新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

社会派ミステリー

可哀そうすぎアルバート・サムスン

インディアナポリスの心優しき私立探偵アルバート・サムスン、「A型の女」でデビューした彼はこれまで6作の長編で探偵役を務めた。「インディ500」くらいしか目立った話題のない地方都市で、地味に探偵業を営んできた。銃はもたず、暴力を振るう事もない。…

中国人不法入国者の街

ロバート・B・パーカーのレギュラー主人公スペンサーのホームグラウンドは、ボストン。アメリカ合衆国発祥の地とも言える、東海岸の港町だ。僕も10余年前、年間3回通ったことがあり、当地で食べるエビやカニ、あるいはクラムチャウダーなどの海の幸を楽しん…

18歳、エドの成長物語

最近あまり見かけない作家のひとり、フレドリック・ブラウンのかつての人気シリーズ「エド・ハンター」ものの第一作が本書。エド青年はカーニバル暮らしだが、たびたび事件に巻き込まれ伯父のアンブローズ・ハンターと共に探偵役を務める。このシリーズは7…

真剣師連続殺人事件

おなじみ浦上伸介シリーズの比較的初期の作品(1986年発表)の本書だが、浦上や先輩格の相棒「毎朝日報」の谷田編集長が大好きな将棋の世界の事件である。浦上はアマ二~三段、谷田は四段で将棋クラブに通う棋力。今回の事件の中心人物たちは、それをはるか…

87分署もの、欠けた輪

最後のエド・マクベイン87分署シリーズ「凍った街」を読んでから、ずいぶん時間が経った。全部で56作あるこのシリーズ、学生の頃に読んだのは30作目までくらいだった。それを数年前から少しづつBook-offで買い集めて来て読んでいるのだが、第37作「稲妻」が…

良いおまわりになるためのクイズ

マイクル・Z・リューインのアルバート・サムスンシリーズを1冊を残して読んでしまったので、もうひとつのシリーズであるパウダー警部補ものを買ってきた。パウダー警部補はインディアナポリス警察のベテラン刑事。サムスンものにも、ちょい役で出てきたこ…

サラリーマン世界のミステリー

作者の浅川純は、日立製作所の茨城にある事業所で調達部門の管理職だったが、18年勤めた会社を辞めて作家になった人である。当時のはやり言葉「脱サラ」を地で行った人で、その関係の著作も多い。ミステリーも好きだったようで「浮かぶ密室」(1988年)、「…

サムスンが挑む50年前の事件

シリーズ第5作で著しい成長を見せたインディアナポリスの中年私立探偵アルバート・サムスンについては、しばらく前に紹介した。 前々作では破産状態だった彼だが、ようやく普通の暮らしを取り戻し、事件解決にも冴えを見せていた。それが本書では金に糸目は…

圧巻の大河ドラマ(後編)

南部の白人たちにとっては黒人奴隷の労働力で綿花を栽培/収穫するのが最も大きな産業だったが、南北戦争(州間戦争と彼らは言う)に敗れてから黒人労働力にかけるコストが上がり、害虫被害も出て生活は苦しくなっていた。もちろん、黒人たちもより苦しい生…

圧巻の大河ドラマ(前編)

ミステリー小説の上手さには、4つのカテゴリーがあると思う。 (1)構想 プロットと言ってもいい。全体を流れるテーマを、どういうスタンスで扱うか。まれには、これそのものがトリックだったりする。 (2)エピソード ごく短い短編を除いては、複数のエ…

黒人街の憂鬱

ボストンにも黒人街があるようだ。僕が通っていたのは2006年ころの短い期間だったから時期が違うのかもしれない。ここにあるような危険な場所は、教えてもらっていない。本書の発表は1992年、そのころは一番荒んでいた時代だったのかもしれない。 黒人街の一…

42歳の探偵、成長す

「A形の女」でデビューしたマイクル・Z・リューインは、決して多作家ではないが「ネオ・ハードボイルド」の旗手のひとりと評価されている。インディアナポリスを舞台に、私立探偵アルバート・サムスンものを7作、パウダー警部補もの3作ほかを残した。本…

インディアナポリスの貧しい探偵

本書はすでに2作ほど紹介しているマイクル・Z・リューインのアルバート・サムスンものの第四作である。サムスンものの評価を確立したとされる作品で、シリーズ中最高傑作という人もいる。本書の発表は1978年、そのころ舞台となるインディアナ州の州都イン…

刑事たちのホームドラマ

エド・マクベインの87分署シリーズでは、何人かの刑事たちが主人公である。メインキャラクターは(殺すことができなくなったので)不死身のキャレラ二級刑事。このほか、長身・金髪の二枚目クリング三級刑事、薄い頭髪を気にするマイヤー二級刑事、海軍上…

スペンサー、ハリウッドに立つ

先日爛熟期にあるハリウッドでプリンス・マルコが活躍(例によって女性相手が主体だが)する、ジェラール・ド・ヴィリエの「インディアン狩り」を紹介した。それから12年、今度はロバート・B・パーカーのレギュラー探偵スペンサーがやってきた。ほとんどホー…

デフ・マン三度目の挑戦

1956年に第一作「警官嫌い」が発表されてから、エド・マクベインはコンスタントに87分署シリーズを発表し、1973年に出版された本編は27作目である。12作目「電話魔」で登場しキャレラ刑事に重傷を負わせ、22作目「警官(サツ)」でもおなじみの刑事たちを…

陪審員たちの闘い

ミステリーのひとつのジャンルに「法廷もの」がある。有名なのはE・S・ガードナーの「ペリー・メイスンシリーズ」だが、これはハイライトを法廷に持って行った普通のミステリーと言えなくもない。法廷もののマニアの中では「最初から最後まで法廷だけを描写…

等身大の私立探偵

本書はインディアナポリスで一番安い私立探偵だと、自らも言うアルバート・サムスンの二度目の登場作品である。1日$35+経費というのは確かに安い。フィリップ・マーロウは$100、スペンサーは$200だった。本書の発表は1973年だから、マーロウよりは大分…

リンカーン・ライムシリーズへのステップ

「どんでん返し職人」ジェフリー・ディーヴァーの1995年の作品が本書。同年の前作「監禁」については、少々辛口のコメントをした。その後ほぼ全身不随の捜査官リンカーン・ライムを主人公にしてブレイクしたディーヴァーだが、それまではそこまで傑出した作…

ミステリーの長さ

ミステリーの創始者と言われるエドガー・A・ポーが著わしたのは、短編小説だけだった。(翻訳の文庫本で:以下同じ基準)20~40ページくらい。中学生なら興味を切らさず、読み終えることができる長さである。その後ウィルキー・コリンズが500ページ級の「月…

インディアナポリスの探偵

ハメット・チャンドラー・マクドナルドという正統派ハードボイルド小説も、第二次大戦後特に1970年代になるとかなり変わってきた。以前紹介したロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズもそのひとつだが、マイクル・Z・リューインのアルバート・サムスン…

カナダからのミステリー

2年前初めてカナダという国を訪れ、トロントという街で数日過ごした。ホテルの側に野球場があったり、ホットドッグ屋台に人が列を作っていたり、まあアメリカと大差はないなと思った。物価もニューヨークなどよりは安いような気がして、好意を持った。それ…

アイソラでの人種差別

エド・マクベインの「87分署シリーズ」も、33作目になった。最初の作品「警官嫌い」から23年が経ち、何人かの刑事が殉職した。例によって不死身のキャレラ刑事は主役として活躍を続けているが、23年間昇進することなく二級刑事のままである。 ろうあ者の妻…

天使と悪魔、弁舌の対決

二人の40歳代の男性が本書の主人公である。ひとりは悪魔的な犯罪者アーロン、ウソをつかせたら右に出るものなしと称されている。もうひとりは天才的な弁護士テイト、欲があればドナルド・トランプ並みの財を成していたとある。(大統領になれるとは書かれて…

誘拐という重犯罪

ウィリアム・P・マッギヴァーンは第二次世界大戦後にデビューし、1ダースあまりの警察小説を書いた。そのうちのいくつかは映画化されている。本書は彼の代表作のひとつで、マンハッタンを舞台に富豪の孫娘の誘拐事件に挑むFBIの捜査を描いたものだ。 19…

マエストロの習作

本書は1980年代のマンハッタン、レンタルビデオ店で働く20歳のパンクな女の子が100万ドルのお宝探しに島中を駆け巡る青春小説である。彼女はルームメイトと共にビルの屋上を不法占拠して暮らしている。映画好きで、それゆえにレンタルビデオ店で働いているの…

サイバー空間、2001

「どんでん返し職人」ジェフリー・ディーヴァーは、人気のリンカーン・ライムシリーズは1年おきに発表するとして、その間には単発ものを発表している。2001年に発表されたのが「青い虚空」。護身術のカリスマのような女性が、警戒していたにもかかわらず惨…

アイソラの好敵手

エド・マクベイン「87分署シリーズ」は、分署刑事たちのチームプレイを描いた大河ドラマのようなものである。刑事やその関係者は、殉職含めて入れ替わってゆく。読者は刑事たちになじみができて、ひいきの刑事が活躍すると嬉しくなる。 作者はシリーズ12作…

新幹線を狙ったテロ

中学生で翻訳ミステリーにはまり込み、高校生になってミステリー漁りに拍車がかかった僕は、日本のミステリーも読むようになった。かなり初期に読んで感動したのが、森村誠一「新幹線殺人事件」だったことは、昨日紹介した。 しばらくして、同じように新幹線…

大都市アイソラの刑事たち

1950年代の繁栄していたアメリカ。第二次世界大戦が終わり、米ソ対立の時代に入ろうとしていた時だったが、アメリカは世界の盟主だった。ハリウッド発の映画は自由主義陣営にくまなく供給され、TVドラマも世界に流れていった。アメリカは新しい文化の源だっ…