新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

高度の水平飛行に入った女王

1920年に「スタイルズ荘の怪事件」でデビューしたアガサ・クリスティ、20年代は「明るいスパイもの」に欲があって本格ミステリーにいまいち身が入らない面もあった。しかし最初の夫と離婚し考古学者マックス・マーロワンと再婚してからは、私生活も安定し作…

悪魔のように頑固な娘

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、最初の結婚に失敗した後14歳年下の考古学者マックス・マーロワンと結婚し安定した生活を取り戻した。それが1930年のことだから、ミステリー界の「黄金の1930年代」に間に合ったと言うべきかもしれない。このころから…

ダルグリッシュ警視の影

世評の高いミステリー作家でも、僕個人が苦手にしている人は何人かいる。その中で代表的なのが、本書の作者P・D・ジェイムズ女史(Phillis Dorothy James)。生涯で20作ほどのミステリーを書き、3度英国推理作家協会のシルバーダガー賞など多くの受賞歴があり…

主任警部のクロスワード

本書は一時期アガサ・クリスティーの後継者とも評された本格ミステリー作家、コリン・デクスターの第三作。しばらく前にデビュー作「ウッドストック行き最終バス」と第二作「キドリントンから消えた娘」を読んだのだが、ちょっとコメントを書く気にならず残…

包丁より推理が切れる料理店主

作者の陳舜臣は、僕にとっては中国史の大家。「小説十八史記」や「秘本三国志」から、「中国五千年」「中国の歴史」「耶律楚材」などたくさん読ませてもらった。1924年神戸市生まれの中国人だが、日中両国の文化を十二分に理解した人で、両国関係が微妙な昨…

純粋心理推理の物語

本格ミステリーというのは、非常に幅の狭い文学ジャンルである。数々の宿命や先人の作品という制約の中で、大家たちは挑戦を続けたものだ。その意味では、後年精彩を欠いた(編集に傾倒し過ぎた?)エラリー・クイーン、密室を隅々まで掘り返しやがて歴史も…

悲劇4部作完結

エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で発表した、「Xの悲劇」に始まるドルリー・レーンもの4部作は、本書で完結した。聴覚障害になって舞台を降りたシェークスピア劇の名優を探偵役にしたシリーズは、先輩格のS・S・ヴァン・ダインより、本家のエラ…

キングスフォード署の首席警部

「ロウフィールド館の惨劇」を代表に、サイコ・サスペンスの名手である女流作家ルース・レンデル。平凡な日常に隠された怨念のようなものが、些細なきっかけで噴き出す恐ろしさは類を見ない。日本に紹介されている作品の大半がそうなので、僕はサスペンスも…

プライバシーのない村

インターネットで情報が飛び交うようになって、個人情報の悪用のリスクが高まっている。欧州を中心にプライバシー保護強化の声はたかくなるばかりだ。ただ、インターネットはおろかコンピューターすらない時代、すでにプライバシー危機はあったようだ。 本書…

ニッキィ・ポーターの誕生

エラリー・クイーンは有名な「国名シリーズ」・「悲劇4連作」・「ライツヴィルもの」などの長編のほか、多くの短編や脚本、少年向け作品を手掛けている。中期以降のこれらの作品には、作家/探偵であるエラリー・クイーンの秘書としてニッキィ・ポーターと…

戦後ミステリー第二期の金字塔

本書は、隠れもない日本ミステリーの代表作である。改めて手に取ってみて、こんなに短い小説だったのかと驚かされた。全部で200ページ余り、昨今800ページから1,000ページの大作が当たり前になっているが、横溝正史の「本陣殺人事件」も200ページ弱の中編だ…

浦上伸介自身の事件

書き下ろしを含めて、津村秀介は数々のアリバイ崩しものを書いた。その多くは2時間ドラマになって放映されたのでメインのトリックはTVで見覚えがあるものも多い。本書もそんな一冊なのだが、作者は主人公のルポライター浦上伸介に特別の試練を課した。こ…

ダルジール警視登場

レジナルド・ヒルは英国のミステリー作家。1970年に「A Clubbable Woman」でデビューし、1971年発表の本書が第三作にあたる。日本への紹介は少し遅れ、1980年にハヤカワが本書を翻訳したのが最初である。街の名前は分からないが、ロンドンに近い海岸の町のよ…

読者への挑戦

日中戦争から第二次世界大戦の期間、日本の探偵小説は弾圧されていた。世間をいたずらに騒がす犯罪ものはけしからんというのが直接的な原因のようだ。英米発の探偵小説を、敵性文化と見たということもあろう。作家たちは徴兵されないまでも、筆を折るか戦記…

ダートムーアという荒れ地

イギリスの小説を読んでいると、時々ダートムーアという土地の名前が出てくる。特に怪奇小説に多いような気がするが、描写を見ても陰鬱なところらしいと思っていた。それ以上は調べる気もなくて、雰囲気だけ味わっていたのだが、コナン・ドイルの「バスカヴ…

不思議な遺言状の波紋

ドロシー・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿シリーズの第四作が本書(1928年発表)。表紙にカードの絵があるように、コントラクトブリッジの用語が全編の小見出しに使われる趣向になっている。 ・ピーター卿、切り札を刈る (刈る:相手の切り札を使い切…

ヘイスティングズ大尉の恋

ミステリーの女王アガサ・クリスティーの長編第3作が本書。1920年に「スタイルズ荘の怪事件」で、ベルギーからの亡命者ポアロ探偵を登場させた彼女だったが、第2作「秘密機関」では冒険好きな若い二人トミー&タペンス・ベリフォードを主人公にした。察す…

名探偵あるところ常に犯罪あり

「オリエント急行殺人事件」(1934年発表)で大技を決めたアガサ・クリスティー。翌1935年に発表した本書も、旅行先でポアロが事件に遭遇する。雪に閉じ込められた豪華列車というのが前作の舞台だったが、今度はパリ発ロンドン行きの旅客機の中での殺人事件…

正統派大人のミステリー

D・M・デヴァインは、生涯で13作のミステリーを残した。そのほとんどは日本でも出版されたが、今では手に入らないものもあり僕は本書でようやく過半数、7作目を読むことができた。以前12番目の作品「跡形なく沈む」を紹介しているが、これぞイギリスの本…

名探偵明智小五郎

日本のミステリー界の先駆者と言えば、この人を措いて他には考えられないのが江戸川乱歩。ミステリーの創始者であるエドガー・アラン・ポーの名前をもじったペンネームで、第二次世界大戦前から欧米ミステリーを紹介している。特に気に入ったロジャー・スカ…

死期の迫る名探偵

エラリー・クィーンの絶頂期に書かれた4作のうち、「Xの飛檄」と「Yの悲劇」に続くのが本書(1933年発表)。悲劇4部作の3作目にあたる。株式仲買人ロングストリートがトラムの中で毒殺された事件、名家ハッター家の事件を解決した名優ドルリー・レーン…

エラリー・クイーン最後の事件

1929年「ローマ帽子の謎」でデビューした作家エラリー・クイーンと探偵エラリー・クイーン。1971年発表の本書が、最後の事件になった。ミステリー通ならだれでも知っているように、作家エラリー・クイーンは2人のいとこ同士フレデリック・ダネイとマンフレ…

米国出版業界の内幕

SF小説の大家アイザック・アシモフは、本当にミステリーが好きで「黒後家蜘蛛の会」という短編集を5冊も出版している。以前紹介した「鋼鉄都市」(1953年)は背景こそSFなのだが、手法は本格ミステリーをなぞったものである。この作品は世界ミステリー…

3つのトリック

森村誠一はホテル業界に10年勤めた後、推理作家に転じた。第二作「新幹線殺人事件」は、緻密なアリバイトリックと地道な捜査を描いてベストセラーになった。新幹線車中で起きた第一の事件に続いては、高級ホテルが舞台となる第二の殺人が起きる。この作品に…

浦上伸介最初の事件

デビュー作「影の複合」(1982年)があまり売れず、第二作「時間の風蝕」(1983年)で盛り返した津村秀介は、第五作の本書(1984年発表)で、ついにレギュラー探偵浦上伸介を登場させる。以後、ほとんどの作品に伸介は登場するのだが、その姿(地味なブルゾ…

2番中堅ブリスバーグ、背番号49

あまたのミステリーがあれど、ありそうでないのがプロスポーツマン自身が探偵役をする話。ハーラン・コーベンのマイロン・ボライターシリーズは確かにプロスポーツ界を舞台にしているが、探偵役のマイロンは引退したプロバスケットボール選手。ケガで引退し…

ホームズ、ディケンズの謎に挑む

名探偵の代名詞と言えば、シャーロック・ホームズだろう。1887年に「緋色の研究」でデビューして以来、作者コナン・ドイルの名は知らなくても、彼が創作したホームズの名を知らないものはいまい。ドイルはホームズものの諸作で「サー」の称号を得たが、なん…

容疑者はクロフツマニア

フリーマン・ウィルズ・クロフツは英国の鉄道技師だったが、体調を崩して仕事を休んでいた時にミステリーに目覚めた。このあたり、米国の美術評論家ウィラード・ハンチントン・ライトとよく似ている。ライトはその後、S.S.ヴァン・ダインという筆名でファイ…

フレデリック・ダネイのヒント

3年前に亡くなった夏樹静子の代表作が本書。彼女の本名は出光静子、新出光の会長夫人でもあった。慶応義塾大学在学中からミステリーを書き、乱歩賞候補になったことからTVの推理クイズのレギュラーライターも務めた。大学卒業後結婚し夫と共に福岡に移り、…

京都・華道・キャサリン嬢

山村美沙のレギュラー探偵、キャサリン・ターナーのデビュー作が本書(1975年発表)。20歳のコロンビア大学三年生、金髪美女で米国副大統領の娘というVIPだ。日本のミステリーで外国人を探偵役に据えたケースは多くない。作風の広い都築道夫のキリオン・スレ…