2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧
昨年末、スパイ小説の巨星が墜ちた。代表作「寒い国から帰ってきたスパイ」を始め、リアルな現代の諜報戦を描き続けたジョン・ル・カレである。晩年はハンブルグとコーンウォールで過ごし、時にはベルンから奥に入ったスイスの山荘でも暮らしていたらしい。…
本書は(第二次世界大戦中の)1942年発表のポワロもの、後年アガサ・クリスティーが得意とした「回想の殺人」の最初となった作品である。作者と作中の探偵たちも年齢を重ねるうち、作者は探偵役に過去の事件を扱わせるようになる。「象は忘れない」「復讐の…
笹沢左保の「木枯し紋次郎」シリーズは、ほとんどが50ページくらいの短編。主要な登場人物は紋次郎のほかには3人くらいで、最後の5ページでそのうちの一人の「意外な正体」が紋次郎によって暴かれるパターンが多い。加えて舞台となった町か村の当時の風習…
本書は以前長編「蜘蛛の巣」を紹介した、ピーター・トレメインの修道女フィデルマを探偵役としたシリーズの第一短編集。作者の本名はピーター・B・エリスといい、著名なケルト学者である。このシリーズのほかにもドラキュラを題材にしたホラー小説も書いている…
イタリアと言えば「太陽の国」、陽光降り注ぐイメージだがフランス・スイスに国境を接する一番小さな州ヴァッレ・ダオスタ州が本書の舞台。スイスアルプスの麓にあり、ウィンタースポーツが盛んなところだ。2013年発表の本書は、ローマっ子作家アントニオ・…
半月ほど前紹介した渡瀬裕哉氏の「すべての増税に反対すること」を政治家に求める話は、それなりに面白かった。再びBook-offで著者の本を見つけたのが本書。2019年末に発表されたもので、2020年の米国大統領選挙を予想しながら米国の政治(選挙)状況や外交…
特段練習などしなくても、ある種のスキルに秀でている人というのはいるものだ。本書の作者ジェフリー・アーチャーは、文章やストーリーテリングの分野において間違いなく「天賦の才能」を持っていると思う。オックスフォード大卒、史上最年少の26歳でロンド…
以前「ヒルダよ眠れ」を紹介した作者アンドリュー・ガーヴは、本格ミステリーでデビューしたものの本当に書きたかったのは冒険小説。生涯に別名義も加えて40作近い作品があるのだが、デビュー作のような本格ミステリーはほとんどない。ある書評には、とにか…
2009年発表の本書は、英国の歴史教員ジェィムズ・スティールのデビュー作。彼はオックスフォードで歴史・教育を学び、私立高の副校長である。彼が本書を書いている間に金融危機が訪れ、ロシアでも彼が描いたような政情不安が起きとあとがきにある。 本書の欧…
本書は来月2日発売予定の新刊書、これも著者から送られてきたものだ。400ページ弱の中に、現在の企業情報セキュリティの全てが詰まっている書といっても過言ではない。日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)は、サイバーセキュリティ業界の老舗団体。サ…
別ブログでではあるが、東京一極集中の危険性を書いてみた。欧米諸国では人口1,000万人をこえる都市は珍しい。安全保障面からもこのような集中は避けるべきというのが、都市計画の裏にある。今回の「COVID-19」騒ぎでさらに拍車がかかったのが、一極集中是正…
本書は1930年発表の、ドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿ものの第五作。前作「ベローナクラブの不愉快な事件」より、第三作の「不自然な死」によく似た毒殺ものである。古来女流ミステリー作家には、毒殺ものが多い。アガサ・クリスティも第一…
緊急事態宣言の広がりもあって、「#二度目の一律現金給付を求めます」がトレンド入りしたらしい。これに麻生副総理・財務大臣は「銀行預金が増えるだけ、経済効果は期待できない」と消極的である。さらにこのところ銀行の預金総額が急増しているとの報道も…
本書は、ジェイニー・ボライソーのコーンウオールミステリーの第三作。「しっかりものの老女の死」から数ヵ月、季節は冬になっている。4年前に夫のディヴィッドを癌で亡くしたローズは40歳代後半、一時期親しくしていたピアース警部との仲は進展せず、今は…
昨日、藤田孝典著「下流老人」を紹介したが、不幸な人たちの例を次々挙げ、 ・彼らが「自助」出来なかったことを責めるのではなく、 ・人間関係が薄くなり「共助」にも頼れない今、 ・もっと税金を投入して「公助」を拡大すべきだ。 という論調には同意でき…
2015年発表の本書は、当時流行っていた「ピケティ理論」にも乗って、日本の格差社会を告発してブームを巻き起こした書である。筆者の藤田孝典氏は生活保護や貧困対策に注力するNPO代表で、Web上の論客としても有名だ。 本書は高齢者間の格差が広がり、現役時…
本書は「刑事コロンボ」全60余話の中でも、ベスト10級の名作と言われる作品。主人公(犯人のこと)が高名なカメラマンであったことと、表紙の絵にある古いポラロイドカメラが重要な役割を果たしていることから、僕の印象に残った作品でもある。 放映は1975年…
以前「高層の死角」「新幹線殺人事件」を紹介した森村誠一は、初期の6長編が第一期と言われている。今は「棟居刑事もの」などシリーズ作も多いのだが、このころは全て舞台の違う単発ものを発表していた。本書はその中の第五作にあたる。 ホテルマンを10年勤…
本書も昨年10月末に初版が出たばかりの新書、とはいえこれは貰い物ではなくBook-offの100円コーナーで手に入れたものである。どうしてそんなに新しい本がと思うのだが、2020年11月と書き込みがあり本文中に傍線を引くなどしてあったから100円コーナーに回さ…
本書は一作ごとに趣向を変えて読者を楽しませてくれるウィリアム・デアンドリアの第五作。以前紹介したTV業界人マット・コブのシリーズではなく、時代を1951年に設定してマッカーシズム(赤狩り)の時代を描いている。 日本人のよく知らない米国の、ある意味…
零戦こと零式艦上戦闘機は、その名の通り紀元2,600年(1940年)に制式となった帝国海軍の戦闘機である。その驚くべき航続距離は、広い太平洋で十二分の威力を発揮した。しかし、多少の改造はあったものの後継機に恵まれず、旧式化しながら1945年の終戦まで戦…
田中芳樹という作者の本は、「銀河英雄伝説」を読んだことがあるだけ。それもTVアニメを見て、興味を持ったからである。「アルスラーン戦記」などの著作もあってサイエンスフィクション作家と言われているが、実は中国史に深い造詣を持ち「岳飛伝」など歴史…
いわゆるミステリーベストxxを選ぶと、かつてはベスト30くらいには必ず入っていたのが本書。モスクワ特派員などを経験したジャーナリストが、1950年に発表したものだ。アンドリュー・ガーヴは英国人、本書の前に習作ミステリー数編を発表した後、本格的に作…
菅政権の目玉政策は、デジタル化と脱炭素。昨年末「トヨタ」の豊田章男社長が脱炭素に掲げられた目標の達成は容易ではないと、日本政府にクレームを付けた。僕はエネルギーや環境問題については知識が少ないのでクレームの妥当性は判断できないが、相当の危…
本書の著者山口直樹さんは、銀座の日本酒専門店「方舟」の支配人。自ら「酒匠・ソムリエ・バーテンダー」と名乗る、お酒のプロだ。もちろん僕はそんな高級店に出入りできないのだが、著書をBook-offで買って読むのはOKだ。 250ページ余りの中に、ワイン・日…
作者のパトリシア・ハイスミスは「見知らぬ乗客」(1950年発表)でデビューしたサスペンス作家。1955年に「太陽がいっぱい」でフランス推理小説大賞を受賞、本書(1964年発表)で英国推理作家協会賞外国作品賞を受賞している。米国テキサス生まれの作者だが…
米国の分断大統領選挙や、欧州・ロシアの混迷についていくつかの本を読んできた。さて残ったエリアがある。アフリカやオセアニアもあるのだが、どうしても中国は避けて通れない。それに日本そのものの問題もある。そんな思いで手に取ったのが本書(2016年発…
年末に塩野七生著「日本人へ~リーダー論」を読んで、ああこの人もローマ帝国初期の「小さな政府」を理想とする人だと改めて感じた。来年度予算が106兆円を超えるなど日本がどんどん大きな政府に向かっていくのを、僕は呆然と見送っているだけだ。一方で「公…
以前ウォルフガング・ロッツの自伝「シャンペン・スパイ」を紹介しているが、彼はモサドの実在した大物スパイである。その紹介文の中にも本書にある「スパイの適格性テスト」のことを書いたのだが、今日はその書「スパイのためのハンドブック」をご紹介しよ…
1962年発表の本書は、エド・マクベイン87分署シリーズの中でも珍しい中編集。ずいぶん多くの作品を紹介していた愛読書なのだが、本書は特に印象に残っているものだ。といって、トリックがすごいとかアクションがすごいというわけではない。87分署の刑事たち…