新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

クイーンが見いだしたキング

1958年発表の本書は、以前「不変の神の事件」を紹介した本格ミステリー作家ルーファス・キングの短編集。日本ではなじみの薄い作家なのだが、編集者エラリー・クイーンが、ミステリー短編集の歴史とも言うべき「クイーンの定員」を選んだうちに入っていて注…

沼沢地の町イーリーの事件記者

本書で2002年に文壇デビューしたジム・ケリーは、いくつかの新聞社を渡り歩いた記者。1987年にはその年の最優秀経済記者にも選ばれているが、1995年にノンフィイクション作家の妻と共にロンドンを離れ、本書の舞台ともなっているケンブリッジ州の小さな町イ…

4重のアリバイ工作

斎藤栄は東大将棋部出身のミステリー作家、以前「殺人の棋譜」「Nの悲劇」「奥の細道殺人事件」を紹介している。デビュー作「殺人の棋譜」では将棋タイトル戦の影で進む誘拐事件の捜査を描き、江戸川乱歩賞の候補になった。その勢いを駆って発表(1967年)…

奇妙な話が大好きな青年貴族

昨年までに、第五長編「毒を喰らわば」までを紹介してきたドロシー・L・セイヤーズの「ピーター・ウィムジー卿もの」。作者はクリケットが得意な青年貴族ピーター卿の登場するミステリーを、長編11、短編21発表している。本書には、5冊ある短編集の中から創元…

嘘も手掛かりのうちなんだ

1940年発表の本書は、以前「幽霊の2/3」や「家蠅とカナリア」を紹介したヘレン・マクロイの「心理探偵ベイジル・ウィリングもの」の1冊。作者は15作のウィリング博士を主人公としたミステリーを書いているが、翻訳出版された順番が発表順と異なり、すべてが…

ナス屋敷のお祭りの中で

1956年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。学生時代に多くの本格ミステリーを読んだ僕だが、ヴアン・ダイン、クイーンはもちろんカー、クロフツなどの著作は手に入るものはみんな読んだものの、クリスティの特にポワロものには未読が多…

若いクイーン父子に会える

本書は、エラリー・クイーン後期の中短篇集。1954~65年の発表作品5編を収録している。3編が短めの中編、2編がショートショートだ。原題の"Queens Full"は、クイーンが一杯と、クイーンが3枚のフルハウスを掛けている。 中編のうちの2つは、作者が中期…

欧米ミステリーの紹介では?

以前、戦後ミステリーの大家のひとり高木彬光のデビュー作「刺青殺人事件」を紹介した。作者は戦前からのミステリーマニア、恐らく原語でヴァン・ダインやクイーン、クリスティらの諸作品を読んでいたのだろう。冶金工学の技術者で中島飛行機に勤めていたの…

学生寮の盗難事件から・・・

1955年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。第二次世界大戦後10年近く経ち、ロンドンには世界中から留学生がやってきている。よく貴族の館に大陸からの使用人(執事・メイド・コック・運転手・庭師等)が雇われている「多国籍環境」での…

アバネシー家の7人兄妹

1953年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。解説を大仕掛けが得意のミステリー作家折原一が書いていて、本書がクリスティ女史のベスト1だと評価している。ちなみに彼のベスト3は、 1)葬儀を終えて 2)ナイルに死す 3)白昼の悪魔 …

女王得意の連続毒殺事件

1953年発表の本書は、女王アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」。投資信託会社社長の怪死事件を、ひょんなことから関わったミス・マープルが、ロンドン近郊の街ベイドン・ヒースに足を運んで解明する話。 ベイドン・ヒースの水松荘には、実業家のレ…

昭和22年夏、N村の事件

先日高木彬光のデビュー作「刺青殺人事件」を紹介したが、評判の高かったこの作品を抑えて<探偵作家クラブ賞>を受賞したのが本書「不連続殺人事件」である。作者の坂口安吾は、新文学の旗手ともいわれた文壇の大家。「白痴」などの作品で知られているが、…

探偵小説のすべてを盛り込み

戦後、日本は一種の探偵小説ブームになった。それまで世情を不安に落とすという軍部の意向で、発禁扱いだったのが解禁されたからだ。捕物帳などに逃げていた作者の復活もあったが、横溝正史や本書でデビューした高木彬光などの本格作家が登場したこともある…

ジョッシュとフィルの第二作

昨日「そして殺人の幕が上がる」を紹介した、ジェーン・デンティンガーの第二作が本書(1984年発表)。前作に引き続き、女優兼演出家のジョッシュ・オルークと、ニューヨーク市警部長刑事のフィル・ジェラルドが探偵役を務める。 二人は前作の事件で知り合い…

いっときだけの「家族」

1983年発表の本書は、ミステリーが好きで後にはミステリー専門の書店まで経営するという傾倒を見せた女優ジェーン・デンティンガーの作品。ニューヨーク・ブロードウェーの演劇界を舞台にアラサー女優ジョスリン・オルークが探偵役を務めるシリーズの第一作…

大酒のみで気弱な若者

これまで何冊も紹介しているが、本書も津村秀介の「浦上伸介もの」の未読の1冊。アリバイ崩しの名探偵浦上伸介は、作者の第五作「山陰殺人事件」でデビューし、本書(1985年発表)でレギュラーの地位を確立した。そんな記念すべき作品なのだが、長年手に入…

戦禍が隠した4つの事件

本書はミステリーの女王アガサ・クリスティの、1952年の作品。先月紹介した「予告殺人」も第二次世界大戦後の混乱期を背景にしたものだったが、本書ではエルキュール・ポワロが、大戦禍で見えなくなってしまった事件の背景を探る捜査に挑む。 マギンティ夫人…

幻の作家フィリップ・マクドナルド

「名のみ知られた名作」はミステリーを読み始めた中学生のころから、ある種の郷愁をそそるものだった。そのいくつかは今になって読めるようになったのだが、一方で中高生のころ読めたものが今手に入らないこともある。今回紹介するフィリップ・マクドナルド…

大戦の傷跡残る街の老猫

1950年発表の本書は、アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」。老嬢探偵の代名詞ミス・マープルが登場するものとしては、4冊目の長編になる。第二次世界大戦中も、かわらぬペースでミステリーを発表し続けてきた作者だが、1950年ともなると戦後の混…

稀覯本の鑑定とブラックジャック

1983年発表の本書は、その年のアメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を獲った作品。新人賞だから作者のウィル・ハリスは本書がデビュー作である。作者はカリフォルニア州にある政府系シンクタンク<ランド研究所>の研究者だと、解説にある。そんな作者がデビ…

墓守インホテプ家の災厄

1945年発表の本書は、アガサ・クリスティーの時代推理小説。作者の二番目の夫マーロワンは考古学者で、作者もエジプトなどにはよく出かけていた。名作「オリエント急行の殺人」も、ポワロがエジプトから帰る列車内での事件。「メソポタミヤの殺人」など中近…

有閑マダム達のスコットランド旅行

1962年発表の本書は、「名探偵トビー&ジョージ」シリーズでおなじみのエリザベス・フェラーズの中期の作品。レギュラー探偵は登場せず、アフリカ帰りの34歳の土木技師ロビンが探偵役を務める。ロビンは海外で長く働いてきたが、久し振りにロンドンに戻り新…

雑誌掲載と書き下ろしを取り混ぜ

本書は東野圭吾の「湯川学シリーズ」の短編集、第三巻。2011年に「文芸春秋」と「オール読物」に掲載された短編4編に、書き下ろしの3編を加えて2012年に単行本化されている。初期の頃にはもう1編「猛射る」が入っていたのだが、これは後に大幅に加筆修正…

スコットランドの田舎町役所にて

1970年発表の本書は、以前「そして医師も死す」「跡かたなく沈む」を紹介した、英国作家D・M・ディヴァインの第9作。作者は13作しか長編を遺さなかったし邦訳も創元社から出ていただけで、最近では古書店でもなかなか見つけられない貴重なミステリーである。 …

警視になり損なったモース

本書(1981年発表)は、コリン・デクスターの「モース警部もの」の1冊。すでに何冊か紹介しているのだが、地方都市オックスフォードの警察署で独身のモース警部と愛妻家のルイス部長刑事のコンビが活躍するシリーズだ。日本ではさほど名が通っていないのだ…

ちゃんと楷書が書けてから

本書は土屋隆夫コレクションとして、長編「危険な童話」と短編3編、いくつかのエッセイを合本したものである。長編へのコメントは後述するとして、解説には興味深いものがあった。作者は日本の本格探偵小説第二期の巨匠だが、本格ミステリーは一片の余りも…

トリックの見つけ方

本書は鮎川哲也の短編集、恐らくは雑誌などに掲載されたものを光文社で短編集にしたものと思われる。表題通り、アリバイが争点となる短編4作と中編がひとつ、それに、 ・時刻表5つのたのしみ ・私の発想法 という2つのエッセイが添えられている。「発想法…

カルデラ湖が好きな女

津村秀介の長編小説は60作ほどある。国内の公共交通機関を使ったアリバイ崩しものが大半で、僕の大好きなシリーズだ。そのほとんどを読んでしまって、本棚には最後の作品「水戸の偽証」が残っているだけ。「水戸の偽証」を発表した後、作者が急逝してしまっ…

名古屋弁を話す検事

「憲法おもしろ事典」などを紹介してきた弁護士作家の和久俊三、多くのミステリーの執筆しているが一番多いのは「赤かぶ検事」ものではなかろうか。検察事務官からたたき上げ、副検事に昇進、高年齢になってからようやく検事に任官した柊検事が主人公である…

「ブロードウェイの名花」殺し

1927年発表の本書は、米国で近代ミステリーの歴史を作った作家、S・S・ヴァン・ダインの第二作である。美術評論家W・H・ライトは病気療養中に多くのミステリーを読み、明白な欠陥がありながら版を重ねているものが多いことを知り、自ら執筆することにした。選ん…