新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

本格ミステリへのこだわり

佐野洋、本名丸山一郎。1928年東京生まれ、読売新聞の記者をしていた1959年に本書を書き下ろし、ミステリ文壇にデビューしている。ミステリ作家を職業とするつもりは当初はなかったようで、新聞社にはそのまま勤務している。ペンネームの由来も、「社の用」…

相棒は女子大生

津村秀介のアリバイ崩しシリーズ、レギュラー探偵はルポライターの浦上伸介である。長編5作目の「山陰殺人事件」でデビューし、以後ほとんどの作品に登場する。彼のことは、「印象の薄い名探偵」として紹介してから何度か取り上げている。 このシリーズ、「…

ジュブナイルの思い出

僕が子供の頃にはルパン三世もコナン君もいなかったから、少年たちがよく読んでいたのはホームズもの、ルパンもの、明智小五郎と少年探偵団の活躍する子供向けの本だった。挿絵も多く、漢字が少なく、もちろん抄訳たっだと思われる。 何冊か読んだはずなのだ…

フランス人の警官

ミステリーというと、やはり主役は英米。フランスはミステリーの舞台になることは多いが、作家については日本に紹介されたものは少ない。悪女もので知られるカトリーヌ・アルレーやサスペンスものが得意のセバスチャン・ジャプリゾなどは知られているが、本…

まだ「のぞみ」がなかったころ

「偽りの時間」改め「影の複合」でデビューした、アリバイ崩しの大家津村秀介の第二作が本書である。鮎川哲也「準急ながら」などに触発されて、公共交通機関を使ったアリバイトリックミステリーを書いたものの、デビュー作はあまり売れず。後に改題して復刊…

不運な艶福家

本書は、おなじみルポライター浦上伸介がアリバイ崩しに挑むシリーズの1冊。比較的初期の作品(1986年発表)で、後年相棒となる前野美保は登場しない。浦上自身も、作中29歳と紹介されている。使われている時刻表は、同年6月のものである。 長崎での取材の…

男爵対公爵

イギリスにシャーロック・ホームズあれば、フランスにはアルセーヌ・ルパンあり。「3世」ではない、オリジナルのルパンもので、最高傑作とされるのが本書である。作者のモーリス・ルブランは「夫婦もの」を得意とした純文学者だったが、「特別にに面白い冒…

手法が固まりつつあったころ

本書は、アガサ・クリスティーの長編8作目にあたる。このころまでに彼女は、ポアロという戯画化された外国人探偵、トミー&タペンスという若い冒険家夫婦、普通の官憲バトル警視らを主人公にした諸作を書いている。ほぼ1年1作のペースで発表してきた。 19…

長距離夜行列車のアリバイ

深谷忠記最大のシリーズものは、数学者黒江壮とフィアンセの笹谷美緒を主人公にしたもの。全部で37作品あり、そのほとんどがトラベルミステリーである。そのうちの3作に「+-の交叉」というタイトルを付けたものがある。しばらく前に、その2作目「津軽海…

不遇だったデビュー作

本書は、「時刻表アリバイ崩しもの浦上伸介シリーズ」の作者津村秀介のデビュー作である。1972年に「偽りの時間」というタイトルで出版されたが、大きな反響を呼ぶことは無かった。それが津村秀介がそこそこ売れてきた1982年に時刻表などを見直してこのタイ…

宍道湖とレマン湖

主として公共交通機関を使ったアリバイ工作に挑むルポライター浦上伸介シリーズの中でも、「湖シリーズ」と言われた作品群の第一作が本書である。著者の長編9作目で1986年発表の本書は、これまでも時々探偵役を務めていた浦上伸介のレギュラー化への入り口…

日本の医学ミステリー

以前ご紹介したのは奇術師のミステリー、今回は医学者のそれである。作者の由良三郎は、本名吉野亀三郎という高名な細菌学者である。本職の医療業界を背景に、先端医療技術も使ったトリックを多く示した。本書はその代表作のひとつ。 大きな病院を舞台に、院…

心理探偵ベイジル・ウィリング

以前「幽霊の2/3」を、名のみ知られた名作として紹介したが、作者のヘレン・マクロイ自身も日本でそんなに有名な作者ではない。学生時代1,000冊のミステリーを読んだと自慢していた僕も、全くよんだことがない作家だった。今回ご紹介するのは、作者の初期…

「御前」と呼ばれる探偵

以前傑作と名高い「ナイン・テーラーズ」を紹介したが、ドロシー・L・セイヤーズの作品はほかに読んだことが無かった。アガサ・クリスティーに匹敵するとの評価もある女流の大家だが、日本での紹介(翻訳)は進んでいなかったからだろう。現在は創元社やハ…

フェラーズの描く「相棒」

ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」には、すでに2人組で犯罪解決に挑む姿が描かれている。名探偵オーギュスト・デュパンに「わたし」という語り手が付いていて、読者は「わたし」にある程度自分を映しながら物語を読み進んでゆく…

時刻表上の戦い

松本清張「点と線」に始まった日本のアリバイ崩しミステリーだが、森村誠一「新幹線殺人事件」である種の頂点に達した。英米のミステリーにも、このように精緻な「時刻表トリックもの」は見当たらない。日本の鉄道の正確さがその背景にあることは確かだと思…

千草検事の登場

土屋隆夫は1958年「天狗の面」でデビューした、日本の戦後の本格探偵小説第二世代を代表する作家である。横溝正史や高木彬光ら戦後まもなく(昭和20年代)に芽を出させた探偵小説ブームを、昭和30年代に花咲かせたミステリー作家のひとりである。 同時期に世…

エジプトツアー、1937

アガサ・クリスティーは旅行好きだった。列車や飛行機、リゾート地を舞台にした作品は非常に多い。本書の舞台もナイル川のクルーズ船である。「オリエント急行の殺人」では、雪に閉ざされた列車の1等車の乗客乗員10名あまりが容疑者になる。このように舞台…

おしゃべり女と無口男

深谷忠記という作家も、アリバイ崩しのシリーズを中心に多くのミステリーを発表したひとである。1982年に「ハーメルンの笛を聴け」で江戸川乱歩賞候補となり、1985年の「殺人ウィルスを追え」でサントリーミステリー大賞の佳作を得た。しかしミステリー作家…

名探偵、最後の挨拶(後編)

どんなロングセラーの作家でも、必ず書けなくなる時はやってくる。シリーズものの名探偵も、最後の挨拶をしなくてはいけないわけだ。古くはコナンドイルは、自分の分身とも言えるシャーロック・ホームズをスイスの滝のタコツボに落として殺そうとしたことが…

名探偵、最後の挨拶(前編)

日本のミステリーで多作家の一人である内田康夫が、2017年には休筆宣言をしその後亡くなった。名探偵浅見光彦シリーズは100冊を越えるロングセラーで、僕も一時期読んだものである。警察庁高官を兄に持つ名家の次男坊でルポライターの主人公が、旅先などで事…

たどりついた境地(後編)

全部で800ページ近い大作(最近ではそうでもないか?)だが、すぐに不可能興味をそそる殺人事件が起きる。キャンパスで、音楽専攻の女子学生がマジックの仕掛けに拘束されて絞殺される。警官が現場に踏み込んだ時、犯人はまだそこにいてキャンパスの中を逃げ…

たどりついた境地(前編)

「どんでん返し職人」として知られるジェフリー・ディーヴァーは、作中にとりあげるテーマを徹底的に調査することでも知られている。このブログで取り上げた諸作以外にも、多くの習作・傑作があり、読むたびに勉強させられることは間違いがない。例えば、 静…

Qの悲劇

エラリー・クイーンは「災厄の町」以降、たびたびニューヨークの北に位置する田舎町ライツヴィルを訪れる。これは架空の街だが、エド・マクベインのアイソラとは違って、古い落ち着いた変化の少ない街である。住民はほとんどが知りあい。名家と認識されてい…

挑戦し続けるがゆえの女王

アガサ・クリスティーのレギュラー探偵は、官憲ではない。ポアロはベルギー警察時代は官憲であったが、初登場した「スタイルズ荘の怪事件」(1920年)ですでに引退し私立探偵として活動している。ミス・マープルに至っては、官憲と関わったことすらない老婦人…

クロフツのレギュラー探偵

けれん味たっぷりの名探偵ではなく、地道な捜査をする普通人探偵を主人公に「樽」でデビューした鉄道技師F・W・クロフツも、やがてレギュラー探偵を持つようになった。それがこの人、フレンチ警部である。原題も「Inspector French & The Starvel Tragedy…

印象の薄い名探偵

「アリバイ崩し」というミステリーのジャンルはクロフツの「樽」に始まったものの、発達したのはユーラシア大陸の反対側の島日本でだった。先日紹介した松本清張「点と線」や森村誠一「新幹線殺人事件」など名作が生まれ「時刻表もの」というジャンルを形成…

マンハッタンに棲む龍

マンハッタンの中心部から車で20分程度、島の北部にかつてインディアン保護区だったところに熱帯魚の養殖で財をなした富豪の屋敷がある。屋敷では怠惰なパーティが開かれ、いわくありげな人物が集まっている。夜も更けて小川の流れをせきとめたプールで泳ご…

探偵小説への愛と渇望

金田一耕助のデビュー作が、本書に収められている「本陣殺人事件」である。設定は第二次世界大戦前であるが、発表されたのは1946年(4月から12月まで「宝石」誌上に連載)。かつてはその町の「本陣」だったという旧家で、新婚の長男夫妻が日本刀で斬殺され…

.25口径自動拳銃

007カジノロワイヤルを読んで、.25口径自動拳銃のグリップを骨組みだけにしてテープを巻いたものなら正装していても携行して目立たないという記述があったことは何日か前に書いた。恐らくは、ベビー・ブローニングのようなものだったろう。 ◆FNブローニ…