新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

基本的には「逆張り」思想

もともとは作家崩れのエンジニアなので、一番苦手なものはと聞かれれば「お金」と応えることにしている。それでも人生にある程度は必要なのが「お金」であることは知っていて、苦手ながら勉強はしなくてはと思っている。本書は、世界3大投資家のひとりジム…

プロたちの「Private War」

本書(2000年発表)は先月「トロイの馬」を紹介した、J・C・ポロックのアクション小説。レギュラー主人公を持たない作品集だから、本書の主人公は元デルタフォース隊員のベン・スタフォード。例によってふんだんに戦闘シーンや軍用兵器が登場する。これまでは…

二つのコンドミニアム

ABC・・・順にタイトルを付けていった、スー・グラフトンの第二作が本書。デビュー作から3年を経た、1985年の発表である。主人公は、南カリフォルニアの架空の街サンタ・テレサに住む女私立探偵キンジー・ミルホーン、32歳。健康に気づかいジョギングなどに余…

チャーチル誘拐作戦、1943

本書は、恐らくはジャック・ヒギンズ最高の傑作と思われる。1975年に出版された後、削除されていたエピソードを加えて1982年に再版されている。本書は再版版の翻訳である。空挺部隊は第二次世界大戦で登場した新しい兵種、敵陣深く侵攻でき軽装備ながら厳し…

極北の9人の囚人

以前映画「コブラ」の原作となったアクション小説「逃げるアヒル」を紹介した、ポーラ・ゴズリングの第二作が本書。決まった主人公やある種のパターンを持たない作家と言われているが、本書は思い切った舞台設定をしたエスピオナージ風のミステリーと言える…

ホークという男

2005年発表の本書は、ロバート・B・パーカーのスペンサーものの32作目。1973年「ゴッドウルフの行方」でデビューしたボストンのちょっとヤクザな私立探偵の活躍も、30年以上に渡っている。恋人スーザンに去られてしまったり、灰色の男(Gray Man)に撃たれて…

マサチューセッツ総合病院、1969

本書は「緊急の場合は」でデビューし「アンドロメダ病原体」で一世を風靡し、のちに「ジュラシックパーク」を始めとするベストセラーを生んだマイクル・クライトンの第三作である。ただ本書はミステリーでもSFでもなく、米国の医療体制・病院などの実態を描…

一生に一度の機会

深谷忠記は、「壮&美緒シリーズ」の合間に年1作程度「ノン・シリーズ」を発表している。「壮&美緒シリーズ」は地方色の強いアリバイ崩し中心の本格ミステリーだが、ライバルとも言える「浦上伸介シリーズ」の方が僕は好きだ。しかしこの作者にはパターン…

鬼才の本格ミステリー

ジョン・スラデックは米国の作家、SFやミステリー・ノンフィクションも書いたが、いずれもパロディ色の強いものだという。面白いのはSF長編に1983年発表の「Tik Tok」という作品があること。今、米中間で問題になっているサービスとの関係は不明だ。 ミステ…

モサド副長官の娘

先日藤沢のBook-offで、NCIS(ネイビー犯罪捜査班)のシーズン4と5、9を見つけた。これで安心してシーズン3を見ることができる。貧乏性の僕は、これが最後・・・と思うと固まってしまって前に進めないのだ。 シーズン2を見終わって数カ月たつ。最終話でレ…

古代ケルトの「ブレホン法典」

7世紀のアイルランド、そこは非常に人道的な法体系が整備され、市民が権利を主張できる公正な裁きの場があったと本書は紹介している。当時のアイルランドはケルト人の国家だった。多くの部族が緩やかな連携を保っていて、外来の侵略者があればこれと共同し…

三枚のベリル・クックの絵

本書(1998年発表)は以前「容疑者たちの事情」を紹介した、ジェイニー・ボライソーのコーンウォールミステリーの第二作。画家兼写真家のアクティブな未亡人ローズが、また殺人事件に巻き込まれる。前作以上にローカル色が強く、ほとんどの登場人物がコーン…

コロンボ警部の犯人捜し

ロス・アンジェルス市警のコロンボ警部、殺人課所属だから殺人犯人を捜すのは当たり前のこと。しかしいつも彼は「捜し」てはいない。多くの事件で現場にあのボロ車(プジョーらしい)で現れた時は、すでに犯人の目星がついているように見える。まあ読者/視…

汎用AIが登場した後の経済政策

AI(人工知能)は技術として急速な発展を見せている。かつてチェッカーやチェスではコンピュータが人間のプロに勝てても、将棋ましてや囲碁では難しいとされていたが、今は最難関のゲーム囲碁でのプロ棋士がAIに負け、囲碁界に「AIブーム」を巻き起こしてい…

英国で一番有名な探偵

本書は、先月「別室3号館の男」を紹介したコリン・デクスターのモース警部ものの1冊である。かの記事では英国人が「日本人もツウだな」と評したことを紹介しているが、日本での評判と英国での評価には乖離があるようだ。 本書の解説に、英国の雑誌<ミリオ…

ありったけの航空支援

「アメリカン・スナイパー」は、イラクで多くの敵兵やゲリラを仕留めた伝説の狙撃兵クリス・カイルの自伝である。クリント・イーストウッド監督で映画化もされたのだが、この本の共著者がスコット・マキューエン。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/201…

思ったほど過激ではなく

「アベ友の右翼」とWeb上では非難されている作家の百田尚樹、デビュー作「永遠のゼロ」で有名だがそれよりも強面の論客との印象が強い。しかし直接インタビューを聞いたわけでも、もちろん著作を読んだわけでもない。ある日Book-offの100円コーナーに本書が…

首相の座に昇るとき、辞めるとき

本書は先月別ブログで「朝まで生テレビ、400回記念」を紹介した、ジャーナリスト田原総一朗の日本現代史。内容は池田隼人から安倍晋三にいたる、日本の歴代首相の言動・思考である。特に後半(1989年以降)は、首相やその周りにいる人、対立する人などを「サ…

いやいや弁護士の日常

作者のスコット・プラットは本書(2008年)がデビュー作。新聞記者やコラムニストから弁護士に転じ、7年間刑事弁護士を務めた。その後子供のころから成りたかった作家になったという経歴。米国には日本の人口比で補正しても、10倍ほどの弁護士がいるという…

エヴァン・ハンターの短編集

多くのペンネームを駆使して、いろいろな作風の長短編を世に出した多作家エヴァン・ハンター。生まれた時の名前はサルヴァトーレ・ロンビーノ、後にハンターと本名も変えている。本名名義の作品では。「暴力教室」というハイスクールの学級崩壊を描いたもの…

Google MAPのおかげ

本書は、何度も紹介している津村秀介のアリバイ崩しもの。このシリーズの特徴は、ルポライター浦上伸介とその仲間たちが、犯人と目される人物の鉄壁とも思えるアリバイトリックを暴くことにある。しかしトラベルミステリーの要素もあって、多くは日本国内だ…

市警本部長セオドア・ルーズベルト

1980年代の米国ミステリー界を代表するパズラー、ウィリアム・L・デアンドリアの第三作が本書。1952年ニューヨーク生まれ、子供のころからエラリー・クイーンを読みふけり、クイーンを目指して作家になったという。デビュー作「視聴率の殺人」以降クイーン仕込…

抱腹絶倒のホームズ譚

1887年末ストランド誌に短編の連載が始まった「シャーロック・ホームズ」ものは、読者の賞賛を浴び作者のコナン・ドイルはサーの称号すら得るに至った。E・A・ポーに始まるミステリーの系譜の中で、ホームズものが占める歴史的価値は偉大である。それゆえ…

黒魔術・交霊術が呼ぶ悲劇

「16歳の誕生日を間近に控えた冬、バップは悪魔に魂を売った」という衝撃的な一文で始まるのが本書。サイコ・サスペンスの女王ルース・レンデルが、オカルトが趣味の頂点を目指した作品である。 舞台はロンドンの下町、小柄で風采が挙がらない父親ハロルド、…

国際政治の入門書

米中対立からかなりキナ臭い国際情勢になってきたので、先人の知恵に学ぼうと関連の書を時々読んでいる。「先人」ではあるが、同世代の論客として僕が一番頼りにしているのがこの人、東大の法学政治学研究科藤原帰一教授である。本書は2012年ごろに「kotoba…

クローゼットの中の軍用犬

E・S・ガードナーの「ペリー・メイスンもの」の特徴は、その法廷シーンにあるといって差し支えない。前回紹介した「危険な未亡人」事件では、それがなくてちょっとがっかりした。見ようによっては些細なことをこねくりまわして時間稼ぎをしているようなメイス…

十二試艦戦への要求仕様

零式艦上戦闘機、通称「レイ戦」こそが、日本にとっての太平洋戦争の主役だった。この機種が空を制していた時期には日本軍は勝ち続け、その能力を失った後は負け続けた。本書は「零戦」の主任設計者堀越二郎が、その戦闘機の生涯を回顧したものである。 筆者…

「対外情報庁」構想

以前日露戦争当時のロシアロマノフ王朝に対する破壊工作を指揮した、明石元二郎大佐の活躍を紹介した。太平洋戦争後、日本人は情報戦についての知識が欠如していると評されるが、情報戦に限らず軍事力を持たないとする憲法がある国なので、致し方あるまい。 …

「斧・琴・菊」の怨念

敵性国家の象徴でもある「探偵小説」が軍国体制で抑圧されていた時代、愛好家たちは「捕物帳」に逃げ込んで時代が変わるのを待っていた。横溝正史も「人形佐七」などの諸作を書いていたが、晴れて(と言いましょう)戦後となり、堂々と本格探偵小説を書ける…

大統領というストレスフルな商売

本書(2000年発表)は、トム・クランシーがスティーヴ・ピチェニックと共著した「オプ・センターもの」の第七作。以前紹介した「国連制圧」の次作にあたる。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/03/14/000000 「国家危機管理」を目的に作られたオプ…