新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スパイスリラー

還暦カルテット、逃避行から反撃へ

2022年発表の本書は、歴史ミステリ作家ディアナ・レイバーンが「年配女性のカッコよさ」をテーマに書いたスパイスリラー。WWⅡで各国は、多くの諜報機関を作った。そのいくつかは正式に国家所属となった(例:OSS⇒CIA)が、闇組織として残ったものもある。<…

片目のジャックのアヘン戦争

1987年発表の本書は、従軍経験のあるフリージャーナリスト、アンドルー・カプランのスパイスリラー。作者はテルアビブ大学在学中に<六日間戦争>に参加、米国に帰国後も陸軍に入隊している。本書ともう1篇、片目のジャックことジャック・ソーヤーものを書…

地味なスパイが追うナチ戦犯

1965年発表の本書は、米国探偵作家クラブの最優秀賞に輝いたスパイ小説。本書でデビューしたアダム・ホールと地味なスパイであるクィラーは、以前「暗殺指令タンゴ」を紹介したことがある。スパイスリラーは古典である「外套と短剣」ものから、シリアスな、…

サンタ・テレサ、1943の事件

本書は以前「幽霊の2/3」「家蠅とカナリア」などを紹介した、ヘレン・マクロイの心理探偵ベイジル・ウィリングものの1冊。時代が第二次欧州大戦真っ盛りの1943年ということで、本格ミステリーながらスパイスリラーといってもいい筋立てになっている。 舞台…

原爆の父を狙うアラブ青年

1976年発表の本書は、英国の国際サスペンス作家ジェラルド・シーモアの第二作。1975年のデビュー作「暗殺者のゲーム」が好評を博し、「ル・カレ以来の衝撃的なデビュー」と讃えられている。作者はもともとジャーナリスト、TVのレポーターからテロ・破壊活動…

「スパイ小説の詩人」中期の作品

レン・デイトンは英国のスパイスリラー作家。作者は「スパイ小説の詩人」とあだ名されていて、後期(1980年代)のSISサムスンもの三部作(全て紹介済み)が有名だ。邦訳は光文社から出版されている。しかしそれ以前にもいくつもの作品を発表していたが、それ…

1,100万人のユダヤ人抹殺計画

2019年発表の本書は、オーストリアの歴史ミステリー作家アレックス・ベールのWWⅡユダヤ人悲話。1942年春、前年に始まった独ソ戦はドイツにも大きな負担を与えていた。ナチス幹部は荒廃したポーランドやベラルーシなどの土地を、ユダヤ人の労働力で再生させよ…

国内ミッションが多くなって

このDVDは、これまで2~5シーズンまでを紹介してきた「Mission Impossible」のシーズン6。1972年に放映されたもので、それまでとはやや趣が異なってきた。シーズ2~3のころは、大半が海外ミッション。東欧が舞台(の設定)だったことが多い。だから指令…

現代エスピオナージの古典

1963年発表の本書は、ようやく手に入ったジョン・ル・カレの名作。以前紹介した「高貴なる殺人」に次ぐ第三作で、作者の名前を不朽のものにした現代エスピオナージの古典的作品。米国探偵作家クラブ賞と英国推理作家協会賞をダブル受賞している。 オランダ語…

紅茶を飲む魔女の管理術

このDVDは、「NCISーLA:潜入捜査班」のシーズン4。前シーズンからよりエスピオナージ色が強くなり、終盤から登場する副局長グレンジャーと、管理部長ヘティの過去の連携と現在の対立が描かれる。このシーズンを通じて何度か登場するのが、冷戦時代ソ連が米…

カタレプシー患者と東欧を行く

1966年発表の本書は、昨日紹介した「怪盗タナーは眠らない」のシリーズ第二作。アル中探偵マット・スカダー、泥棒バーニー、殺し屋ケラーなど多くのレギュラーを持つローレンス・ブロックの作品中でも、かなり独特なものだと分かった。解説にはユーモアミス…

才人ブロック初期のシリーズ

不思議な作風の作家ローレンス・ブロック。これまでいくつかの短編集と、アル中探偵「マット・スカダーもの」、軽妙洒脱な泥棒「バーニーもの」を紹介している。今回手に入った本書(1966年発表)が、初期のシリーズ「怪盗タナーもの」の第一作である。 エヴ…

イスラエル建国前史、WWⅠ

1988年発表の本書は、これまで「過去からの狙撃者」「パンドラ抹殺文書」など出色のスパイスリラーを紹介してきた、マイケル・バー=ゾウハーの歴史スパイもの。WWⅠ当時、パレスチナを含むアラビア半島全域はオスマン・トルコ帝国支配だった。パレスチナには…

女王のB級スリラー

女王アガサ・クリスティは、本書発表の1927年には私生活で非常に不安定な状況にあった。翌年には最初の夫アーチボルトと離婚することになるし、この年には失踪事件も起こしている。後に二度目の夫マックス・マーロワンと再婚してから、長期にわたり高品質の…

1月20日の正午がデッドライン

1980年発表の本書は、英国情報部の10年程在籍したテッド・オールビューリーのエスピオナージュ。20作以上の作品があり、TVドラマのシナリオ等も手掛けた人だという。本書は11作目、舞台は米国で大統領選挙の背景にあるソ連の陰謀を、SIS局員のマッケイとCIA…

チームをアクシデントが襲う

このDVDは、これまでシーズン2~4を紹介した「Mission Impossible」のシーズン5。さすがに女性レギュラーの不在はまずいと思ったのか、今回ダナ・ランバートが加わった。レスリー・ウォーレンが演じる、ソバカスと大きな目が特徴の美人スパイだ。さらにダ…

スパイものに回帰した女王

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、本当はスパイものが大好き。デビュー作「スタイルズ荘の怪事件」でもその傾向があるし、トミー&タペンスが登場する4作は明るいスパイものの典型だった。1970年発表の本書は、ポワロもマープルも登場しないノンシリ…

駐ベルン公使館海軍武官の闘い

1966年発表の本書は、多作家西村京太郎の初期の作品。前年サリドマイド訴訟をテーマにした社会派ミステリー「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を獲得した作者が、一転して太平洋戦争当時の日米和平工作を描いたスパイスリラーとして世に送ったもの。 「寝台特急殺…

世界を駆けるカレンたち

このDVDは「NCIS:LA潜入捜査班」のシーズン3。前シーズンの最後に主人公G・カレンのルーツが東欧にあったことがわかる。やはり背後にいたのは管理部長のヘティ。現地に乗り込んだ彼女を救うため、カレンのチームはルーマニアの黒海沿いの街に潜入した。 ル…

ハンブルグに来たイスラム青年

2008年発表の本書は、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの晩年の作品。昨年回想録「地下道の鳩」を紹介しているが、どうも本格スパイ小説を紹介するのは初めてらしい。舞台はドイツの港町ハンブルグ、そこにやってきたやせぎすのイスラム青年イッサ。チェチェ…

国際謀略小説の傑作

2008年発表の本書は、「過去からの狙撃者」など諸作を紹介しているマイケル・バー=ゾウハーの近作。ブルガリア生まれのユダヤ人で、恐らくは<モサド>の一員として中東戦争を戦い抜き、作家に転じている。その経験からくるインテリジェンスは、他の作家の…

極右組織のホワイトハウス攻略

1995年発表の本書は、以前「氷壁の死闘」を紹介した冒険作家ボブ・ラングレー晩年の作品。「氷壁・・・」が第二次欧州大戦を舞台にした山岳冒険小説だったように、作者は何らかの紛争を背景にした謀略小説が得意だ。 本書では<ムーブメント>という極右組織が…

ローヌ河口の低湿地帯

以前、シュタイナ中佐を主人公にした「鷲は舞い降りた」「鷲は飛び立った」や、IRAの天才的テロリストショーン・ディロンものを紹介しているジャック・ヒギンズが、それらに先駆けて発表したシリーズがある。1960年代にマーティン・ファロンなどの名義で、英…

ワシントンDCのラブストーリー

1982年発表の本書は、第二次世界大戦にパイロットとして従軍経験もある脚本家デビッド・オズボーンのスパイスリラー。作者はマッカーシズム旋風の時期には米国を離れていたが、1976年に欧州から戻っている。欧州にいたころからぽつりぽつりと作品を発表し、…

<泥沼の家>の命運を賭けて

2016年発表の本書は、これまで「窓際のスパイ」「死んだライオン」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家>シリーズ第三作。英国情報部の落ちこぼれが送られる組織<泥沼>には、アル中、ヤク中、仲間に暴力、大ドジを踏むなど各所で持て余した諜報員や管理…

消えた機密文書と臨時職員(後編)

英国のEU加盟計画などがあり、大使館の文書係は多忙を極めていた。だから本来なら臨時職員を充てることはない仕事を、ハーティングに任せざるを得なかったわけだ。彼の有能さは役に立ったが、それが事件を招いている。 ハーティングは、目立たない男。休日は…

消えた機密文書と臨時職員(前編)

本書は回顧録「地下道の鳩」などを紹介したスパイ作家ジョン・ル・カレの、本格的なエスピオナージュ。1968年の発表で、当時は英国のEU(EECだったかな)入りや、東西ドイツ再統一などで世論は沸騰、西ドイツやベルギーではデモの嵐が吹き荒れていたころ。ま…

地球人役もなかなかいいね

このDVDは、以前シーズン2&3を紹介した「Mission Impossible」のオリジナル版シーズン4。マーチン・ランドーとバーバラ・ベインの夫婦が降板して、変装名人役パリスとしてレナード・ニモイが加わった。「Star Trek」でヴァルカン人との混血スポック副長…

復讐を誓うレディ・サラ

1989年発表の本書は、冒険小説の雄ジャック・ヒギンズのノンシリーズ。これまで「鷲は舞い降りた」などの戦記物や、ファーガスン准将やショーン・ディロンらのシリーズを多く紹介しているが、作者にはノンシリーズの傑作も多い。いろいろな意味でしがらみが…

東風41号の機密情報

2014年発表の本書は、カナダ生まれのジャーナリスト、アダム・ブルックスのデビュー作。東アジアを中心に30ヵ国を巡った人で、本書は北京駐在時の自らの経験から執筆したもの。 大柄で体力も知力もある技術者リー・ファッション(通称ピーナッツ)は、1989年…