新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

社会派ミステリー

コーンウォールの芸術家たち

本書は、ジェイニー・ボライソーのコーンウオールミステリーの第三作。「しっかりものの老女の死」から数ヵ月、季節は冬になっている。4年前に夫のディヴィッドを癌で亡くしたローズは40歳代後半、一時期親しくしていたピアース警部との仲は進展せず、今は…

マッカーシズムのアメリカ

本書は一作ごとに趣向を変えて読者を楽しませてくれるウィリアム・デアンドリアの第五作。以前紹介したTV業界人マット・コブのシリーズではなく、時代を1951年に設定してマッカーシズム(赤狩り)の時代を描いている。 日本人のよく知らない米国の、ある意味…

「オロクジ(死体)はどこだ?」

1962年発表の本書は、エド・マクベイン87分署シリーズの中でも珍しい中編集。ずいぶん多くの作品を紹介していた愛読書なのだが、本書は特に印象に残っているものだ。といって、トリックがすごいとかアクションがすごいというわけではない。87分署の刑事たち…

熱海マンションの罠

本書は以前紹介した高木彬光の「百谷泉一郎&明子」ものの1冊で、1966年に7ヵ月にわたって「週刊大衆」に連載されたものである。全330ページほどだから、連載の各回に10ページほどの長さで掲載されていたのだろう。その10ページはある種の短編のようなもの…

トラベルミステリー、ここに始まる

西村京太郎という作家は、膨大な作品を書いている。長編・短編集合わせるとその数600冊ほど。1965年の長編二作目「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を受賞している。その後、特に決まった探偵役を持たずノンシリーズを発表していたが、1978年の本書(40冊目)で十…

社会派ミステリーの傑作

水上勉という作家は、非常に幅広い作風を持った人。100冊を超える長編小説があり、直木賞・菊池寛賞・吉川英治賞・谷崎潤一郎賞・川端康成文学賞などを総なめにしている。代表作として取り上げられるのは、 ・五番町夕霧楼 ・越前竹人形 ・飢餓海峡 などがあ…

三重のアリバイ工作

本書は、津村秀介の「伸介&美保」シリーズの一編。殺人の舞台は、北陸本線と金沢の名勝兼六園。例によって容疑者には鉄壁のアリバイがあるのだが、その前の事件背景設定が秀逸である。作者は約20年にわたって「週刊新潮」の「黒い事件簿」を書き続けた人だ…

8人目の海兵隊員

作者のマイケル・バー=ゾウハーは、恐らくは元モサド隊員。六日間戦争(1967年)でダヤン国防相の報道官を務め、第四次中東戦争(1973年)では自ら空挺隊員としてスエズ運河を渡っている。自らの軍事・諜報経験を基にして「過去からの狙撃者」や「エニグマ…

資格商法詐欺の被害者

1997年発表の本書は、津村秀介のアリバイ崩し「浦上伸介シリーズ」の1冊なのだが、他の作品に比べて社会派ミステリーの色が濃い。バブルが崩壊して「就職氷河期」(今その第二波が来ているという人もいるが)だったころで、中堅から大手企業でも40~50歳代…

モサド副長官の娘

先日藤沢のBook-offで、NCIS(ネイビー犯罪捜査班)のシーズン4と5、9を見つけた。これで安心してシーズン3を見ることができる。貧乏性の僕は、これが最後・・・と思うと固まってしまって前に進めないのだ。 シーズン2を見終わって数カ月たつ。最終話でレ…

三枚のベリル・クックの絵

本書(1998年発表)は以前「容疑者たちの事情」を紹介した、ジェイニー・ボライソーのコーンウォールミステリーの第二作。画家兼写真家のアクティブな未亡人ローズが、また殺人事件に巻き込まれる。前作以上にローカル色が強く、ほとんどの登場人物がコーン…

いやいや弁護士の日常

作者のスコット・プラットは本書(2008年)がデビュー作。新聞記者やコラムニストから弁護士に転じ、7年間刑事弁護士を務めた。その後子供のころから成りたかった作家になったという経歴。米国には日本の人口比で補正しても、10倍ほどの弁護士がいるという…

三千万円の賞金

1961年発表の本書は以前紹介した「人蟻」(同1960年)「破戒裁判」(同1961年)に続く弁護士百谷泉一郎/明子夫妻シリーズの第三作。「明察神のごとき」神津恭介ものと離れて、血の通った若い二人を主人公にした社会派ミステリーである。 今回は経済犯罪や部…

シカゴは夏も半端じゃない

以前サラ・パレツキーのV・I・ウォーショスキー(通称ヴィク)ものを3冊紹介した。第三作の「センチメンタル・シカゴ」は極寒のシカゴの街が舞台だった。五大湖のほとり、ちょっと行けばそこはカナダという土地柄寒いのは予想が付く。しかし第四作の本書(198…

花のお江戸の名探偵

1930年代と言えば、欧米では本格ミステリーの全盛期。エラリー・クイーンやディクスン・カーが本格的に活動し始め、先輩格のクリスティも名作を発表し続けていたころだ。一方リアルな探偵ものとしてのハメットらもデビューし、ミステリー界は沸きに沸いてい…

NCISの第二シーズン

あまりビデオを買うことはないのだが、このシリーズ(ネイビー犯罪捜査班)だけは別だ。国際線のフライトで見る癖がついてしまい、このところ海外出張が少ないので「禁断症状」が出てしまった。昨年末に第一シーズンを買ってきて、食後にウィスキーをなめな…

コーンウォール、1997

グレートブリテン島の南西の端、長い半島が大西洋めがけて突き出ているのがコーンウォール州。さらにその先端に近い町がペンザンスだ。トーマスクックの時刻表によれば、ロンドンからの距離は490km、特急で5時間かかるところ。文化的には古代ケルトの風習が…

援軍は兜町の女将軍

戦後ミステリー界、第二期の巨人のひとり高木彬光は「名探偵らしい名探偵」神津恭介以外にも、何人(組)かの名探偵を生み出した。作者は理系の出身ゆえ、初期の頃は機械的・化学的なトリックを得意としていた。その解決には、医学博士である恭介が適任だっ…

東北縦貫ハイジャック列車行

種村直樹という人は、有名なレイルウェイライターである。新幹線、ローカル特急、寝台列車やフェリーなど動くものならなんでも乗り、駅弁や駅そば、地方の名産品などなんでも食べてたくさんの紀行文を書いた。以前紹介した宮脇俊三と比べると、より一般の利…

行政システム開発に隠れた陰謀

本書(2015年発表)は、SF作家である藤井太洋が書いたミステリー。作者はソフトハウス勤務中からiPhoneで小説を書き始め、単行本ではなく電子書籍でデビューしたという「新世代」の作家である。今後は原稿用紙を前に苦吟する作家など、いなくなってしまうか…

ベーブ・ルースの記録を破るもの

作者のポール・エングルマンは大手雑誌の編集者、本書(1983年発表)がデビュー作である。舞台は1961年のニューヨークで、主人公の私立探偵マーク・ペンズラーは、マイナーリーグの二塁手だった男。ニューヨークを本拠地にしたメジャー球団ジェンツへの昇格…

隅田川の屍体、1945

壮&美緒シリーズで有名な作家、深谷忠記。おおむね2作に1作はこの2人がレギュラーを務め旅情も盛り込んだシリーズだが、残りは単発ものである。読者が読みやすいのはシリーズもの、ごひいきの探偵が出てきてある程度ワンパターンな展開になる「安心感」…

メガバンク勤務経験で得たもの

今を時めくベストセラー作家池井戸潤のデビューがミステリーだったことは、つい最近知った。1998年「果つる底なき」で、江戸川乱歩賞を受賞している。慶應義塾大学卒、三菱銀行勤務を経ての作家デビューだった。デビューー作含め有名な半沢直樹シリーズなど…

竜頭蛇尾の私小説

斎藤栄という人も、多くのミステリーを書いた。1966年デビュー作の「殺人の棋譜」で江戸川乱歩賞を受賞し、「奥の細道殺人事件」などの話題作を発表した。その後タロット日美子・江戸川警部・小早川警部らのシリーズをいくつか発表している。これまで、最初…

死刑囚と事件記者の一日

「暗闇の終わり」に始まる事件記者ジョン・ウェルズが主人公の4部作については、先月から今月にかけて全てご紹介した。息子を自殺させ妻にも逃げられた記者の悩みと事件追及の情熱が、全編を貫いていた。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/02/23/…

救急救命医療の現実

本書は、海堂尊の「田口・白鳥シリーズ」の第三作。「チーム・バチスタの栄光」「ナイチゲールの沈黙」に続くもので、竹内結子・阿部寛主演で映画化されたシリーズでもある。舞台は東城大学医学部付属病院、第一作で心臓外科を、第二作で小児科を扱って、本…

リアルな「ちょい悪刑事」

カッパノベルズは、正直あまりたくさん買った記憶はない。日本のものばかりであることも理由の一つだが、お値段がやや高めで1冊の体積も大きいのが問題。お値段の方は、Book-offの110円コーナーで探すのならハヤカワや創元社のものと同じになった。しかし体…

事件記者対悪徳警官

キース・ピータースンの、事件記者ジョン・ウェルズものの4作目で最後の作品が本書。なんどもウェルズの前に現れていた悪徳警官、トム・ワッツとの決着をつけることになった。ワッツは以前警部だったが、ウェルズに不正を摘発され警部補に格下げになった。…

逃亡者と追跡者

「逃亡者」というTV番組が日本でも放映されて、時々見ていた。妻殺しの濡れ衣を着せられた医師が、真犯人と目される「片腕の男」を追いながらも自らも官憲から逃亡するという、1960年代の連続ドラマだった。1993年に映画化され、逃亡者ハリソン・フォード…

ベテラン海外通信員の死

先日デビュー作「暗闇の終わり」を紹介した、キース・ピータースンの第二作が本書(1988年発表)。前作同様、「ニューヨーク・スター紙」の中年事件記者ジョン・ウェルズが主人公である。前作はニューヨーク北部の田舎町で起きた怪奇な連続自殺事件だったが…