新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

戦場に降臨する作家

柘植久慶という作家は元グリーンベレー大尉と称していて、1986年「ザ・グリーンベレー」という本でデビューした。サバイバルに関するもの、歴史上の戦略・戦術・指揮官に関するもの、架空戦記というにはあまりにリアルな小説など、膨大な著作がある。以前「…

事件÷推理=解決

以前「千草検事シリーズ:影の告発」を紹介した、土屋隆夫のデビュー長編が本書(1957年発表)である。決して多作家ではないが、印象に残る本格ミステリーを何冊も残した。ミステリー評論でも名高い作者自身が、「その作家のことを知ろうと思えば、デビュー…

スリーパーのオセロゲーム

いわゆるスパイ小説も、古の「外套と短剣」ものから、第一次・第二次世界大戦期に発表されたサマセット・モームの「秘密諜報部員」、エリック・アンブラーの「あるスパイの墓碑銘」などシリアスなものを経て、アクション活劇の「007シリーズ」へと変遷し…

東西33の海戦記録

本書は、作者が高校教員をしながら雑誌「海と空」に1957年から連載した小編を集めて文庫化したものである。第二次世界大戦の戦記や兵器についての著作が多い人だ。33編の内訳は、太平洋での戦いが16、地中海・大西洋での戦いが17となっている。 15ページ/編…

国分寺からの西武線沿線にて

本書(2006年発表)も、深谷忠記の「壮&美緒シリーズ」の比較的後期の作品。以前「千曲川殺人悲歌」を紹介した時に、叙情の美しいトラベルミステリーと評したのだが本書もその流れである。ただ今回の舞台は、もう少し都会的なところだ。 冒頭、美緒が仕事仲…

映画・原作、どちらも傑作

作者のトマス・ハリスは本当に寡作家である。本書は「ブラック・サンデー」、「レッド・ドラゴン」に続く第三作で、この後もレクター博士もの2編を書いただけだ。しかしその作品のすべてが映画化されるなど、ミステリー界に大きな足跡を残した人である。 19…

米中デカップリング論前の予習

先日フランスの文化人類学者トッド氏の、グローバリズムへの警鐘本を紹介した。本書もトッド氏の本と同じトランプ大統領誕生直前に発表されたもので、こちらは中国の課題を取り上げている。僕の母校名古屋大学は時々ノーベル賞受賞者は出るのだが、全部理系…

NCISの第二シーズン

あまりビデオを買うことはないのだが、このシリーズ(ネイビー犯罪捜査班)だけは別だ。国際線のフライトで見る癖がついてしまい、このところ海外出張が少ないので「禁断症状」が出てしまった。昨年末に第一シーズンを買ってきて、食後にウィスキーをなめな…

コーンウォール、1997

グレートブリテン島の南西の端、長い半島が大西洋めがけて突き出ているのがコーンウォール州。さらにその先端に近い町がペンザンスだ。トーマスクックの時刻表によれば、ロンドンからの距離は490km、特急で5時間かかるところ。文化的には古代ケルトの風習が…

それは夢だったのか、終わったのか?

僕の周りにいる仲間たちは、多かれ少なかれ「Global & Digital」の流れを当たり前だと思っている。その人たちから見ると「America First」と叫んで国境に物理的な壁を作る政策や、英国の「Brexit」行動は理解できない。サイバー空間には、国境などありえない…

逆説の日本史ミステリー

井沢元彦のデビュー作「猿丸幻視行」は、ファンタジーの味わいを付けた(実は)本格ミステリーである。なかなかに興味深い作品だったが、作者はその後「逆説の日本史」シリーズなど、歴史もので有名になり本格ミステリー作家とは誰も思わなくなっている。 本…

援軍は兜町の女将軍

戦後ミステリー界、第二期の巨人のひとり高木彬光は「名探偵らしい名探偵」神津恭介以外にも、何人(組)かの名探偵を生み出した。作者は理系の出身ゆえ、初期の頃は機械的・化学的なトリックを得意としていた。その解決には、医学博士である恭介が適任だっ…

東北縦貫ハイジャック列車行

種村直樹という人は、有名なレイルウェイライターである。新幹線、ローカル特急、寝台列車やフェリーなど動くものならなんでも乗り、駅弁や駅そば、地方の名産品などなんでも食べてたくさんの紀行文を書いた。以前紹介した宮脇俊三と比べると、より一般の利…

核兵器テロを阻止せよ

「COVID-19」のおかげで米国出張が無くなってしまったからいいのだが、米国の航空事情は決して安全ではない。複雑な手荷物検査や激しいボディチェックをするし、保安員の教育水準も高くないように見える。そんな漠然とした不安感を、すっきり証明してくれた…

行政システム開発に隠れた陰謀

本書(2015年発表)は、SF作家である藤井太洋が書いたミステリー。作者はソフトハウス勤務中からiPhoneで小説を書き始め、単行本ではなく電子書籍でデビューしたという「新世代」の作家である。今後は原稿用紙を前に苦吟する作家など、いなくなってしまうか…

ギデオン・フェル博士登場

本書(1933年発表)はディクスン・カーの6番目の長編。二人のエラリー・クイーンより1年遅れて米国に生まれた作者は、クイーンに1年遅れて「夜歩く」でデビューする。最初のレギュラー探偵はフランスの予審判事アンリ・バンコランだったが、本書でギデオ…

私の祖母に似ている

ヒトラーとの戦争を戦い抜いている時も、英国のミステリー作家たちは新作を発表し続けた。米国から英国に移り住んでいたディクスン・カーは、「爬虫類館の殺人」で、ロンドン空襲の警報音を謎解きのキーにしていたほどだ。本書もそんなころ1942年に発表され…

急行「北陸」1960

本書は、鮎川哲也の「鬼貫警部もの」。とはいえ、鬼貫警部自身は12章中の一章、30ページ余りにしか登場しない。相棒の丹那刑事も数章に登場するだけ、事件の解決は容疑者の一人だった銀行員とその恋人にサツ回りの新聞記者が語ることで読者に知らされる。 解…

ハイテク戦争研究者の戦後

高木彬光「悪魔の嘲笑」を読んで、「陸軍登戸研究所」の毒薬が出てきたので、本棚を探して本書をもう一度読んでみた。太平洋戦争が終わって30年近くたった1984年に発表された本書は、作者が「陸軍登戸研究所」の生き残りを探して日米のみか中国にまで足を伸…

暗号はとても面白いが

ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーは怪奇もの、スパイもの、実録もの、密室、本格ものなど多くのジャンルに足跡を残した。暗号ものの元祖「黄金虫」もそのひとつ。コナン・ドイルも「踊る人形」という暗号ものを書いている。これらは、通常の文字を別…

シェークスピア劇の異邦人

よれよれレインコートでフケと葉巻の灰をまき散らすやぶにらみの小男、とても探偵役には似つかわしくないのだがそれが難事件を鮮やかに解決する・・・という「刑事コロンボ」シリーズ。主演のピーター・フォークは片目が義眼の、もともとはチンピラ役が多かった…

イタリア人探偵ベネデッティ教授

本書は1979年発表の、ウィリアム・L・デアンドリアの第二作。デビュー作「視聴率の殺人」の<ネットワーク>の社内探偵マット・コブとは違い、イタリア人の名探偵ニッコロウ・ベネデッティ教授が探偵役を務める。デビュー作以上の評価を得た作品で、本格ミステ…

黒と白のブルックリン、1947

ボストンの軽妙な私立探偵スペンサーものしか読んだことのなかったロバート・B・パーカーのノンフィクション風ハードボイルドが本書。アメリカ人なら「誰も」が知っている近代最初の黒人大リーガー、ジャッキー・ロビンソンとその周辺の人物が実名で登場する…

陸軍登戸研究所の毒薬

本書は1957年発表の、高木彬光の「神津恭介もの」の比較的初期の作品。戦後間もない1948年に「刺青殺人事件」でデビューした作者と名探偵のコンビは、1961年「白魔の歌」までおおむね1年に1長編のペースで発表されていたが、その後10余年の眠りにつくこと…

失明した名探偵

シャーロック・ホームズも奇矯な性癖の持ち主だったし、そのライバルたちも平々凡々とした人はいないのはある意味当然なのかもしれない。名探偵というのは非凡な人だから名探偵なのであって、凡人型と言われるクロフツのフレンチ警部でも、もちろん鋭い推理…

コレクターとの闘い

デイヴィッド・マレルと言う作家の名前を見て、どこかで聞いたなと思った。表紙を見て、砂漠の戦闘小説かなと思って購入し、帰りの列車で解説を見て、マレルのデビュー作は「一人だけの軍隊」だったことを知った。そう、デイヴィッド・マレルは映画「ランボ…

横浜・京都・塩釜を結ぶ道

本書も津村秀介のアリバイ崩しもの、ルポライター浦上伸介が容疑者のアリバイを実際にその街に出掛けその列車や飛行機に乗って検証するストーリー。いわゆる「トラベルミステリー」なのだが、風光明媚な地を巡りながらもどちらかと言えば「鉄道ヲタク」的な…

ベーブ・ルースの記録を破るもの

作者のポール・エングルマンは大手雑誌の編集者、本書(1983年発表)がデビュー作である。舞台は1961年のニューヨークで、主人公の私立探偵マーク・ペンズラーは、マイナーリーグの二塁手だった男。ニューヨークを本拠地にしたメジャー球団ジェンツへの昇格…

「徴員」という不思議な身分

東郷艦隊がバルチック艦隊を破った20世紀初頭、戦闘艦のエネルギー源は石炭だった。その後石油が動力源として台頭したが、日本列島は石炭は産しても石油はほとんどない。満州事変から大陸での戦線が拡大してゆくにつれ、日本政府(軍)は戦争には石油が必要…

NOと言わせる日本

このところ国際情勢がとてもキナ臭くなってきて、ひょっとすると第三次世界大戦でも起きないかと心配の日々である。一昨日「海洋国家日本」を目指すためのヒントを軍事評論家の書で紹介したが、憲法9条改正にしても敵基地攻撃能力にしても一朝一夕で出来る…