新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ハードボイルド

親分衆の前での「名探偵」振り

笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」でも、指折りの面白さを持つのがこの中編集。60~70ページの中に事件があり、謎があり、意外な結末があるのがお約束だが、本書の中の「桜が隠す嘘二つ」ほど見事な時代劇ミステリーは滅多にない。下総の国境町では、地場…

ファーストクラスの娼館チェーン

先日「スクールデイズ」を紹介したロバート・B・パーカーの「スペンサーもの」の、次の巻が本書(2006年発表)。前作で「スペンサー一家」に仲間入りしたような黒人ギャングメージャーや弁護士リタは登場せず、スーザンとホークが帰ってくる。そしてもう一人、…

懐かしや、特捜部会田刑事

TV朝日系で1973年から1980年まで放映された刑事ドラマ「非情のライセンス」。刑事ものを各局が競っていたころのシリーズで、それらの中では最もハードボイルド色が強かった印象がある。そのシリーズの原作となったのが、生島治郎作の本書である。主人公の会…

日本の本格ハードボイルド

1990年発表の本書は、ハードボイルド&冒険小説作家大沢在昌の代表作「新宿鮫」シリーズの最初の作品。作者は1979年「感傷の街角」でデビュー、小説推理新人賞を受けている。以降、ヴィヴィッドな作品群で受賞の常連となり、本書も推理作家協会賞を受賞し、…

死体置き場のキンジー

1986年発表の本書は、これまで「アリバイのA」「泥棒のB」を紹介した、スー・グラフトンの第三作。南カリフォルニアのサンタ・テレサに住む、女探偵キンジー・ミルホーン(わたし)のシリーズである。キンジーは32歳、離婚歴2回、元は警官だったが、拳銃…

トレントンの貧困街

1994年発表の本書は、ロマンス小説家として地歩を築いていたジャネット・イヴァノビッチが初めて書いたミステリー。英国推理作家協会から当該年の最優秀処女長編賞に輝いた作品である。舞台となったのはニュージャージー州の州都トレントン、ニュージャージ…

栄五郎一家 vs. 紋次郎

笹沢左保の「木枯し紋次郎」シリーズは、ほとんどが50ページくらいの短編。主要な登場人物は紋次郎のほかには3人くらいで、最後の5ページでそのうちの一人の「意外な正体」が紋次郎によって暴かれるパターンが多い。加えて舞台となった町か村の当時の風習…

拡大するスペンサー一家

本書(2005年発表)は、ロバート・B・パーカーの「スペンサーもの」の後期の作品。今回スペンサーは、ボストン郊外の(多分富裕層の子弟向けの)高校で起きた銃乱射事件の被告の少年を救う仕事を引き受ける。スキーマスクを被った2人の男が4丁の拳銃を撃ちま…

組織の男と家庭生活

以前「悪党パーカー」シリーズを紹介したドナルド・E・ウェストレイク、多彩な作風で知られているがそのルーツは雑誌「マンハント」にある。ミステリー雑誌のひとつで、主にハードボイルド小説を掲載して人気を博した。ウェストレイクはハードボイルド短編で経…

傷心のマイロンを襲う試練

本書はハーラン・コーベンのマイロン・ボライターものの第6作。元バスケットボールのプロで、現在は<MBスポーツレップス>というエージェント会社を運営しているマイロンと、その仲間たちが活躍するハードボイルドシリーズである。 解説には、その仲間たち…

二つのコンドミニアム

ABC・・・順にタイトルを付けていった、スー・グラフトンの第二作が本書。デビュー作から3年を経た、1985年の発表である。主人公は、南カリフォルニアの架空の街サンタ・テレサに住む女私立探偵キンジー・ミルホーン、32歳。健康に気づかいジョギングなどに余…

ホークという男

2005年発表の本書は、ロバート・B・パーカーのスペンサーものの32作目。1973年「ゴッドウルフの行方」でデビューしたボストンのちょっとヤクザな私立探偵の活躍も、30年以上に渡っている。恋人スーザンに去られてしまったり、灰色の男(Gray Man)に撃たれて…

ボディガード、マイロン

本書はハーラン・コーベンのマイロン・ボライターものの第五作。マイロンは小さなスポーツエージェント会社の経営者。扱うスポーツアメフト・テニス・バスケットボール・ゴルフときて、今回は再びバスケットボール。ただいつものようなスポーツ界の内幕もの…

レノックス家の女

「ウィチャリー家の女」「さむけ」などの正統派ハードボイルドで知られるロス・マクドナルド晩年の作品が本書(1973年発表)。このあと「ブルー・ハンマー」(1976年発表)という作品があるが、1983年に亡くなった。享年67歳。 ハメット・チャンドラー・マク…

元「Transit Police」の活躍

本書の作者、J・C・S・スミスは覆面作家である。高名なノンフィクション作家が身元を隠して書いたのが本書(1984年発表)だ。格式高い著述家が、本当はミステリー好きでミステリーを書きたいのだが「先生ほどの人が下世話なものを・・・」と非難されるのが嫌だった…

エリートたちの不正と背徳

本書は2004年発表のスペンサーもの。かなり残り在庫も少なくなってきたせいもあって読まないでいたのだが、先日「ダブルプレー」という作品を読んで、この作者の簡潔な文体・会話の面白さを再確認した。この作品は、黒人大リーガーのパイオニアであるジャッ…

黒と白のブルックリン、1947

ボストンの軽妙な私立探偵スペンサーものしか読んだことのなかったロバート・B・パーカーのノンフィクション風ハードボイルドが本書。アメリカ人なら「誰も」が知っている近代最初の黒人大リーガー、ジャッキー・ロビンソンとその周辺の人物が実名で登場する…

弁護士・探偵そして精神科医

本書は正統派ハードボイルド作家、、ロス・マクドナルドの後期の作品(1969年発表)。大家だと思っていた作者だが、リュー・アーチャーものを18編、その他を6編しか発表していない。1949年「動く標的」でデビューした作者とアーチャー探偵、以前紹介した「…

都会のハンター

ドナルド・ハミルトンという作者の名前は、どこかで聞いた記憶がある。狙撃手とギャング風の男のイラスト、魅力的なタイトルなので買ってしまってから作者のことを調べてみた。ハミルトンは「マット・ヘルムシリーズ」の原作者だった。それで名前に記憶があ…

ひよわだが抜け目のない羊

本書の作者A・A・フェアは知らないという人も、ぺリー・メイスンという弁護士のシリーズには記憶があるのではなかろうか。A・A・フェアとは、ペリー・メイスンシリーズの原作者E・S・ガードナーの別名である。ガードナーは、私立探偵ドラルド・ラムと…

エスメラルダという街

ハードボイルドの雄レイモンド・チャンドラーは、長編を7作しか残さなかった。1958年発表の本書が、その最後の作品。代表作「長いお別れ」を発表後、作者は4年間沈黙していた。そして本書発表後に亡くなっている。実は「プードルスプリングス物語」という…

プロゴルファー夫妻の息子

本書はスポーツエージェントで「MBスポーツレップス」の経営者であるマイロン・ボライターが主人公の第四作。アメリカンフットボール、テニス、バスケットボールの世界を舞台にした三作に続き、本書ではゴルフの世界が描かれる。 最もマイロンはゴルフをスポ…

マイロン・ボライター自身の事件

本書はハーラン・コーベンのマイロン・ボライターものの第三作。スポーツエージェントであるマイロンとその仲間たちの活躍を描いた作品群で、これまでフットボールとテニスの世界での事件を扱っている。いずれもプロの契約金やCM出演料、果ては裏金まで、膨…

極寒シカゴの女探偵

サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキーものの第三作が本書。ヴィクことミズ・ウォーショースキーはアラサーのバツイチ女探偵、ホームグラウンドはシカゴである。僕は経験がないが、シカゴの冬は零下30度にもなるという。この極寒の街で、ヴィクは大掛か…

ヒッピーたちのその後

ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズも本書(2003年発表)で30作となった。スペンサーは朝鮮戦争従軍経験もあるということだったから、普通ならこの時点で70歳を越えているはずだが、私生活含めて若々しい。ただスーザンと飼っていた愛犬パールは前作…

8月のマンハッタン

ニューヨークという街も、意外と自然環境が厳しいようだ。蒸し暑く、少し歩いただけで汗がしたたり落ちると本書にある。暑さがピークの8月、大富豪はみなヨーロッパに行ってしまう。裕福な人たちは、国内だが夏の別荘に出掛けて留守。一般の労働者も、かな…

五大湖の海運事業

シカゴの女探偵ヴィクことV・I・ウォーショースキーが登場する第二作が本書。前作で巧妙な保険金詐欺を暴いた彼女は、五大湖の巨大な海運事業にかかわる事件に挑む。ヴィクのたった一人の親近者であるブーム・ブーム青年が死んだ。彼はヴィクの従兄弟にあたり…

「センパー、ファイ」が口癖

あとがきの後の解説には、本書のようなものを「軽ハードボイルド」というのだとある。表紙のアニメも含めて、いかにも軽めの私立探偵ものだなという印象を与えている。シアトルを舞台に活躍する私立探偵ジェィグ・ロシターとその仲間たちの物語で、本書に続…

本物の「探偵小説」

古典的な本格ミステリーを、「明晰神のごとき名探偵が・・・」などと評するが、オーギュスト・デュパンを先祖とするこの種の人たちが「私立探偵」を業として営んでいる例は多くない。ファイロ・ヴァンスは貴族の遊民だし、エラリー・クィーンは作家、ミス・マー…

ニューヨークの暗黒街

以前「裁くのは俺だ」を紹介したが、その作品でデビューしたのがバイオレンス作家のミッキー・スピレーンとその主人公マイク・ハマー。本書はマイク・ハマーものの5作目にあたる。書評では通俗的なハードボイルドの亜流と紹介され、タブロイド紙専科のよう…