新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史小説

柴田錬三郎巷談12編

昨日司馬遼太郎「新選組血風録」を紹介したのも、このところ「巣ごもり」で古い映画を見ることが増えたから。BSの「木曜時代劇」など、懐かしさに溢れる作品を放映してくれる。先月は「仕掛人藤枝梅安」「柳生武芸帖」を見て、時代劇の良さを再認識している…

組織の中で生きる術を学ぶ

中学生の時、国語の先生に「Xの悲劇」を紹介してもらってから欧米ミステリーにハマった僕だが、それ以前はと言うと「時代小説」をよく読んでいた。そのなかでも最初(の頃)に読んだのが本書。大家司馬遼太郎が「小説中央公論」に1962年に連載した、15編の…

「真田太平記」13の巻

本書は歴史小説の大御所池波正太郎の手になる、その後の真田家の物語である。以前紹介した「真田太平記」全12巻は、11巻目でクライマックスともいえる「大阪夏の陣」が終わり、12巻は徳川方として生き残った真田信之が、信州松代10万石の基礎を固める話だっ…

幕末、雲見番始末記

以前泡坂妻夫の「亜愛一郎の狼狽」を紹介したが、本書はその時代劇版。時代設定は幕末なのでもちろん愛一郎は登場せず、その祖先と思われる亜智一郎が主人公である。第13代将軍家定と第14代将軍家茂には、直属の隠密部隊「雲見番」がいたという設定。天候・…

英ソ海軍の共同作戦

1981年発表の本書は、以前「志願者たちの海軍」など3冊を紹介した、ダグラス・リーマンが得意とする小型艦の戦争物語り。「志願者たち・・・」同様、主人公の主な敵はナチスドイツの全金属性高速艇「シュネルボート」。これを英国海軍が「Enemy Boat」と呼んで…

科学捜査の曙、1780

2009年発表の本書は、連綿と続く英国ミステリー史の中でも高い評価を得るべき作品だと思う。作者のイモジェン・ロバートソンは歴史ミステリーを得意としていて、本書がデビュー作。上下巻合計650ページ以上の大作だが、3つの物語が交互に語られ大団円に向か…

17世紀半ばのバイオテクノロジー

今月横浜ベイエリアに行って「新港中央広場」などに咲く、色とりどりのチューリップを見てきた。その中にとても濃いコーヒー色をした花弁がいくつかあり、まるで「黒い花びら」だなと思った。それが本書の題名「黒いチューリップ」である。1850年の作品で、…

100年前の「スモール・ベースボール」

トランプ先生が「中国ウイルス」と連呼したのをきっかけに、米国で東洋人へのヘイト・クライムが増えてきている。日系・韓国系の人も含めて、生命・財産の危険にさらされているが、これは長く蓄積されてきたプアホワイトたちの不満が噴出したものだろう。こ…

伊賀と甲賀

昔少年サンデーというマンガ雑誌があり、小学生の僕は「伊賀の影丸」という連載を一番の楽しみにしていた。先年事故で亡くなった横山光輝の作品としては、「鉄人28号」よりずっと好きだった。忍者というものの実像はかなり歪められていたのだが、それは子…

三国志最大のヒーロー

本書は1991年に5年にわたる連載が終わって文庫化されたもの。作者の陳舜臣については、これまでにも「小説十八史略」や「耶律楚材」など中国の歴史小説をいくつも紹介している。三国志についても「秘本三国志」や「曹操」を読んだことがある。その紹介記事…

チャンドラ・ボースの決死行

本書は、陳舜臣の「わが集外集」の改題短編集である。作者には歴史ものから現代もの、ミステリーから冒険小説まで幅広い作品がある。多くの作品の中で、短編集にまとめられなかった9編がここに収められている。必然的に、上記の幅広い作風の9編を集めたこ…

名探偵織田信長

これまで何作か井沢元彦の歴史ミステリーを紹介しているが、本書はその中にある「謀略の首」と同様織田信長が探偵役を務める。「謀略の首」は石山本願寺攻防戦と毛利水軍との合戦を背景にした長編小説だったが、本書は7編を収めた短篇集。小説現代に、1981…

隋朝盛衰記

田中芳樹という作者の本は、「銀河英雄伝説」を読んだことがあるだけ。それもTVアニメを見て、興味を持ったからである。「アルスラーン戦記」などの著作もあってサイエンスフィクション作家と言われているが、実は中国史に深い造詣を持ち「岳飛伝」など歴史…

軽妙だが深淵なモノローグ集

脚本家で、舞台・映画・TVドラマと八面六臂の活躍を続ける才人三谷幸喜が、たった5日間の「会議」を描いたのが本書。一代の天才織田信長が明智光秀に討たれ天下統一に暗雲がさしたが、その光秀も討たれ「Beyond信長」を決める場になったのは、戦場ではなく…

直木賞に輝いた短編

2ヵ月前、大家藤沢周平の作品を初めて読んだ。歴史小説はあまり読んでいないのだが、さすがに凄いなと思った。そこでもう1冊、短編集を買ってきた。本書には、「オール読物」に1971年から1973年までの間に発表された5編が収められている。 この中の4編が…

史上初の私立探偵

1年ほど前、「ウィーンの密使」を紹介した藤本ひとみの、同じくフランス革命前後を舞台にしたミステリー。事件が起きたのはベルギー国境に近い北フランスの街アラス。この街は、1940年ロンメル将軍の「幽霊師団」が電撃戦を繰り広げたという歴史しか、僕は…

「秘剣」テーマの短編集

池波正太郎作品以外の時代物はあまり読まない僕だが、ふとBook-offで手に取ったのが本書。言わずと知れた時代物の大家、藤沢周平の短編集である。解説によると、続編を含めて17編の「秘剣もの」が収められているという。本書には、 ・邪剣竜尾返し ・臆病剣…

魏の視点からの「三国志」

多くの日本人にとっての「三国志」と言えば、「桃園の誓」に始まり「秋風五丈原」で終わる物語である。三国のうち一番小さかった「蜀」の滅びの美学が心に残る。横山光輝のアニメにもなり、人形劇やTVドラマにもなった。しかしこの原本は「三国志演義」であ…

一生に一度の機会

深谷忠記は、「壮&美緒シリーズ」の合間に年1作程度「ノン・シリーズ」を発表している。「壮&美緒シリーズ」は地方色の強いアリバイ崩し中心の本格ミステリーだが、ライバルとも言える「浦上伸介シリーズ」の方が僕は好きだ。しかしこの作者にはパターン…

市警本部長セオドア・ルーズベルト

1980年代の米国ミステリー界を代表するパズラー、ウィリアム・L・デアンドリアの第三作が本書。1952年ニューヨーク生まれ、子供のころからエラリー・クイーンを読みふけり、クイーンを目指して作家になったという。デビュー作「視聴率の殺人」以降クイーン仕込…

逆説の日本史ミステリー

井沢元彦のデビュー作「猿丸幻視行」は、ファンタジーの味わいを付けた(実は)本格ミステリーである。なかなかに興味深い作品だったが、作者はその後「逆説の日本史」シリーズなど、歴史もので有名になり本格ミステリー作家とは誰も思わなくなっている。 本…

たかが茶道、されど茶道

本書は加藤廣の「信長の棺」以来連綿と書かれてきた、戦国時代の真実に迫るシリーズの一作。実はこの後には、作者の死去直前に発表された「秘録島原の乱」しか作品はない。75歳で作家デビュー、1年1作のペースで新作を出し87歳での大往生は惜しまれるもの…

歴史探偵、芥川龍之介

「猿丸幻視行」でデビューした井沢元彦も、知見の深い人だ。ミステリーよりも「逆説の日本史」など、歴史の研究書と呼ぶべきものを多く発表している。古代からの日本社会を冷徹な目で分析し、他の学者が触れなかったことを暴くことに情熱を傾けた。一方ビジ…

翻訳者の想いと力

以前「特攻艇基地を破壊せよ」や「アドリア海襲撃指令」を紹介したダグラス・リーマンの、やはり第二次世界大戦ものが本書(1985年発表)。この2冊が「海の男の闘い」を前面に押し出したもので、そこそこ気に入ったので「三匹目のどじょう・・・」と思って読み…

鉄甲船と亀甲船の伝説(後編)

石山本願寺攻略に続いて、越後の上杉謙信が死に、甲斐の武田家を滅ぼした織田信長だったが、明智光秀の謀反で横死する。光秀を「中国大返し」で破った羽柴秀吉の天下になるのだが、このあたりは「信長の棺」「秀吉の枷」を読んだ人なら、作者の仕掛けは分か…

鉄甲船と亀甲船の伝説(前編)

「信長の棺」でデビューした作者の加藤廣、このときすでに75歳。プロのバレリーナになろうと思ったら3歳までに決断すべきと言われていて、プロになるには適切な年齢がある。僕らのような技術者であれば、大学卒業時の22歳くらいだろうか。確かに作家の場合…

石山本願寺攻防異聞

ミステリー作家というよりは、歴史家と言った方が井沢元彦という人を正しく表すかもしれない。デビュー作「猿丸幻視行」からして、SF的な手法も入れながら豊富な歴史考証を背景にしたものだった。一般のミステリー読者にはあまりなじみのない国文学者折口…

室町末期の美濃の国

本書は岩井三四二が第五回の歴史群像大賞を得た、忠実な時代考証に基づいた歴史小説である。主人公は、若いころの斎藤道三。小説やTVドラマ等では濃尾地方をとりあげるのは織田信長時代以降がほとんどだから、斎藤道三は冒頭悪役風の老人として出てきて直ぐ…

ヴェルサイユに押し掛ける群衆

昨年12月、偶然だがウィーンとパリへの出張があった。個人的にも何度も訪れたこの2つの街、少し趣は違うがヨーロッパの古都としての重みを感じさせる。そんな感傷もあって手に取ったのが本書。藤本ひとみという人の本を読むのは初めて。西洋史に造詣の深い…

「活人剣」新陰流の創始者

「鬼平犯科帳」「仕掛人藤枝梅安」「剣客商売」「真田太平記」など膨大な歴史小説で知られる池波正太郎の初期の作品で、これまで文庫化されていなかったものを双葉文庫が集めて2007年に編纂したのが本書。著者の死後17年たってのことで、池波人気が衰えてい…