新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

暗号はとても面白いが

ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーは怪奇もの、スパイもの、実録もの、密室、本格ものなど多くのジャンルに足跡を残した。暗号ものの元祖「黄金虫」もそのひとつ。コナン・ドイルも「踊る人形」という暗号ものを書いている。これらは、通常の文字を別…

イタリア人探偵ベネデッティ教授

本書は1979年発表の、ウィリアム・L・デアンドリアの第二作。デビュー作「視聴率の殺人」の<ネットワーク>の社内探偵マット・コブとは違い、イタリア人の名探偵ニッコロウ・ベネデッティ教授が探偵役を務める。デビュー作以上の評価を得た作品で、本格ミステ…

陸軍登戸研究所の毒薬

本書は1957年発表の、高木彬光の「神津恭介もの」の比較的初期の作品。戦後間もない1948年に「刺青殺人事件」でデビューした作者と名探偵のコンビは、1961年「白魔の歌」までおおむね1年に1長編のペースで発表されていたが、その後10余年の眠りにつくこと…

失明した名探偵

シャーロック・ホームズも奇矯な性癖の持ち主だったし、そのライバルたちも平々凡々とした人はいないのはある意味当然なのかもしれない。名探偵というのは非凡な人だから名探偵なのであって、凡人型と言われるクロフツのフレンチ警部でも、もちろん鋭い推理…

横浜・京都・塩釜を結ぶ道

本書も津村秀介のアリバイ崩しもの、ルポライター浦上伸介が容疑者のアリバイを実際にその街に出掛けその列車や飛行機に乗って検証するストーリー。いわゆる「トラベルミステリー」なのだが、風光明媚な地を巡りながらもどちらかと言えば「鉄道ヲタク」的な…

「市川監督渾身の一作」の原作

横溝正史の金田一耕助シリーズは、巨匠市川崑監督によって多くの作品が映画化された。監督はいくつかの大作を発表した後、「女王蜂」で大きな挑戦をした。それは、前3作に起用した大物女優をすべて出演させるということ。 「犬神家の一族」 高峰三枝子 「悪…

ミス・マープルのロンドン感傷旅行

本書は、アガサ・クリスティ晩年の74歳の時(1965年)に発表されたものである。古き良きロンドンをそのままに維持する「時のないホテル」という設定のバートラム・ホテルが舞台となったミステリーである。このホテルは架空のものだが、モデルはメイフェアの…

若狭・東京間の遠隔推理

江戸川乱歩に続いて登場した本格探偵小説の旗手、横溝正史と高木彬光の作風には対照的な部分がある。横溝流は怪奇ものと見せかけて合理的な解決に持ち込むもので、ディクスン・カーの手法に近い。高木流は怪しげは雰囲気の中にも科学の眼が光っていて、より…

おりんでございやす

本書は横溝正史の作品の中でも、映画化されてマニア以外の人にも知られた作品である。舞台は例によって岡山県、特に本作では岡山弁が目立つ。岡山方面の言葉には、尾張の方言に似た表現がある。ひょっとすると昔は近畿地方を中心にこの種の方言が広く普及し…

伸介・美保の欧州行

本書は津村秀介の長編50作目、レギュラー探偵浦上伸介と前野美保が容疑者のアリバイ崩しに挑むいつものお話しだ。ただちょっと違うのは、殺人事件があったときには容疑者は欧州出張をしていたこと。1件の殺人は成田発ローマ行のJAL便の中、もう1件はANA便…

近代米国のパズラー、デビュー

W・L・デアンドリアは1978年本書でデビューし、1996年に44歳の若さで亡くなるまでに約20の長編小説を残した。邦訳されたものはその半分もないようで、僕自身「ホッグ連続殺人」と「五時の稲妻」の2編しか読んでいない。エラリー・クイーンを彷彿とさせる本…

脇役としての狩矢警部

中学生の頃にエラリー・クイーンに出会ってから、高校在学中に500冊程度は読破したと威張っている僕だが、実は山村美紗の作品を読んだことが無かった。TVの2時間ドラマの原作が多くあったことは知っているし、少しは見た記憶もあるのだが、小説としての作…

司法と医療の対立

以前「ジェネラル・ルージュの凱旋」を紹介した海堂尊の、同じ「田口・白鳥もの」の比較的新しい作品が本書。「ジェネラル・・・」が救急救命医療の現実を告発するような医療ミステリーとしては「医療」に重心があるものだったが、本書は「ミステリー」の方に重…

毒のない毒殺事件

本書は1927年発表の、ドロシー・L・セイヤーズの第三長編。いつものように、貴族探偵ピーター・ウィムジー卿が活躍する本格ミステリーだ。アガサ・クリスティーが名作を発表し始めていたし、米国ではヴァン・ダインがデビューしていたが、クイーンもカーもま…

計画殺人の難しさ

本格ミステリーだと、どうしても犯罪は殺人が中心に据えられることが多くなる。「ノックスの十戒」の中にも、殺人未満の事件では不十分だとの記述がある。また結果として人が死んだのだが、衝動的な殺人・事故のようなものではインパクトが薄い。どうしても…

事件記者の生態

本書はアリバイ崩しものの大家、津村秀介の比較的初期の作品である。横浜県警淡路警部と毎朝日報谷田キャップは登場するが、フリーライターで探偵役浦上伸介のパートナー前野美保はまだ登場しない。 京都に近い保津峡で、女が男を渓谷に突き落として殺した。…

ペトラ遺跡での殺人事件

アガサ・クリスティーは最初の夫アーチボルト・クリスティと離婚した後、14歳年下の考古学者マックス・マーロワンと再婚した。前夫との間に何があったのかはわからないが、失踪事件を起こすなど精神的に追い詰められて離婚に至ったようだ。二人目の夫は学者…

高度の水平飛行に入った女王

1920年に「スタイルズ荘の怪事件」でデビューしたアガサ・クリスティ、20年代は「明るいスパイもの」に欲があって本格ミステリーにいまいち身が入らない面もあった。しかし最初の夫と離婚し考古学者マックス・マーロワンと再婚してからは、私生活も安定し作…

悪魔のように頑固な娘

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、最初の結婚に失敗した後14歳年下の考古学者マックス・マーロワンと結婚し安定した生活を取り戻した。それが1930年のことだから、ミステリー界の「黄金の1930年代」に間に合ったと言うべきかもしれない。このころから…

ダルグリッシュ警視の影

世評の高いミステリー作家でも、僕個人が苦手にしている人は何人かいる。その中で代表的なのが、本書の作者P・D・ジェイムズ女史(Phillis Dorothy James)。生涯で20作ほどのミステリーを書き、3度英国推理作家協会のシルバーダガー賞など多くの受賞歴があり…

主任警部のクロスワード

本書は一時期アガサ・クリスティーの後継者とも評された本格ミステリー作家、コリン・デクスターの第三作。しばらく前にデビュー作「ウッドストック行き最終バス」と第二作「キドリントンから消えた娘」を読んだのだが、ちょっとコメントを書く気にならず残…

包丁より推理が切れる料理店主

作者の陳舜臣は、僕にとっては中国史の大家。「小説十八史記」や「秘本三国志」から、「中国五千年」「中国の歴史」「耶律楚材」などたくさん読ませてもらった。1924年神戸市生まれの中国人だが、日中両国の文化を十二分に理解した人で、両国関係が微妙な昨…

純粋心理推理の物語

本格ミステリーというのは、非常に幅の狭い文学ジャンルである。数々の宿命や先人の作品という制約の中で、大家たちは挑戦を続けたものだ。その意味では、後年精彩を欠いた(編集に傾倒し過ぎた?)エラリー・クイーン、密室を隅々まで掘り返しやがて歴史も…

悲劇4部作完結

エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で発表した、「Xの悲劇」に始まるドルリー・レーンもの4部作は、本書で完結した。聴覚障害になって舞台を降りたシェークスピア劇の名優を探偵役にしたシリーズは、先輩格のS・S・ヴァン・ダインより、本家のエラ…

キングスフォード署の首席警部

「ロウフィールド館の惨劇」を代表に、サイコ・サスペンスの名手である女流作家ルース・レンデル。平凡な日常に隠された怨念のようなものが、些細なきっかけで噴き出す恐ろしさは類を見ない。日本に紹介されている作品の大半がそうなので、僕はサスペンスも…

プライバシーのない村

インターネットで情報が飛び交うようになって、個人情報の悪用のリスクが高まっている。欧州を中心にプライバシー保護強化の声はたかくなるばかりだ。ただ、インターネットはおろかコンピューターすらない時代、すでにプライバシー危機はあったようだ。 本書…

ニッキィ・ポーターの誕生

エラリー・クイーンは有名な「国名シリーズ」・「悲劇4連作」・「ライツヴィルもの」などの長編のほか、多くの短編や脚本、少年向け作品を手掛けている。中期以降のこれらの作品には、作家/探偵であるエラリー・クイーンの秘書としてニッキィ・ポーターと…

戦後ミステリー第二期の金字塔

本書は、隠れもない日本ミステリーの代表作である。改めて手に取ってみて、こんなに短い小説だったのかと驚かされた。全部で200ページ余り、昨今800ページから1,000ページの大作が当たり前になっているが、横溝正史の「本陣殺人事件」も200ページ弱の中編だ…

浦上伸介自身の事件

書き下ろしを含めて、津村秀介は数々のアリバイ崩しものを書いた。その多くは2時間ドラマになって放映されたのでメインのトリックはTVで見覚えがあるものも多い。本書もそんな一冊なのだが、作者は主人公のルポライター浦上伸介に特別の試練を課した。こ…

読者への挑戦

日中戦争から第二次世界大戦の期間、日本の探偵小説は弾圧されていた。世間をいたずらに騒がす犯罪ものはけしからんというのが直接的な原因のようだ。英米発の探偵小説を、敵性文化と見たということもあろう。作家たちは徴兵されないまでも、筆を折るか戦記…