新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

心がゆがんだギリシア移民の死

1949年発表の本書は、女王アガサ・クリスティのノンシリーズ。レギュラー探偵は登場せず、警視庁副総監ヘイワードの息子チャールズが私として登場する。ノンシリーズゆえ買う気になれなかったので、ほぼ最後の未読女王作品となった。 WWⅡで長く英国を離れて…

ノース海峡21km間の陰謀

1930年発表の本書は、F・W・クロフツの凡人探偵<フレンチ警部もの>。以前紹介した「フレンチ警部と紫色の鎌」の次の作品にあたる。今回警部は、アイルランド島とグレート・ブリテン島の間にあるノース海峡(幅21km)を巡る陰謀に挑戦する。 ロンドンに引退し…

<ひかり号>を抜く<ひかり号>

本書は、昨日紹介した斎藤栄「2階建て新幹線殺人旅行」とほぼ同時期(1985年)に発表された、やはり新幹線車中の殺人事件を扱ったもの。舞台や時期は同じなのに、全く違った重厚な社会派ミステリーなので、あえて今日紹介したい。 作者森村誠一はデビュー二…

大西洋航路上での殺人事件

1940年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠ディクスン・カーの<H・M卿もの>。前作「かくして殺人へ」でもWWⅡの始まりが事件に影を落としていたが、本書はまさにその渦中。貨客船<エドワーディック号>は、米国から軍需物資を載せて英国へ向かうのだが、その航…

若き日本のエラリアン登場

本格ミステリーが行き詰ったかに思われた20世紀末、日本では僕と同世代の若い作家たちがパズラーを続々発表し始めた。「新本格の時代」がやってきたのだ。その代表的な作家の一人が有栖川有栖。小学生の時にミステリーにはまり、中学生の時に「オランダ靴の…

浦上伸介3度目の山陰

1995年発表の本書は、津村秀介の「伸介&美保もの」。アリバイ崩しで延々シリーズを書き続ける作者だが、山陰地方を舞台にした作品は多くない。多分、 ・山陰殺人事件(1984年) ・宍道湖殺人事件(1986年) と本書の3冊だけだ。それには理由があって、米子…

「さくら」の寝台車で死んだ3人

峰隆一郎という作家は、時代(剣豪)小説家だと思っていた。確かに120冊を超える時代小説を執筆している。しかし、アリバイ崩しを中心に50冊近いミステリーも書いている。食わず嫌いもいけないので、初めて買ってきたのが本書。1988年発表と比較的初期の作品…

錠前師の教え子、守16歳

1988年発表の本書は、これまで「火車」や「蒲生邸事件」などを紹介した宮部みゆきの本格ミステリー。作者は本書で、日本推理サスペンス大賞を受賞している。作風の広い筆者だが、本書では一見つながらない3つの事件から話が始まり、16歳の少年守が運命に翻…

最初の法医学探偵ソーンダイク博士

1907年発表の本書は、オースチン・フリーマンのデビュー作。最近のミステリーファンには知られていないかもしれないが、最初の法医学探偵ソーンダイク博士が登場した記念すべき長編である。ホームズ譚が人気を集める中、その後継者の座を争う名探偵が特に英…

映画界の事件に挑むH・M卿

1940年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠ディクスン・カーの<H・M卿もの>。1920年代後半から始まる本格ミステリーの黄金期は、ちょうど映画界興隆の時期に重なる。高名な作家は、次々にハリウッドに招かれた。交流嫌いのヴァン・ダインでさえ当時の女優グレイ…

キャンピオンもの第二短篇集

本書は、以前第三集「クリスマスの朝に」を紹介した、マージェリー・アリンガムの「アルバート・キャンピオン氏の事件簿」の第二集。第一集「窓辺の老人」はまだ入手できていない。作者はクリスティのライバルとも考えられた、英国女流ミステリー作家。彼女…

改めて読む「本家の凄み」

2日連続で「そして誰もいなくなった」をモチーフにした作品を紹介したので、今日は本家のご紹介を。1939年発表の本書は、女王クリスティの最高傑作であるとともに、ミステリー界に巨大な足跡を残したもの。孤島インディアン島に集められた10人の老若男女が…

大都会中心部の「孤島」

1996年発表の本書は、乗馬と考古学が趣味という北アイルランド在住の女流作家ジョー・バニスターのミステリー。著作は20冊以上あるとのことだが、他の作品はお目にかかっていない。 ロンドン「シティ」の中心街、建造中の40階建てホテルのペントハウスに、7…

毒キノコで死んだ男

1930年発表の本書は、「ピーター・ウイムジー卿もの」で知られるドロシー・L・セイヤーズのノンシリーズ。全編は登場人物が親戚や愛人などに宛てた手紙と、何人かの供述、および新聞記事で成り立っている。主要な登場人物は、極めて少ない。 ジョージ・ハリソ…

エラリー探偵社への奇妙な依頼

1939年発表の本書は、巨匠エラリー・クイーン初期最後の作品。この後3年ほどブランクがあり、中期の傑作「災厄の町」に続く。エラリーは、父リチャードの警官仲間だった男の息子ボー・ランメルと探偵社を設立することになった。実際の探偵業はボーがやり、…

鎧衣装を着た11人の騎士たち

1949年発表の本書は、以前「緑は危険」を紹介したクリスチアナ・ブランドの<コックリル警部もの>。クリスティの後継者として英国に現れた何人かの女流作家の中でも、「Who done it?」に関して右に出るものはいない。探偵役は「ケントの恐怖」と犯罪者から…

創元社の復刻版に感謝!

1964年発表の本書は、「Who done it?」の名手D・M・ディヴァインの初期作品。デビュー作「兄の殺人者」がクリスティに高く評価され、第二作「五番目のコード」もヒットして、本書の発表に繋がっている。英国の顔の見えるコミュニティである、田舎町での殺人事…

木枠に入った死体が揚がった

1928年発表の本書は、以前「フレンチ警部最大の事件」を紹介したF・W・クロフツのレギュラー探偵フレンチ警部もの。かつてコメントした「スターヴェルの悲劇」の次にあたる作品である。本格ミステリー黄金期の作品だが、かつて東京創元社が翻訳を多く出版して…

被害者が乗ったL特急<ひだ号>

「浦上伸介&前野美保シリーズ」の作者津村秀介は、60作あまりの作品を遺した。西村京太郎らのような多作家ではないが、1990年代には年間3~4作品を発表し「脂がのっていた」時期に、66歳で急逝されたのが惜しまれる。 本書の発表は1994年、「浜名湖殺人事…

雨上がり、一人だけの足跡

1939年発表の本書は、不可能犯罪の名手ジョン・ディクスン・カーの<フェル博士もの>。屋外の密室殺人含めて2つの不可能犯罪の謎が提供される、作者の独壇場ともいえる本格ミステリー。青年弁護士ヒュー・ローランドが恋した娘ブレンダは、両親を亡くして…

サンタ・クリスティーナ号が運ぶもの

1948年発表の本書は、以前「小鬼の市」などを紹介したヘレン・マクロイのサスペンスミステリー。舞台はベイジル・ウィリング博士が探偵役を務める作品に使われる西インド諸島だが、ベイジルは登場しない。「トリッキーなサスペンス小説を得意とする技巧派」…

非凡な凡人警官のデビュー作

1925年発表の本書は、本格ミステリー黄金期の作家として名の上がるF・W・クロフツのレギュラー探偵フレンチ警部(のちに警視)のデビュー作品、作者の作品としては「樽」「スターヴェルの悲劇」「クロイドン発12:30」を紹介しているが、黄金期の他の作家(*1)…

主任警視は依然意識不明

1973年発表の本書は、パトリシア・モイーズの<ヘンリー&エミーもの>。ロンドン警視庁きっての捜査官ヘンリー・ティベット主任警視は、働き者だが妻との旅行が大好き。この初夏にも、田舎の村ゴーズミヤ(*1)に住む妻エミーの姉ジェーンを訪ねていくつも…

8万人の野外コンサートの陰で

1973年発表の本書は、ルース・レンデルの<ウェクスフォード警部もの>。スコットランドの高地地区、ダートムアのキングズマーカムで巨大野外コンサートが開かれることになった。メインキャストはフォークシンガーのヴェダスト。若者たちが思い思いの恰好で…

デビュー作から55年後に

余詰めのない、厳密な長編ミステリーを追い続けた作家土屋隆夫。2004年発表の本書は、そのデビュー(1949年)から55年目の作品である。発表当時、作者は87歳。アガサ・クリスティにも匹敵する、息の長い作家である。 名作「天狗の面」(1958年)も、長野県を…

南アからスコットランドへの継続捜査

1923年発表の本書は、以前紹介した「製材所の秘密*1」に続くF・W・クロフツの第四長編。ずっと探していて、装丁もボロボロな状態のものを<新橋古本市>で見つけた。これ以降の長編ミステリーはすべてフレンチ警部が探偵役を務めるので、作者の初期作品の最後…

陰画(ネガ)が陽画(ポジ)に変わる

本書は、これまで「寒い夫婦」と社会派短篇集「媚薬の旅」を紹介した土屋隆夫の本格短編集。長編ミステリーでは「事件÷推理=解決」という余詰めを許さない厳格な姿勢を崩さない作者だが、短編では「意外性」を重視して上記の方程式にはこだわっていない。 …

神津恭介の独り言

本書は、1987年に雑誌「野生時代」に短期集中連載された高木彬光の作品を、新書版で出版したもの。「刺青殺人事件」でデビューした作者と「明察神のごとき名探偵」神津恭介も、40年以上経って年を取った。恭介は三度の入院を経験していたが、その度にジョゼ…

3人の作られた証人

1994年発表の本書は、おなじみ津村秀介の「伸介&美保もの」。作者が2000年に急逝(享年66歳)してしまい、好調に積み上げられてきたシリーズだが、本書は終盤の作品となってしまった。このシリーズの特徴は、 ・主として日本の公共交通機関を使ったアリバイ…

シャーロッキアンに捧げた映画

1970年発表の本書は、多くの映像化されたホームズもののなかで、ビリー・ワイルダーが監督した映画「シャーロック・ホームズの優雅な生活」のノベライゼーション。脚本はI・A・L・ダイアモンドだが、ノベライズはハードウィック夫妻の手によるものだ。 ワトソン…