新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

極北の9人の囚人

以前映画「コブラ」の原作となったアクション小説「逃げるアヒル」を紹介した、ポーラ・ゴズリングの第二作が本書。決まった主人公やある種のパターンを持たない作家と言われているが、本書は思い切った舞台設定をしたエスピオナージ風のミステリーと言える…

鬼才の本格ミステリー

ジョン・スラデックは米国の作家、SFやミステリー・ノンフィクションも書いたが、いずれもパロディ色の強いものだという。面白いのはSF長編に1983年発表の「Tik Tok」という作品があること。今、米中間で問題になっているサービスとの関係は不明だ。 ミステ…

古代ケルトの「ブレホン法典」

7世紀のアイルランド、そこは非常に人道的な法体系が整備され、市民が権利を主張できる公正な裁きの場があったと本書は紹介している。当時のアイルランドはケルト人の国家だった。多くの部族が緩やかな連携を保っていて、外来の侵略者があればこれと共同し…

コロンボ警部の犯人捜し

ロス・アンジェルス市警のコロンボ警部、殺人課所属だから殺人犯人を捜すのは当たり前のこと。しかしいつも彼は「捜し」てはいない。多くの事件で現場にあのボロ車(プジョーらしい)で現れた時は、すでに犯人の目星がついているように見える。まあ読者/視…

英国で一番有名な探偵

本書は、先月「別室3号館の男」を紹介したコリン・デクスターのモース警部ものの1冊である。かの記事では英国人が「日本人もツウだな」と評したことを紹介しているが、日本での評判と英国での評価には乖離があるようだ。 本書の解説に、英国の雑誌<ミリオ…

Google MAPのおかげ

本書は、何度も紹介している津村秀介のアリバイ崩しもの。このシリーズの特徴は、ルポライター浦上伸介とその仲間たちが、犯人と目される人物の鉄壁とも思えるアリバイトリックを暴くことにある。しかしトラベルミステリーの要素もあって、多くは日本国内だ…

「斧・琴・菊」の怨念

敵性国家の象徴でもある「探偵小説」が軍国体制で抑圧されていた時代、愛好家たちは「捕物帳」に逃げ込んで時代が変わるのを待っていた。横溝正史も「人形佐七」などの諸作を書いていたが、晴れて(と言いましょう)戦後となり、堂々と本格探偵小説を書ける…

はぐれ刑事八木沢庄一郎

作者の大谷羊太郎は、大学在学中プロミュージシャンとしてデビューし、克美しげるのマネージャーもしていた。4度の江戸川乱歩賞挑戦で、「殺意の演奏」(1970年)でついに受賞。社会派ミステリーが主流だった時代に、トリックを前面に出した本格ミステリー…

大げさな名前の男

本書はアガサ・クリスティの「ポワロもの」で、1935年の発表。作者の脂がのりかけたころの傑作と評される作品である。これ以前のクリスティは、「アクロイド殺害事件」のような一発ものを書けても安定した作品群は書けないと思われていたフシがある。そんな…

美保たちの長崎旅行

「週刊広場」のアルバイトで、浦上伸介のアシスタントを務める前野美保は明聖女子大の4年生。銀行員だった父親が殺害された事件で、伸介と共に犯人を追い詰めた。それから20以上の事件で伸介の相棒として、時刻表をひっくり返している。・・・ただずっと大学4…

「シャレード」のドレス

本書は、以前紹介した「花の棺」でデビューした名探偵キャサリンものの第三作。山村美紗の作風は、複数の事件を起こし複数のトリックを組み合わせて、物語の中盤でも謎解きを示して進めていく本格ミステリーである。本書の解説を「本格の鬼」である鮎川哲也…

出版部長宮脇俊三

1960年、著者の鮎川哲也は日本推理作家協会賞を「憎悪の化石」と「黒い白鳥」の2作品をもって受賞した。いずれも本格推理の結晶のような作品で、選者11名中9名が推薦するという圧勝だったという。その受賞式のパーティでのことだろうが、作者は初対面の出…

三度目のハリウッド

本書は、巨匠エラリー・クイーンの1951年の作品。以前「ハートの4」(1938年)を紹介しているが、その後少し間を措いての三度目のハリウッドものである。この間、歴史的には第二次世界大戦があり、作者クイーンとしては架空の田舎町ライツヴィルものを数編…

ラスタファリー教徒の死

本書は、英国の本格ミステリー作家コリン・デクスターのモース主任警部ものの1作。何作か紹介しているが、評価の難しいシリーズである。ロンドン近郊の警察署に持ち込まれる奇怪な事件を、独り者のモース主任警部と愛妻家のルイス巡査部長が解決していく物…

事件÷推理=解決

以前「千草検事シリーズ:影の告発」を紹介した、土屋隆夫のデビュー長編が本書(1957年発表)である。決して多作家ではないが、印象に残る本格ミステリーを何冊も残した。ミステリー評論でも名高い作者自身が、「その作家のことを知ろうと思えば、デビュー…

ギデオン・フェル博士登場

本書(1933年発表)はディクスン・カーの6番目の長編。二人のエラリー・クイーンより1年遅れて米国に生まれた作者は、クイーンに1年遅れて「夜歩く」でデビューする。最初のレギュラー探偵はフランスの予審判事アンリ・バンコランだったが、本書でギデオ…

私の祖母に似ている

ヒトラーとの戦争を戦い抜いている時も、英国のミステリー作家たちは新作を発表し続けた。米国から英国に移り住んでいたディクスン・カーは、「爬虫類館の殺人」で、ロンドン空襲の警報音を謎解きのキーにしていたほどだ。本書もそんなころ1942年に発表され…

急行「北陸」1960

本書は、鮎川哲也の「鬼貫警部もの」。とはいえ、鬼貫警部自身は12章中の一章、30ページ余りにしか登場しない。相棒の丹那刑事も数章に登場するだけ、事件の解決は容疑者の一人だった銀行員とその恋人にサツ回りの新聞記者が語ることで読者に知らされる。 解…

暗号はとても面白いが

ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーは怪奇もの、スパイもの、実録もの、密室、本格ものなど多くのジャンルに足跡を残した。暗号ものの元祖「黄金虫」もそのひとつ。コナン・ドイルも「踊る人形」という暗号ものを書いている。これらは、通常の文字を別…

イタリア人探偵ベネデッティ教授

本書は1979年発表の、ウィリアム・L・デアンドリアの第二作。デビュー作「視聴率の殺人」の<ネットワーク>の社内探偵マット・コブとは違い、イタリア人の名探偵ニッコロウ・ベネデッティ教授が探偵役を務める。デビュー作以上の評価を得た作品で、本格ミステ…

陸軍登戸研究所の毒薬

本書は1957年発表の、高木彬光の「神津恭介もの」の比較的初期の作品。戦後間もない1948年に「刺青殺人事件」でデビューした作者と名探偵のコンビは、1961年「白魔の歌」までおおむね1年に1長編のペースで発表されていたが、その後10余年の眠りにつくこと…

失明した名探偵

シャーロック・ホームズも奇矯な性癖の持ち主だったし、そのライバルたちも平々凡々とした人はいないのはある意味当然なのかもしれない。名探偵というのは非凡な人だから名探偵なのであって、凡人型と言われるクロフツのフレンチ警部でも、もちろん鋭い推理…

横浜・京都・塩釜を結ぶ道

本書も津村秀介のアリバイ崩しもの、ルポライター浦上伸介が容疑者のアリバイを実際にその街に出掛けその列車や飛行機に乗って検証するストーリー。いわゆる「トラベルミステリー」なのだが、風光明媚な地を巡りながらもどちらかと言えば「鉄道ヲタク」的な…

「市川監督渾身の一作」の原作

横溝正史の金田一耕助シリーズは、巨匠市川崑監督によって多くの作品が映画化された。監督はいくつかの大作を発表した後、「女王蜂」で大きな挑戦をした。それは、前3作に起用した大物女優をすべて出演させるということ。 「犬神家の一族」 高峰三枝子 「悪…

ミス・マープルのロンドン感傷旅行

本書は、アガサ・クリスティ晩年の74歳の時(1965年)に発表されたものである。古き良きロンドンをそのままに維持する「時のないホテル」という設定のバートラム・ホテルが舞台となったミステリーである。このホテルは架空のものだが、モデルはメイフェアの…

若狭・東京間の遠隔推理

江戸川乱歩に続いて登場した本格探偵小説の旗手、横溝正史と高木彬光の作風には対照的な部分がある。横溝流は怪奇ものと見せかけて合理的な解決に持ち込むもので、ディクスン・カーの手法に近い。高木流は怪しげは雰囲気の中にも科学の眼が光っていて、より…

おりんでございやす

本書は横溝正史の作品の中でも、映画化されてマニア以外の人にも知られた作品である。舞台は例によって岡山県、特に本作では岡山弁が目立つ。岡山方面の言葉には、尾張の方言に似た表現がある。ひょっとすると昔は近畿地方を中心にこの種の方言が広く普及し…

伸介・美保の欧州行

本書は津村秀介の長編50作目、レギュラー探偵浦上伸介と前野美保が容疑者のアリバイ崩しに挑むいつものお話しだ。ただちょっと違うのは、殺人事件があったときには容疑者は欧州出張をしていたこと。1件の殺人は成田発ローマ行のJAL便の中、もう1件はANA便…

近代米国のパズラー、デビュー

W・L・デアンドリアは1978年本書でデビューし、1996年に44歳の若さで亡くなるまでに約20の長編小説を残した。邦訳されたものはその半分もないようで、僕自身「ホッグ連続殺人」と「五時の稲妻」の2編しか読んでいない。エラリー・クイーンを彷彿とさせる本…

脇役としての狩矢警部

中学生の頃にエラリー・クイーンに出会ってから、高校在学中に500冊程度は読破したと威張っている僕だが、実は山村美紗の作品を読んだことが無かった。TVの2時間ドラマの原作が多くあったことは知っているし、少しは見た記憶もあるのだが、小説としての作…