残した作家である。彼は第二次世界大戦中、実際に船団護衛等の任務に就いた英国海軍軍人。アレクサンダー・ケント名義で、ナポレオン時代の英国海軍軍人リチャード・ボライソーを主人公にしたシリーズが30冊ばかり…

幕末、京都に咲いた徒花

幕末の中でもほんの一時期、京都で剣を振るい耳目を集めた剣士集団「新選組」。最大でも200名を超えたこともなく、募集・内紛・脱走を繰り返したある意味無頼な浪人の集まりであるのに、日本人の認知度は高い。これは子母澤寛の名著「新選組始末記」に拠ると…

第六天魔王の秘密

加藤廣という歴史作家は、中小企業金融公庫や山一證券を経てビジネスコンサルタントをしていたのだが、2005年75歳の時に「信長の棺」でデビューしている。信長公記の作者太田牛一を主人公に、本能寺の変の真相に迫った出色の歴史ミステリーである。 「信長の…

講談ではない「三国志」

日本人になじみのある「三国志」というのは、正史ではなく後年編纂された「三国志演義」をベースにしているものが多い。「演義」では、主人公は三国中最大の国「魏」を作った曹操ではなく、最初に滅んだ国「蜀」の劉備とその仲間たちである。 従って、劉備は…

ナポレオン軍団の内側

コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズシリーズで「サー」の称号を貰ったはずなのだが、実は(自分より有名な)ホームズが嫌いで、SFから怪奇ものまでいろいろな作品を残した。広範な知見と好奇心を持っていたことは間違いがない。 本書は、ナポレオン…

「なっちょらん」

新政府の要である陸軍大将西郷(吉之助改め)隆盛の側で、陸軍少将に就いた桐野利秋であるが、与えられた豪邸や年俸は「身に余る」などと言うものではなかった。月給200円は、職人のそれが7円以下だったというから法外なものである。金は天下のまわりもの、…

唐芋侍、京へ行く

幕末から明治維新にかけては動乱の時代であったが、戦国時代のように大規模戦闘が頻発したわけではない。蛤御門の変、鳥羽伏見の闘い、会津戦争、函館戦争、西南戦争くらいが、正規戦と呼べるものだと思う。上野に彰義隊がこもった件にしても、佐賀の乱/神…

なぜ「太平記」なのか?

池波正太郎著「真田太平記」を読了した。週刊誌に9年間連載された大作である。最後の12巻は「霧の峰」で、大阪夏の陣の後、徳川方大名として生き残った真田信之が松代に転封されるまでを描いている。昔NHK大河ドラマ化された時も、夏の陣で真田幸村こと信繁…

火付盗賊改方

池波正太郎の3大シリーズものと言えば、「仕掛人藤枝梅安」「剣客商売」と、この「鬼平犯科帳」であろう。1967年「オール讀物」に第一作が登場してから合計132編が発表されている。火付盗賊改方長谷川平蔵とその家族や配下、密偵たちを描いた作品で、時代劇…

ムルマンスク・コンボイ

第二次欧州大戦にはいくつかの曲がり角があった。ひとつには、英国上空の戦いでドイツ空軍がイギリス侵攻の糸口をつかめなかったことである。もうひとつの曲がり角は、ドイツ軍がソ連に侵攻した後の、モスクワ・レニングラード・スターリングラードの戦いだ…

伊賀と甲賀

昔少年サンデーというマンガ雑誌があり、小学生の僕は「伊賀の影丸」という連載を一番の楽しみにしていた。先年事故で亡くなった横山光輝の作品としては、「鉄人28号」よりずっと好きだった。忍者というものの実像はかなり歪められていたのだが、それは子…

本能寺の変、異聞

加藤廣は2005年本書でデビューしたが、その時すでに75歳。異例の遅咲きデビューであった。とはいえ、職業を選ぶのに何歳からがいいかという話で、「バレエのプロになろうとするなら3歳でも遅い、作家ならば40歳でもいい」というのがあるから、あながち無理…