新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

探偵小説のすべてを盛り込み

戦後、日本は一種の探偵小説ブームになった。それまで世情を不安に落とすという軍部の意向で、発禁扱いだったのが解禁されたからだ。捕物帳などに逃げていた作者の復活もあったが、横溝正史や本書でデビューした高木彬光などの本格作家が登場したこともある…

ジョッシュとフィルの第二作

昨日「そして殺人の幕が上がる」を紹介した、ジェーン・デンティンガーの第二作が本書(1984年発表)。前作に引き続き、女優兼演出家のジョッシュ・オルークと、ニューヨーク市警部長刑事のフィル・ジェラルドが探偵役を務める。 二人は前作の事件で知り合い…

いっときだけの「家族」

1983年発表の本書は、ミステリーが好きで後にはミステリー専門の書店まで経営するという傾倒を見せた女優ジェーン・デンティンガーの作品。ニューヨーク・ブロードウェーの演劇界を舞台にアラサー女優ジョスリン・オルークが探偵役を務めるシリーズの第一作…

大酒のみで気弱な若者

これまで何冊も紹介しているが、本書も津村秀介の「浦上伸介もの」の未読の1冊。アリバイ崩しの名探偵浦上伸介は、作者の第五作「山陰殺人事件」でデビューし、本書(1985年発表)でレギュラーの地位を確立した。そんな記念すべき作品なのだが、長年手に入…

戦禍が隠した4つの事件

本書はミステリーの女王アガサ・クリスティの、1952年の作品。先月紹介した「予告殺人」も第二次世界大戦後の混乱期を背景にしたものだったが、本書ではエルキュール・ポワロが、大戦禍で見えなくなってしまった事件の背景を探る捜査に挑む。 マギンティ夫人…

幻の作家フィリップ・マクドナルド

「名のみ知られた名作」はミステリーを読み始めた中学生のころから、ある種の郷愁をそそるものだった。そのいくつかは今になって読めるようになったのだが、一方で中高生のころ読めたものが今手に入らないこともある。今回紹介するフィリップ・マクドナルド…

大戦の傷跡残る街の老猫

1950年発表の本書は、アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」。老嬢探偵の代名詞ミス・マープルが登場するものとしては、4冊目の長編になる。第二次世界大戦中も、かわらぬペースでミステリーを発表し続けてきた作者だが、1950年ともなると戦後の混…

稀覯本の鑑定とブラックジャック

1983年発表の本書は、その年のアメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を獲った作品。新人賞だから作者のウィル・ハリスは本書がデビュー作である。作者はカリフォルニア州にある政府系シンクタンク<ランド研究所>の研究者だと、解説にある。そんな作者がデビ…

墓守インホテプ家の災厄

1945年発表の本書は、アガサ・クリスティーの時代推理小説。作者の二番目の夫マーロワンは考古学者で、作者もエジプトなどにはよく出かけていた。名作「オリエント急行の殺人」も、ポワロがエジプトから帰る列車内での事件。「メソポタミヤの殺人」など中近…

有閑マダム達のスコットランド旅行

1962年発表の本書は、「名探偵トビー&ジョージ」シリーズでおなじみのエリザベス・フェラーズの中期の作品。レギュラー探偵は登場せず、アフリカ帰りの34歳の土木技師ロビンが探偵役を務める。ロビンは海外で長く働いてきたが、久し振りにロンドンに戻り新…

雑誌掲載と書き下ろしを取り混ぜ

本書は東野圭吾の「湯川学シリーズ」の短編集、第三巻。2011年に「文芸春秋」と「オール読物」に掲載された短編4編に、書き下ろしの3編を加えて2012年に単行本化されている。初期の頃にはもう1編「猛射る」が入っていたのだが、これは後に大幅に加筆修正…

スコットランドの田舎町役所にて

1970年発表の本書は、以前「そして医師も死す」「跡かたなく沈む」を紹介した、英国作家D・M・ディヴァインの第9作。作者は13作しか長編を遺さなかったし邦訳も創元社から出ていただけで、最近では古書店でもなかなか見つけられない貴重なミステリーである。 …

警視になり損なったモース

本書(1981年発表)は、コリン・デクスターの「モース警部もの」の1冊。すでに何冊か紹介しているのだが、地方都市オックスフォードの警察署で独身のモース警部と愛妻家のルイス部長刑事のコンビが活躍するシリーズだ。日本ではさほど名が通っていないのだ…

ちゃんと楷書が書けてから

本書は土屋隆夫コレクションとして、長編「危険な童話」と短編3編、いくつかのエッセイを合本したものである。長編へのコメントは後述するとして、解説には興味深いものがあった。作者は日本の本格探偵小説第二期の巨匠だが、本格ミステリーは一片の余りも…

トリックの見つけ方

本書は鮎川哲也の短編集、恐らくは雑誌などに掲載されたものを光文社で短編集にしたものと思われる。表題通り、アリバイが争点となる短編4作と中編がひとつ、それに、 ・時刻表5つのたのしみ ・私の発想法 という2つのエッセイが添えられている。「発想法…

カルデラ湖が好きな女

津村秀介の長編小説は60作ほどある。国内の公共交通機関を使ったアリバイ崩しものが大半で、僕の大好きなシリーズだ。そのほとんどを読んでしまって、本棚には最後の作品「水戸の偽証」が残っているだけ。「水戸の偽証」を発表した後、作者が急逝してしまっ…

名古屋弁を話す検事

「憲法おもしろ事典」などを紹介してきた弁護士作家の和久俊三、多くのミステリーの執筆しているが一番多いのは「赤かぶ検事」ものではなかろうか。検察事務官からたたき上げ、副検事に昇進、高年齢になってからようやく検事に任官した柊検事が主人公である…

「ブロードウェイの名花」殺し

1927年発表の本書は、米国で近代ミステリーの歴史を作った作家、S・S・ヴァン・ダインの第二作である。美術評論家W・H・ライトは病気療養中に多くのミステリーを読み、明白な欠陥がありながら版を重ねているものが多いことを知り、自ら執筆することにした。選ん…

1940年代英国の代表的パズラー

1943年発表の本書は、アガサ・クリスティーの後継者とも言われたクリスチアナ・ブランドの第三作。1940~50年代に英国で代表的なパズラーと言えば彼女のことだと思う。ほぼ「Who done it?」を中心に据え「読者への挑戦」こそないものの、唯一の犯人を示すロ…

雪の中の降霊術の会

1930年前後の女王クリスティは、意外な犯人というテーマを追い求めていたように思う。「アクロイド殺害事件」や「オリエント急行の殺人」など古典的な名作も、その意識から生まれたと思う。この2作には探偵役としてエルキュール・ポアロが登場するが、レギ…

軽口と言葉遊びが一杯

1984年発表の本書はW・L・デアンドリアの第6作、巨大TV局<ネットワーク>のもめごと処理担当副社長マット・コブが登場するシリーズとしては第4作にあたる。前作で自身の故郷に出かけて事件を解決したマットだが、本書ではホームグラウンドのニューヨークで…

45年前の集団就職列車

何度も紹介している津村秀介の伸介&美保シリーズ、2000年発表の本書は最後から2冊目の作品である。あと1冊しか本棚に残っていないのは寂しい限りだ。初期のころは鉄道など公共交通機関を使って日本中(時には海外も)走り回って作られたアリバイを崩す面…

カーが好きだった江戸川乱歩

本書は創元社が独自に編集したジョン・ディクスン・カー(別名カーター・ディクスン)の最後の短編集。長編はいくつか紹介しているが、作者は多くの短編や脚本も遺した。本書には、ラジオドラマ脚本2本、シャーロック・ホームズのパロディを含む4編の短編…

プロットそのものがトリック

本書は、多作家西村京太郎の1971年の作品。まだレギュラー探偵十津川警部らが登場する以前の作品だが、このころの著作には力作が目立つ。本書はある意味、パズラーの極限を目指したもので、プロットそのものがトリックのようなミステリーだ。「プロトリック…

探偵小説はやはり短編

ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーが残したのは、20~50ページほどの短編ばかり。その後「月長石」のような600ページ以上の長編も出るのだが、初期の頃どうしても本格ミステリーは短編が主流だった。本書はアーサー・コナン・ドイルの最初のシャーロッ…

記念すべきクイーン父子登場作

本書は(S・S・ヴァン・ダインはいたものの)米国ミステリー界を大きく飛躍させる新世代を拓いた1冊である。1929年、いとこ同士で24歳だった2人が共著したもので、ある雑誌の懸賞に応募し当選したもの。雑誌は廃刊になってしまったが、単行本として陽の目を見…

被害者のねじれた性格

本書(1938年発表)は、女王アガサ・クリスティが脂の乗り切っていたころの作品。「スタイルズ荘の怪事件」でデビューし「アクロイド殺害事件」でソロホーマーは打ったものの、明るいスパイものなどの評価は高くない。しかし彼女は、1930年代中盤から連続ヒ…

西87番街「Veterans」

本書は巨匠エラリー・クイーンの晩年の作品、1968年の発表でリチャード・クイーン警視が定年退職しているが、新妻ジェシイとの新婚旅行(行き先はナイアガラ瀑布だったらしい)から帰ったばかり。ニューヨーク西87番街のアパートで、エラリーを含む3人の生…

志摩半島の公共交通

本署(1999年発表)は津村秀介の「伸介&美保シリーズ」の1冊。60余冊ある作者の長編ミステリーも、本棚に残るのは2冊になってしまった。作者が、2000年に67歳の若さ(僕ももうじきその年になる)で急逝してしまったことが惜しまれる。浦上伸介という名探…

蔵王温泉周辺でのアリバイ

本書(1969年発表)は、「本格の鬼」鮎川哲也の鬼貫警部もの。まだ新幹線は東海道だけ、長距離電話も地方によっては交換台を経由してという時代の作品である。舞台は芸能界で、クラシック歌手の鈴木久美子とピアニストの夫重之の夫婦喧嘩から物語が始まる。1…