新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

社会派ミステリー

冤罪者を決して出さぬよう

以前、高木彬光短篇集「5人の名探偵」を紹介したが、その5人の内で僕が最後まで読まなかったのが、本書(1968年発表)の探偵役近松茂道検事のシリーズ。神津恭介を始めとして、作者の探偵役は颯爽とした青年のイメージが強い。しかし近松検事だけは、牛の…

「赤狩り」の中、キャシディ家の闘い

2015年発表の本書は、ロサンゼルスで20年余り映画・TVのライターをしていたデイヴィッド・C・テイラーの作家デビュー作品。日本人があまり知らない米国の「赤狩り」の時代に、ソ連から米国に逃れてきたトム・キャシディ(旧名トマス・カスナヴィエツキ)一家の…

市役所建設部長の3つの悩み

本書は以前「殺人の棋譜」「奥の細道殺人事件」などを紹介した、斎藤栄のノンシリーズ。作者は1970年までは1作/年のペースだったのに、それ以降作品を量産し始める。かつて紹介した「Nの悲劇」も、野口英世の死の真相を探るというテーマは面白かったのだ…

ECCの少壮弁護士

1979年発表の本書はリチャード・N・パターソンの処女作。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を得た作品である。作者は当時32歳、オハイオ州の地方検事補を務めたりアラバマ州で法律事務所を共同経営していたこともある弁護士作家だ。カリフォルニア生まれだが…

アイドル歌手と追っかけ娘の20年後

2000年書き下ろし出版の本書は、以前「越後七浦殺人海岸」などを紹介した大谷羊太郎の八木沢警部補ものの長編。元来ミュージシャンで、大物芸能人の付き人経験もある作者が得意とする芸能界裏面ものである。 大手商社の幹部でニューヨーク駐在の夫を持つ有閑…

カンチェンジュンガが見下ろす街で

1964年発表の本書は「小説十八史略」「アヘン戦争」などの歴史ものや長編推理「割れる」短篇集「獅子は死なず」などを紹介している陳舜臣の国際ミステリー。舞台はインドの北端でチベットに近い街カムドン。元日本軍の衛生兵だったカメラマン長谷川が、街の…

「Cold Case」17年後の雪解け

本書は、以前「恋人たちの小道」を紹介したナンシー・ピカードの2006年の作品。作者は「恋人たち・・・」で登場した市民財団所長のジェニー・ケインや、ジャーナリストのマリー・ライトフットを主人公にしたシリーズが知られているが、本書はノンシリーズの力作…

推理作家には囲碁好きも多い

本書は「浅見光彦シリーズ」でおなじみ、内田康夫の第二作である。以前紹介した「死者の木霊」でデビューした作者が、何を自分の特徴にしようか迷っていたころの作品だと思う。第三作「後鳥羽伝説殺人事件」で浅見光彦がデビューし、その後は浅見シリーズが…

カトリーナから始まった絆

このDVDは「NCISニューオリンズ」のシーズン2。ジャズとお祭りの町で、本家以上に迫力ある捜査劇が繰り広げられる。前シーズンの後半に囮捜査官として時々出ていたソーニャが正式にメンバーに加わり、車椅子のデジタル捜査官パットンの出番も増えた。いずれ…

21世紀キリスト教の危機

本書は2003年発表、宗教象徴学の専門家ラングドン教授を主人公にしたシリーズの第二作。作者のダン・ブラウンは、米国の英語教師から転じた作家。両親・妻ともに数学や宗教・芸術に造詣の深い人たちである。前作「天使と悪魔」でヴァチカンの危機を救ったラ…

欲望と虚飾の街の事件簿

今日(12/1)は、日本では映画の日である。1990年発表の本書は、長年ハリウッド(街だけでなく俳優や映画関係者を含む)を取材してきた記者ジョン・オースティンの手になるもの。彼はハリウッドを「寡頭政治の街」と呼んだ。高名な俳優やプロデューサーが巨…

影の形の変化から・・・

1957年発表の本書は、生涯で7作の長編ミステリーを遺したクリストファー・ランドンの代表作。第二次世界大戦で英国の野戦医療部隊に所属し、少佐にまで昇進した筆者は、退役後いくつかの職業を経て作家に転じた。北アフリカを舞台にした戦記ものから、スパ…

SFからミステリーへの転換点

1990年発表の本書は、100冊ほどの長編を著わし現在も作家活動を続ける山田正紀の中期の作品。作者は、1974年「SFマガジン」に「神狩り」を載せてデビューを果たした。 ・1978年「地球・精神分析記録」で星雲賞 ・1980年「宝石泥棒」で星雲賞 ・1982年「最後…

商社欧州駐在員の奇禍

1987年発表の本書は、「伸介&美保シリーズ」でお馴染みの津村秀介の長編ミステリー。ただし、伸介や美保は登場しない、珍しいノンシリーズである。作者は海外旅行好きで、15年間毎年一度は海外旅行に出かけていたという。特に欧州がお好みで、1960年代から…

鉄道記念日(10/14)の殺人

本書は以前「Wの悲劇」を紹介した、夏樹静子の社会派ミステリー。1992年の発表だが、時代設定は1987年10月からになっている。冒頭被害者の家庭内で交わされる会話などに、当時の流行TV番組だったりタレント同士の結婚話が出てくる。事件の背景となっている…

日本の航空ミステリー

空港や航空機内、あるいは航空業界に携わる人たちの日常を描いたミステリーは航空ミステリーと呼ばれる。アーサー・ヘイリー「大空港」のような巨編もあれば、トニー・ケンリック「スカイ・ジャック」というハイジャックものも海外では多い。さらにルシアン…

ロシアからの暗殺者

このDVDは、ご存じ「本家NCIS」のシーズン12。ますますスケールアップした舞台で、ギブスチームが躍動する。モスクワからコラ半島に展開する「深い森」、ギブスはロシアからの亡命者輸送の任務にあたる。これを阻止しようとしているのはロシア系のパレスチナ…

百億円の身代金、紙幣で1トン余

本書は、寡作家天藤真が1979年に日本推理作家協会賞を受賞した傑作。今日「敬老の日」にふさわしい、紀州の大地主柳川とし子(82歳)が誘拐された事件の顛末である。なぜふさわしいかというと、このおばあさんは誘拐されたにも関わらず、犯人たちを手玉に取…

レンジャー部隊バン・ショウ軍曹登場

2015年発表の本書は、シアトル生まれのグレン・エリック・ハミルトンのデビュー作。アンソニー賞ほか3つの最優秀新人賞を獲得した作品で、書評では「初球ホームランだ」などの賛辞が目立つ。確かに500ページほどの長さを感じさせない、スピーディな展開と工…

日本版CSI番組の劇場版

本書は、TV朝日・東映系ですでにシーズン22まで続いている科学捜査ドラマ「科捜研の女」の、劇場版のノベライゼーション。映画(科捜研の女~劇場版)は2020年のシーズン20の最終回で制作が発表され、一昨年封切られている。 何作か紹介しているが米国CBS系…

4人の素人探偵たち

2002年発表の本書は、いくつも作品を紹介してきたポーラ・ゴズリングの、僕の本棚に残っている最後の1冊。最初シチュエーションの異なる作品を立て続けに発表してきた作者も、ある時点から五大湖沿岸の町ブラックウォーター・ベイと近くの街グランサムを舞…

全共闘時代、東大仏文科の3人

本書は、1995年の乱歩賞&直木賞を同時受賞した藤原伊織の作品。同作者の別作品によるW受賞はあるものの、同一作品としては史上初のものである。作者は本書の主人公たちと同じ東大仏文科卒、電通勤務時代に「踊りつかれて」(1977年)と「ダックスフントの…

浅見刑事局長、防衛産業不正に挑む

本書は、多作家内田康夫の「浅見光彦もの」。1998~99年にかけて<文芸春秋>に連載されたもの。いつもは光彦の厳しいお目付け役ながら、ちょっとしか出番のない兄浅見陽一郎刑事局長が大活躍する。 美しい利尻富士や美味しいウニなどの観光資源を持つ利尻島…

ジャズとお祭りの町

このDVDは、NCISの2つ目のスピンアウト「NCISニューオリンズ」のシーズン1。以前紹介した本家のシーズン11に、ニューオリンズを舞台にした2話が含まれていた。この支局のボスは、スコット・バクラ演じる”King”ことプライド捜査官、警官上がりのラサール捜…

地方伝承・旅情・地図

本書は巨匠松本清張の1968年の作品。「宝石」に2年半の間連載されていたもので、作者はこの期間、後に単行本化された長編だけでも少なくとも6本の連載を持っていた。後年の作家内田康夫が「連載が始まった時点では、犯人が誰かは私にもわかりません」と言…

分析官ビショップ登場

このDVDは「NCIS:ネイビー犯罪捜査班」のシーズン11。統計によると全米TVドラマランキングで年間1位を最初に取ったのがシーズン10、その勢いを駆ってよりスケールアップした内容になっている。前シーズンでモサド局長だった父イーライを亡くしたジヴァが、…

70年代の本格社会派ミステリー

先日「当代一流の読み手」佐野洋の、一風変わった連作短編集「検察審査会の午後」を紹介したが、本書は正々堂々作者の代表的な本格長編ミステリー。1970年の発表で、よくある雑誌等への連載ではなく<カッパ・ノベルズ>への書き下ろしである。それゆえ全編…

法は弱者を叩くためのもの

本書(2018年発表)は、自身もユタ州の検察官・弁護士であるヴィクター・メソスのリーガル・サスペンス。ユタ州は中西部の南部よりの州で、2018年になっても黒人の人種差別が顕著なところだ。主人公のダニエル・ローリンズは、30歳代後半バツイチのお人よし…

困った父親たち

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン10。このころの作品は、海外出張を一杯したフライト上でよく見ていたものだ。10年近く前のことなのに、いくつかのシーンを覚えている。 それを今回、全編を通してみることで、個別のエピソードだけ…

日本の新本格1965

1965年発表の本書は、高木彬光の「検事霧島三郎」シリーズの第三作。1948年「刺青殺人事件」でデビューした作者のレギュラー探偵は、天才神津恭介だった。初期の神津シリーズは、ある意味米英の「探偵小説」を基にしたもの。しかしデビューから20年近く経っ…