新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

社会派ミステリー

内海薫刑事登場

本書は2006~2008年にかけて、いくつかの雑誌に掲載された「湯川学もの」中・短編を5編収めたもの。「予知夢」に続く第三短篇集である。2007年にフジTV「月9」枠で連続ドラマ「ガリレオ」が放映されている。当初の短編では警視庁捜査一課の草薙刑事が、同…

死者の圧倒的な存在感

先月までマーガレット・マロンの「デボラ・ノット」ものを4作紹介してきた。舞台となったのは南部の東海岸ノースカロライナ州で、女性判事デボラの活躍を描くと同時に土地の因習もヴィヴィッドに書かれていた諸作である。2006年発表の本書も、ノースカロラ…

ハードボイルドの詩人

本書は先月短篇集「おかしなこときくね」を紹介した、ローレンス・ブロックが1993年に発表したマット・スカダーものの長編。マットものは17編が発表されていて、そのうちの2編「八百万の死にざま」と本書が、PWAの最優秀長編賞を受賞している。解説によると…

ボストン名家の秘密

以前3作ほど、ボストン近郊のバラクラヴァ農業大学のシャンディ教授を主人公にしたシリーズを紹介した。ユーモアというよりファースに近い物語で、それらに続く作品は読んでいない。しかし作者のシャーロット・マクラウドには、もうひとつボストンを舞台に…

二人の天才の対決

東野圭吾の「湯川助教授もの」の初長編が本書。2003年から「オール読物」に1年半にわたって連載されたものだ。単行本化(2005年)にあたり、題名を「容疑者Xの献身」と改めている。50~70ページほどの短編と違い、天才物理学者湯川学は、あっさり事件を解…

登場人物たちの過去

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン6。リーマンショック時の前シーズン5は、ジェニー局長の殉職に伴って新局長になったヴァンスが、ギブスチームに辛く当たり、解散させることで終わっていた。トニーは空母勤務、ジヴァは帰国、マク…

短編小説は「愛の産物」

日本ではあまり知られていないが、奇妙な味とハードボイルドな感覚を併せ持った作家にローレンス・ブロックがいる。約50の長編小説と多数の短編小説がある。本書は、1964~1984年に発表された18の短編を収めたもの。長編小説の1/3ほどに登場する私立探偵マシ…

田舎町の土地高騰

本書(1996年発表)は、マーガレット・マロンの「デボラ・ノットもの」の第四作。前作の舞台ハーカーズ島から、デボラは本拠地ドブズに戻って新しい事件に挑む。今回の事件の舞台はデボラの生家のある田舎町、米国で格差が拡大し不動産の高騰が顕著だった199…

捕物帳なら許してくれる

すでに2つ紹介しているが、5大捕物帳と言えば、 ・半七捕物帳 岡本綺堂 ・銭形平次捕物控 野村胡堂 ・むっつり右門捕物帳 佐々木味津三 ・若さま侍捕物帳 城昌幸 に本書の「人形佐七捕物帳」が挙げられる。右門と若さまは侍だから、庶民の代表「岡っ引き」…

絶対悪ではない犯人像

本書(1961年発表)は、鮎川哲也の鬼貫主任警部ものの一冊。とはいえ捜査一課の鬼貫が登場するのは第二の事件が発生した全体の60%を過ぎたころである。戦後の混乱期も終わり、経済が活性化してきて民間企業も大きくなり始めた時期だが、それゆえに社会全体…

ハーカーズ島の惨劇

本書(1994年発表)は、マーガレット・マロン作「デボラ・ノットもの」の第三作。ノースカロライナの若い女性判事デボラの活躍を描いたもので、前2作は彼女のベースである内陸のコルトン群(架空)での事件だったが、今回は実在の島ハーカーズ島でデボラが…

<咳止めシロップ>を嗜む町

2012年発表の本書は、米国南部ルイジアナ出身のジャナ・デリオン作の「ミス・フォーチュンもの」の第一作。作者はいくつものシリーズを書き分けているが、大半はルイジアナ周辺が舞台。本書に登場する架空の町シンフルには、バイユーと呼ばれる濁った川が通…

「正義の石臼」を挽く労働者

本書(1993年発表)は先日紹介した「密造人の娘」に続く、マーガレット・マロンの「デボラ・ノットもの」の第二作。前作に登場したデボラの周りの人たちが再び登場し、その枠も広がっている。 前作で6月の地方判事選挙に敗れて2位に終わったデボラだったが…

市民財団所長ジェニー・ケイン

1980年代には米国で、女性を探偵役にした女性作家が何人もデビューしている。 ◇サラ・パレツキー V・I・ウォーショースキーもの ◇スー・グラフトン キンジー・ミルホーンもの 彼女らに少し遅れ1985年に本書でデビューしたのが、ナンシー・ピカードである。作者…

このシーズンだけ18話

このDVDは、ご存じNCIS(ネイビー犯罪捜査班)のシーズン5。通常は1シーズン24話がDVD12枚に収められているのだが、このシーズンだけは18話でDVDも9枚に過ぎない。特典映像「シーズン5の見どころ」に出てきたベリサリオ総監督も、その理由については説明…

変格作家の正統サスペンスもの

これまで「目撃者を探せ」「探偵を探せ」「被害者を探せ」の3作を紹介しているネブラスカ州生まれの女流作家パトリシア(パット)・マガーはユニークな変格ミステリー作家である。探偵が犯人を捜すのではなく、犯罪はあったのだが特殊なシチュエーションで…

ノースカロナイナが舞台の大河ドラマ

本書の作者マーガレット・マロンは、米国では知られたミステリー作家だが、日本では長編4編しか翻訳出版されていない。1992年の本書で長編デビューし、ミステリー界の以下の賞を独占した。 ・エドガー賞 ・アンソニー賞 ・マガウティ賞 ・アガサ賞 その後本…

「週刊広場」名コンビの誕生

1990年発表の本書は、ご存じ津村秀介のアリバイ崩しもの。なかなか手に入らなかった1冊で、このシリーズでは重要な意味を持つ作品である。というのは、前作「浜名湖殺人事件」で被害者となった父親の無念を晴らした女子大生前野美保が、レギュラーとして加…

<天国の塔>の秘密

1962年発表の本書は、心理スリラー作家マーガレット・ミラーの代表作。普通小説も含めて25冊ほどの長編を遺した作者の作品は、以前「狙った獣」を紹介している。彼女の円熟期と呼ばれるのが1960年前後で、そこで発表された最後の作品が本書である。 舞台はネ…

東京駅の新幹線ホーム

東京駅に東海道新幹線以外の新幹線が乗り入れたのは、いつのことだったろうか?東北新幹線、上越新幹線は上野どまりだったはずだ。もちろん秋田新幹線、山形新幹線や北陸新幹線も。だからあまたのアリバイ崩しミステリーはあるのだが、複数の新幹線を絡めた…

ラストベルトの環境汚染

1988年発表の本書は、サラ・パレツキーの「シカゴの女探偵V・I・ウォーショースキーもの」の第五作。V・Iことヴィクは子供のころを過ごしたサウス・シカゴで、赤ん坊のころから知っている娘の「父親を捜して」という依頼を受けたことをきっかけに、この街で蠢く…

マクギー捜査官の成長

欧米への海外出張のフライトで、必ず見ていたのが「ネイビー犯罪捜査班(NCIS)」。スピーディなストーリー展開、アクションにユーモア、さらにサイエンスと意外な結末が揃っていて、楽しませてもらった。どのエピソードも往復見るので、大体3回以上は見た…

科学捜査の曙、1905

コロンビア大ロースクール卒、ニューヨーク大で文学博士号をとり、2009年発表の本書でアメリカ探偵作家クラブの最優秀新人賞を獲得した才女がステファニー・ピントフ。夫と娘がありニューヨーク在住ということくらいしか、私生活については分かってない作家…

女流作家の捕物帳

これまでに3大捕物帳(半七・銭形平次・人形佐七)を紹介してきたが、もちろんこれら全ては男性作家の手になるものだ。「むっつり右門」「若さま侍」に範囲を広げても、これは変わらない。しかし、女流作家平岩弓枝は「はやぶさ新八」シリーズを書いている…

コーンウォールの芸術家たち

本書は、ジェイニー・ボライソーのコーンウオールミステリーの第三作。「しっかりものの老女の死」から数ヵ月、季節は冬になっている。4年前に夫のディヴィッドを癌で亡くしたローズは40歳代後半、一時期親しくしていたピアース警部との仲は進展せず、今は…

マッカーシズムのアメリカ

本書は一作ごとに趣向を変えて読者を楽しませてくれるウィリアム・デアンドリアの第五作。以前紹介したTV業界人マット・コブのシリーズではなく、時代を1951年に設定してマッカーシズム(赤狩り)の時代を描いている。 日本人のよく知らない米国の、ある意味…

「オロクジ(死体)はどこだ?」

1962年発表の本書は、エド・マクベイン87分署シリーズの中でも珍しい中編集。ずいぶん多くの作品を紹介していた愛読書なのだが、本書は特に印象に残っているものだ。といって、トリックがすごいとかアクションがすごいというわけではない。87分署の刑事たち…

熱海マンションの罠

本書は以前紹介した高木彬光の「百谷泉一郎&明子」ものの1冊で、1966年に7ヵ月にわたって「週刊大衆」に連載されたものである。全330ページほどだから、連載の各回に10ページほどの長さで掲載されていたのだろう。その10ページはある種の短編のようなもの…

トラベルミステリー、ここに始まる

西村京太郎という作家は、膨大な作品を書いている。長編・短編集合わせるとその数600冊ほど。1965年の長編二作目「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を受賞している。その後、特に決まった探偵役を持たずノンシリーズを発表していたが、1978年の本書(40冊目)で十…

社会派ミステリーの傑作

水上勉という作家は、非常に幅広い作風を持った人。100冊を超える長編小説があり、直木賞・菊池寛賞・吉川英治賞・谷崎潤一郎賞・川端康成文学賞などを総なめにしている。代表作として取り上げられるのは、 ・五番町夕霧楼 ・越前竹人形 ・飢餓海峡 などがあ…