新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

不思議な遺言状の波紋

ドロシー・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿シリーズの第四作が本書(1928年発表)。表紙にカードの絵があるように、コントラクトブリッジの用語が全編の小見出しに使われる趣向になっている。 ・ピーター卿、切り札を刈る (刈る:相手の切り札を使い切…

ヘイスティングズ大尉の恋

ミステリーの女王アガサ・クリスティーの長編第3作が本書。1920年に「スタイルズ荘の怪事件」で、ベルギーからの亡命者ポアロ探偵を登場させた彼女だったが、第2作「秘密機関」では冒険好きな若い二人トミー&タペンス・ベリフォードを主人公にした。察す…

名探偵あるところ常に犯罪あり

「オリエント急行殺人事件」(1934年発表)で大技を決めたアガサ・クリスティー。翌1935年に発表した本書も、旅行先でポアロが事件に遭遇する。雪に閉じ込められた豪華列車というのが前作の舞台だったが、今度はパリ発ロンドン行きの旅客機の中での殺人事件…

正統派大人のミステリー

D・M・デヴァインは、生涯で13作のミステリーを残した。そのほとんどは日本でも出版されたが、今では手に入らないものもあり僕は本書でようやく過半数、7作目を読むことができた。以前12番目の作品「跡形なく沈む」を紹介しているが、これぞイギリスの本…

名探偵明智小五郎

日本のミステリー界の先駆者と言えば、この人を措いて他には考えられないのが江戸川乱歩。ミステリーの創始者であるエドガー・アラン・ポーの名前をもじったペンネームで、第二次世界大戦前から欧米ミステリーを紹介している。特に気に入ったロジャー・スカ…

死期の迫る名探偵

エラリー・クィーンの絶頂期に書かれた4作のうち、「Xの飛檄」と「Yの悲劇」に続くのが本書(1933年発表)。悲劇4部作の3作目にあたる。株式仲買人ロングストリートがトラムの中で毒殺された事件、名家ハッター家の事件を解決した名優ドルリー・レーン…

エラリー・クイーン最後の事件

1929年「ローマ帽子の謎」でデビューした作家エラリー・クイーンと探偵エラリー・クイーン。1971年発表の本書が、最後の事件になった。ミステリー通ならだれでも知っているように、作家エラリー・クイーンは2人のいとこ同士フレデリック・ダネイとマンフレ…

米国出版業界の内幕

SF小説の大家アイザック・アシモフは、本当にミステリーが好きで「黒後家蜘蛛の会」という短編集を5冊も出版している。以前紹介した「鋼鉄都市」(1953年)は背景こそSFなのだが、手法は本格ミステリーをなぞったものである。この作品は世界ミステリー…

3つのトリック

森村誠一はホテル業界に10年勤めた後、推理作家に転じた。第二作「新幹線殺人事件」は、緻密なアリバイトリックと地道な捜査を描いてベストセラーになった。新幹線車中で起きた第一の事件に続いては、高級ホテルが舞台となる第二の殺人が起きる。この作品に…

浦上伸介最初の事件

デビュー作「影の複合」(1982年)があまり売れず、第二作「時間の風蝕」(1983年)で盛り返した津村秀介は、第五作の本書(1984年発表)で、ついにレギュラー探偵浦上伸介を登場させる。以後、ほとんどの作品に伸介は登場するのだが、その姿(地味なブルゾ…

2番中堅ブリスバーグ、背番号49

あまたのミステリーがあれど、ありそうでないのがプロスポーツマン自身が探偵役をする話。ハーラン・コーベンのマイロン・ボライターシリーズは確かにプロスポーツ界を舞台にしているが、探偵役のマイロンは引退したプロバスケットボール選手。ケガで引退し…

ホームズ、ディケンズの謎に挑む

名探偵の代名詞と言えば、シャーロック・ホームズだろう。1887年に「緋色の研究」でデビューして以来、作者コナン・ドイルの名は知らなくても、彼が創作したホームズの名を知らないものはいまい。ドイルはホームズものの諸作で「サー」の称号を得たが、なん…

容疑者はクロフツマニア

フリーマン・ウィルズ・クロフツは英国の鉄道技師だったが、体調を崩して仕事を休んでいた時にミステリーに目覚めた。このあたり、米国の美術評論家ウィラード・ハンチントン・ライトとよく似ている。ライトはその後、S.S.ヴァン・ダインという筆名でファイ…

フレデリック・ダネイのヒント

3年前に亡くなった夏樹静子の代表作が本書。彼女の本名は出光静子、新出光の会長夫人でもあった。慶応義塾大学在学中からミステリーを書き、乱歩賞候補になったことからTVの推理クイズのレギュラーライターも務めた。大学卒業後結婚し夫と共に福岡に移り、…

京都・華道・キャサリン嬢

山村美沙のレギュラー探偵、キャサリン・ターナーのデビュー作が本書(1975年発表)。20歳のコロンビア大学三年生、金髪美女で米国副大統領の娘というVIPだ。日本のミステリーで外国人を探偵役に据えたケースは多くない。作風の広い都築道夫のキリオン・スレ…

アガサの二人の分身

ミステリーの女王アガサ・クリスティも、デビュー早々この評価を受けたわけではない。最初の夫、アーチボルト・クリスティ氏との離婚騒動までは、後年名作と伝えられる「アクロイド殺害事件」などの著作はありながら、家庭の不安定もあって幸福な人生とは言…

密室の巨匠、デビュー

エラリー・クイーンに遅れること1年、ジョン・ディクスン・カーは本書でデビューした。後年レギュラー探偵となる、ギデオン・フェル博士やヘンリ・メリヴェール卿はまだ登場せず、パリの予審判事アンリ・バンコランが探偵役を務めている。スタイルとしては…

匿名作家バーナビィ・ロスへの挑戦

前年(1934年)、代表作の一つである「オリエント急行の殺人」を出すなど、考古学者マックス・マーロワンと再婚した後のアガサ・クリスティーは好調を維持していた。この年(1935年)には、「雲をつかむ死」や「ABC殺人事件」も発表されていて、第一次のピー…

本格ミステリへのこだわり

佐野洋、本名丸山一郎。1928年東京生まれ、読売新聞の記者をしていた1959年に本書を書き下ろし、ミステリ文壇にデビューしている。ミステリ作家を職業とするつもりは当初はなかったようで、新聞社にはそのまま勤務している。ペンネームの由来も、「社の用」…

相棒は女子大生

津村秀介のアリバイ崩しシリーズ、レギュラー探偵はルポライターの浦上伸介である。長編5作目の「山陰殺人事件」でデビューし、以後ほとんどの作品に登場する。彼のことは、「印象の薄い名探偵」として紹介してから何度か取り上げている。 このシリーズ、「…

ジュブナイルの思い出

僕が子供の頃にはルパン三世もコナン君もいなかったから、少年たちがよく読んでいたのはホームズもの、ルパンもの、明智小五郎と少年探偵団の活躍する子供向けの本だった。挿絵も多く、漢字が少なく、もちろん抄訳たっだと思われる。 何冊か読んだはずなのだ…

フランス人の警官

ミステリーというと、やはり主役は英米。フランスはミステリーの舞台になることは多いが、作家については日本に紹介されたものは少ない。悪女もので知られるカトリーヌ・アルレーやサスペンスものが得意のセバスチャン・ジャプリゾなどは知られているが、本…

まだ「のぞみ」がなかったころ

「偽りの時間」改め「影の複合」でデビューした、アリバイ崩しの大家津村秀介の第二作が本書である。鮎川哲也「準急ながら」などに触発されて、公共交通機関を使ったアリバイトリックミステリーを書いたものの、デビュー作はあまり売れず。後に改題して復刊…

不運な艶福家

本書は、おなじみルポライター浦上伸介がアリバイ崩しに挑むシリーズの1冊。比較的初期の作品(1986年発表)で、後年相棒となる前野美保は登場しない。浦上自身も、作中29歳と紹介されている。使われている時刻表は、同年6月のものである。 長崎での取材の…

男爵対公爵

イギリスにシャーロック・ホームズあれば、フランスにはアルセーヌ・ルパンあり。「3世」ではない、オリジナルのルパンもので、最高傑作とされるのが本書である。作者のモーリス・ルブランは「夫婦もの」を得意とした純文学者だったが、「特別にに面白い冒…

手法が固まりつつあったころ

本書は、アガサ・クリスティーの長編8作目にあたる。このころまでに彼女は、ポアロという戯画化された外国人探偵、トミー&タペンスという若い冒険家夫婦、普通の官憲バトル警視らを主人公にした諸作を書いている。ほぼ1年1作のペースで発表してきた。 19…

長距離夜行列車のアリバイ

深谷忠記最大のシリーズものは、数学者黒江壮とフィアンセの笹谷美緒を主人公にしたもの。全部で37作品あり、そのほとんどがトラベルミステリーである。そのうちの3作に「+-の交叉」というタイトルを付けたものがある。しばらく前に、その2作目「津軽海…

不遇だったデビュー作

本書は、「時刻表アリバイ崩しもの浦上伸介シリーズ」の作者津村秀介のデビュー作である。1972年に「偽りの時間」というタイトルで出版されたが、大きな反響を呼ぶことは無かった。それが津村秀介がそこそこ売れてきた1982年に時刻表などを見直してこのタイ…

宍道湖とレマン湖

主として公共交通機関を使ったアリバイ工作に挑むルポライター浦上伸介シリーズの中でも、「湖シリーズ」と言われた作品群の第一作が本書である。著者の長編9作目で1986年発表の本書は、これまでも時々探偵役を務めていた浦上伸介のレギュラー化への入り口…

日本の医学ミステリー

以前ご紹介したのは奇術師のミステリー、今回は医学者のそれである。作者の由良三郎は、本名吉野亀三郎という高名な細菌学者である。本職の医療業界を背景に、先端医療技術も使ったトリックを多く示した。本書はその代表作のひとつ。 大きな病院を舞台に、院…