新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

現代「けまり」の手掛かり

1993年発表の本書は、多作家斎藤栄のノンシリーズ。横浜市役所勤務だった作者には、神奈川県を舞台にした作品が多い。本書もその1編だが、なぜかWikipediaに作品の紹介がない。まあ、このころ月間1冊ペースで長編を発表しているので、さしものWikipediaも…

素人探偵が官憲に認められるには

1999年発表の本書は、深谷忠記中期の作品。数学者黒江壮と編集者笹谷美緒が真犯人の(主にアリバイ)トリックを暴くシリーズである。警視庁の勝部長刑事らには捜査協力をした実績があり「名探偵」と認識されるコンビだが、地方警察にはなじみがなく一般人扱…

アラサー牧師妻の冒険

1990年発表の本書は、アガサ賞最優秀処女長編賞を獲ったキャサリン・ホール・ペイジのデビュー作。作者はニューイングランドの田舎町エイルフォードに住む牧師の妻フェイス・フェアチャイルドを探偵役にしたミステリーを書き続けているが、その第一作にあた…

劇中のエラリーとニッキー(後編)

昨日紹介した「エラリー・クイーンの事件簿1」に続き、本書は「事件簿2」である。もうひとつの映画脚本と、2編のラジオ脚本が収録されている。 ◇完全犯罪 エラリーは友人ウォルター・マシューズから婚約者メーリアンの父レイモンド・ガーテンの苦境を救う…

劇中のエラリーとニッキー(前編)

巨匠エラリー・クイーンは、ハリウッドとも付き合いがあった。「ハートの4」や後の「第八の日」はハリウッド経験がその背景になっている。既刊の国名シリーズなど5編(*1)が映画化されたほか、3つの映画脚本を1940~41年に書き下ろしている。書き下ろし…

ハリッジ(英)~フーク(蘭)往来航路

1985年発表の本書は、デビュー作「死人はスキーをしない」などを紹介してきたパトリシア・モイーズの<ヘンリ&エミーもの>。子供のいないティベット主任警視夫妻は、仲睦まじくあまり豪華ではない休暇旅行にたびたび出かけ、食事やワインを楽しんでいるう…

処刑12日前の特命捜査

歴史ミステリが得意な英国作家ピーター・ラヴゼイには、30冊ほどの著作がある。いくつかのシリーズがあるが、デビュー作「死の競歩」以来8作の「クリッブ部長刑事もの」が初期のもの。1978年発表の本書は、その最終作品である。 舞台は、1888年ヴィクトリア…

1939年5月13日、パリでの怪事件

1946年発表の本書は、本格マニアであるマルセル・F・ラントームが、書いた長編ミステリ3編のうちのひとつ。作者はこれらを、ドイツ軍の捕虜収容所で書いた。あまりに退屈な毎日だったからで、原稿は家族へ送るものに隠されて収容所から出た。彼はのちに脱走し…

自白剤を使わなくても

1941年発表の本書は、以前「幽霊の2/3」「家蝿とカナリア」などを紹介したヘレン・マクロイのベイジル・ウィリング博士もの。第二次世界大戦がはじまっていたがまだ平穏なニューヨークを舞台に、嫌われ者の富豪美女殺しにウィリング博士が挑む。 ロングアイ…

部屋が人を殺せるものかね?

1935年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠カーター・ディクスンの<H・M卿もの>。作者は、歴史・剣劇が好きで、大陸(特にフランス)が大好き。初期の頃はパリの予審判事アンリ・バンコランを探偵役にしたシリーズを書いていたが、英国を舞台にした巨漢探偵2人…

名門男子校での殺人事件

1990年発表の本書は、自身英語教師でもあるW・エドワード・ブレインのデビュー作。作者は、写真を見ると「サンダーバード」の科学者ブレインズを思わせる風貌である。「寄宿舎という閉鎖空間での事件、青年たちの姿が鮮明」との評価があるが、他の作品につい…

国際的機密ブローカー「L」

1937年発表の本書は、以前紹介した「一角獣の殺人」に引き続き、英国の諜報員ケン・ブレイクとイーブリンが登場するカーター・ディクスンの<H・M卿もの>。そもそもH・Mことヘンリー・メルヴェール卿の得意は怪奇な事件と密室の謎。しかし彼は陸軍諜報部長官…

管轄外の再捜査に挑むティベット

1971年発表の本書は、パトリシア・モイーズの<ヘンリ&エミーもの>。以前紹介した「死の贈物」の次の作品にあたる。デビュー作「死人はスキーをしない」でも、ヘンリたちはイタリアアルプスのスキー場で事件に巻き込まれるのだが、今回の舞台もスイスの山…

柊検事、忍びの道を研究す

1993年光文社文庫書き下ろしの本書は、以前短篇集「蛇姫荘殺人事件」を紹介した、弁護士作家和久峻三の「赤かぶ検事もの」の長編。高山地検時代、法廷に好物の赤かぶをぶちまけてしまったことから異名が付いた柊茂検事は、京都地検に異動してきている。 京都…

史上初の長編密室ミステリー

本書は、今月出かけた京都の出町桝形商店街の古書店で見つけたもの。1891年の発表で、史上初の長編密室ミステリーである。ずっと名のみ知られた古典で、ミステリー歴50年以上になって、ようやく見つけた逸品である。 ロンドンの一角ボウ町にある下宿屋で、労…

ビゼーを待つシューマン

本書は、以前紹介した「危険な童話」などと同様、土屋隆夫の「千草検事シリーズ」の長編と何編はの短編、エッセイなどを合本したもの。中心となっているのは、1966年に発表された300ページほどの長編「赤の組曲」である。 千草検事の学生時代の知り合い坂口…

街角オーディションの目的

1946年発表の本書は、久しぶりに見つけたE・S・ガードナーの「ペリイ・メイソンもの」。法廷シーンも多く(70ページほどある)、本格ミステリーとしても楽しめる作品に仕上がっている。第二次世界大戦直後なのだが、戦勝国米国には戦争の傷跡も見られない。ロ…

国境紛争を裁く委員の不審死

先日横浜馬車道で古書店を見つけふらりと入ったところ、最近見かけることのないパトリシア・モイーズの作品を3冊見つけることができた。古書店主も「モイーズ面白いですよね」と言ってくれた。今月から1冊/月のペースで紹介したい。 1968年発表の本書は、…

捜査指揮官ファイロ・ヴァンス

1935年発表の本書は、S・S・ヴァン・ダインの長編第9作。前半6作に比べ後半6作の評価は一般に高くない作者の作品だが、第7作「ドラゴン殺人事件」と本編は堂々たる仕上がりだと思う。高校生の時に読んで、夏休みの読書感想文に選んだ書でもある。 普通素人…

レコードコレクター鮎川哲也

「本格の鬼」鮎川哲也は、中・短編として発表した作品を長編化するということをよくやっていた。決して「二度儲けてやろう」ということではなく、出版社のリクエストに対応するため新作をひねり出す時間が十分取れない時の、苦肉の策だったらしい。本書も197…

保険調査員ブレダン夫婦

1934年発表の本書は、昨年「陸橋殺人事件」を紹介した、英国カトリック教会最高位のロナルド・A・ノックス師が遺した5作目の長編ミステリー。作者は生涯6作品しか書かなったが、聖職者が本業だったから仕方あるまい。作風はフェアな本格ミステリーで自らの「…

ロワール河を臨む古城にて

1935年発表の本書は、カーター・ディクスンの<H・M卿もの>。昨年紹介した「白い僧院の殺人」同様の不可能犯罪ものだ。作者(別名ディクスン・カー)は、米国生まれなのに、歴史ものや欧州大陸が大好きで、本書の舞台もロワール河を臨む古城<島の城>である…

パトリシア・モイーズのデビュー作

1959年発表の本書は、これまで「大空に消える」「死の贈物」を紹介したパトリシア・モイーズのデビュー作。鼻を効かせるが口癖のヘンリ・ティベット警部とその妻エミーも、本書で初登場する。作者はWWⅡのころ空軍補助部隊で慰問の仕事をし、演劇脚本など書い…

本格黄金期の中国人探偵

1930年発表の本書は、創元社が復刻してくれたホノルル警察の中国人警部チャーリー・チャンが探偵役を務めるシリーズの代表作。作者のアール・デア・ビガーズは、新聞の演劇評から劇作家、作家に転じた人。ヴァン・ダインやクイーンと同じ本格ミステリー黄金…

孤島の私設法廷に立つ十津川警部

1977年発表の本書は、西村京太郎の「十津川警部シリーズ」初期の作品。このころ作者は誘拐ものを極めようとして、「消えた・・・」と題した作品群を執筆していた。本書では、探偵役の十津川警部自身が誘拐されてしまう。 職場からの帰り道、十津川は何者かに殴…

キャサリンの京都の正月

1978年発表(恐らく書き下ろし)の本書は、山村美紗の「キャサリンもの」。以前「花の棺」や「燃えた花嫁」を紹介して、細かなトリックの積み重ねのミステリーだと評している。本書もそのパターン、米国副大統領の娘で金髪碧眼の美女キャサリンは、通訳代わ…

国名シリーズ中の異色作

1933年発表の本書は、エラリー・クイーンの「国名シリーズ」第七作。パズラー作家としての作者のピークは1932年で、4作品全てが本格ミステリーベスト10の候補に上るほどだ。1933年の4作品(アメリカ銃の謎、本書、Zの悲劇、レーン最後の事件)も、いずれ…

鬼貫警部と4人の同級生

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の「ペトロフ事件」に次ぐ第二作、作者の最高傑作と評される作品である。主な被害者と容疑者4人は、鬼貫警部の大学時代の同級生(法学部)との設定で、人物名が独特なのは「稚気」のゆえだろう。イニシャルが、A.A、B.B、C.C、Z.…

無様に目撃された犯人だが

1990年発表の本書は、ご存じ津村秀介の「伸介&美保もの」。「宍道湖殺人事件」に始まる湖シリーズの1冊で、舞台は日本最大の湖琵琶湖。京都から東へ向かうJR路線は、琵琶湖を挟んで北に湖西線、南に東海道線と二又に分かれる。湖西線で分岐駅山科の次の駅…

別館を取り巻く新雪、足跡は・・・

密室の大家ジョン・ディクスン・カーは、パリの予審判事アンリ・バンコランものから、英国人の太っちょ探偵2人に主人公を移してブレイクした。カー名義のフェル博士と並び、カーター・ディクスン名義の本書(1934年発表)では、英国情報部の高官ヘンリー・…