新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

テムジンの参謀(前編)

以前「中国の歴史」や「小説十八史略」という歴史大作を読んで、陳舜臣の鋭い歴史感に感心したものだが、同時に作者の日本語使いも見事だなと思った。各6~7巻という大部で、難しい(登場人物の名前も・・・)内容なのに、すらすら読めたからだ。 https://nic…

ジェームス・ボンド、2011

007ことジェームス・ボンドが誕生したのは1953年、東西冷戦の始まったころである。人気を博したシリーズであり映画も次々にヒットを飛ばしたが、作者のイアン・フレミングは1964年に急死してしまった。残されたのは長編12作と短編集2編のみ。 映画界は長編…

38式狙撃銃 vs M-1Cガーランド

日本で戦闘/戦争シーンに迫力ある作品というと、どうしてもこの作者柘植久慶を措いては語れないと思う。自らグリーンベレーの尉官として戦ったという経歴の真偽はともかく、戦場の細かなシーンのリアリティは出色である。戦場の衛生環境、食事の摂り方、水…

占領憲法の矛盾

「日本占領」最終巻には、アイケルバーガー中将が離任して帰国した後の1948年末までが描かれている。本書のかなりの部分は、マッカーサー元帥がトルーマン大統領(民主党)の二期目の選挙に対抗馬として出馬することに費やされている。元帥は共和党から立候…

社会党の躍進とゼネスト

「日本占領」第二巻には、1946年の春から、翌年5月までの記録がある。マッカーサー元帥が最初に取り組んだ「軍事力の破壊」は、順調に進んだ。湾岸戦争後のイラクのようにゲリラ活動は全くなく、武装解除は速やかに行われ、アイケルバーガー中将の仮住まい…

南北日本、分断の危機

児島襄「日本占領」全3冊を読んだ。太平洋戦争の経緯は中学生のころに図書館で読んで以来、いろいろな本に出会ったし、2・26事件など真珠湾に至るまでの経緯も後に勉強した。しかし8・15以降のことは、ほとんど知らなかった。高校の「日本史」でも、日本の戦…

エリートスパイの脱出行

第二次欧州大戦のクライマックスといえば、東側(!)の人ならばスターリングラード攻防戦かハリコフ戦車戦を選ぶような気がする。しかし西側(!)の人であれば、多分ノルマンディー上陸作戦を指すと思う。映画「D-Day」をはじめ多くの物語が発表されている…

死刑制度を考えるきっかけ

大杉漣さんの遺作となった、「教誨師」という映画が昨年公開された。僕はまだ見ていない。法治国家である日本において、国家の名のもとに殺人を行うのは、死刑制度以外にはない。昨年は「オウム事件」の死刑囚13人全員の刑が執行された。多くの先進国で死刑…

匿名作家バーナビィ・ロスへの挑戦

前年(1934年)、代表作の一つである「オリエント急行の殺人」を出すなど、考古学者マックス・マーロワンと再婚した後のアガサ・クリスティーは好調を維持していた。この年(1935年)には、「雲をつかむ死」や「ABC殺人事件」も発表されていて、第一次のピー…

理系探偵シャンディ教授

東野圭吾の「ガリレオ」シリーズではないが、名探偵には理系の大学教授/准教授が少なくない。科学捜査の役に立つ知識を持っていることもあるし、直接的に鑑識や検視の役割を担うこともあるからだ。シャーロット・マクラウドはカナダ生まれ、東海岸育ちの作…

第一次世界大戦前の建艦競争

1900年代はじめ、海の王者は戦艦だった。ただ、それは僕らの世代が子供のころ作っていたプラモデルのような形状はしていない。主砲塔は前後に1基づつ、主砲は4門だけで、舷側に副砲が並ぶというもの。日露戦争のころの主力艦「三笠」がこのタイプである。…

ラスト・エンペラー

八幡和郎という人は、通産省(現経済産業省)出身の評論家である。TVの討論番組などでよく見かけ、その博学さと頭の回転の速さはよくわかったのだが、歯に衣着せぬ「毒舌」がちょっと気になる論客である。非常に多くの著作があり、「江戸300藩」のシリーズ…

「公害」はテーマか味付けか?

1966年、「殺人の棋譜」で江戸川乱歩賞を得た斎藤栄が、1970年に発表したのが本書。多作家である著者が、自身のベスト3に挙げている自信作である。題名にあるように、松尾芭蕉の「奥の細道」研究がテーマのひとつになっている。研究内容は、「芭蕉は忍者で…

十字軍の宝剣

空の男を中心にプロフェッショナルの世界を描く作家、ギャビン・ライアル。「深夜+1」や「もっとも危険なゲーム」が有名だが、本書は作者自身が自己のベストと評している作品である。空軍軍人でもあり、狩猟の趣味という作者の飛行機や銃に対する愛情は、…

高速スパイ機パイロットを守れ

スカンジナビア半島の北端、そこは完全に北極圏で日本人には馴染みのないところだ。ここが歴史に登場するのは、第二次世界大戦中ナチスドイツと戦うソ連へ連合国が物資援助をする船団を送った時である。輸送船にはM4シャーマンやM3ハーフトラック、小火器、…

本格ミステリへのこだわり

佐野洋、本名丸山一郎。1928年東京生まれ、読売新聞の記者をしていた1959年に本書を書き下ろし、ミステリ文壇にデビューしている。ミステリ作家を職業とするつもりは当初はなかったようで、新聞社にはそのまま勤務している。ペンネームの由来も、「社の用」…

ディープサウスでの心理捜査

大学生活初期までには、ミステリー1,000冊を読破したと豪語した僕だが、苦手な分野もある。行動派といえば聞こえはいいが、暴力派に近い低俗なハードボイルドは苦手だ。しかしそれよりもっと苦手なものがあって、それがサイコサスペンス。 特に理解できなか…

時代が捨てた人、求めた人

本書は「三人の戦争指導者に見る政戦略」と副題されていて、第二次世界大戦の戦争指導者3人(ヒトラー、チャーチル、ローズベルト)を、その戦略眼や政策実行力を評価したものである。3人と言ってはいるが、ヒトラー、チャーチルに各100ページを割いている…

首相の「師・友・秘書」

若くして政治を志し、僕らには分からない苦労を背負って政治家/国会議員を務めるなら、目標は大臣さらには総理大臣なのだろうと思う。首相のイスへの長いレースはもちろん、幸いにもそのイスに座ってからも孤独な闘いは続く。そんな日々を支えてくれるのは…

大人の童話ミステリー

クレイグ・ライスは、アメリカの女流ミステリー作家。ユーモアとペーソスにあふれる作風で、独特の地位を築いた。その特徴が非常に良く著わしているのが本書。原題の「Home Sweet Homicide」は、もちろん「Home Sweet Home」のもじり、Homicideというのは殺…

マルコ殿下、日本初登場

ジェラール・ド・ヴィリエの連作小説、プリンス・マルコシリーズ。第一作「イスタンブール潜水艦消失」以降、年間4作のペースで発表されている。本書は、1978年の発表。僕はこのシリーズを昔ある程度読んだのだが、40年経って三軒茶屋のBook-offで40冊ほど…

可哀そうすぎアルバート・サムスン

インディアナポリスの心優しき私立探偵アルバート・サムスン、「A型の女」でデビューした彼はこれまで6作の長編で探偵役を務めた。「インディ500」くらいしか目立った話題のない地方都市で、地味に探偵業を営んできた。銃はもたず、暴力を振るう事もない。…

グリンゴ、スペンサー

前回中国からの不法移民の中に芽生えた犯罪組織と戦ったスペンサー、今度はヒスパニック系の犯罪組織との闘いである。今回の舞台はボストンの北の街プロクター、これも架空の街ではないかと思う。本書の発表された1995年は、日本ではバブルが崩壊しかけてい…

民主党政権、2020の悲劇

本書はいわゆる「架空戦記」とは一線を画した、ヴィヴィッドな政治ドラマである。著者の中村秀樹は、潜水艦「あらしお」艦長など主に潜水艦畑を歩んだ海上自衛官(最終階級は二佐)、「本当の潜水艦の戦い方」などの著書がある。これは入門編の軍事的な解説…

二つの大戦間に跳梁した犯罪者

以前「あるスパイの墓碑銘」を紹介した、エリック・アンブラーの第五作「ディミトリオスの棺」は長らく手に入らなかった。僕にとっては「名のみ知られた名作」のひとつである。先日例によってBook-offでみつけ、カバーもなくページの中まで日焼けが進むなど…

中国人不法入国者の街

ロバート・B・パーカーのレギュラー主人公スペンサーのホームグラウンドは、ボストン。アメリカ合衆国発祥の地とも言える、東海岸の港町だ。僕も10余年前、年間3回通ったことがあり、当地で食べるエビやカニ、あるいはクラムチャウダーなどの海の幸を楽しん…

伊賀者、甲賀者のルーツ

徳川家康が石田三成らと戦った有名な「天下分け目の一戦」は、岐阜県関ケ原町一帯で行われた。古来このエリアは北国街道、伊勢街道、中山道が交わるところ、交通の要衝であり過去にも一度「決戦」の舞台となったところである。その闘いとは「壬申の乱」。白…

ベルギー人の愛国心

「ザイール共和国」という名称は、1971年~1997年の間モブツ・セセ・セコ大統領がこの地を統治していた時期のもので、現在はコンゴ民主共和国という。さらに昔の呼び方は、「ベルギー領コンゴ」であった。ベルギーは欧州では小国だが、コンゴのような広大な…

難しいミステリー手法

深谷忠記という作家は才人である。理系(化学)の出身ゆえに、DNAをモチーフにした作品にも迫力がある。その一方で、日本の歴史にも詳しく「歴史推理もの」も書いている。特に本書は、柿本人麻呂と山部赤人が同一人ではないかとの謎に挑んだもので、大変…

さよならトーマス

・・・といっても機関車の話ではない。先月倒産した英国の旅行代理店の老舗「トーマス・クック社」のことである。ちょうど先月英国に出張していたこともあり、感慨深いものがあった。出張時にも「Brexit」の議論をしていたので、その余波がついに企業倒産の引き…