新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

社会派ミステリー

伸介登場前の社会派ミステリー

1979年発表の本書は、アリバイ崩しの巨匠津村秀介のデビュー第三作。第五作「山陰殺人事件」で登場するレギュラー探偵浦上伸介の前には、作者は所轄の警官を探偵役に社会派ミステリーを書いていた。作者が<週刊新潮>で<黒い報告書>を連載していた事件記…

在デリー高等弁務官の死

1984年発表の本書は、英国推理作家協会(CWA)賞新人賞受賞作。作者のエリザベス・アイアンサイドは英国生まれで、欧州各地やインドを巡り歩いたと解説にある。今や人口で中国を抜く大国インドだが、その国土の広さも半端ではない。作者がインドで暮らした3…

黒江壮の実家の街

本書はいくつも紹介した、深谷忠記の「壮&美緒シリーズ」の中期(1992年発表)の作品。後にようやく壮が36歳の准教授の時に二人は結婚するのだが、この時点ではまだ29歳。婚約した二人は、初めて壮の実家を訪れる。場所は山口県の萩市、言わずと知れた長州…

選挙と建設業界の深い闇

1990年発表の本書は、久しぶりの「V・I・ウォーショースキーもの」。シカゴの女探偵V・Iことヴィクの正義感あふれるゆえの苦闘を、イリノイ州在住の作家サラ・パレツキーが書き続ける第6作である。毎回背景となる舞台を変えているこの作品群、今回の舞台は建設…

金沢・東京「二重生活」の夫

本書は1959年に発表された、巨匠松本清張の代表作である。物語の大半を占める金沢を中心とした石川県の冬の風情が、陰鬱な雰囲気を倍増させている。26歳のOL禎子は、勧める人があって10歳年上の鵜原憲一と見合いをし、結婚した。当時としてはお互い、やや遅…

ホープ弁護士登場

多くのペンネームを持ち、多様な物語を発表した才人エド・マクベイン。もちろん有名なのは「87分署シリーズ」なのだが、そのほかにも本書(1976年発表)に始まる「ホープ弁護士シリーズ」をこの名義で何冊か発表している。舞台は、大都会を遠く離れたフロリ…

オレンジ郡のシングルマザー巡査部長

T・ジェファーソン・パーカーという作者の作品を読むのは、初めて。巻末の解説によると2002年の「サイレント・ジョー」と2004年の「カリフォルニア・ガール」で2度米国探偵作家クラブ最優秀長編賞を獲った実力派だ。1年に1作程度という現代作家としては寡…

喜歌劇「魔法使い」の陰で

1985年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第6作。前作「消えた鱈」では、ようやく新婚気分も落ち着いたところでセーラとマックス夫婦が純銀製の鱈を巡る事件に巻き込まれる。セーラはあまたある伯父叔母のなかでも特にう…

分銅鎖が得意な目明し

5大捕物帳の他にも、日本特有の歴史ミステリー「捕物帳」は存在する。捕物帳というのは、与力・同心が目明したちの報告を受けて奉行などに報告するために書きつけておくメモのようなものだ。実際、市井のことに詳しくない御家人では市中の犯罪捜査は難しい…

日本人は基本的に異質

1992年発表の本書は、「アンドロメダ病原体」などを紹介した才人マイクル・クライトンのミステリー。700ページ近い大作だが、テーマとなっているのは「日本の米国侵略」、もちろん架空戦記ではない。 ベルリンの壁が崩れ、ソ連が崩壊、中国はまだ台頭してい…

祝!150話達成

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン7。これまでにも増してストーリーのバリエーションが増え、視聴者を楽しませてくれる。登場人物にもいろいろ変化や成長、過去のエピソードの紹介があって、興味深い。特に150話目にあたる「親子の…

私設鉄道でのパーティで事件が

1984年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第五作。前作「ビルバオの鏡」で新婚早々美術品盗難事件を解決した2人は、今度は最初のクリスマスを前に伯父ジェムを巡る事件に巻き込まれる。口うるさいことこの上ないケリング…

美しい海と疲弊する町

本書は2010年のほぼ1年間「週刊文春」に連載された、東野圭吾の「湯川学もの」の長編。2011年に単行本化されている。僕は湯川准教授のキャラクターはとても好きなのだが、小説そのものはもう少し工夫の余地があるのではないかと思っている。これだけの天才…

初めてHOTになった湯川准教授

本書は、東野圭吾の「湯川学もの」の中で最近の長編。この後には「沈黙のパレード」(2018年)があるだけだ。さしもの理系作家も、超常現象・不可能犯罪を科学的手法で解決するネタを、易々とはひねり出せないのだろう。本書(2015年発表)も、2012年に発表…

アイアソン埠頭の新居

1983年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ・ケリングもの」の第四作。前作「盗まれた御殿」の事件から2ヵ月、未亡人セーラと青年美術鑑定人マックスは結婚の意思を固め、新居を「海の見える別荘」を改築して充てることにした。ビーコン・ヒ…

あまりに早くやって来る夕闇

1990年発表の本書は、エド・マクベイン「87分署シリーズ」の第42作目。1950年代、まだ米国が元気だったころから始まったこのシリーズも、徐々に都会の退廃の色が濃くなってきた。ニューヨークをモデルにしたらしい架空都市アイソラでは、移民の地区が点在し…

未亡人セーラの恋と冒険

1981年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ・ケリングもの」の第三作。11月「納骨堂の奥に」の事件で夫を亡くし、1月「下宿人が死んでいく」で邸宅を改装した下宿屋を始めたセーラ。まだ27歳にもなっていない若い未亡人の肩には、旧家ケリン…

エロチック・ミステリー

本書は横溝正史後期の作品、ちょうど還暦を迎えたころ執筆されたものである。ディクスン・カーが好きで怪奇趣味あふれた作品といいうのが作者の特徴だが、本書では珍しくエロチックなものに仕上がっている。元々は「百唇譜」という短編だったものを、そのモ…

透明すぎる昭和

作者の仁木悦子は、1957年「猫は知っていた」でミステリーデビューし江戸川乱歩賞を受賞した。それ以前は大井三重子名義で童話を発表し、文章が上手く爽やかな物語を書く名手と言われていた。本書の解説にも「非常に透明な筆致」との賛辞が見られる。 作者は…

汚れた街のアル中探偵

本書は昨年末「死者との誓い」を紹介したローレンス・ブロックの「マット・スカダーもの」。作者は1993年の「死者・・・」と1982年発表の本書で、PWA(米国私立探偵作家クラブ)賞を受賞している。「死者・・・」ではかつてアル中だったと回想するマットは、元娼婦…

ロケハン男ジョン・ベラム

首から下がマヒした状態で犯人を追い詰める天才鑑識官リンカーン・ライムのシリーズで、押しも押されもせぬベストセラー作家になったジェフリー・ディーヴァーだが、ルーンというポップなおねえちゃんを主人公にしたシリーズを3作出していることは、以前紹…

名家を継いだ若い未亡人

1980年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ・ケリングもの」の第二作。以前ノースカロライナの女性判事デボラ・ノットのシリーズを「大河ドラマ」と評したが、このシリーズもセーラの成長物語として「大河」の要素が強い。 前作「納骨堂の奥に…

内海薫刑事登場

本書は2006~2008年にかけて、いくつかの雑誌に掲載された「湯川学もの」中・短編を5編収めたもの。「予知夢」に続く第三短篇集である。2007年にフジTV「月9」枠で連続ドラマ「ガリレオ」が放映されている。当初の短編では警視庁捜査一課の草薙刑事が、同…

死者の圧倒的な存在感

先月までマーガレット・マロンの「デボラ・ノット」ものを4作紹介してきた。舞台となったのは南部の東海岸ノースカロライナ州で、女性判事デボラの活躍を描くと同時に土地の因習もヴィヴィッドに書かれていた諸作である。2006年発表の本書も、ノースカロラ…

ハードボイルドの詩人

本書は先月短篇集「おかしなこときくね」を紹介した、ローレンス・ブロックが1993年に発表したマット・スカダーものの長編。マットものは17編が発表されていて、そのうちの2編「八百万の死にざま」と本書が、PWAの最優秀長編賞を受賞している。解説によると…

ボストン名家の秘密

以前3作ほど、ボストン近郊のバラクラヴァ農業大学のシャンディ教授を主人公にしたシリーズを紹介した。ユーモアというよりファースに近い物語で、それらに続く作品は読んでいない。しかし作者のシャーロット・マクラウドには、もうひとつボストンを舞台に…

二人の天才の対決

東野圭吾の「湯川助教授もの」の初長編が本書。2003年から「オール読物」に1年半にわたって連載されたものだ。単行本化(2005年)にあたり、題名を「容疑者Xの献身」と改めている。50~70ページほどの短編と違い、天才物理学者湯川学は、あっさり事件を解…

登場人物たちの過去

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン6。リーマンショック時の前シーズン5は、ジェニー局長の殉職に伴って新局長になったヴァンスが、ギブスチームに辛く当たり、解散させることで終わっていた。トニーは空母勤務、ジヴァは帰国、マク…

短編小説は「愛の産物」

日本ではあまり知られていないが、奇妙な味とハードボイルドな感覚を併せ持った作家にローレンス・ブロックがいる。約50の長編小説と多数の短編小説がある。本書は、1964~1984年に発表された18の短編を収めたもの。長編小説の1/3ほどに登場する私立探偵マシ…

田舎町の土地高騰

本書(1996年発表)は、マーガレット・マロンの「デボラ・ノットもの」の第四作。前作の舞台ハーカーズ島から、デボラは本拠地ドブズに戻って新しい事件に挑む。今回の事件の舞台はデボラの生家のある田舎町、米国で格差が拡大し不動産の高騰が顕著だった199…