新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

フレデリック・ダネイのヒント

3年前に亡くなった夏樹静子の代表作が本書。彼女の本名は出光静子、新出光の会長夫人でもあった。慶応義塾大学在学中からミステリーを書き、乱歩賞候補になったことからTVの推理クイズのレギュラーライターも務めた。大学卒業後結婚し夫と共に福岡に移り、…

京都・華道・キャサリン嬢

山村美沙のレギュラー探偵、キャサリン・ターナーのデビュー作が本書(1975年発表)。20歳のコロンビア大学三年生、金髪美女で米国副大統領の娘というVIPだ。日本のミステリーで外国人を探偵役に据えたケースは多くない。作風の広い都築道夫のキリオン・スレ…

アガサの二人の分身

ミステリーの女王アガサ・クリスティも、デビュー早々この評価を受けたわけではない。最初の夫、アーチボルト・クリスティ氏との離婚騒動までは、後年名作と伝えられる「アクロイド殺害事件」などの著作はありながら、家庭の不安定もあって幸福な人生とは言…

密室の巨匠、デビュー

エラリー・クイーンに遅れること1年、ジョン・ディクスン・カーは本書でデビューした。後年レギュラー探偵となる、ギデオン・フェル博士やヘンリ・メリヴェール卿はまだ登場せず、パリの予審判事アンリ・バンコランが探偵役を務めている。スタイルとしては…

匿名作家バーナビィ・ロスへの挑戦

前年(1934年)、代表作の一つである「オリエント急行の殺人」を出すなど、考古学者マックス・マーロワンと再婚した後のアガサ・クリスティーは好調を維持していた。この年(1935年)には、「雲をつかむ死」や「ABC殺人事件」も発表されていて、第一次のピー…

本格ミステリへのこだわり

佐野洋、本名丸山一郎。1928年東京生まれ、読売新聞の記者をしていた1959年に本書を書き下ろし、ミステリ文壇にデビューしている。ミステリ作家を職業とするつもりは当初はなかったようで、新聞社にはそのまま勤務している。ペンネームの由来も、「社の用」…

相棒は女子大生

津村秀介のアリバイ崩しシリーズ、レギュラー探偵はルポライターの浦上伸介である。長編5作目の「山陰殺人事件」でデビューし、以後ほとんどの作品に登場する。彼のことは、「印象の薄い名探偵」として紹介してから何度か取り上げている。 このシリーズ、「…

ジュブナイルの思い出

僕が子供の頃にはルパン三世もコナン君もいなかったから、少年たちがよく読んでいたのはホームズもの、ルパンもの、明智小五郎と少年探偵団の活躍する子供向けの本だった。挿絵も多く、漢字が少なく、もちろん抄訳たっだと思われる。 何冊か読んだはずなのだ…

フランス人の警官

ミステリーというと、やはり主役は英米。フランスはミステリーの舞台になることは多いが、作家については日本に紹介されたものは少ない。悪女もので知られるカトリーヌ・アルレーやサスペンスものが得意のセバスチャン・ジャプリゾなどは知られているが、本…

まだ「のぞみ」がなかったころ

「偽りの時間」改め「影の複合」でデビューした、アリバイ崩しの大家津村秀介の第二作が本書である。鮎川哲也「準急ながら」などに触発されて、公共交通機関を使ったアリバイトリックミステリーを書いたものの、デビュー作はあまり売れず。後に改題して復刊…

不運な艶福家

本書は、おなじみルポライター浦上伸介がアリバイ崩しに挑むシリーズの1冊。比較的初期の作品(1986年発表)で、後年相棒となる前野美保は登場しない。浦上自身も、作中29歳と紹介されている。使われている時刻表は、同年6月のものである。 長崎での取材の…

男爵対公爵

イギリスにシャーロック・ホームズあれば、フランスにはアルセーヌ・ルパンあり。「3世」ではない、オリジナルのルパンもので、最高傑作とされるのが本書である。作者のモーリス・ルブランは「夫婦もの」を得意とした純文学者だったが、「特別にに面白い冒…

手法が固まりつつあったころ

本書は、アガサ・クリスティーの長編8作目にあたる。このころまでに彼女は、ポアロという戯画化された外国人探偵、トミー&タペンスという若い冒険家夫婦、普通の官憲バトル警視らを主人公にした諸作を書いている。ほぼ1年1作のペースで発表してきた。 19…

長距離夜行列車のアリバイ

深谷忠記最大のシリーズものは、数学者黒江壮とフィアンセの笹谷美緒を主人公にしたもの。全部で37作品あり、そのほとんどがトラベルミステリーである。そのうちの3作に「+-の交叉」というタイトルを付けたものがある。しばらく前に、その2作目「津軽海…

不遇だったデビュー作

本書は、「時刻表アリバイ崩しもの浦上伸介シリーズ」の作者津村秀介のデビュー作である。1972年に「偽りの時間」というタイトルで出版されたが、大きな反響を呼ぶことは無かった。それが津村秀介がそこそこ売れてきた1982年に時刻表などを見直してこのタイ…

宍道湖とレマン湖

主として公共交通機関を使ったアリバイ工作に挑むルポライター浦上伸介シリーズの中でも、「湖シリーズ」と言われた作品群の第一作が本書である。著者の長編9作目で1986年発表の本書は、これまでも時々探偵役を務めていた浦上伸介のレギュラー化への入り口…

日本の医学ミステリー

以前ご紹介したのは奇術師のミステリー、今回は医学者のそれである。作者の由良三郎は、本名吉野亀三郎という高名な細菌学者である。本職の医療業界を背景に、先端医療技術も使ったトリックを多く示した。本書はその代表作のひとつ。 大きな病院を舞台に、院…

心理探偵ベイジル・ウィリング

以前「幽霊の2/3」を、名のみ知られた名作として紹介したが、作者のヘレン・マクロイ自身も日本でそんなに有名な作者ではない。学生時代1,000冊のミステリーを読んだと自慢していた僕も、全くよんだことがない作家だった。今回ご紹介するのは、作者の初期…

「御前」と呼ばれる探偵

以前傑作と名高い「ナイン・テーラーズ」を紹介したが、ドロシー・L・セイヤーズの作品はほかに読んだことが無かった。アガサ・クリスティーに匹敵するとの評価もある女流の大家だが、日本での紹介(翻訳)は進んでいなかったからだろう。現在は創元社やハ…

フェラーズの描く「相棒」

ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」には、すでに2人組で犯罪解決に挑む姿が描かれている。名探偵オーギュスト・デュパンに「わたし」という語り手が付いていて、読者は「わたし」にある程度自分を映しながら物語を読み進んでゆく…

時刻表上の戦い

松本清張「点と線」に始まった日本のアリバイ崩しミステリーだが、森村誠一「新幹線殺人事件」である種の頂点に達した。英米のミステリーにも、このように精緻な「時刻表トリックもの」は見当たらない。日本の鉄道の正確さがその背景にあることは確かだと思…

千草検事の登場

土屋隆夫は1958年「天狗の面」でデビューした、日本の戦後の本格探偵小説第二世代を代表する作家である。横溝正史や高木彬光ら戦後まもなく(昭和20年代)に芽を出させた探偵小説ブームを、昭和30年代に花咲かせたミステリー作家のひとりである。 同時期に世…

エジプトツアー、1937

アガサ・クリスティーは旅行好きだった。列車や飛行機、リゾート地を舞台にした作品は非常に多い。本書の舞台もナイル川のクルーズ船である。「オリエント急行の殺人」では、雪に閉ざされた列車の1等車の乗客乗員10名あまりが容疑者になる。このように舞台…

おしゃべり女と無口男

深谷忠記という作家も、アリバイ崩しのシリーズを中心に多くのミステリーを発表したひとである。1982年に「ハーメルンの笛を聴け」で江戸川乱歩賞候補となり、1985年の「殺人ウィルスを追え」でサントリーミステリー大賞の佳作を得た。しかしミステリー作家…

名探偵、最後の挨拶(後編)

どんなロングセラーの作家でも、必ず書けなくなる時はやってくる。シリーズものの名探偵も、最後の挨拶をしなくてはいけないわけだ。古くはコナンドイルは、自分の分身とも言えるシャーロック・ホームズをスイスの滝のタコツボに落として殺そうとしたことが…

名探偵、最後の挨拶(前編)

日本のミステリーで多作家の一人である内田康夫が、2017年には休筆宣言をしその後亡くなった。名探偵浅見光彦シリーズは100冊を越えるロングセラーで、僕も一時期読んだものである。警察庁高官を兄に持つ名家の次男坊でルポライターの主人公が、旅先などで事…

たどりついた境地(後編)

全部で800ページ近い大作(最近ではそうでもないか?)だが、すぐに不可能興味をそそる殺人事件が起きる。キャンパスで、音楽専攻の女子学生がマジックの仕掛けに拘束されて絞殺される。警官が現場に踏み込んだ時、犯人はまだそこにいてキャンパスの中を逃げ…

たどりついた境地(前編)

「どんでん返し職人」として知られるジェフリー・ディーヴァーは、作中にとりあげるテーマを徹底的に調査することでも知られている。このブログで取り上げた諸作以外にも、多くの習作・傑作があり、読むたびに勉強させられることは間違いがない。例えば、 静…

Qの悲劇

エラリー・クイーンは「災厄の町」以降、たびたびニューヨークの北に位置する田舎町ライツヴィルを訪れる。これは架空の街だが、エド・マクベインのアイソラとは違って、古い落ち着いた変化の少ない街である。住民はほとんどが知りあい。名家と認識されてい…

挑戦し続けるがゆえの女王

アガサ・クリスティーのレギュラー探偵は、官憲ではない。ポアロはベルギー警察時代は官憲であったが、初登場した「スタイルズ荘の怪事件」(1920年)ですでに引退し私立探偵として活動している。ミス・マープルに至っては、官憲と関わったことすらない老婦人…