新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ちょっと変わった倒叙推理

本書は、2ヵ月前に紹介した大谷羊太郎の「八木沢刑事もの」の一編。作者はトリックメーカーとして知られ、奇抜な手法のミステリーを多く発表している。この多くというのが曲者で、日本の近代ミステリー作家は多作が過ぎると僕などは思う。かって精緻な本格…

僕が料理(?)に目覚めた本

「美味しんぼ」というTVアニメは、全部ではないが割合見ていた。まだ30歳そこそこで、田舎の地下鉄終着駅近くの小さな賃貸マンションで一人暮らし。オフィスまでは徒歩20分、自転車なら10分。地下鉄駅周辺には呑み屋街もたくさん、オフィス往復の道すがらに…

サイバー空間での無法地帯

そもそもサイバー空間には国境がなく、明確な国際協定もないため各国の法規が通用せず「無法地帯」だという意見がある。日本の刑法・民法などは国内での問題を解決するもので、海外に殺人事件の容疑者が逃亡しても勝手に捕まえることはできない。昨今の個人…

「秘剣」テーマの短編集

池波正太郎作品以外の時代物はあまり読まない僕だが、ふとBook-offで手に取ったのが本書。言わずと知れた時代物の大家、藤沢周平の短編集である。解説によると、続編を含めて17編の「秘剣もの」が収められているという。本書には、 ・邪剣竜尾返し ・臆病剣…

大物すぎるスパイの戦果

ウォルフガング・ロッツはユダヤ系ドイツ人。少年時代にユダヤ人の母親に連れられてパレスチナの地に渡り、ナチスの迫害を逃れるだけでなく英軍に加わって北アフリカ戦線で戦った。といってもドイツ語の話せる彼は、もっぱらロンメル軍団の捕虜尋問にあたっ…

ロンドン塔の闇と霧

本書(1933年発表)は、ディクスン・カー名義の名探偵ギデオン・フェル博士ものの第二作。前作はロンドンの北約200kmのチャターハムで起きた事件だったが、今回はロンドンのど真ん中、ロンドン塔での怪死事件にフェル博士と米国青年ランポール、ハドリー主任…

Marche ou mort / March or die

第二次大戦であまりにもあっけなく降服してしまったので、フランスは「戦争に弱い国」という印象があるかもしれない。しかし、大陸制覇に一番近づいたのは、1800年過ぎのフランス皇帝ナポレオンである。グラン・ダルメ(大陸軍)を率いてイベリア半島・地中…

資格商法詐欺の被害者

1997年発表の本書は、津村秀介のアリバイ崩し「浦上伸介シリーズ」の1冊なのだが、他の作品に比べて社会派ミステリーの色が濃い。バブルが崩壊して「就職氷河期」(今その第二波が来ているという人もいるが)だったころで、中堅から大手企業でも40~50歳代…

2,500万年を飛び越えた船

本書はJ・P・ホーガンの「ガニメデの巨人」シリーズの第二作、前作では、 ・月の裏側で発見されたルナリアン 死亡推定時期は5万年前。遺伝子的には完全に人類だが、現(2029年)人類の及ばぬ技術を持っている。 ・木星の衛星ガニメデで発見されたガニメアン 2…

トランプ先生は戦争を起こせるか?

先週「軍人が政治家になってはいけない本当の理由」を紹介したが、その中で米国で軍によるクーデターが一度も起きていない理由として、米軍が以下の点を徹底していることが挙げられていた。 ・政治決定に対する絶対的な服従 ・政治的な中立性 それゆえに、本…

女王円熟期の傑作

本書の発表は1940年(1941年とする説もある)、まさに英国にとって一番苦しかった「There Finest Hour」のころだ。今にもヒトラーの軍隊が上陸してくるのではないかと思われた時期なのに、ミステリーの女王はこのような傑作を書き上げた。 1920年「スタイル…

20,000件の検視

本書は「死体は語る」で知られる検視官、上野正彦先生のエッセイ風の読み物である。「風」と言ったのは、軽い語り口ながらその内容は非常にヴィヴィッドなものであるから。特に第二章の60ページ全部を使って、自殺すると死体がどうなるのかを克明に説明して…

「北爆」の真実

ベトナム戦争については初期にケネディ大統領が厳しい条件を付けるなど、「米軍は後ろ手に縛られたままこの戦争を戦った」という主張がある。米軍及び政権中枢は、国際社会や国内の反戦運動に配慮しながらこの戦いを続け、結局「世界最強の米軍はアジアの一…

大きな政府=小さな国民

筆者の渡部昇一教授は、英語学者。「隷従への道」などで知られるノーベル賞経済学者ハイエクら知の巨人と交わり、歯に衣きせぬ論客として鳴らした人である。本書はその数ある著書の一冊(1996年発表)だが、なぜ書棚に残っていたのか記憶にない。多分「歴史…

第二次欧州大戦の前哨戦

1936年から3年間、スペイン全土で戦われた共和国軍と反乱軍の戦い。諸説あるが数十万人の犠牲者を出し、数多くの悲劇的なエピソードを生んだ戦いである。本書(1986年発表)は、スペインの歴史家ピエール・ヴィラールが80歳の時に書き下ろしたもの。フラン…

親子探偵のモデル?

作者のマージェリー・アリンガムは、アガサ・クリスティーやドロシー・L・セイヤーズと並ぶ1920年代からの英国女流ミステリー作家。10歳代のころから冒険小説を書いていたということだが、長編ミステリーとしては1928年発表の本書がデビュー作。以後1968年に遺…

ヒルダ105歳、スヴェン102歳

本書は「にぎやかな眠り」と「蹄鉄ころんだ」を以前ご紹介している、シャーロット・マクラウドのシャンディ教授シリーズの第三作。米国東海岸北部のバラクラヴァ郡にあるバラクラヴァ農業大学で応用土壌学を専攻しているシャンディ教授は50歳代後半。「にぎ…

スタンガン連続殺人事件

深谷忠記の「壮&美緒」シリーズは、トラベルミステリーとしては他の作者よりも叙情性で優れていると以前紹介した。また1箇所だけではなく複数の現場で事件が起きるので、「xx~xx殺人ライン」などと題して複数の風光明媚な場所を紹介してくれることもある…

地金(ちきん)再編への道

菅政権の大目標のひとつ「地銀再編」、確かに地域金融機関は多すぎるので昔から統合再編を推す声は多かった。かつて1ダースほどあった都銀は3つのメガバンクに20年以上前に再編されている。この流れは、地銀・第二地銀・信金・信組へとピラミッドを降りて…

政治家と軍人の関係

筆者は航空自衛隊で航空教育司令官を最後に退官、笹川USAなどに所属したこともある安全保障の研究者である。直接面識はないが、同世代でもあり本書中に登場する人物の何人かは、僕も存じ上げている。筆者に政界進出の野望はないようだが、若いころから持って…

元殺し屋の中年女性探偵

本書は、先月ご紹介したイーヴリン・E・スミスの「ミス・メルヴィルもの」の第二作。名家に育ちスポーツに芸術に子供のころから親しんでいたミス・メルヴィルは、家が没落したことによって世間の荒波に放り込まれた。育ちのいい彼女には適当な収入をもたらす…

伝奇作家、半村良

作者は長編・短編集合わせて約60作の著作を残しているが、そのバリエーションは非常に広い。1962年に本書にも収められている100ページほどの中編「収穫」で、ハヤカワSFコンテストに応募し入選して作家生活に入っている。「収穫」は異星人がほとんどの市民を…

千草検事の哀しき解決

本書は土屋隆夫の「千草検事もの」の中でも名作とされ、日本のミステリーxx選を編纂してみれば恐らく選ばれると思われる。作者の数少ない作品(15長編)の中でも千草検事が登場するのは5作品しかない。 ・影の告発 ・赤の組曲 ・針の誘い ・盲目の鴉 ・不安…

保健予備隊の闘い

戦争に医療は不可欠、元々頑健な肉体や十分な栄養補給が必要だし、戦場は危険で不潔なところである。戦傷だけでなく防疫や健康管理に至るまで、医療担当部署の責務は重い。太平洋戦争の終戦後まで含めて5年以上を軍医として従軍した柳沢医師が、戦後に戦時…

日米で評価が分かれたスリラー

本書は1975年に米国で発表された軍事スリラー、作者のルシアン・ネイハムはパイロットライセンスを持つジャーナリストで、結局小説はこの1冊しか残さなかった。解説によると6ヵ国語に翻訳されたとかスティーブ・マックィーン主演で映画化の企画があるなど…

傷心のマイロンを襲う試練

本書はハーラン・コーベンのマイロン・ボライターものの第6作。元バスケットボールのプロで、現在は<MBスポーツレップス>というエージェント会社を運営しているマイロンと、その仲間たちが活躍するハードボイルドシリーズである。 解説には、その仲間たち…

第三次AIブームの特徴と限界

世界中AIブームである。機械翻訳や自動運転に期待もかかるが、雇用は大丈夫かとか暴走によって人権侵害が起きないかと不安を訴える人もいる。欧州委員会の「AI白書」には、リスクに対処するため規制をかけようというスタンスがありありと見られる。 これから…

機械仕掛けが一杯

本書は、エリザベス・フェラーズの「トビー&ジョージもの」の第二作。以前紹介した「その死者の名は」に次ぐもので、同じ1940年に発表されている。作者は英国ではクリスティの後継者のひとりと称賛されているのだが、日本では「猿来たりなば」と「私が見た…

よりリアルな諜報員の闘い

アダム・ホールという作家のことは、「不死鳥を倒せ」というスパイ小説で知った。作者の本名はエルストン・トレヴァーといい、10ほどのペンネームで本格ミステリー、冒険小説、スパイ小説、児童文学と幅広い作品を残した。本書は1965年に「不死鳥を倒せ」で…

魏の視点からの「三国志」

多くの日本人にとっての「三国志」と言えば、「桃園の誓」に始まり「秋風五丈原」で終わる物語である。三国のうち一番小さかった「蜀」の滅びの美学が心に残る。横山光輝のアニメにもなり、人形劇やTVドラマにもなった。しかしこの原本は「三国志演義」であ…