新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2021-01-01から1年間の記事一覧

赤ん坊殺しと100万ドルのブツ

1989年、本書の発表でエド・マクベインの87分署シリーズは41作目になった。本書の帯によると、マクベインがこのころ初来日しているらしい。1956年「警官嫌い」で始まったシリーズは34年続いているわけだ。刑事たちはほとんど年を取らないし、昇進もしない。…

モーナの挑戦を受ける新婚夫婦

1941年発表の本書は、以前紹介した「大はずれ殺人事件」の続編。独立した2冊のように見えるが、クレイグ・ライスは2冊を通じた罠を読者に仕掛けている。それは社交界の花形美女(で大富豪!)の、モーナ・マクレーンが前作で公言したこと。 「私が多くの目…

市民視点のサイバーパニック

2013年発表の本書は、マシュー・メイザーの2作目の小説。もとは自費出版のEブックとして世に出たのだが、サイバー攻撃の脅威をヴィヴィッドに描いていることが評判を呼び、20ヵ国ほどで出版されている。映画化の話もあったと言うが、実現したかどうかは定…

ちょっとは和食も勉強して

何度かワインや洋食のレシピ、料理法などの書を紹介した。どこまで実践できるかは別にして、当家のディナーが多少豊かになったのは確か。それでは・・・と今度は和食の本を読んでみた。以前北大路魯山人を紹介した本は読んだのだが、ちょっと大物過ぎて参考にす…

日本メディア再生のヒント

2020年発表の本書は、半世紀にわたり日本を取材してきた伝説のジャーナリスト、ヘンリー・S・ストークス氏が、日本メディアの問題点を指摘した書。筆者は、 ・フィナンシャル・タイムズ ・ロンドン・タイムズ ・ニューヨーク・タイムズ の東京支社長を歴任した…

この国の本質は「外華内貧」

韓国では来年の大統領選挙に向け、史上最も汚らしい選挙戦との揶揄される候補者間のけなし合いが続いている。国を二分する選挙戦なのは確かなのだが、なぜこんなことになるのか不思議な思いをして本棚から引っ張りだしたのが本書。 まだ韓国がOECDに加盟した…

被害者のねじれた性格

本書(1938年発表)は、女王アガサ・クリスティが脂の乗り切っていたころの作品。「スタイルズ荘の怪事件」でデビューし「アクロイド殺害事件」でソロホーマーは打ったものの、明るいスパイものなどの評価は高くない。しかし彼女は、1930年代中盤から連続ヒ…

ウィチタの極寒のイブ

2000年発表の本書は、カンザス州ウィチタ生まれのスコット・フィリップスのデビュー作。作者は現在南カリフォルニア在住とのことだが、この作品の舞台もやはりウィチタだ。地図を見るとテキサス州の北、米国のアラスカ・ハワイを除く国土のちょうどど真ん中…

帝国海軍の「歩」

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「小艦艇」である。俗に「歩のない将棋は負け将棋」というが、海軍の作戦遂行は戦闘艦だけでは行えない。さまざまな用途をこなす艦艇(必ずしも小さいとは限らない)の支えが必要だ。本書は、そんな目立たない艦艇を…

三民主議を目指した政治的軍人

先週、竹内実著「毛沢東」を紹介したが、本書はそのライバルだった国民政府総統蒋介石について、歴史探偵の一人保坂正康氏が記したもの。現在のホットスポットである、台湾海峡の緊張を産んだ人物でもある。 軍事史に詳しい松村劭元陸将補によれば、蒋介石率…

内海薫刑事登場

本書は2006~2008年にかけて、いくつかの雑誌に掲載された「湯川学もの」中・短編を5編収めたもの。「予知夢」に続く第三短篇集である。2007年にフジTV「月9」枠で連続ドラマ「ガリレオ」が放映されている。当初の短編では警視庁捜査一課の草薙刑事が、同…

日本が舞台の対テロ小説

本書は2009年にNHK土曜ドラマで放映され、その後映画化もされた同題作品「外事警察」の原作本である。作者麻生幾はNHKから「テロ対策をテーマのドラマを作りたいので原作を」と依頼されて、本書を執筆したと巻末謝辞にある。対テロのスパイ&軍事スリラーは…

ダウニング街10番地、1941

太平洋戦争開戦前の日本の状況(2・26事件から東條内閣誕生等)については多くの著書があるし、米国の状況(ルーズベルトの不戦公約等)についてもいくつか資料はある。ヒトラーの戦争指導や日ソ不可侵条約などの他の関係国のことも、少しは読んである。しか…

静かな侵略「外国人土地保有」

2017年発表の本書は、産経新聞記者宮本雅史氏が、北海道や対馬などで外国資本が土地・施設・水源地・発電設備・観光資源などを買い漁っている実態を告発したもの。現在武蔵野市で外国人に投票券を認めた住民投票条例案が審議されているが、芦別市はじめ北海…

習大人が真似ている男

共産党100周年式典に北京冬季五輪、着々と三期目を目指す習大人だが、彼が手本としているのが「毛沢東主席」。知っているつもりだったが、実際どんな人かは忘れてしまった。そこで古い(1989年発表)本だが、本書を引っ張り出してきて再読した。著者の竹内実…

刑事たちが追った「鬼畜事件」

今日12/16は、9年前の2012年に「ルーシー・ブラックマン事件」の判決(無期懲役)が東京高裁で下りた日である。2014年発表の本書は、この事件を追った警視庁捜査一課の刑事たちの実録を記したドキュメンタリーである。 2000年7月、麻布署にやってきた英国…

死者の圧倒的な存在感

先月までマーガレット・マロンの「デボラ・ノット」ものを4作紹介してきた。舞台となったのは南部の東海岸ノースカロライナ州で、女性判事デボラの活躍を描くと同時に土地の因習もヴィヴィッドに書かれていた諸作である。2006年発表の本書も、ノースカロラ…

ハードボイルドの詩人

本書は先月短篇集「おかしなこときくね」を紹介した、ローレンス・ブロックが1993年に発表したマット・スカダーものの長編。マットものは17編が発表されていて、そのうちの2編「八百万の死にざま」と本書が、PWAの最優秀長編賞を受賞している。解説によると…

身の上を知らない男と仲間たち

このDVDは「NCIS:ネイビー犯罪捜査班」のスピンアウト。先月紹介した「NCIS:シーズン6」で、ギブスたちがロスアンゼルスで捜査にあたったエピソードがあった。その拠点となったのが「NCIS:ロスアンゼルス」の組織。潜入捜査官カレンはギブスとは旧知の仲…

異常な指向、過度な嗜好

本書は長くサスペンス小説を書き続けた、パトリシア・ハイスミスの短編集。以前「殺意の迷宮」を紹介しているが、作者を有名にしたのは長編「太陽がいっぱい」「見知らぬ乗客」とアラン・ドロン主演で評判を呼んだ映画である。長編デビューの前から短編でも…

完全犯罪に対するスタンス

最も成功した完全犯罪とは、露見しなかった犯罪である。犯罪があったことに気付かれなければ、捜査も行われず、罪に問われることもない。普通のミステリーは、犯罪が露見してからの難題(アリバイ・密室・凶器・動機等々)を探偵役が解いてゆくプロセスを追…

川上産業としての半導体

経済安全保障の議論の中で注目されているのが「半導体産業」。かつて日本企業の世界シェアは5割を超え「ソ連の後の主敵は日本」と米国に脅威を与えたのだが、今や半導体デバイスの生産ではシェアは1割もない。そこに世界的な半導体不足の波が来て、政府が…

ああ、特攻兵器

太平洋戦争を控えて、あるいはそれが起こってしまってから、米国に対し少なくとも1/10ほどしか国力のない日本としては、どんな手段を使ってでも戦局を有利に運ぼうとしてあがきまくった。まだ戦前は、本書の冒頭にある「水中直進弾」を開発し、軍機として秘…

陸軍主計大佐新庄健吉

太平洋戦争の開戦にあたり、米国への宣戦布告文書手交が真珠湾攻撃から1時間弱遅れたのは事実である。その理由としては、宣戦布告文書が在ワシントンDCの日本大使館に送られてきたものの、その翻訳とタイピングに時間がかかって手交時間に指定された現地時…

スペクタクル・ラブロマンス

戦争映画好きの僕だが、実際に映像ソフトとして購入したものは多くない。大半はBSチャンネルで録画できるからだ。しかし例外はあって、なぜかこのソフトだけは本棚に残っている。それは、2001年ディズニー系の映画会社タッチストーン・ピクチャーズ製作の「P…

フィリップ・マーロウ、1991

ロバート・B・パーカーという作家は、本当にストーリーテリングが上手いと思う。好評のスペンサーシリーズはもちろんだが、ノンシリーズの面白さは別格だ。以前初の黒人大リーガー、ジャッキー・ロビンソンが登場するノンフィクション風ハードボイルド「ダブル…

.22口径コルト・ウッズマン

1959年発表の本書は、E・S・ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズの中期の作品。前書きにガードナーが、法医学者のドクター・アドルスンとの交友について紹介している。その中で、アドルスンの言葉として、 ・法医学者は殺人のみに興味を持っているわけで…

遅れてきた金融対外開放

本書は発表(2019年)時、金融庁の総政局課長兼中国ディレクターだった柴田聡氏が、日中金融協力促進の持論を述べたもの。現役官僚が、この種の本を書くのは珍しいと思う。中国経済を扱った書としては、中国経済の崩壊・危機を扱ったものが8割、残り2割は…

次々に「シリーズ最高傑作」

本書(2000年発表)は、ハーラン・コーベンの「マイロン・ボライターもの」の第七作。これまでは一作ごとに違うスポーツの世界を見せてくれていたのだが、本書ではそういうものは出てこない。第五作あたりからスポーツ代理人商売に身が入らなくなってきて、…

「憲法」の出発点はゼロ

先の総選挙で「改憲派」の勢力が伸び、憲法改正論議(少なくとも来夏の参議院議員選挙までに国民投票を:維新の会)が高まってきている。ただ実際には国民投票まで行くのは難しいような気もする。僕自身ずっと「改憲派」だったのだが、このところいくつかの…