新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

捜査指揮官ファイロ・ヴァンス

1935年発表の本書は、S・S・ヴァン・ダインの長編第9作。前半6作に比べ後半6作の評価は一般に高くない作者の作品だが、第7作「ドラゴン殺人事件」と本編は堂々たる仕上がりだと思う。高校生の時に読んで、夏休みの読書感想文に選んだ書でもある。 普通素人…

レコードコレクター鮎川哲也

「本格の鬼」鮎川哲也は、中・短編として発表した作品を長編化するということをよくやっていた。決して「二度儲けてやろう」ということではなく、出版社のリクエストに対応するため新作をひねり出す時間が十分取れない時の、苦肉の策だったらしい。本書も197…

保険調査員ブレダン夫婦

1934年発表の本書は、昨年「陸橋殺人事件」を紹介した、英国カトリック教会最高位のロナルド・A・ノックス師が遺した5作目の長編ミステリー。作者は生涯6作品しか書かなったが、聖職者が本業だったから仕方あるまい。作風はフェアな本格ミステリーで自らの「…

ロワール河を臨む古城にて

1935年発表の本書は、カーター・ディクスンの<H・M卿もの>。昨年紹介した「白い僧院の殺人」同様の不可能犯罪ものだ。作者(別名ディクスン・カー)は、米国生まれなのに、歴史ものや欧州大陸が大好きで、本書の舞台もロワール河を臨む古城<島の城>である…

パトリシア・モイーズのデビュー作

1959年発表の本書は、これまで「大空に消える」「死の贈物」を紹介したパトリシア・モイーズのデビュー作。鼻を効かせるが口癖のヘンリ・ティベット警部とその妻エミーも、本書で初登場する。作者はWWⅡのころ空軍補助部隊で慰問の仕事をし、演劇脚本など書い…

本格黄金期の中国人探偵

1930年発表の本書は、創元社が復刻してくれたホノルル警察の中国人警部チャーリー・チャンが探偵役を務めるシリーズの代表作。作者のアール・デア・ビガーズは、新聞の演劇評から劇作家、作家に転じた人。ヴァン・ダインやクイーンと同じ本格ミステリー黄金…

孤島の私設法廷に立つ十津川警部

1977年発表の本書は、西村京太郎の「十津川警部シリーズ」初期の作品。このころ作者は誘拐ものを極めようとして、「消えた・・・」と題した作品群を執筆していた。本書では、探偵役の十津川警部自身が誘拐されてしまう。 職場からの帰り道、十津川は何者かに殴…

キャサリンの京都の正月

1978年発表(恐らく書き下ろし)の本書は、山村美紗の「キャサリンもの」。以前「花の棺」や「燃えた花嫁」を紹介して、細かなトリックの積み重ねのミステリーだと評している。本書もそのパターン、米国副大統領の娘で金髪碧眼の美女キャサリンは、通訳代わ…

国名シリーズ中の異色作

1933年発表の本書は、エラリー・クイーンの「国名シリーズ」第七作。パズラー作家としての作者のピークは1932年で、4作品全てが本格ミステリーベスト10の候補に上るほどだ。1933年の4作品(アメリカ銃の謎、本書、Zの悲劇、レーン最後の事件)も、いずれ…

鬼貫警部と4人の同級生

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の「ペトロフ事件」に次ぐ第二作、作者の最高傑作と評される作品である。主な被害者と容疑者4人は、鬼貫警部の大学時代の同級生(法学部)との設定で、人物名が独特なのは「稚気」のゆえだろう。イニシャルが、A.A、B.B、C.C、Z.…

無様に目撃された犯人だが

1990年発表の本書は、ご存じ津村秀介の「伸介&美保もの」。「宍道湖殺人事件」に始まる湖シリーズの1冊で、舞台は日本最大の湖琵琶湖。京都から東へ向かうJR路線は、琵琶湖を挟んで北に湖西線、南に東海道線と二又に分かれる。湖西線で分岐駅山科の次の駅…

別館を取り巻く新雪、足跡は・・・

密室の大家ジョン・ディクスン・カーは、パリの予審判事アンリ・バンコランものから、英国人の太っちょ探偵2人に主人公を移してブレイクした。カー名義のフェル博士と並び、カーター・ディクスン名義の本書(1934年発表)では、英国情報部の高官ヘンリー・…

オペラの歌姫の遺言状

1960年発表の本書は、エリス・ピーターズのクリスマスミステリー。作者は英国ミステリー界では「修道士カドフェルもの」などで有名とのことだが、これまで手に入っていない。以前シャーロット・マクラウド編のアンソロジー「サンタクロースにご用心」に1作…

匿名作家ロラック、本邦初登場

英国の本格ミステリー作家には、女流が多い。女王クリスティをはじめセイヤーズやアリンガムから近年のP・D・ジェイムズなど枚挙にいとまがない。そんな中で、最近まで日本に紹介されていなかった大家がいる。それが本書の作者E・C・R・ロラック。匿名作家であり…

懸賞短編から長編へ

本書は1976年から雑誌「幻影城」に連載され、1979年に単行本になったものだが、それ以前の1974年に「小説宝石」で発表された短編がもとになっている。この時から題名「朱の絶筆」や登場人物の名前、事件のあらましは変わっていない。 本書には、その両方(45…

300ページに7つの事件

1976年発表の本書は、斎藤栄のノンシリーズ。以前紹介した「Nの悲劇」から4年経って、年間10冊ほどの長編を発表するようになっていた。S・S・ヴァン・ダインは「一人の作家に半ダース以上のミステリーのアイデアはない」と言って、多作を戒めていた。本人も…

マニアが最後に読むべき探偵小説

1925年発表の本書は、後に英国カトリック聖職者の最高位まで昇りつめたロナルド・A・ノックスのデビュー長編。探偵小説が黄金期を迎え、純文学・童話など他の分野からの参入があったうちでも、ひときわ特徴ある作品である。作者は生涯で6つの長編を遺したが、…

京都美術大学同窓生の3人

2004年発表の本書は、第14回鮎川哲也賞に応募し受賞を果たした岸田るり子のデビュー作。日本でも密室殺人に挑戦する新鋭がいたとは正直驚いた。 科学捜査が徹底してきた現代においては、わずかな痕跡も官憲は見逃さない。暗い街燈時代に流行した一人二役トリ…

Quod Erat Demonstrandum

本書は、巨匠エラリー・クイーン晩年の短編集(1968年発表)。題名は「Queen's Experiments in Detection」だが、これはラテン語の「Quod Erat Demonstrandum(証明終わり)」と同じ略称「QED」となっている。論理推理で一世を風靡した若き日の名探偵エラリ…

ポワロでもマープルでもなく

1961年発表の本書は、女王アガサ・クリスティのノンシリーズ。ポワロもマープルも登場しないが、「そして誰もいなくなった」のような名探偵が登場できない設定でも、普通小説でもない。ロンドンに近い片田舎にある古ぼけた旅籠(!)<蒼ざめた馬(*1)>を…

重鎮の文学色濃い短篇集

本書は、「千草検事もの」などを何冊も紹介しているミステリー界の重鎮土屋隆夫の短編集。長編はわずか13作しか遺さなかった作者だが、いくつもの雑誌に投稿した短編はそれなりにある。ここには、1953~75年にかけて発表された8編の中短編が収められている…

バラクラバ公爵夫人の自然死

1970年発表の本書は、以前「大空に消える」を紹介したパトリシア・モイーズのヘンリ・チベットと妻のエリーが鴛鴦探偵をするシリーズ。本書も藤沢駅前の古書店で偶然見つけたもので、探してもなかなかみつからないシリーズである。 主任警視に昇進したヘンリ…

コラージュを作る警視正

1979年発表の本書は、以前「緑は危険」や短篇集を紹介したクリスチアナ・ブランド後期の作品。英国女流作家の中でも、アガサ・クリスティの後継者と目された一人で「謎解き」についての評価が高い。本書の解説では「謎解き5人衆」は、ポー・チェスタトン・…

東京~タヒチ間6,000マイルのアリバイ

1973年発表の本書は、多作家西村京太郎の初期作品。70年代に作者は「消えたタンカー」など海にまつわるシリーズを発表していたが、本書はその中でも白眉と言える出来栄えである。 32歳のヨットマン内田は、25フィート級のクルーザー<マーベリックⅠ世号>で…

数ある中で最強のワトソン

このところ毎月、1910~20年代の長編ミステリーが確立した時代の傑作を紹介している。今月は1921年の作品「赤い館の秘密」。かつて本格探偵小説ベスト10といえば、間違いなく選ばれていた作品である。作者のA・A・ミルンは、「くまのプーさん」で知られた童…

現場のない殺人事件

直木賞作家有馬頼義の手になる本書は、1958年に<週刊読売>に連載されたもの。作者のミステリー代表作となった。作者は化け猫騒動でお馴染みの、久留米藩有馬家の末裔。伯爵家の生まれだったが、戦後に全財産を差し押さえられ無一文となった。種々の職業を…

ハーレムの少女はなぜ狙われる

2005年発表の本書は「どんでん返し職人」ジェフリー・ディーヴァーの<リンカーン・ライムもの>。面白くて、前作「魔術師」まで一気呵成に読んだのだが、新作が100円コーナーに並ぶのを待っているうちに、約2年経ってしまった。十分在庫が溜まったところで…

長編本格ミステリーの嚆矢

E・A・ポーが創始したミステリーという分野、基本は短編小説だった。奇怪な事件や深まる謎を前に、天才的な探偵役が登場して明晰な推理を見せる。読者が驚きを冷めさせないうちに、物語は終わる。いくつかの例外を除けば、ホームズ譚のようにミステリーは短編…

ヘンリ・ティベット主任警部登場

英国ではアガサ・クリスティの後継者と言われた女流作家が、戦後何人か出た。そのうちの一人が、本書(1965年発表)の作者パトリシア・モイーズ。正統的なミステリー手法で、スコットランドヤードの主任警部ヘンリ・ティベットと妻エミーの物語を20作ほど遺…

リカーディアン団体の勉強会

昨日「時の娘」を紹介したが、1974年発表の本書はそれをオマージュした作品。テューダー朝ヘンリー7世やトマス・モア、シェイクスピアらによって構築されたリチャード3世の冤罪は、20世紀後半には晴らされつつあった。本書は、舞台をリチャードを信奉する…