新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ハードボイルド

パートナーになったラム君

1941年発表の本書は、以前「屠所の羊」や「大当たりをあてろ」を紹介した、A・A・フェア(昨日紹介したE・S・ガードナーの別名)の「バーサ&ラム君シリーズ」。小柄で頼りなさげだが、頭の切れは抜群のドナルド・ラム。女丈夫バーサ・クールの調査会社に雇われ…

500万ドルの相続人たち

1996年発表の本書は、アルファベット順にタイトルを重ねるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第13作。作中、リアルタイムで年をとるキンジーは36歳になった。「探偵のG」でキンジーと恋に落ちながらもドイツに去っていった、タフガイ探偵ロ…

泥棒探偵バーニイ登場

なかなかの手腕を持つ「変わった作家」ローレンス・ブロック、これまでアル中探偵マット・スカダーものや、ノンシリーズ「殺し屋」を紹介してきた。作者には他にもシリーズものがあるのだが、今回ようやく「泥棒探偵バーニイもの」を見つけることができた。…

正統派ハードボイルドの到達点

本書は、これまで「動く標的」「別れの顔」などを紹介してきたロス・マクドナルドのリュー・アーチャーものの短編集。のちに長編「運命」の原案となる「運命の裁き」だけが中編(100ページ強)で、他は50ページ未満の短編が4編あり、加えて作者自身の評論「…

歓楽の街のラム君たち

1941年発表の本書は、昨日「屠所の羊」を紹介したA・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」。シリーズ第四作にあたる。小柄で腕っぷしはダメだが、元弁護士で法律(のウラ)に詳しく、機転が利くのがラム君。彼を雇った探偵事務所長のバーサは、…

バーサ&ラム君初登場

1939年発表の本書は、これまで「梟はまばたきしない」などを紹介した、E・S・ガードナーがA・A・フェア名義で書いた秘密探偵社所長バーサ・クールと、雇われ探偵からパートナーになるドナルド・ラムの初登場作品。本書以降30冊程書き継がれたシリーズの第一作に…

マット・スカダーのデビュー作

1976年発表の本書は、これまで「800万の死にざま」「死者との誓い」などを紹介したローレンス・ブロックの「マット・スカダーもの」。アル中探偵マットの記念すべきデビュー作である。多作家ではないが米国の病んだ部分に光を当てる作者の鋭い筆が、読者を引…

米国中西部を駆け抜ける「宝探し」

1995年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」。シリーズ中最高傑作との評価されるもので、サンタ・テレサの私立探偵キンジーは、ダラスからシカゴまで駆け抜ける「宝探し」をする羽目になる。 きっかけは、家主ヘンリーの知り合いの…

シカゴの女探偵の短編集

本書は、昨年までに6作の長編ミステリーを紹介したサラ・パレツキーの「V・I・ウォーショースキーもの」の短編集。1984年から1992年までに発表された8編の短編が収められている。スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンがカリフォルニアの女探偵なら、V・Iこ…

LGBTQハードボイルド

1986年発表の本書は、ヒスパニック系の法律家マイケル・ナーヴァのデビュー作。作者はカリフォルニア州の片田舎で、壊れた家庭で育った。親元を離れてロースクールに学び、検察庁に努める傍ら小説を書き始めた。主人公は、やはりヒスパニックの青年弁護士ヘ…

人の生活を知るのが商売

本書(1964年発表)は、正統派ハードボイルドの旗手ロス・マクドナルドが英国推理作家協会賞を受賞した代表作である。一口に正統派ハードボイルドというが、リアルで非情なハメット、あくまで内省的なチャンドラーと作者のトーンは異なる。僕の感じからいう…

内省的な元ジャンキー探偵

1986年発表の本書は、TV業界でプロデューサーなどを務め政治コンサルタント(主に選挙キャンペーン)の経験もあるラリー・バインハートのデビュー作。アメリカ探偵作家クラブの新人賞を受賞している。ただ、作者の作品はほとんど日本では邦訳されず、2000年…

美しいローナの裏の稼業

1994年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第11作。警官よりも私立探偵が性に合っているという西海岸の女探偵キンジーは、何度も危険な目に遭い、自宅も愛車もオフィスも失いながら「時給50ドル+経費」の探偵業を辞めようとは…

キンジーの従兄弟たち

1993年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第10作。アルファベットは"J"となる。長く間借りし、仕事も請け負っていたカリフォルニア信用保険会社の新しい社長ゴードン・タイタスとはソリが合わず、キンジーは新しくキングマン&…

心中事件に3発の銃声

1949年発表の本書は、A・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」の1冊。本書も訳者が田中小実昌氏(通称コミさん)で、なかなか味のある訳文になっている。<おれ>ことラム君は、腕っ節はからきしだが「抜け目のない羊」としての才覚を発揮し、…

キンジーの新しい「職場」

本書はご存じ、Aから順番にタイトルを付けていくスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第9作。30歳代の女私立探偵で主人公にした人気シリーズとしては、サラ・パレツキーの「VICもの」があるが、これがどんどん長編化してついには上下巻になる…

ハードボイルドの記念碑

ハードボイルド小説の祖と言われるダシール・ハメットは、長編を5冊しか遺していない。そのうちの2冊「血の収穫」と「デイン家の呪い」はすでに紹介した。いずれもコンチネンタル探偵社のオプ(探偵)である「俺」が主人公の1人称小説だった。ハメットの…

直新陰流・小野派一刀流vs.我流

本書が笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」の最終中編集、さらに「帰ってきた紋次郎シリーズ」もあるというが、とりあえずはこれで打ち止め。全15巻のうち、13冊は読んだように思う。どうしてもTVドラマの印象が強いので、紋次郎といえば中村敦夫の顔が浮か…

孤独で、危険な囮捜査

1991年発表の本書は、アルファベット順に題名を付けてくるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第8作。キンジー自身は腕っぷしにも銃の扱いにも自信はなく、前作「探偵のG」では命を狙われてタフガイのボディガードを雇った。その男ロバート…

忍耐強いスペンサー

ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」も本棚に残っているのは本書(2009年発表)を含めて2冊だけ。作者は2010年に急逝し、40冊のスペンサーものが遺された。この後には2冊しか発表されておらず、そのうちの1冊「盗まれた貴婦人」は僕が手に入れる…

砂漠の老女と「子連れ狼」

1990年発表の本書は、題名を「A」から順に付けていくスー・グラフトンの第七作。前作「逃亡者のF」で自宅を爆破されてしまった女私立探偵キンジー・ミルホーンは、大家さんのヘンリー(80歳)や食堂の女主人ロージー(65歳)から孫子のように可愛がられて…

麻薬と宗教に溺れる娘

本書(1929年発表)は、ハードボイルド小説の創始者と言われるダシール・ハメットの第二作。デビュー作「血の収穫」同様、コンチネンタル探偵社の名無しの探偵(オプ)が主人公だが、デビュー作に登場した探偵とは体格も性格も違っているように思う。加えて…

スペンサーvs.グレイマン

グレイマン(灰色の男)といってもマーク・グリーニーの描くコート・ジェントリーではない。もし相手がその男だったら、いかにスペンサーがタフガイでも、側にホークが付いていても命は助からない。ここで登場するグレイマンは、これまでスペンサーもので何…

長十手の岡っ引き

笹沢左保著「木枯し紋次郎シリーズ」で手に入ったものは全部読んでしまい、しばらく作者にもご無沙汰だったのだが、今回本書が手に入った。作者には多くの時代劇シリーズがあるが「紋次郎」ほど有名なものは少ない。僕自身も「紋次郎シリーズ」を最初に紹介…

ロンドンのパートタイム殺し屋

英国作家サイモン・カーニックは、本書(2002年発表)がデビュー作。以後、特にレギュラー主人公を持たずにクライム・サスペンスを書き続けている。本書の主人公デニス・ミルンはロンドン警察の巡査部長。警察に入って十数年で、30歳代半ばの独身男だ。 若い…

1,000人の町の17年前の事件

アルファベット順にタイトルを付けるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」。これまで「証拠のE」までを紹介してきて、本書(1989年発表)が第六作。32歳のバツ2女キンジーは、生まれ故郷のサンタ・テレサで私立探偵をしている。身寄りのない彼…

トゥームストーンの銃声

ボストンの私立探偵「スペンサーもの」で知られる作家ロバート・B・パーカー、スペンサーもの以外でも先日紹介したノンフィクション風の「ダブルプレー」のような単発ものをいくつか発表している。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/07/09/000000 こ…

ミラマー・アパートの美女たち

これまで「梟はまばたきしない」と「うまい汁」を紹介した、A・A・フェアの「クール&ラム探偵事務所もの」で、「うまい汁」から2年後の1961年に発表されたのが本書。ヘビー級の大女で吝嗇極まりないバーサ・クール女史と共同経営者になった小柄でソフトボイ…

バスケットボールが得意な子供

本書はロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」で、長く手に入らなかったもの。1989年発表でシリーズとしては「真紅の歓び」と「スターダスト」の間にあたる。まだ愛犬パールはおらず、ずいぶん若いスペンサー・スーザン・ホークのトリオに会うことがで…

キンジーの危険な年末年始

これまで「アリバイのA」からはじまり、「欺しのD」までを紹介したスー・グラフトンの連作。主人公の私立探偵キンジー・ミルホーンは、サンタテレサに住む離婚歴2度の32歳。ジム通いやジョギングを欠かさない彼女だが、決してマッチョな私立探偵ではない…