新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スパイスリラー

マルコ殿下、日本初登場

ジェラール・ド・ヴィリエの連作小説、プリンス・マルコシリーズ。第一作「イスタンブール潜水艦消失」以降、年間4作のペースで発表されている。本書は、1978年の発表。僕はこのシリーズを昔ある程度読んだのだが、40年経って三軒茶屋のBook-offで40冊ほど…

二つの大戦間に跳梁した犯罪者

以前「あるスパイの墓碑銘」を紹介した、エリック・アンブラーの第五作「ディミトリオスの棺」は長らく手に入らなかった。僕にとっては「名のみ知られた名作」のひとつである。先日例によってBook-offでみつけ、カバーもなくページの中まで日焼けが進むなど…

ベルギー人の愛国心

「ザイール共和国」という名称は、1971年~1997年の間モブツ・セセ・セコ大統領がこの地を統治していた時期のもので、現在はコンゴ民主共和国という。さらに昔の呼び方は、「ベルギー領コンゴ」であった。ベルギーは欧州では小国だが、コンゴのような広大な…

再びチムニーズ荘にて

本書は女王アガサ・クリスティーの長編第9作、1929年発表である。「明るいスパイもの」が大好きのクリスティー、第8作まで3作連続ポアロもので地歩を築いてきたのだろう、ここでまた書きたいものを書いた。舞台は4年前の「チムニーズ荘の秘密」と同じで…

KGBのスリーパー

ジャック・ヒギンズの諸作は、第二次世界大戦終盤を舞台にした「鷲は舞い降りた」「鷲は飛び立った」から現代まで、連綿と続く大河ドラマのようなものだ。「鷲は舞い降りた」でチャーチル誘拐を狙うドイツ将校シュタイナー少佐を助けたIRAの闘士リーアム…

スパイは紳士のお仕事

CIAの業務委託でリーツェン城の修復資金を稼いでいる、神聖ローマ帝国第18代大公のマルコ・リンゲ殿下。その冒険の多くは発展途上国でのものなのだが、今回はウィーンから至近のロンドンでの活躍である。米ソ冷戦も終わりに近づいていた1977年発表の本書では…

戦略兵器としての石油

マルコ殿下、ひさびさのアメリカでの活躍である。といっても冒頭は平和な殿下のお城「リーツェン城」でのパーティシーンから。CIAから貰う命の代償の資金で荒れ果てた城は少しづつ復旧、殿下も住めるようになりパーティも開けるようになった。 殿下自身も…

東シナ海、2017

米中対立に台湾の来年の総統選挙もからんできて、東シナ海の緊張は緩むことはないのだが、世界の注目が集まるこの海域を舞台にした軍事スリラーをぽつりぽつり見かけるようになってきた。 本書の発表は2015年、まだアメリカは安定しており中国は軍拡を続ける…

女王初期の習作

ミステリーの女王アガサ・クリスティーも、デビュー間もない頃は自分のスタイルを見つけるために苦労をしていたようだ。僕としても、デビュー作「スタイルズ荘の怪事件」、第6作「アクロイド殺害事件」を除いては1920年代の諸作は(ミステリーとしては)評…

成長する島国の陰で

ジェラール・ド・ヴィリエのプリンス・マルコシリーズは、世界のいろいろな国や街を巡る。最近海外へ出かけることが多くなった僕には、今のその国/街と数十年の時間差を空けた比較を楽しむこともできる。1976年発表の本書の舞台はシンガポール、最近何度も…

レイルバロン時代の終わり(後編)

20世紀になったばかりの頃、アメリカ大陸の横断には最低4日を要した。「Wrecker」のテロは、カスケード・ギャップに限らずニューヨークなど東海岸にも及び、アイザック・ベルはサザン・パシフィック鉄道の特急券を利し、時には専用列車を仕立てて東海岸と西…

レイルバロン時代の終わり(前編)

クライブ・カッスラーも多作家である。「NUMA」のダーク・ピットシリーズは昔よく読んだ。サハラ砂漠を飛行機の残骸を基にした帆走ソリで脱出する話など面白かったが、さすがにあれだけ書くと飽きてくる。作者もそうだったのだろう。ピットの子供たちを登場…

白人支配は悪だったのか?

コンゴの南でアンゴラという国が独立しようとしていたころ、作者ジェラール・ド・ヴィリエの関心はこの国にあったようだ。アフリカだけではなく、欧州(白人)諸国の支配が世界中で終わろうとしていた時代である。柘植久慶の作品にも再三出てくるが、このよ…

マルコ殿下のクーデター計画

ザンジバル島は、タンザニア沖のインド洋に浮かぶ沖縄と同じくらいの面積を持つ島々である。本書の発表の1973年に先だつ1963年にイギリスから独立、タンザニアと合併しながら強い自治権をもつ「ザンジバル革命政府」が統治している。現在の人口は100万人あま…

使い捨て工作員の意地

元SAS隊員の覆面作家、アンディ・マクナブのニック・ストーンもの第5作が本書。前作で、蒸し暑いパナマでCIAの仕事として、単身中国人の子供を狙撃するという唾棄すべき任務に就いていたストーンだが、今回も(別の意味で)唾棄すべきミッションに放…

矜持ある軍人の孤独な闘い

先日、プリンス・マルコがベルリンの壁を越えるという活躍をした「チェックポイント・チャーリー」を紹介したが、それは1973年の発表。それから10年近くたって、ギャビン・ライアルが本書を発表した。「影の護衛」に続くマクシム少佐シリーズの第二作で、こ…

名探偵、マルコ・リンゲ殿下

神聖ローマ帝国大公であるマルコ・リンゲ殿下は、リーツェンの城の修復・維持費用を賄うため、CIAの手先となって世界を走り回っている。米国政府がオフィシャルに手を出せない案件、CIAの「長い手」すらも手の出ないような案件を任されるのだが、普通は人質…

ドイツスパイ網との闘い

かつてイギリス出張の時に機中で見た映画「ダンケルク」、陸海空の独立した視点からセリフをぎりぎりまで排除して、そこで何があったのかを映像で示そうという意図がある作品。実際の現場となったダンケルクで、撮影をするという徹底ぶりらしい。 このときヒ…

嘘というボディガード(後編)

ブリテン島にいたスリーパーは、ドイツ人の父とイギリス人の母を持ち、子供のころイギリスで暮らしていたこともある、アンナ・カタリーナ・フォン・シュタイナー。フォンという名が示すように、父親はドイツ貴族でありネイティブ同様の英語を話すこともでき…

嘘というボディーガード(前編)

古来、ジャーナリストが作家に転じることは多い。1996年に本書でデビューしたダニエル・シルヴァもジャーナリストだった。それも、CNNのエグゼクティブ・プロデューサー在職中に書いたのが本書というから、どこにそんな時間があったのだろうかと驚いた。湾岸…

CIA分析官、サー・ジョン

ラリー・ボンドとたもとを分かち、トム・クランシーはサスペンスフルな作品を多く発表するようになった。主人公としてのジャック・ライアン一家も、時代とともに成長しついには大統領になる。一方若い頃のジャック一家を書くこともあり、本書はその代表的な…

ダッハウ収容所事件の後日談

マイケル・バー=ゾウハーはブルガリア生まれのユダヤ人(もしくはユダヤ系)で、ナチスの迫害を逃れて出国、その後イスラエルに住みついた。パリで学び、イスラエルの新聞社でパリ特派員、イスラエル軍で機甲部隊や空挺部隊に所属し、ダヤン国防相の報道秘…

ドイツが二つあったころ

そんな時代が終わろうとしてドイツ統一が取りざたされていたが、フランスの有名なドイツ嫌いの人がインタビューに応えて「皆さんは私がドイツを好もしく思っていないと思われているようだが、実はそうではない、ドイツは大好きだ。だからこそ、これからも2…

大公殿下自身の事件

神聖ローマ帝国大公であり、リーツェン城の城主であるマルコ・リンゲ殿下は、城の修復・増築・庭園拡大などに多額の費用を必要としている。CIAの仕事を10万ドル単位で引き受けて、何度も命の危険を冒しながらようやく城が棲めるようになってきた。婚約者で、…

カリブ海でのCIA工作

プリンス・マルコには、どうしてもお金が必要な事情がある。オーストリアのリーツェンの城の復旧が(CIAからのお金で)進み、ようやく一部で住めるようになったのだが、まだまだお金が必要なのだ。その上フィアンセのアレクサンドラ(毎回名前だけ出てくる美…

マルコ殿下のFS作戦

太平洋は、地球で一番広い海である。広大なエリアに良港は数えるほどしかない。北部ではハワイ、ミッドウェー、ウエーキ、小笠原、中部ではトラック、クェゼリン、パラオ、グアムなどがある。南部では、本書の舞台である、フィジーやサモアが代表的なものだ…

ハリウッドのナバホ族

以前エラリー・クイーンの「ハートの4」、レイモンド・チャンドラーの「かわいい女」を紹介している。前者は、第二次世界大戦がまだ始まっていない1938年の発表。映画が興隆していたころで、ミステリー作家も原作者として動員されていた。ハリウッドもまだ…

ジム・トンプソン事件を追うマルコ

1967年3月、バンコク在住の絹ビジネスマンであるジム・トンプソンは、マレーシアの高級別荘地キャメロンハイランドで消息を絶った。8月にはアメリカ在住の実姉が殺害されるという事件もあったが、いずれも未解決のままである。ジム・トンプソンのシルクは…

浴槽から大海へ

テリー・ヘイズという人はジャーナリストだったが、映画「マッドマックス2」から脚本を書き始め、クリフハンガー・サラマンダー・フライトプランなどの脚本を手がけた才人である。彼が、2012年小説家としてのデビューを果たしたのが本作「ピルグリム」であ…

香港、1968

およそ50年前の香港。イギリスの施政権下にあり返還の期限までまだ30年近くあるのだが、1万人あまりのイギリス人に対し100倍以上の中国人が生活していて「毛沢東の影」が色濃く指している。おなじみのCIAエージェント、プリンス・マルコ・リンゲ大公殿下は…