新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ハードボイルド

シカゴの女探偵の短編集

本書は、昨年までに6作の長編ミステリーを紹介したサラ・パレツキーの「V・I・ウォーショースキーもの」の短編集。1984年から1992年までに発表された8編の短編が収められている。スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンがカリフォルニアの女探偵なら、V・Iこ…

LGBTQハードボイルド

1986年発表の本書は、ヒスパニック系の法律家マイケル・ナーヴァのデビュー作。作者はカリフォルニア州の片田舎で、壊れた家庭で育った。親元を離れてロースクールに学び、検察庁に努める傍ら小説を書き始めた。主人公は、やはりヒスパニックの青年弁護士ヘ…

人の生活を知るのが商売

本書(1964年発表)は、正統派ハードボイルドの旗手ロス・マクドナルドが英国推理作家協会賞を受賞した代表作である。一口に正統派ハードボイルドというが、リアルで非情なハメット、あくまで内省的なチャンドラーと作者のトーンは異なる。僕の感じからいう…

内省的な元ジャンキー探偵

1986年発表の本書は、TV業界でプロデューサーなどを務め政治コンサルタント(主に選挙キャンペーン)の経験もあるラリー・バインハートのデビュー作。アメリカ探偵作家クラブの新人賞を受賞している。ただ、作者の作品はほとんど日本では邦訳されず、2000年…

美しいローナの裏の稼業

1994年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第11作。警官よりも私立探偵が性に合っているという西海岸の女探偵キンジーは、何度も危険な目に遭い、自宅も愛車もオフィスも失いながら「時給50ドル+経費」の探偵業を辞めようとは…

キンジーの従兄弟たち

1993年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第10作。アルファベットは"J"となる。長く間借りし、仕事も請け負っていたカリフォルニア信用保険会社の新しい社長ゴードン・タイタスとはソリが合わず、キンジーは新しくキングマン&…

心中事件に3発の銃声

1949年発表の本書は、A・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」の1冊。本書も訳者が田中小実昌氏(通称コミさん)で、なかなか味のある訳文になっている。<おれ>ことラム君は、腕っ節はからきしだが「抜け目のない羊」としての才覚を発揮し、…

キンジーの新しい「職場」

本書はご存じ、Aから順番にタイトルを付けていくスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第9作。30歳代の女私立探偵で主人公にした人気シリーズとしては、サラ・パレツキーの「VICもの」があるが、これがどんどん長編化してついには上下巻になる…

ハードボイルドの記念碑

ハードボイルド小説の祖と言われるダシール・ハメットは、長編を5冊しか遺していない。そのうちの2冊「血の収穫」と「デイン家の呪い」はすでに紹介した。いずれもコンチネンタル探偵社のオプ(探偵)である「俺」が主人公の1人称小説だった。ハメットの…

直新陰流・小野派一刀流vs.我流

本書が笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」の最終中編集、さらに「帰ってきた紋次郎シリーズ」もあるというが、とりあえずはこれで打ち止め。全15巻のうち、13冊は読んだように思う。どうしてもTVドラマの印象が強いので、紋次郎といえば中村敦夫の顔が浮か…

孤独で、危険な囮捜査

1991年発表の本書は、アルファベット順に題名を付けてくるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第8作。キンジー自身は腕っぷしにも銃の扱いにも自信はなく、前作「探偵のG」では命を狙われてタフガイのボディガードを雇った。その男ロバート…

忍耐強いスペンサー

ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」も本棚に残っているのは本書(2009年発表)を含めて2冊だけ。作者は2010年に急逝し、40冊のスペンサーものが遺された。この後には2冊しか発表されておらず、そのうちの1冊「盗まれた貴婦人」は僕が手に入れる…

砂漠の老女と「子連れ狼」

1990年発表の本書は、題名を「A」から順に付けていくスー・グラフトンの第七作。前作「逃亡者のF」で自宅を爆破されてしまった女私立探偵キンジー・ミルホーンは、大家さんのヘンリー(80歳)や食堂の女主人ロージー(65歳)から孫子のように可愛がられて…

麻薬と宗教に溺れる娘

本書(1929年発表)は、ハードボイルド小説の創始者と言われるダシール・ハメットの第二作。デビュー作「血の収穫」同様、コンチネンタル探偵社の名無しの探偵(オプ)が主人公だが、デビュー作に登場した探偵とは体格も性格も違っているように思う。加えて…

スペンサーvs.グレイマン

グレイマン(灰色の男)といってもマーク・グリーニーの描くコート・ジェントリーではない。もし相手がその男だったら、いかにスペンサーがタフガイでも、側にホークが付いていても命は助からない。ここで登場するグレイマンは、これまでスペンサーもので何…

長十手の岡っ引き

笹沢左保著「木枯し紋次郎シリーズ」で手に入ったものは全部読んでしまい、しばらく作者にもご無沙汰だったのだが、今回本書が手に入った。作者には多くの時代劇シリーズがあるが「紋次郎」ほど有名なものは少ない。僕自身も「紋次郎シリーズ」を最初に紹介…

ロンドンのパートタイム殺し屋

英国作家サイモン・カーニックは、本書(2002年発表)がデビュー作。以後、特にレギュラー主人公を持たずにクライム・サスペンスを書き続けている。本書の主人公デニス・ミルンはロンドン警察の巡査部長。警察に入って十数年で、30歳代半ばの独身男だ。 若い…

1,000人の町の17年前の事件

アルファベット順にタイトルを付けるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」。これまで「証拠のE」までを紹介してきて、本書(1989年発表)が第六作。32歳のバツ2女キンジーは、生まれ故郷のサンタ・テレサで私立探偵をしている。身寄りのない彼…

トゥームストーンの銃声

ボストンの私立探偵「スペンサーもの」で知られる作家ロバート・B・パーカー、スペンサーもの以外でも先日紹介したノンフィクション風の「ダブルプレー」のような単発ものをいくつか発表している。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/07/09/000000 こ…

ミラマー・アパートの美女たち

これまで「梟はまばたきしない」と「うまい汁」を紹介した、A・A・フェアの「クール&ラム探偵事務所もの」で、「うまい汁」から2年後の1961年に発表されたのが本書。ヘビー級の大女で吝嗇極まりないバーサ・クール女史と共同経営者になった小柄でソフトボイ…

バスケットボールが得意な子供

本書はロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」で、長く手に入らなかったもの。1989年発表でシリーズとしては「真紅の歓び」と「スターダスト」の間にあたる。まだ愛犬パールはおらず、ずいぶん若いスペンサー・スーザン・ホークのトリオに会うことがで…

キンジーの危険な年末年始

これまで「アリバイのA」からはじまり、「欺しのD」までを紹介したスー・グラフトンの連作。主人公の私立探偵キンジー・ミルホーンは、サンタテレサに住む離婚歴2度の32歳。ジム通いやジョギングを欠かさない彼女だが、決してマッチョな私立探偵ではない…

探偵をするスペンサー

そんなの当たり前だろうと言われそうだ。ロバート・B・パーカーの描く「スペンサーの世界」では、主人公のスペンサーはボストンで開業している私立探偵である。ただしもう30余冊読んだ限りでは、彼が探偵をするのは本当に珍しい。どちらかというと犯罪者を懲ら…

フィリップ・マーロウ、1991

ロバート・B・パーカーという作家は、本当にストーリーテリングが上手いと思う。好評のスペンサーシリーズはもちろんだが、ノンシリーズの面白さは別格だ。以前初の黒人大リーガー、ジャッキー・ロビンソンが登場するノンフィクション風ハードボイルド「ダブル…

次々に「シリーズ最高傑作」

本書(2000年発表)は、ハーラン・コーベンの「マイロン・ボライターもの」の第七作。これまでは一作ごとに違うスポーツの世界を見せてくれていたのだが、本書ではそういうものは出てこない。第五作あたりからスポーツ代理人商売に身が入らなくなってきて、…

更生不能中年男性の死

南カリフォルニア、サンタ・テレサの私立探偵キンジー・ミルホーン(わたし)のシリーズも4冊目(1987年発表)。作者スー・グラフトンは温暖で比較的富裕層の多いカリフォルニアでも、80年代の米国の病理が大きな影になっていることを看破する。前作「死体…

スペンサーとスーザンの仲

本棚のスペンサーシリーズも残りわずかになってきたある日、藤沢のBook-offで見つけたのが本書。1996年発表の第26作目にあたるらしい。もう30冊以上読んでいるシリーズだが、入手していなかったものと思われる。念のためこのサイト「新城彰の本棚」をスマホ…

翻訳者で変わるトーン

1959年発表の本書は、以前「梟はまばたきしない」を紹介したA・A・フェアの「クール&ラム探偵社」もの。このペンネームはE・S・ガードナーの別名だが、このシリーズは本家のペリイ・メイスンものより良質なミステリーだと思う。特に小柄で腕っぷしはNGだが頭の…

スペンサー、撃たれる!

1997年発表の本書は、前作「チャンス」同様いままで手に入らなかった作品で、ある日Book-offで運良く見つけたもの。ロバート・B・パーカーのスペンサーものはとてもスピーディな展開と、ホークをはじめとするタフガイたちのアクション、スーザン(&パール)と…

志津三郎兼氏の長脇差

前の短編集でおもわぬ名探偵ぶりを発揮することになった木枯し紋次郎だが、本書では危うく(?)渡世から足を洗いそうになる。すでに20年近く放浪の旅をしていて、特に20歳を過ぎてからは、血を見ないでは終わらない事件にばかり巻き込まれている紋次郎であ…