新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

直木賞ハードボイルド

先日TVドラマ「非情のライセンス」の原作短編集を紹介した生島治郎の比較的初期の長編が本書(1967年発表)。生島治郎は上海生まれ、早稲田大学英文学科卒業後早川書房で「エラリー・クィーンズ・ミステリ・マガジン」の編集に携わった経歴を持つ。レイモン…

鉄道王国ドイツの春

昨年からの「COVID-19」騒ぎで、すっかり海外出張・旅行に縁遠くなってしまった。もちろんフライトは飛んでいるし、検査結果がないと入れてくれない国ばかりではないのだが、心理的にも旅行に出ようという気にならない。僕が最初に行った外国は米国の西海岸…

アイオナ派とローマ派

本書(1994年発表)は、以前「蜘蛛の巣」や短編集を紹介したピーター・トレメインの「修道女フィデルマもの」の第一作。作者自身のデビュー作でもあるのだが、なぜか翻訳は5番目だった。 時代は660年代、ブリテン島北東部のノーサンブリア王国では、カトリ…

17世紀半ばのバイオテクノロジー

今月横浜ベイエリアに行って「新港中央広場」などに咲く、色とりどりのチューリップを見てきた。その中にとても濃いコーヒー色をした花弁がいくつかあり、まるで「黒い花びら」だなと思った。それが本書の題名「黒いチューリップ」である。1850年の作品で、…

たとえオリ/パラは無くなっても

本書の著者兵頭二十八氏の著書は、以前「こんなに弱い中国人民解放軍」を紹介している。自衛官の経験ある評論家で、戦略・戦術や関連技術、戦史にも詳しい人。2018年発表の本書は、2020年に予定されていた東京オリンピック/パラリンピックを前に、日本を狙…

<天国の塔>の秘密

1962年発表の本書は、心理スリラー作家マーガレット・ミラーの代表作。普通小説も含めて25冊ほどの長編を遺した作者の作品は、以前「狙った獣」を紹介している。彼女の円熟期と呼ばれるのが1960年前後で、そこで発表された最後の作品が本書である。 舞台はネ…

BtoC業界のロジスティックス

GAFAの一角「Amazon」、日本にも法人はあって中身は2つに分かれている。ひとつはE-comerceで、もうひとつはAmazon Web Service(要するにクラウド)だ。僕により近いのはBtoB領域のAWSの方であるが、両社に知り合いは多い。経団連で付き合いのあるE-comerce…

満州鉄道の時刻表

日本に本格的なアリバイ崩しミステリーを定着させたのが、鮎川哲也とその創造した探偵鬼貫警部である。後年日本の鉄道の正確さもあって、西村京太郎の十津川警部や津村秀介の浦上伸介らがアリバイ崩しものを多数発表し、日本に固有のジャンルを確立すること…

おじさん刑事の肖像

「刑事コロンボ」のシリーズは、大体富豪なり有名人なりが犯人役になる。様々な職業のカッコいい犯人に、ボロ車・ボロコート・猫背で貧相なコロンボ警部が挑むという映像的な面白さがある。今回の犯人役は、高名な画家。カリフォルニアの海岸べりにアトリエ…

あきらめないで欲しかった

本書は、元大阪府知事、大阪市長、今はTVのコメンテーターになってしまった橋下徹氏と、堺屋太一先生の共著。2011年の発表で、橋下氏はまだ大阪府知事、1期を務めて財政再建にめどを立てたものの、大阪市の平松市長らと対立し「大阪都構想」を練り上げてい…

2年経っても状況に大差なし

「K字回復」と言うのだそうだが、「COVID-19」禍でも業績や株価が上昇している企業がある一方、いずれも低迷し倒産か廃業かと苦しんでいる企業も少なくない。だたNYダウも日経平均も数値としては好調で、一部には「バラ撒きバブル」と気象を馴らす人もいる…

活字で読む「信長の野望」

今でも新バージョンが出ているかどうかは知らないが、「信長の野望」はKOEIが販売していたビデオゲームの名作である。ゲームの区分としては、日本の戦国時代を舞台にした戦略級。武将キャラに兵力を持たせ、野戦や攻城戦を戦わせる。力攻めだけではなく、敵…

5区警察署長アダムスベルグ

フランスのミステリーというと、多くはサスペンス。本格ミステリーと言われるメグレ警部(警視)ものにしても、英米の本格とはちょっと味の違ったものだ。しかし近代には本格ミステリーも増えて来て、本書(1996年発表)の作者フレッド・ヴァルガス(女性で…

ミステリー作家の楽屋裏

先日ミステリー界の「当代一の読み手」と紹介した佐野洋の「同名異人の4人が死んだ」の評に、推理作家って大変なんだと書いた。犯罪を扱うものだけに、万一にも現実の何かを想起させてはいけない。特に人名の扱いには、慎重の上にも慎重をとのスタンスがに…

日本人の思考1940(後編)

本書は「日本軍の小失敗の研究」の続編、1996年に発表されたものだ。著者三野正洋は技術者でありながら、本書には「未来を見すえる太平洋戦争文化人類学」と副題を付けている。日本軍が合理的でない思考をしていたことは前編でも何度も指摘されているが、本…

日本人の思考1940(前編)

三野正洋と言う人は日大講師の傍ら、技術者の視点から「戦略・作戦・戦術」に関する独自の分析をした著作を多く著わしている。以前「戦車対戦車」「戦闘機対戦闘機」という兵器の比較研究書は紹介している。今回は技術論ではなく軍(あるいは国)の思考にメ…

文豪の試技

特にイギリスに多いのだが、文豪と呼ばれる人たちが本職はだしのミステリーを書くことがある。多くは作家として成功してから「余技」として何作か書くというものだ。イーデン・フィルポッツ、A・A・ミルン、E・C・ベントレーらの手になる、古典のなかで…

親分衆の前での「名探偵」振り

笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」でも、指折りの面白さを持つのがこの中編集。60~70ページの中に事件があり、謎があり、意外な結末があるのがお約束だが、本書の中の「桜が隠す嘘二つ」ほど見事な時代劇ミステリーは滅多にない。下総の国境町では、地場…

テロ組織<マカベア>の長、ユダ

本書(1997年発表)は、ジャック・ヒギンズのショーン・ディロンものの1冊。以前紹介した「悪魔と手を組め」に続く作品で、英国首相の私兵であるファーガスン准将、バーンスタイン主任警部とディロンの3名が活躍するシリーズだ。1992年「嵐の眼」で主役と…

100年前の「スモール・ベースボール」

トランプ先生が「中国ウイルス」と連呼したのをきっかけに、米国で東洋人へのヘイト・クライムが増えてきている。日系・韓国系の人も含めて、生命・財産の危険にさらされているが、これは長く蓄積されてきたプアホワイトたちの不満が噴出したものだろう。こ…

捜査検事霧島三郎

高木彬光が産み出した名探偵は、神津恭介に始まり、百谷泉一郎夫婦、大前田栄策、墨野隴人などがいるが、TVドラマにもなったせいか本書の霧島三郎の知名度が高い。神津恭介シリーズもTVで放映されるのだが、何しろ天才過ぎて長続きしなかったようにも思う。…

World Intelligence 2019

本書は、元NHKワシントン支局長でジャーナリストの手嶋龍一氏と外務省で「ラスプーチン」のあだ名で呼ばれた主任分析官だった佐藤優氏が、当時の世界情勢を語ったもの。「中央公論」2019年8~11月号の記事向けに行われた対談がベースになっている。 題名は…

伊賀と甲賀

昔少年サンデーというマンガ雑誌があり、小学生の僕は「伊賀の影丸」という連載を一番の楽しみにしていた。先年事故で亡くなった横山光輝の作品としては、「鉄人28号」よりずっと好きだった。忍者というものの実像はかなり歪められていたのだが、それは子…

異文化だからこそ、大好き

僕ら夫婦の国内での旅行先と言えば、一番多いのは函館、次は宜野湾である。沖縄には10余年前に仕事で行って、それからちょくちょく通うようになった。一時期中国からの観光客(ビザ不要のエリアなので)に締め出されていたのだが、昨年3年ぶりに1週間の滞…

ピーターとアイリスの出会い

パトリック・クェンティンという作家は、非常に複雑な執筆体制をとっていた。これ自身ペンネームで、ほかにQ・パトリックというペンネームも持っていた。実態は、 リチャード・ウィルスン・ウェッブ ヒュー・キャリンガム・ホイーラー の共作である。1931~…

東京駅の新幹線ホーム

東京駅に東海道新幹線以外の新幹線が乗り入れたのは、いつのことだったろうか?東北新幹線、上越新幹線は上野どまりだったはずだ。もちろん秋田新幹線、山形新幹線や北陸新幹線も。だからあまたのアリバイ崩しミステリーはあるのだが、複数の新幹線を絡めた…

殺人犯を追いながらグルメ

一昨年亡くなった内田康夫は多作家である。浅見光彦、信濃のコロンボ、岡部警部などのシリーズもののほかノンシリーズのミステリー、紀行文など作品は140冊にも及ぶ。累計発行部数は2007年の時点で1億部を越えている。ミステリー作家というと自らの私生活は…

ブルックリンを愛するあまり

スタンリー・エリンは不思議な作家である。EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)が発掘したひとりで、「特別料理」という奇妙な味の短編でデビューした。生涯に長編14作と短編集4つを残した。ずっとブルックリンに棲み続け、70年弱の間の大き…

シルクロード経済圏構想

AIIBこと「アジアインフラ投資銀行」は、2013年APECの会場で習大人が設立構想を説明し、本書が出版された2015年に正式に発足している。筆者の真壁昭夫氏は元第一勧銀の銀行マン、第一勧銀総研などを経て信州大学経済学部教授となった人。中国が「シルクロー…

板門店での銃撃事件

多分韓国のミステリー(軍事スリラーか?)を紹介するのは、これが初めて。南北の休戦状態を題材にした映画としては「シュリ」(1999年)が有名だが、本書はそれを超える人気を博したという映画(2000年)の原作。原題を「DMZ:非武装中立地帯」という。作者…