新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

犯罪小説

フレンチ・ノワールの名作

本書(1953年発表)は、フランス暗黒文壇の大御所オーギュスト・ル・ブルトンのデビュー作。ただ日本では作者の作品は、「シシリアン」「無法の群れ」の2作品しか出版されていない。本書も2003年になって、ようやくハヤカワ・ポケミス>に加わっている。 1950…

ノルウェーの犯罪小説

本書は2015年にノルウェーで発表された犯罪小説、作者のジョー・ネスボもオスロ在住のサスペンス作家だ。作者は2000年代から、児童向けの<Dr.プロクターもの>や一般向けの<刑事ハリー・ホーレもの>を書いている。 本書の舞台は1977年クリスマス前のオス…

暗黒社会の純愛物語

1993年発表の本書は、昨日「赤毛のストレーガ」を紹介したアンドリュー・ヴァクスの「バークもの」とは別のシリーズの第一作。「バークもの」は合計6作を数えたが、解説によると「赤毛・・・」以降、ヒステリックになっていく幼児虐待などが目立ち、本来シリー…

リアルで緻密なノワール

1987年発表の本書は、アンドリュー・ヴァクスの「私立探偵バークもの」の第二作。デビュー作「フラッド」は入手できていない。バークは、前科27犯で免許もない私立探偵である。ハードボイルドというには闇の世界に近すぎるが、犯罪小説というには矜持があり…

Mission Impossible, 1855

SF「アンドロメダ病原体」から、ミステリー「サンディエゴの12時間」、ノンフィクション「5人のカルテ」まで、才人マイクル・クライトンの諸作をこれまで紹介してきた。1975年発表の本書は、ドキュメンタリータッチの歴史ミステリーである。蒸気機関で機動…

19歳赤毛の美女、危険につき

1942年発表の本書はハドリー・チェイス作で、昨日紹介した「ミス・ブランディッシの欄」の続編。発禁になった前作から4年だが、ストーリーとしては20年が経過している。牛肉王の娘ミス・ブランディッシは、ギャング団の殺し屋スリムに監禁され数ヵ月を過ご…

発禁となったバイオレンス小説

1938年、本書が発表されると英国ミステリー界は騒然となった。作者ハドリー・チェイスは本書がデビュー作、この後多くのバイオレンス・犯罪小説を世に送る。米国のギャングなど無法者ばかりが登場する小説が、ついに大英帝国でも発表されたのだ。しかも本家…

米国を横断した無軌道な犯罪

昨日、ペーパーバックライター出身の作家ジョン・D・マクドナルドの初期の作品「ケープ・フィアー」を紹介した。米国では有名な作家なのだが、日本では知る人は少ない。本書(1960年発表)は中期の秀作で、創元社が最初に作者の作品を邦訳したものである。 冒…

金髪の小柄な悪女

1947年発表の本書は、「幻の女」などで高名なサスペンス作家ウィリアム・アイリッシュ(別名:コーネル・ウールリッチ)の作品。熱烈なファンの多い作家で、その哀愁を帯びたサスペンスは他の追随を許さないほどの「高み」にある。徹底して犯罪の中の男女の…

Crime Impossible

1972年発表の本書は、デビュー作「やとわれた男」や悪党パーカーシリーズを紹介しているドナルド・E・ウェストレイクの、パーカーものとは違うシリーズの1作。これも犯罪者が主人公で、カネの話が中心になるのだが、パーカーものよりはすこしユーモラス。あと…

臓器移植の裏ビジネス

1994年発表の本書は、ニック・ガイターノのデビュー作。作者についてはシカゴ在住である以上の情報はほとんどなく、手慣れたストーリー展開などからすでに成功を収めた作家の別名義での発表ではないかとも言われている。 原題の「Special Victims」というの…

ケラーは旅が好きだ

ローレンス・ブロックという作家にはシリーズものが3種あって、以前何作か紹介したマット・スカダーものが17冊翻訳出版された以外は、泥棒バーニイものも怪盗タナーものも書店で見かけない。ただ米国ではサスペンス小説で名の通った作家である。マットもの…

アイロニカルなフレンチ・ノワール

1956年発表の本書は、フランス作家ノエル・カレフの代表作。作者は同年に「その子を殺すな」でデビュー、パリ警視庁賞を受賞している。本書は翌年にはルイ・マル監督で映画化もされ、今となっては映画の方が有名かもしれない。さらに1958年には、創元社が邦…

ウィチタの極寒のイブ

2000年発表の本書は、カンザス州ウィチタ生まれのスコット・フィリップスのデビュー作。作者は現在南カリフォルニア在住とのことだが、この作品の舞台もやはりウィチタだ。地図を見るとテキサス州の北、米国のアラスカ・ハワイを除く国土のちょうどど真ん中…

異常な指向、過度な嗜好

本書は長くサスペンス小説を書き続けた、パトリシア・ハイスミスの短編集。以前「殺意の迷宮」を紹介しているが、作者を有名にしたのは長編「太陽がいっぱい」「見知らぬ乗客」とアラン・ドロン主演で評判を呼んだ映画である。長編デビューの前から短編でも…

病める大物俳優の回想

1989年発表の本書は、多芸多才な作家ドナルド・E・ウェストレイクの「ノン・シリーズ」。以前紹介した「斧」は米国雇用事情を「鉤」は出版業界を風刺したものだが、本書で作者の矛先は映画業界に向かう。 10歳代から演劇、映画業界で活躍した大物俳優ジャック…

短編小説は「愛の産物」

日本ではあまり知られていないが、奇妙な味とハードボイルドな感覚を併せ持った作家にローレンス・ブロックがいる。約50の長編小説と多数の短編小説がある。本書は、1964~1984年に発表された18の短編を収めたもの。長編小説の1/3ほどに登場する私立探偵マシ…

3人の財務省特別調査官

米国には通常の警官の他、連邦捜査機関のFBI、海軍の捜査組織NCISなどがあって、独自の捜査を担当する。本書(1984年発表)には、財務省の特別調査官が登場する。国税庁ではないので、税務調査をするわけではない。主なターゲットは金融犯罪、特に偽札等の偽…

悩める小説家たち

以前ドナルド・E・ウェストレイクのノンシリーズ「斧」を紹介した。リチャード・スターク名義で「悪党パーカー」シリーズを書くなど、広範な作風で知られる作者だが、「斧」はシリアスな中にも米国製造業の空洞化を風刺した傑作だった。そこで、同じスタイルで…

救いのない物語は始めから

1950年発表の本書は、以前「殺意の迷宮」を紹介したサスペンス作家、パトリシア・ハイスミスのデビュー作である。普通ミステリー作家は、ホームズやクィーンもしくはマーロウなどの探偵ものを読んで、ミステリーを書こうとするものだ。しかし作者は、デビュ…

失業者ゆえの計画殺人

ドナルド・E・ウェストレイクという作家が本当に作風の広い人で、ペンネームも複数を使い分けている。ざっと見ただけでも、 ・ウェストレイク名義のハードボイルド 「やとわれた男」他 ・リチャード・スターク名義の悪党もの 「悪党パーカー」シリーズ ・タッ…

素人たちの「Mission Impossible」

特段練習などしなくても、ある種のスキルに秀でている人というのはいるものだ。本書の作者ジェフリー・アーチャーは、文章やストーリーテリングの分野において間違いなく「天賦の才能」を持っていると思う。オックスフォード大卒、史上最年少の26歳でロンド…

地中海の異邦人たち

作者のパトリシア・ハイスミスは「見知らぬ乗客」(1950年発表)でデビューしたサスペンス作家。1955年に「太陽がいっぱい」でフランス推理小説大賞を受賞、本書(1964年発表)で英国推理作家協会賞外国作品賞を受賞している。米国テキサス生まれの作者だが…

ピアニスト41歳の迷い

本書(1980年発表)は、カメレオンのように作風を変えるポーラ・ゴズリングの第三作。「逃げるアヒル」でアクションものを、「ゼロの罠」でエスピオナージを発表して、本書「負け犬のブルース」は音楽界を深く掘り下げたラブ・サスペンスというべきだろうか…

エヴァン・ハンターの短編集

多くのペンネームを駆使して、いろいろな作風の長短編を世に出した多作家エヴァン・ハンター。生まれた時の名前はサルヴァトーレ・ロンビーノ、後にハンターと本名も変えている。本名名義の作品では。「暴力教室」というハイスクールの学級崩壊を描いたもの…

小噺風ミステリー

本書は独特な作風で知られるドナルド・E・ウェストレイクの短編集、「奇妙な味」の短編ミステリーを中心に13編が収められている。1978年の発表だが、内容は時間や洋の東西を越えたもので、現代の東京に置き換えても(携帯電話・スマホを除いては)そのままミ…

Global TAX Warfare

いわゆるGAFAのような企業が税金を十分に払っていないという指摘は昨年急に脚光を浴びてきて、フランスなどは(ルクセンブルグにEU本社のある某社に)独自の課税をすると息巻いている。EU内のサービス提供は、どこかの加盟国で税金を払えばいいはずなのに・・・…

カジノ船という要塞

ドナルド・E・ウェストレイクは作風の広い作家でユーモア色の強いものから、本書「悪党パーカー」もののようにリアルを追求したものもある。すでに2作ほど紹介しているこのシリーズ、恋人(というより情人?)クレア以外は決まったレギュラーがおらず、パー…

東大法学部の4人

高木彬光は後年の「検事霧島三郎」シリーズが有名だが、デビュー作「刺青殺人事件」(1948年)は怪奇なテイストの本格密室ものだった。その後東大医学部の神津恭介を探偵役にしたシリーズで本格ミステリーを書き続けていたが、社会派ミステリーへの転機とな…

等身大の女性制服警官

本書の作者であるローラ・リン・ドラモンド自身、制服警官であったが事故で警官として勤務が難しくなり大学で学び直した後、作家に転じている。彼女は、自分自身の経験から等身大の女性制服警官を描いた。とかくミステリーでは、警官は素人名探偵や殺人課の…