新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

SFからミステリーへの転換点

1990年発表の本書は、100冊ほどの長編を著わし現在も作家活動を続ける山田正紀の中期の作品。作者は、1974年「SFマガジン」に「神狩り」を載せてデビューを果たした。 ・1978年「地球・精神分析記録」で星雲賞 ・1980年「宝石泥棒」で星雲賞 ・1982年「最後…

Quod Erat Demonstrandum

本書は、巨匠エラリー・クイーン晩年の短編集(1968年発表)。題名は「Queen's Experiments in Detection」だが、これはラテン語の「Quod Erat Demonstrandum(証明終わり)」と同じ略称「QED」となっている。論理推理で一世を風靡した若き日の名探偵エラリ…

ポワロでもマープルでもなく

1961年発表の本書は、女王アガサ・クリスティのノンシリーズ。ポワロもマープルも登場しないが、「そして誰もいなくなった」のような名探偵が登場できない設定でも、普通小説でもない。ロンドンに近い片田舎にある古ぼけた旅籠(!)<蒼ざめた馬(*1)>を…

重鎮の文学色濃い短篇集

本書は、「千草検事もの」などを何冊も紹介しているミステリー界の重鎮土屋隆夫の短編集。長編はわずか13作しか遺さなかった作者だが、いくつもの雑誌に投稿した短編はそれなりにある。ここには、1953~75年にかけて発表された8編の中短編が収められている…

人の生活を知るのが商売

本書(1964年発表)は、正統派ハードボイルドの旗手ロス・マクドナルドが英国推理作家協会賞を受賞した代表作である。一口に正統派ハードボイルドというが、リアルで非情なハメット、あくまで内省的なチャンドラーと作者のトーンは異なる。僕の感じからいう…

極右組織のホワイトハウス攻略

1995年発表の本書は、以前「氷壁の死闘」を紹介した冒険作家ボブ・ラングレー晩年の作品。「氷壁・・・」が第二次欧州大戦を舞台にした山岳冒険小説だったように、作者は何らかの紛争を背景にした謀略小説が得意だ。 本書では<ムーブメント>という極右組織が…

「洪門」という根強い勢力

昨日の「中国vs.世界」に引き続き、安田峰俊氏の中国論を紹介したい。それも特別にドロドロしたテーマである秘密結社。広大な土地を治めるには、地方分権型では上手くいかない。古来の王朝も、今の共産党政権も、 ・中央に絶対的な権力を集中 ・地方には中央…

ソフトパワーとしての中国

2021年発表の本書は、ルポライター安田峰俊氏の国際情勢レポート。<月刊Voice>に2020~21年にかけて連載された記事を、加筆・修正したもの。習政権になって「戦狼外交」が顕著になっているが、それ以前は多くの国が米国や日本より好感をもっていた中国に対…

デジタル社会の行きつく先?

2022年発表の本書は、フリージャーナリスト金敬哲氏の韓国ネット社会の現状レポート。韓国は間違いなくデジタル先進国で、電子政府の充実度などは日本の20年先を行っている。金大中時代に始まったIT先進国を目指したインフラ建設は、IMF管理になった暗黒時代…

大陪審は一方通行だが

本書は以前「評決」を紹介した、弁護士作家バリー・リードの第三作。「評決」とこれに続く「決断」は作者が弁護士として専門としている医療過誤や製薬業の製造物責任を扱ったものだが、本書(1994年発表)は本格的な殺人事件を扱う法廷ものになっている。さ…

内省的な元ジャンキー探偵

1986年発表の本書は、TV業界でプロデューサーなどを務め政治コンサルタント(主に選挙キャンペーン)の経験もあるラリー・バインハートのデビュー作。アメリカ探偵作家クラブの新人賞を受賞している。ただ、作者の作品はほとんど日本では邦訳されず、2000年…

「所詮言葉の問題」ではない

2016年発表の本書は、心理学者岡本真一郎教授(愛知学院大学心身科学部心理学科)のコミュニケーション論。インターネット上では、すでに国家間の謀略レベルの「偽ニュース」が充満しているが、悪口・嘘・ヘイト等の本質は変わらないと考えて買ってきた書で…

交渉なくして和平なし・・・ならば

2023年発表の本書は、アフガニスタンなどの戦争終結に関する試みを多く経験した上智大学(グローバル教育センター)東大作教授の手になる「ウクライナ戦争終結への道」。大国が小国を相手に勝てず、結局は退いた例(ベトナム・アフガニスタン等)は多いが、…

商社欧州駐在員の奇禍

1987年発表の本書は、「伸介&美保シリーズ」でお馴染みの津村秀介の長編ミステリー。ただし、伸介や美保は登場しない、珍しいノンシリーズである。作者は海外旅行好きで、15年間毎年一度は海外旅行に出かけていたという。特に欧州がお好みで、1960年代から…

ローヌ河口の低湿地帯

以前、シュタイナ中佐を主人公にした「鷲は舞い降りた」「鷲は飛び立った」や、IRAの天才的テロリストショーン・ディロンものを紹介しているジャック・ヒギンズが、それらに先駆けて発表したシリーズがある。1960年代にマーティン・ファロンなどの名義で、英…

明白に罪になってしまう事も

本書はこれまで5冊紹介した、21世紀研究所の「世界地図シリーズ」の1冊。昨年紹介した「常識の世界地図」は、海外旅行に行くとき(あるいは外国人を迎えたとき)に注意すべきことが書いてあった。日本人が知らない、外国では明白に罪になってしまうことも…

バラクラバ公爵夫人の自然死

1970年発表の本書は、以前「大空に消える」を紹介したパトリシア・モイーズのヘンリ・チベットと妻のエリーが鴛鴦探偵をするシリーズ。本書も藤沢駅前の古書店で偶然見つけたもので、探してもなかなかみつからないシリーズである。 主任警視に昇進したヘンリ…

鉄道記念日(10/14)の殺人

本書は以前「Wの悲劇」を紹介した、夏樹静子の社会派ミステリー。1992年の発表だが、時代設定は1987年10月からになっている。冒頭被害者の家庭内で交わされる会話などに、当時の流行TV番組だったりタレント同士の結婚話が出てくる。事件の背景となっている…

第四帝国への道?

2021年発表の本書は、以前「ドイツ料理万歳」を紹介したドイツ在住の作家川口マーン恵美さんの現代ドイツ政治史。日独の文化の違いを著した書が多い筆者だが、本書はシリアスな政治考。2005年に統一ドイツの首相に就任して、長期政権を築いたアンゲラ・メル…

道徳と市場、2つの論理の境目

本書(2014年発表)は、NHK「ハーバード白熱教室」でお馴染みのマイケル・サンデル教授(政治哲学)が、市場主義への疑念を著したもの。市場主義の深化でこれまで考えられなかったものが売買され、巨額の利益を生むこともある現状のレポートと市民への警告で…

ウクライナの次の狙い(後編)

ヴォローディン大統領は国営TVの美人ニュースキャスターを使って、 ・NATOの東方拡大 ・カリーニングラードの危機 ・米国ライアン大統領の好戦的な所業 を喧伝、インタビューでもそつのない応答をして市民の結束を呼び掛ける。一方ライアンの方は、NATOの首…

ウクライナの次の狙い(前編)

2015年発表の本書(4冊組)は、クランシーの<ザ・キャンパス>ものをマーク・グリーニーが書き継いだもの。今年紹介した「米露開戦」「米朝開戦」「機密奪還」に次ぐ作品だ。今回の悪役は「米露」に続いてロシアのヴォローディン大統領。プーチン氏をほう…

戦場を往来した郵便コレクション

今日10/9は「世界郵便の日」である。本書(1991年発表)は歴史・軍事作家柘植久慶が、その「郵便愛」を存分に綴ったもの。取材で世界を巡る作者は、ロンドンの切手商で義和団事変に出征したドイツ兵が故郷に送った手紙を見つけた。それ以降多くの軍事郵便を…

コラージュを作る警視正

1979年発表の本書は、以前「緑は危険」や短篇集を紹介したクリスチアナ・ブランド後期の作品。英国女流作家の中でも、アガサ・クリスティの後継者と目された一人で「謎解き」についての評価が高い。本書の解説では「謎解き5人衆」は、ポー・チェスタトン・…

ハーバード成人発達研究の成果

本書は、2023年6月に出版されたばかりの「幸福の研究書」。「人生の指針を示す書だ」と勧めてくれた人がいて、久しぶりに新刊書を買った。ハーバードの「成人発達研究」は、両大戦間にボストンで始まった。2つのグループの人を、世代を越えてトレースして…

不思議な能力、様々な運命

本書は「シャム猫ココシリーズ」でおなじみの、リリアン・J・ブラウン初の短編集。邦訳としては5冊目にあたり、20~30ページほどの短編14作品が収められている。残念ながら、<ココ>やクィララン記者は登場しない。SF調のものから怪奇譚、奇妙な味のミステリ…

日本と日本人はどうすべきか

本書は、2023年2月に出版されたばかりの本。有名な投資家ジム・ロジャーズが日本と日本人に送るアドバイスである。帯裏には6つの難題が示してあって、 ・日本円は捨てられる ・膨大な負債で日本は沈没 ・金利上昇と円安がトドメ ・インフレで競争力低下 ・…

ロイヤル・マリーンの死闘(WWⅠ)

1993年発表の本書は、英国の冒険作家ダグラス・リーマン後期の作品。作者の作品は、これまで「志願者たちの海軍」など4冊の長編を紹介していたが、いずれもWWⅡを題材にしていた。本書はWWⅠが舞台。実は3部作の最終作品で、 ・緋色の勇者 1850~55年の西ア…

インバウンドの津波をくぐりぬけ

今年、家内が大学時代の友人たちと京都に一泊旅行をしてきた。「大人の京都が割と良かった」とのことで、夫婦での京都旅行を計画しようと思う。その参考にと買ってきたのが本書(2012年発表)で、日経紙の京都支社が、 ・お勧めの京都 ・京都の楽しみ方 ・地…

ニューヨークを食べる&事件

1997年発表の本書は、以前「グルメ探偵、特別料理を盗む」を紹介したピーター・キングの「グルメ探偵もの」の第二作。前作ではロンドンの有名店同士の争いに巻き込まれたグルメ探偵と名乗る「ぼく」の、腰抜けっぽい活躍を紹介した。本書では世界中の職が集…