新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

一人称ミステリー

ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドなどのハードボイルド小説は、「私」の視点で書かれた一人称ミステリーだった。この手法は主人公の考えや人柄を表すのに向いているものの、私の視野以外のことがらを書くことができないので制約も大きい。 本格ミ…

ヘンリー・メリヴェール卿登場

第一次世界大戦時の海軍大臣でガリポリ上陸作戦の失敗を経験したウィンストン・チャーチル卿は、第二次世界大戦の勃発で「戦時首相」の職に就く。本書の発表1934年当時は、政権から距離を置き不遇をかこっていたころである。それでも有名人であったことに間…

黄金の20年代の始まり

エドガー・アラン・ポーの創始になるミステリーというもののうち、本格探偵小説という分野が黄金時代を迎えたのは1920年代からだろう。アガサ・クリスティのデビューも今回紹介するフリーマン・ウィルズ・クロフツのデビューも1920年である。 1926年には、S…

雪に閉じ込められた列車で

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、初期のころは特に「意外な犯人」を追及した。古典的なミステリーファンに聞くと、彼女のベスト3は、「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺害事件」と、本作「オリエント急行の殺人」との声が多い。いずれの作品…

名探偵らしい名探偵

今まであまり日本の作家を取り上げてこなかったのだが、久し振りに「神津恭介」の名前を見つけて本書を買ってきた。高木彬光の代表的な名探偵だが、高校生時代にずいぶん読んだのだがそれ以降ご無沙汰してしまっていた。今回40年ぶりの再会である。 日本の本…

安楽椅子探偵のサロン

アガサ・クリスティーは、長編小説だけでなく戯曲や短編小説でも多くの名作を残した。短編集の数も多い。本書は、その中でもミス・マープルものを集めた短編集である。クリスティーは本書の序文で、「ミス・マープルは私の祖母に似ている」と深い愛着を示し…

新鋭が挑む将棋のタイトル戦

作者の斎藤栄は、東京大学将棋部出身。公務員在職中からミステリーを書き始め、三度目の江戸川乱歩賞候補となった1966年の本書で、乱歩賞を得た。ちょうど藤井七段の登場で将棋界がブームに沸き立っており、本書を45年ぶりに読んでみた。 僕も中学生までは将…

探偵小説、日本の夜明け

ミステリーの本場はやはり欧米、なかでもイギリスとアメリカが双璧である。日本はこの両国との関係が悪くなり、やがては戦争に突入する。英語は敵性語であり、使用が禁じられた。あほらしい話だが、野球も「ストライク」といえず「よし1本」などと言い替え…

セントメアリミード村の老嬢

アガサ・クリスティーは、1920年「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした。この時の探偵役はエルキュール・ポワロ。ベルギー警察のエリート捜査官で、諜報活動にも関与したことがある。第一次欧州大戦でベルギーは全土が戦火に覆われ、対岸のイギリスに避難…

ハリウッドの魔力

正統ハードボイルドの探偵フィリップ・マーロウは、ハリウッドを舞台に活躍する。これには、作者のレイモンド・チャンドラーが映画業界で働いていたことも影響しているだろう。ミステリー界も、映画の世界に割合近いのだ。本格ミステリーの分野でも、S・S…

イギリスの田舎町が抱える秘密

イギリスには女流ミステリー作家が多いとも書いた。男性作家も含めて、落ち着いたゆったりした作風で、学生時代には理解できなかったこともある。今回ご紹介するのは、まさに大人のミステリーである。街の暮らしをゆったりと描きながら、その中での人間同士…

名優ドルリー・レーン

匿名作家というのは、いくらでもいる。ヴァン・ダインが筆名を使い、その正体を秘した理由は以前に紹介した。しかし新聞記者にかぎつけられ、豪華な食事をごちそうさせられるハメに陥ったこともある。貧乏美術評論家であるはずのW・H・ライト氏が、分不相…

「大惨事」シリーズ第一作

以前タイタニックが生まれた町ベルファストを訪問して、犠牲者名を刻んだ碑に案内された。市庁舎の中にはタイタニックの内装を再現した部屋がいくつもあり、すごいな~とだけ当時は思っていた。ところがある本を手にしたところ、内装や料理まで丁寧に記述し…

ペダンティックな探偵

S.S.ヴァン・ダインは、生涯に12作しか書かなかった。その名前も、本名ではない。美術評論家であった、ウィラード・H・ライトは、病気療養中膨大な量のミステリーを読み、こんなものなら書けるかもしれないと思ったという。硬い専門書を何冊も出版している彼…

最初に感動した日本ミステリー

1964年に東京オリンピックがあり、多くのインフラが整備された。その目玉だったのが「新幹線」。夢の超特急と言われ、従来8時間かかっていた東京・大阪間を3時間あまりで結ぶことができた。ただ早いだけではなく、極めて正確に運行されることも誇りだった…

才人の手裏剣60連発

アイザック・アシモフは才人である。SF作家として知られており、「私はロボット」「銀河帝国の興亡(全3巻)」などの著作がある。そろそろ現実味を帯びてきたロボットと人間の共生時代を予測し、ロボット三原則を顕わしもした。そんなアシモフは、ミステ…

文豪の試技

特にイギリスに多いのだが、文豪と呼ばれる人たちが本職はだしのミステリーを書くことがある。多くは作家として成功してから「余技」として何作か書くというものだ。イーデン・フィルポッツ、A・A・ミルン、E・C・ベントレーらの手になる、古典のなかで…

タイタニックと沈んだ未発表作品

20世紀初頭のアメリカが生んだ名探偵と言えば、僕はこの人ではないかと思う。哲学博士、法学博士、王立学会員、医学博士等々の肩書を持つオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授。年齢不詳だが年より老けて見え、小柄でやせ型、斜視気味の風采の…

推理の競演

本格推理小説の主人公は、おおむね探偵役である。ワトソン型の語り部や助手が付き添うこともあるが、推理や解決を複数の探偵がリレーしたり競争したりするものは珍しい。エラリー・クイーンは初期の短編「アフリカ旅商人の冒険」で一度だけ試みているが、堂…

ミステリーの女王

イギリスには、女流ミステリ作家が多い。P・D・ジェイムズ、ドロシー・L・セイヤーズ、クリスチァナ・ブランド、マージェリー・アリンガム等々。いずれも忘れがたい作者たちだが、その中でも、質・量ともに「ミステリーの女王」と呼べるのはアガサ・クリステ…

名のみ知られた名作

中学生のころ本格的にミステリーを読み始めた。ほとんどは翻訳もので、創元推理文庫が多かった。創元社のカタログ様の小冊子があり、題名・作者・区分(本格・サスペンス・ハードボイルド等)・価格・4行ばかりの簡単な内容紹介が1ページに6作品分掲載さ…

密室という迷宮

本格推理小説の代表的なジャンルに「密室もの」というのがある。これを得意とした作家に、ジョン・ディクソン・カー(別名カーター・ディクソン)という人がいる。推理小説の始祖とされるエドガー・アラン・ポーの「ル・モルグ」も、ある意味密室殺人事件を…

東海道新幹線と35mmフィルム

アリバイ崩しの系譜として、津村秀介や深谷忠記のが多くの作品を残している。この2人より前に、松本清張「点と線」を受け継いでこのジャンルに注力した作家を一人ご紹介しよう。鮎川哲也は「ペトロフ事件」でデビューした本格推理小説家である。本書は1966…

サントリーミステリー大賞

昭和の時代、江戸川乱歩賞を皮切りに日本推理作家協会賞などミステリー作家を目指す人たちの登竜門ともいうべきコンテストがいくつか出来上がっていた。サントリーミステリー大賞もそのひとつ。表看板は酒造メーカーだがバックにはメディアがいて、受賞作品…

文豪の余技

美術評論家ウィラード・ハンチントン・ライトがミステリーを書くにあたり、S・S・ヴァン・ダインという筆名を使うことにした。その理由を、イギリスに比べてアメリカの文壇にミステリーを軽視する傾向があるから、と述べている。確かにイギリスでは、文壇…

ニューヨークの都市交通

アメリカは基本的にクルマ社会である。1800年代に"Rail Baron" と呼ばれる鉄道敷設競争もあったが、基本的に都市間交通の話。1900年代にあった年の近距離交通も徐々に廃止されていった。近郊電車や市電の経営が傾くと当時新興企業だった自動車産業がこれを買…

三角館の恐怖

本格的にミステリーを読み始めたのは中学3年生になったころだった。しかし、それ以前にもミステリーを読んだことはある。その代表格が「三角館の恐怖」である。著者は江戸川乱歩、確か子供向けの装幀だった。不思議な館、奇妙な遺言、複雑な人間関係、エレ…