新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

いや、それがスペインさ

本書は、第一作から第三作までをご紹介した、ポーラ・ゴズリングの第五作。じゃあ第四作はどうしたと聞かれそうだが、別名義の普通小説らしいのでパスした。毎回思い切って作風を変える作者だが、今回はスペインという国とそこに住む異邦人を、本格ミステリ…

帝都大学物理学教室湯川助教授

本書は1996年以降に「オール読物」に掲載された短編5編を収めたもの。東野圭吾の「湯川学もの」最初の短編集である。帝都大学理工学部物理学科の助教授湯川学のところに、大学時代のバドミントン部仲間で今は警視庁捜査一課の刑事をしている草薙がやってき…

マット・コブの育った町

本書はW・L・デアンドリアの第五作、TV局<ネットワーク>のトラブル担当マット・コブが登場するシリーズとしては第三作にあたる。マットは同社で一番若い重役、これまで2つの事件でも、会社の危機を救ってきた。しかしこれまではTV業界の裏話はたくさんあっ…

富の基準は家畜と奴隷

本書は以前紹介した「死をもちて赦されん」でデビューした、修道女探偵フィデルマものの短編集である。作者ピーター・トレメインは実はイングランド生まれ、アイルランドでの記者生活を経て作家デビューをしている。別名義で冒険スリラーなど書いていたが、…

演劇関係者の執念

本書は先月シリーズ第一作「迷走パズル」を紹介した、パトリック・クェンティンのダルース夫妻もの。前作ではアルコール依存症でレンツ博士の病院に入院していた演出家のピーター・ダルースが、駆け出し女優のアイリスと知り合い病院で起きた殺人事件に巻き…

謎解きはデザートと共に

安楽椅子探偵ものというのは、虫眼鏡や拳銃を持って走り回ったり関係者を尋問するのではなく、座ったまま事件の話だけを聞いてこれを解決するというスタイルのミステリー。バロネス・オルツィ「隅の老人」がその先鞭だろうが、ハリイ・ケメルマン「ニッキィ…

「歴史の都ツアー」の事件

本書(1991年発表)は、何作か紹介している英国の本格ミステリー作家コリン・デクスターの「モース主任警部もの」である。作者は英国ではアガサ・クリスティーの後継者とも言われ、モース警部は最も有名な探偵とされている。シャーロック・ホームズを抑えて…

宗教的共同体での殺人事件

先月マーガレット・ミラーの「まるで天使のような」を紹介した。ネヴァダ州の砂漠の町で独自の宗教観を持った人たちのなかで起きる事件を、町に流れてきた私立探偵クィンが解決しようとする話。それと極めて似た設定のミステリーを巨匠エラリー・クイーンが…

旅館<スタグ>で死んだ男

1948年発表の本書は、以前紹介した「ホロー荘の殺人」に続くアガサ・クリスティーのポアロもの。まだ戦後の色合いが濃く、配給チケットがないと旅館に滞在できないとの記述もある。ロンドンから列車で数時間かかる田舎町ウォームズリイ・ヴェイルで起きた膨…

日本の安楽椅子探偵

意外なことだが都筑道夫の作品を紹介するのは、これが初めてらしい。軽妙なタッチとピンポイントの鋭い推理が特徴の作家で、長編よりも短編の冴えがすごいと思っている。本書は、作者の短編集のなかでも一二を争う名探偵「退職刑事」の第一集である。 デビュ…

アイオナ派とローマ派

本書(1994年発表)は、以前「蜘蛛の巣」や短編集を紹介したピーター・トレメインの「修道女フィデルマもの」の第一作。作者自身のデビュー作でもあるのだが、なぜか翻訳は5番目だった。 時代は660年代、ブリテン島北東部のノーサンブリア王国では、カトリ…

満州鉄道の時刻表

日本に本格的なアリバイ崩しミステリーを定着させたのが、鮎川哲也とその創造した探偵鬼貫警部である。後年日本の鉄道の正確さもあって、西村京太郎の十津川警部や津村秀介の浦上伸介らがアリバイ崩しものを多数発表し、日本に固有のジャンルを確立すること…

文豪の試技

特にイギリスに多いのだが、文豪と呼ばれる人たちが本職はだしのミステリーを書くことがある。多くは作家として成功してから「余技」として何作か書くというものだ。イーデン・フィルポッツ、A・A・ミルン、E・C・ベントレーらの手になる、古典のなかで…

ピーターとアイリスの出会い

パトリック・クェンティンという作家は、非常に複雑な執筆体制をとっていた。これ自身ペンネームで、ほかにQ・パトリックというペンネームも持っていた。実態は、 リチャード・ウィルスン・ウェッブ ヒュー・キャリンガム・ホイーラー の共作である。1931~…

ヘンリー卿の銃器コレクション

第二次世界大戦直後の1946年に発表された本書は、アガサ・クリスティーのポワロものの1冊。「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした作者と探偵のコンビは、26年間英国推理文壇に大きな足跡を残していた。しかし当初は「明るいスパイもの」が好きだった作者…

マニピュレーションの到達点

本書(1963年発表)は、エラリー・クイーン後期の作品。ライツヴィルものではなく、ニューヨークを舞台にクイーン父子とお馴染みのヴェリー部長刑事らが登場する。とてもニューヨークにあるとは思えない四角形の古い洋館である「ヨーク館」、四隅を対称形の…

白皙の名探偵岡部警部

昨日、巨匠内田康夫のデビュー作「死者の木霊」を紹介した。作者の膨大な作品に登場する名探偵浅見光彦は第三作の「後鳥羽伝説殺人事件」でデビューするが、初期のころにはデビュー作の長野県警竹村警部や、本書の主人公警視庁捜査一課の岡部警部が主役の座…

巨匠のデビュー作

内田康夫と言えば多くの人には「浅見光彦シリーズ」が有名でTVドラマ化がされたのだが、その他に「警視庁岡部警部シリーズ」や「信濃のコロンボ竹村岩男シリーズ」も5~6冊ほどある。総計140冊を超える著作があるのだが、そのデビュー作が本書。浅見光彦の…

「高3コース」の連載推理

僕が高校生の頃に「高×コース」という雑誌があり、高校生向けの月刊誌としてそこそこ売れていたと聞く。特に「高3コース」は大学受験の指南書のようなものだった。ちなみに浪人生向けの「蛍雪コース」という雑誌もあった。いずれも僕は買ったことはない。そ…

双子のミステリー作家

エラリー・クイーンという作家は、実は同い年のいとこ同士二人の合作時のペンネームである。夫婦の合作なども例はあるが、親近者の合作の極めつけは、本書の作者ピーター・アントニーだろう。このペンネームは、双子の兄弟が合作するときに使うもの。そして…

本格ミステリー黄金期の始まり

米国の本格ミステリーの時代は、本書(1926年発表)から始まったと僕は思う。英国ではクロフツ、クリスティがデビューしていたが、それほど大きなインパクトを読者に与えていたわけではない。それがS・S・ヴァン・ダインという作家の登場によって、黄金期が始ま…

タロットカードの意味

1934年発表の本書は、ジョン・ディクスン・カーのフェル博士ものの第三作。博士は「魔女の隠れ家」で登場し、続いて「帽子収集狂事件」も解決した。本書ではしばらく米国に出かけていて久々にロンドンに戻り、ハドリー捜査課長のところに顔を出したことで事…

千草検事最後の挨拶

本書(1989年発表)は、土屋隆夫の千草検事シリーズ最後の作品である。本書の解説にあるように、前作「盲目の鴉」から9年を経ての書き下ろし。「9年ぶりだから傑作とは限らないが、寡作は傑作の条件のひとつ」なのである。 本格ミステリーとして「小数点以…

寝台特急「さくら」のアリバイ

本書(1998年発表)も、津村秀介のアリバイ崩しもの。昨年、比較的初期の作品として「寝台特急18時間56分の死角」を紹介しているが、その時の舞台も「さくら」だった。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/09/13/000000 この時はルポライター浦上伸…

最初の「回想の殺人」もの

本書は(第二次世界大戦中の)1942年発表のポワロもの、後年アガサ・クリスティーが得意とした「回想の殺人」の最初となった作品である。作者と作中の探偵たちも年齢を重ねるうち、作者は探偵役に過去の事件を扱わせるようになる。「象は忘れない」「復讐の…

7世紀アイルランドの法廷弁護士

本書は以前長編「蜘蛛の巣」を紹介した、ピーター・トレメインの修道女フィデルマを探偵役としたシリーズの第一短編集。作者の本名はピーター・B・エリスといい、著名なケルト学者である。このシリーズのほかにもドラキュラを題材にしたホラー小説も書いている…

ウィムジー卿を巡る女性たち

本書は1930年発表の、ドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿ものの第五作。前作「ベローナクラブの不愉快な事件」より、第三作の「不自然な死」によく似た毒殺ものである。古来女流ミステリー作家には、毒殺ものが多い。アガサ・クリスティも第一…

山男善人説を覆し

以前「高層の死角」「新幹線殺人事件」を紹介した森村誠一は、初期の6長編が第一期と言われている。今は「棟居刑事もの」などシリーズ作も多いのだが、このころは全て舞台の違う単発ものを発表していた。本書はその中の第五作にあたる。 ホテルマンを10年勤…

国名シリーズの終着駅は日本

本書は、エラリー・クイーンの国名シリーズ最終作品である。第9作の「スペイン岬の謎」のあと、突然「中途の家」と来て国名シリーズは中断する。ある評ではこの作品は「スゥエーデン燐寸の謎」とすべきだという話も合ったのだが。そして第11作は最初の題は…

スコットランドの寒いイブの夜

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、英国の地に多くの後継女流作家を遺した。米国にも多くの女流ミステリー作家はいるのだが、社会派ミステリーだったりユーモアミステリーだったり、時にはハードボイルド/警察小説を得意とする人もいる。それに比べて…