新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スパイスリラー

香港返還2097年との密約

本書は、ジャック・ヒギンズの「ショーン・ディロン」ものの第三作。歴史ものを除いて作者のスパイスリラーは、英国の特別情報部の責任者ファーガスン准将が登場する。しかし彼自身はいつもわき役のような存在で、主役は別にいる。本書では主役は元IRAのテロ…

ワシントンDCのマルコ

ご存じ神聖ローマ帝国第18代大公マルコ・リンゲ殿下だが、170冊あまりのもの登場作品がある。東京創元社が60冊あまりを翻訳したところで日本に紹介されなくなり、扶桑社が新しく翻訳を始めたのが2002年発表の本書。 このシリーズは1965年の「イスタンブール…

現代スパイスリラーの原点

次の「007シリーズ」では、女性の007が誕生するという話を聞いた。ジェームス・ボンド役はショーン・コネリーから何代にもわたって「セクシーな男優」が務めてきたことを考えて、ダイバーシティも極まれりと思った。 007ものの長編ミステリーを作者イアン・…

シリーズ化できなかったヒロイン

アガサ・クリスティーと言えば、ポアロとミス・マープルがレギュラー探偵の双璧。その他に夫婦探偵トミー&タペンスやバトル警視、パーカー・パインなどのシリーズが知られている。さらに何冊か、単発ものもある。例えば名作「そして誰もいなくなった」は、…

カウンター・テロリズムの手法

ウォーレン・アドラーは米軍通信記者として兵役に就いた後、ジャーナリストを経て作家活動に入った。日本であまり知られていない作家だが、映画「ホワイトハウス・ダウン」のような小説かと思って買ってきた。本書の発表は1986年、ソ連の脅威が薄れつつある…

旅行者のカメラ、1938

エリック・アンブラーはイギリス生まれのスパイものを得意とした作家である。エリオット・リード名義のものも含めて20作あまりの長編小説を残した。1936年に「暗い国境」でデビューし、それまでの「外套と短剣」型のスパイ小説に飽き足りなかった読者に、リ…

中立国スウェーデン

近年ロシア軍のバルト3国侵攻や、バルト海を渡ってスウェーデンへの侵略があるのではないかと噂されている。国内経済はマイナス成長だし、内政にもほころびが見られる。このようなロシアの危機は1980年代半ばにもあった。トム・クランシーの「レッド・オク…

富豪探偵アイザック・ベル

クライブ・カッスラーは「NUMA」のダーク・ピットシリーズを卒業していくつか新機軸を出したが、その中でも面白いと思ったのが、「大破壊」のアイザック・ベルのシリーズ。「大破壊」はレイル・バロンと呼ばれた米国を覆う鉄道網の王者争いの終盤、それに介…

サムスンもの大河ドラマ完結

「ベルリン・ゲーム」「メキシコ・マッチ」に続く、「スパイ小説の詩人」レン・デイトンの三部作の完結編が本書(1985年発表)。主人公バーナード・サムスンは、前作で目標だったKGBのシュティンネス少佐の身柄を確保する。「ゲーム」では一敗地にまみれた彼…

カリブ海の密約

ジャック・ヒギンズの諸作には、レギュラーと思われる4人ほどの人物がいる。イギリスの諜報機関の長、チャールズ・ファーガスン准将がその一人だし、彼が必死に追い求めていたテロリストがIRAの闘士だったショーン・ディロン。彼の登場作品「嵐の目」で…

エスピオナージの詩人

本書は、英国秘密情報局(SIS)員、バーナード・サムスンものの第二作(1985年発表)。もうすぐそこに「ベルリンの壁」が崩れるのだが、それは後世の人の後知恵。確かにソ連をはじめとする東側諸国は経済的に行き詰まっているのだが、それでも欧州一帯では西…

ベテランSIS諜報員もの三部作

レン・デイトンは米国生まれだが、英米で作家活動を続けた。1960年代に発表した「イプクレス・ファイル」、「ベルリンの葬送」、「十億ドルの頭脳」は、リアルなスパイストーリーを叙情的な文体・描写で綴ったとして高い評価を得た。 しかしこれらの諸作も、…

双子の天才戦闘機乗り

「鷲は舞い降りた」などの戦記物で知られるジャック・ヒギンズが、しばらく筆を措いた後1998年に発表したのが本書。第二次欧州大戦を舞台に、数奇な運命に翻弄される双子の天才パイロットを描いた傑作である。主人公のハリーはアメリカ人だが、欧州が戦火に…

エリートスパイの脱出行

第二次欧州大戦のクライマックスといえば、東側(!)の人ならばスターリングラード攻防戦かハリコフ戦車戦を選ぶような気がする。しかし西側(!)の人であれば、多分ノルマンディー上陸作戦を指すと思う。映画「D-Day」をはじめ多くの物語が発表されている…

第一次世界大戦前の建艦競争

1900年代はじめ、海の王者は戦艦だった。ただ、それは僕らの世代が子供のころ作っていたプラモデルのような形状はしていない。主砲塔は前後に1基づつ、主砲は4門だけで、舷側に副砲が並ぶというもの。日露戦争のころの主力艦「三笠」がこのタイプである。…

マルコ殿下、日本初登場

ジェラール・ド・ヴィリエの連作小説、プリンス・マルコシリーズ。第一作「イスタンブール潜水艦消失」以降、年間4作のペースで発表されている。本書は、1978年の発表。僕はこのシリーズを昔ある程度読んだのだが、40年経って三軒茶屋のBook-offで40冊ほど…

二つの大戦間に跳梁した犯罪者

以前「あるスパイの墓碑銘」を紹介した、エリック・アンブラーの第五作「ディミトリオスの棺」は長らく手に入らなかった。僕にとっては「名のみ知られた名作」のひとつである。先日例によってBook-offでみつけ、カバーもなくページの中まで日焼けが進むなど…

ベルギー人の愛国心

「ザイール共和国」という名称は、1971年~1997年の間モブツ・セセ・セコ大統領がこの地を統治していた時期のもので、現在はコンゴ民主共和国という。さらに昔の呼び方は、「ベルギー領コンゴ」であった。ベルギーは欧州では小国だが、コンゴのような広大な…

再びチムニーズ荘にて

本書は女王アガサ・クリスティーの長編第9作、1929年発表である。「明るいスパイもの」が大好きのクリスティー、第8作まで3作連続ポアロもので地歩を築いてきたのだろう、ここでまた書きたいものを書いた。舞台は4年前の「チムニーズ荘の秘密」と同じで…

KGBのスリーパー

ジャック・ヒギンズの諸作は、第二次世界大戦終盤を舞台にした「鷲は舞い降りた」「鷲は飛び立った」から現代まで、連綿と続く大河ドラマのようなものだ。「鷲は舞い降りた」でチャーチル誘拐を狙うドイツ将校シュタイナー少佐を助けたIRAの闘士リーアム…

スパイは紳士のお仕事

CIAの業務委託でリーツェン城の修復資金を稼いでいる、神聖ローマ帝国第18代大公のマルコ・リンゲ殿下。その冒険の多くは発展途上国でのものなのだが、今回はウィーンから至近のロンドンでの活躍である。米ソ冷戦も終わりに近づいていた1977年発表の本書では…

戦略兵器としての石油

マルコ殿下、ひさびさのアメリカでの活躍である。といっても冒頭は平和な殿下のお城「リーツェン城」でのパーティシーンから。CIAから貰う命の代償の資金で荒れ果てた城は少しづつ復旧、殿下も住めるようになりパーティも開けるようになった。 殿下自身も…

東シナ海、2017

米中対立に台湾の来年の総統選挙もからんできて、東シナ海の緊張は緩むことはないのだが、世界の注目が集まるこの海域を舞台にした軍事スリラーをぽつりぽつり見かけるようになってきた。 本書の発表は2015年、まだアメリカは安定しており中国は軍拡を続ける…

女王初期の習作

ミステリーの女王アガサ・クリスティーも、デビュー間もない頃は自分のスタイルを見つけるために苦労をしていたようだ。僕としても、デビュー作「スタイルズ荘の怪事件」、第6作「アクロイド殺害事件」を除いては1920年代の諸作は(ミステリーとしては)評…

成長する島国の陰で

ジェラール・ド・ヴィリエのプリンス・マルコシリーズは、世界のいろいろな国や街を巡る。最近海外へ出かけることが多くなった僕には、今のその国/街と数十年の時間差を空けた比較を楽しむこともできる。1976年発表の本書の舞台はシンガポール、最近何度も…

レイルバロン時代の終わり(後編)

20世紀になったばかりの頃、アメリカ大陸の横断には最低4日を要した。「Wrecker」のテロは、カスケード・ギャップに限らずニューヨークなど東海岸にも及び、アイザック・ベルはサザン・パシフィック鉄道の特急券を利し、時には専用列車を仕立てて東海岸と西…

レイルバロン時代の終わり(前編)

クライブ・カッスラーも多作家である。「NUMA」のダーク・ピットシリーズは昔よく読んだ。サハラ砂漠を飛行機の残骸を基にした帆走ソリで脱出する話など面白かったが、さすがにあれだけ書くと飽きてくる。作者もそうだったのだろう。ピットの子供たちを登場…

白人支配は悪だったのか?

コンゴの南でアンゴラという国が独立しようとしていたころ、作者ジェラール・ド・ヴィリエの関心はこの国にあったようだ。アフリカだけではなく、欧州(白人)諸国の支配が世界中で終わろうとしていた時代である。柘植久慶の作品にも再三出てくるが、このよ…

マルコ殿下のクーデター計画

ザンジバル島は、タンザニア沖のインド洋に浮かぶ沖縄と同じくらいの面積を持つ島々である。本書の発表の1973年に先だつ1963年にイギリスから独立、タンザニアと合併しながら強い自治権をもつ「ザンジバル革命政府」が統治している。現在の人口は100万人あま…

使い捨て工作員の意地

元SAS隊員の覆面作家、アンディ・マクナブのニック・ストーンもの第5作が本書。前作で、蒸し暑いパナマでCIAの仕事として、単身中国人の子供を狙撃するという唾棄すべき任務に就いていたストーンだが、今回も(別の意味で)唾棄すべきミッションに放…