新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スパイスリラー

カタレプシー患者と東欧を行く

1966年発表の本書は、昨日紹介した「怪盗タナーは眠らない」のシリーズ第二作。アル中探偵マット・スカダー、泥棒バーニー、殺し屋ケラーなど多くのレギュラーを持つローレンス・ブロックの作品中でも、かなり独特なものだと分かった。解説にはユーモアミス…

才人ブロック初期のシリーズ

不思議な作風の作家ローレンス・ブロック。これまでいくつかの短編集と、アル中探偵「マット・スカダーもの」、軽妙洒脱な泥棒「バーニーもの」を紹介している。今回手に入った本書(1966年発表)が、初期のシリーズ「怪盗タナーもの」の第一作である。 エヴ…

イスラエル建国前史、WWⅠ

1988年発表の本書は、これまで「過去からの狙撃者」「パンドラ抹殺文書」など出色のスパイスリラーを紹介してきた、マイケル・バー=ゾウハーの歴史スパイもの。WWⅠ当時、パレスチナを含むアラビア半島全域はオスマン・トルコ帝国支配だった。パレスチナには…

女王のB級スリラー

女王アガサ・クリスティは、本書発表の1927年には私生活で非常に不安定な状況にあった。翌年には最初の夫アーチボルトと離婚することになるし、この年には失踪事件も起こしている。後に二度目の夫マックス・マーロワンと再婚してから、長期にわたり高品質の…

1月20日の正午がデッドライン

1980年発表の本書は、英国情報部の10年程在籍したテッド・オールビューリーのエスピオナージュ。20作以上の作品があり、TVドラマのシナリオ等も手掛けた人だという。本書は11作目、舞台は米国で大統領選挙の背景にあるソ連の陰謀を、SIS局員のマッケイとCIA…

チームをアクシデントが襲う

このDVDは、これまでシーズン2~4を紹介した「Mission Impossible」のシーズン5。さすがに女性レギュラーの不在はまずいと思ったのか、今回ダナ・ランバートが加わった。レスリー・ウォーレンが演じる、ソバカスと大きな目が特徴の美人スパイだ。さらにダ…

スパイものに回帰した女王

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、本当はスパイものが大好き。デビュー作「スタイルズ荘の怪事件」でもその傾向があるし、トミー&タペンスが登場する4作は明るいスパイものの典型だった。1970年発表の本書は、ポワロもマープルも登場しないノンシリ…

駐ベルン公使館海軍武官の闘い

1966年発表の本書は、多作家西村京太郎の初期の作品。前年サリドマイド訴訟をテーマにした社会派ミステリー「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を獲得した作者が、一転して太平洋戦争当時の日米和平工作を描いたスパイスリラーとして世に送ったもの。 「寝台特急殺…

世界を駆けるカレンたち

このDVDは「NCIS:LA潜入捜査班」のシーズン3。前シーズンの最後に主人公G・カレンのルーツが東欧にあったことがわかる。やはり背後にいたのは管理部長のヘティ。現地に乗り込んだ彼女を救うため、カレンのチームはルーマニアの黒海沿いの街に潜入した。 ル…

ハンブルグに来たイスラム青年

2008年発表の本書は、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの晩年の作品。昨年回想録「地下道の鳩」を紹介しているが、どうも本格スパイ小説を紹介するのは初めてらしい。舞台はドイツの港町ハンブルグ、そこにやってきたやせぎすのイスラム青年イッサ。チェチェ…

国際謀略小説の傑作

2008年発表の本書は、「過去からの狙撃者」など諸作を紹介しているマイケル・バー=ゾウハーの近作。ブルガリア生まれのユダヤ人で、恐らくは<モサド>の一員として中東戦争を戦い抜き、作家に転じている。その経験からくるインテリジェンスは、他の作家の…

極右組織のホワイトハウス攻略

1995年発表の本書は、以前「氷壁の死闘」を紹介した冒険作家ボブ・ラングレー晩年の作品。「氷壁・・・」が第二次欧州大戦を舞台にした山岳冒険小説だったように、作者は何らかの紛争を背景にした謀略小説が得意だ。 本書では<ムーブメント>という極右組織が…

ローヌ河口の低湿地帯

以前、シュタイナ中佐を主人公にした「鷲は舞い降りた」「鷲は飛び立った」や、IRAの天才的テロリストショーン・ディロンものを紹介しているジャック・ヒギンズが、それらに先駆けて発表したシリーズがある。1960年代にマーティン・ファロンなどの名義で、英…

ワシントンDCのラブストーリー

1982年発表の本書は、第二次世界大戦にパイロットとして従軍経験もある脚本家デビッド・オズボーンのスパイスリラー。作者はマッカーシズム旋風の時期には米国を離れていたが、1976年に欧州から戻っている。欧州にいたころからぽつりぽつりと作品を発表し、…

<泥沼の家>の命運を賭けて

2016年発表の本書は、これまで「窓際のスパイ」「死んだライオン」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家>シリーズ第三作。英国情報部の落ちこぼれが送られる組織<泥沼>には、アル中、ヤク中、仲間に暴力、大ドジを踏むなど各所で持て余した諜報員や管理…

消えた機密文書と臨時職員(後編)

英国のEU加盟計画などがあり、大使館の文書係は多忙を極めていた。だから本来なら臨時職員を充てることはない仕事を、ハーティングに任せざるを得なかったわけだ。彼の有能さは役に立ったが、それが事件を招いている。 ハーティングは、目立たない男。休日は…

消えた機密文書と臨時職員(前編)

本書は回顧録「地下道の鳩」などを紹介したスパイ作家ジョン・ル・カレの、本格的なエスピオナージュ。1968年の発表で、当時は英国のEU(EECだったかな)入りや、東西ドイツ再統一などで世論は沸騰、西ドイツやベルギーではデモの嵐が吹き荒れていたころ。ま…

地球人役もなかなかいいね

このDVDは、以前シーズン2&3を紹介した「Mission Impossible」のオリジナル版シーズン4。マーチン・ランドーとバーバラ・ベインの夫婦が降板して、変装名人役パリスとしてレナード・ニモイが加わった。「Star Trek」でヴァルカン人との混血スポック副長…

復讐を誓うレディ・サラ

1989年発表の本書は、冒険小説の雄ジャック・ヒギンズのノンシリーズ。これまで「鷲は舞い降りた」などの戦記物や、ファーガスン准将やショーン・ディロンらのシリーズを多く紹介しているが、作者にはノンシリーズの傑作も多い。いろいろな意味でしがらみが…

東風41号の機密情報

2014年発表の本書は、カナダ生まれのジャーナリスト、アダム・ブルックスのデビュー作。東アジアを中心に30ヵ国を巡った人で、本書は北京駐在時の自らの経験から執筆したもの。 大柄で体力も知力もある技術者リー・ファッション(通称ピーナッツ)は、1989年…

スパイするという事は待つ事

本書は、英国推理作家協会賞(スティール・ダガー賞)を受賞した2012年の作品。作者のチャールズ・カミングは、現代英国のスパイ小説の旗手とも言われている。英国秘密情報部(SIS)に誘われたこともあるのだが、誘いは断ってスパイ小説を書き始めたという。…

3組の相棒が固まる

本編は、以前紹介した「NCIS-LA:極秘潜入捜査班」のシーズン2のDVD。メインキャラのG・カレンとサム・ハンナが前面に出ている比率が、シーズン1より少し下がった。彼らは立派な「相棒」で、その会話(特に2人で車に乗っている時)は長く連れ添った夫婦の…

華麗なチームワーク

昨年シーズン3を紹介した往年のTVドラマ「Mission Impossible」。シーズン2と3が好きなのだが、今回ようやくシーズン2のDVDが手に入った。50年以上前のドラマは、Bookoffでもなかなか見つからないのだ。 このシーズン2が放映されたのは1966年、今回から…

在英米国大使の娘婿

1999年発表の本書は、CNNのジャーナリストから謀略小説作家に転じたダニエル・シルヴァの第三作。デビュー作「マルベリー作戦」は第二次世界大戦中の謀略戦を描いたものだったが、第二作「暗殺者の烙印」では現代に舞台を移し、CIAのエージェントであるオズ…

潜っていたスリーパー「蝉」

2013年発表の本書は、先日「窓際のスパイ」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家シリーズ>第二作。作者は本書で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞している。MI5の落ちこぼれ組織<泥沼の家>では、前作の闘いで2人の欠員ができた。補充されてきたのはやり…

旧ソ連の化学兵器

本書は2020年に発表された、ロシアの作家セルゲイ・レベジェフのスパイスリラー。作者は地質学者で、ロシア北部や中央アジアでの現地調査を7年続けた後作家に転じた。詩人・エッセイスト・ジャーナリストでもあるという。作風としてはソ連崩壊やロシアの闇…

世界最強の諜報機関・・・なの?

古くは「外套と短剣」のスパイスリラーがあり、ジョン・バカンの「39階段」以降隆盛となった英国のこの手の作品群。「007」様の派手なアクション映画も増えて、一時期非常に増えた。しかし冷戦終結とともに全体的に低調になり、今は「もっとリアルな諜報機関…

英国のグリーニー登場

2010年発表の本書は、トム・ウッドのデビュー作。作家の楡周平が「これぞ冒険小説!」と絶賛したと帯にある。僕の読後感としては「これは英国のグリーニーだ」というもの。いまやトム・クランシーの後を継いでいる米国の軍事(スパイ)スリラー作家マーク・…

日本発の国際謀略小説

シミュレーション・ウォーゲームの中には戦争・戦闘だけでなく、国際謀略(外交ともいう)をテーマにしたものもあった。この種のゲームを漁っていた30歳前後、必然的に国際謀略小説(含むノンフィクション)も読むようになっていた。なかなか日本人作家でリ…

おちこぼれ諜報員の闘い

以前元警視総監吉野氏の著書「情報機関を作る」を紹介したが、実際体験した例ではなく、諜報活動の実態例をジョン・ル・カレやフレデリック・フォーサイスの著書を引いて説明していた。近年よりリアルなスパイスリラーが増えていて、吉野氏も引用できる小説に…