ハードボイルド
1983年発表の本書は、ローレンス・ブロックの「泥棒探偵バーニイもの」の第五作。1977年のデビュー作「泥棒は選べない」以降、おおむね年1作発表されてきたのだが、本書の後10年以上新作が途絶えている。 決して暴力は使わない泥棒のバーニイは、表のビジネ…
1986年発表の本書は、ローレンス・ブロックの<マット・スカダーもの>。得意の射撃で強盗を撃った際、跳弾で無垢の少女を殺してしまったマットは、警察を辞め無免許の私立探偵をしている。アル中になったこともあり、今は酒を断って暮らしているが、本書が…
昨日に引き続いて、ダニエル・フリードマンの<引退刑事バック・シャッツもの>の第二作(2014年発表)を紹介したい。前作「もう年はとれない」で犯人に銃撃されたバック。九死に一生は得たものの銃創や骨折がなかなか治らず、今は妻のローザと介護付き老人…
昨日、還暦を迎えた女4人組の話「暗殺者たちに口紅を」を紹介した。軽快なスパイスリラーだったが、今時60歳は老人とは言えない。そこで敬老の日の今日、手に取ったのが、2012年発表の本書。ニューヨークの弁護士ダニエル・フリードマンのデビュー作で、マ…
1988年発表の本書は、昨年「このささやかな眠り」を紹介したゲイ作家マイケル・ナーヴァの第二作。前作で33歳だったゲイの弁護士ヘンリー・リオスは、36歳になっている。やはりゲイだった容疑者ヒューを釈放させはしたものの死なせてしまい、ヘンリーは事件…
2005年8月末、米国南部をカテゴリ3級の大型台風<カトリーヌ>が襲った。低湿地帯の都市ニューオリンズでは市街地の8割が浸水し、多くの犠牲者が出た。2011年発表の本書は、書店員や古書販売などを経験して作家に転じたサラ・グランの作品。本書でデビュ…
1968年発表の本書は、イタリアのミステリーとして珍しいハードボイルド風の警察小説。ローマ警察外人課のベッリ警部は、辣腕刑事であるが(イタリア警察では普通だが)裏稼業を持っている。個人が望まない人物を国外退去させるなど、賄賂を貰って便宜を図る…
1998年発表の本書は、スー・グラフトンの<キンジー・ミルホーンもの>の第14作。前作で怪我を負ったディーツを看病していたキンジーは、サンタ・テレサに帰る途中で、ディーツから紹介された仕事をすることにした。塩湖沿いの町ノタ・レークは、人口2,300人…
2011年発表の本書は、全39冊を数えるロバート・B・パーカーの「スペンサーもの」の最終作品。1973年「ゴッドウルフの行方」で始まった、ボストンのタフガイ私立探偵スペンサーとその仲間たちのシリーズは、作者の急逝という形で幕を下ろした。 スペンサー一家…
昨年ヒスパニック系のゲイ作家マイケル・ナーヴァの作品を2作紹介した。1978年発表の本書は、その先輩格にあたるゲイ探偵のハードボイルドもの。1960年代までは公民権問題と言えば黒人問題だったが、このころからゲイ(LGBTQ)問題になってきたという。 作…
ハードボイルドの探偵というのは、20歳代では厚みが出ない。できれば40歳代くらいで、世の中の酸いも甘いも経験したタフガイが望ましい。ロバート・B・パーカーのスペンサーなど、最初の頃は30歳代のチンピラ。40歳代の風情になって、なかなかの貫禄になった。…
1942年発表の本書は、A・A・フェアの「バーサ&ラム君もの」。前年末の真珠湾攻撃により、米国は戦争状態に入った。筆の早い作者は、さっそく時勢に合わせた作品を仕上げたという次第。パートナーのラム君を軍隊にとられては大変とバーサは四方にてを廻すのだ…
1992年発表の本書は、サラ・パレツキーのヴィクことV・I・ウォーショースキーものの第7作。これまでの6冊を通して、質の高い女性ハードボイルドものだと感じている。ただ問題は、このところページ数が増していること。本書に至っては600ページ近くあって、列…
1941年発表の本書は、以前「屠所の羊」や「大当たりをあてろ」を紹介した、A・A・フェア(昨日紹介したE・S・ガードナーの別名)の「バーサ&ラム君シリーズ」。小柄で頼りなさげだが、頭の切れは抜群のドナルド・ラム。女丈夫バーサ・クールの調査会社に雇われ…
1996年発表の本書は、アルファベット順にタイトルを重ねるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第13作。作中、リアルタイムで年をとるキンジーは36歳になった。「探偵のG」でキンジーと恋に落ちながらもドイツに去っていった、タフガイ探偵ロ…
なかなかの手腕を持つ「変わった作家」ローレンス・ブロック、これまでアル中探偵マット・スカダーものや、ノンシリーズ「殺し屋」を紹介してきた。作者には他にもシリーズものがあるのだが、今回ようやく「泥棒探偵バーニイもの」を見つけることができた。…
本書は、これまで「動く標的」「別れの顔」などを紹介してきたロス・マクドナルドのリュー・アーチャーものの短編集。のちに長編「運命」の原案となる「運命の裁き」だけが中編(100ページ強)で、他は50ページ未満の短編が4編あり、加えて作者自身の評論「…
1941年発表の本書は、昨日「屠所の羊」を紹介したA・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」。シリーズ第四作にあたる。小柄で腕っぷしはダメだが、元弁護士で法律(のウラ)に詳しく、機転が利くのがラム君。彼を雇った探偵事務所長のバーサは、…
1939年発表の本書は、これまで「梟はまばたきしない」などを紹介した、E・S・ガードナーがA・A・フェア名義で書いた秘密探偵社所長バーサ・クールと、雇われ探偵からパートナーになるドナルド・ラムの初登場作品。本書以降30冊程書き継がれたシリーズの第一作に…
1976年発表の本書は、これまで「800万の死にざま」「死者との誓い」などを紹介したローレンス・ブロックの「マット・スカダーもの」。アル中探偵マットの記念すべきデビュー作である。多作家ではないが米国の病んだ部分に光を当てる作者の鋭い筆が、読者を引…
1995年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」。シリーズ中最高傑作との評価されるもので、サンタ・テレサの私立探偵キンジーは、ダラスからシカゴまで駆け抜ける「宝探し」をする羽目になる。 きっかけは、家主ヘンリーの知り合いの…
本書は、昨年までに6作の長編ミステリーを紹介したサラ・パレツキーの「V・I・ウォーショースキーもの」の短編集。1984年から1992年までに発表された8編の短編が収められている。スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンがカリフォルニアの女探偵なら、V・Iこ…
1986年発表の本書は、ヒスパニック系の法律家マイケル・ナーヴァのデビュー作。作者はカリフォルニア州の片田舎で、壊れた家庭で育った。親元を離れてロースクールに学び、検察庁に努める傍ら小説を書き始めた。主人公は、やはりヒスパニックの青年弁護士ヘ…
本書(1964年発表)は、正統派ハードボイルドの旗手ロス・マクドナルドが英国推理作家協会賞を受賞した代表作である。一口に正統派ハードボイルドというが、リアルで非情なハメット、あくまで内省的なチャンドラーと作者のトーンは異なる。僕の感じからいう…
1986年発表の本書は、TV業界でプロデューサーなどを務め政治コンサルタント(主に選挙キャンペーン)の経験もあるラリー・バインハートのデビュー作。アメリカ探偵作家クラブの新人賞を受賞している。ただ、作者の作品はほとんど日本では邦訳されず、2000年…
1994年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第11作。警官よりも私立探偵が性に合っているという西海岸の女探偵キンジーは、何度も危険な目に遭い、自宅も愛車もオフィスも失いながら「時給50ドル+経費」の探偵業を辞めようとは…
1993年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第10作。アルファベットは"J"となる。長く間借りし、仕事も請け負っていたカリフォルニア信用保険会社の新しい社長ゴードン・タイタスとはソリが合わず、キンジーは新しくキングマン&…
1949年発表の本書は、A・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」の1冊。本書も訳者が田中小実昌氏(通称コミさん)で、なかなか味のある訳文になっている。<おれ>ことラム君は、腕っ節はからきしだが「抜け目のない羊」としての才覚を発揮し、…
本書はご存じ、Aから順番にタイトルを付けていくスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第9作。30歳代の女私立探偵で主人公にした人気シリーズとしては、サラ・パレツキーの「VICもの」があるが、これがどんどん長編化してついには上下巻になる…
ハードボイルド小説の祖と言われるダシール・ハメットは、長編を5冊しか遺していない。そのうちの2冊「血の収穫」と「デイン家の呪い」はすでに紹介した。いずれもコンチネンタル探偵社のオプ(探偵)である「俺」が主人公の1人称小説だった。ハメットの…