新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サルディニア島の弁護士

今年の新年の旅行はローマだった。島のワインを呑みに行ったような旅だったが、やっぱりシチリアやサルディニアのものは美味しいと思う。帰国して「そういえばイタリアン・ミステリーがあったな」と探し出したのが本書。なんとサルディニア島を舞台にしたも…

百科事典による国際政治

今まで「黒後家蜘蛛の会」などのミステリーを紹介したアイザック・アシモフだが、いかにミステリー好きとは言え本業はサイエンスフィクションである。数ある著作の中でも、傑作と言われるのが前回紹介した「鋼鉄都市」と本書から始まる「銀河帝国興亡史」だ…

諜報・戦場・政治謀略

戦場では、まれにだがとんでもないことが起きる。例えば本書の表紙のイラストにあるように、同じ塹壕から米軍と独軍の兵士が各々別方向に銃を撃っていたという話も事実である。本書は第二次世界大戦の主に欧州戦線で起きた、諜報・戦場・政治謀略に関する40…

パリのカウボーイ

昔よく旅行で行ったパリ、中心を流れるセーヌ川沿いには多くの古書店(というか屋台)が出ている。今年 初めに旅行で行ったマドリードでも、、アトーチャ駅のそばに古書屋台が並んでいた。日本ではBook-offに通う僕だが、洋書の目利きなどできるはずもなく、…

ノベライゼーションにかける手間

映画やTVドラマのノベライゼーションを読むことはあまりないのだが、以前「古畑任三郎シリーズ」の短編集を紹介したことはある。才人三谷幸喜が本領発揮した短編集だったと思う。TVドラマとしても面白かったが、ほどよく手が入っていて小説としても読め…

戦車一両、敵中を行く

冒険小説の雄ギャビン・ライアルは最初レギュラーの主人公を持たず単発ものを書いていたが、元SAS少佐ハリー・マクシムを主人公にしたシリーズものにも手を染めた。これらがなかなか面白い。マクシム少佐は妻のジェニファーをテロで失い、半ばヌケガラと…

私的多国籍軍のターゲット

フランスだけではないが傭兵部隊というのは、先進国の軍隊にとって必要悪である。早くに先進国になったフランスという国は、人口減少・少子化が早く訪れたので自国の防衛に傭兵隊を重視せざるを得なかった。傭兵というのは実に古い職業で、山岳地帯の国(ス…

中立国スウェーデン

近年ロシア軍のバルト3国侵攻や、バルト海を渡ってスウェーデンへの侵略があるのではないかと噂されている。国内経済はマイナス成長だし、内政にもほころびが見られる。このようなロシアの危機は1980年代半ばにもあった。トム・クランシーの「レッド・オク…

ベレスフォード夫妻、最後の挨拶

1922年に「秘密機関」でデビューしたおしどり探偵、トミー&タペンス・ベレスフォード夫妻。1973年発表の本書では70歳代もなかばになり、リューマチがどうのとか背中がつっぱると嘆いている。10歳代の孫もいる二人だが、冒険心は全く衰えていない。 物語は、…

旧式兵器の競演

「超音速漂流」でデビューしたトーマス・ブロックは、米国大手航空会社のパイロットである。現職のうちに作家デビューを果たした。職業柄、民間航空機のハイジャックものが得意なのだが、本書(第三作)では本格的に軍事知識を盛り込んで、大規模犯罪とこれ…

それぞれの死出の旅

キューバ危機のころ、僕はまだ小学生だった。「シートン動物記」がお気に入りの本で、核戦争がどういうものかの知識は無かった。米ソ両国が核のボタンを握りしめて「相互確証破壊: Mutual Assured Destruction(MAD)」へのチキンレースをしていたことは、ず…

情報・分析は正しかったが

薦めてくれる人があって、今話題のこの本を読んで見た。この種の本としては「失敗の本質」という名著があるが、新進気鋭の経済学者の歴史探求ということで興味深く読み始めた。猪瀬直樹著「昭和16年夏の敗戦」というのも以前読んだことがあり、総力戦研究所…

ドーバー海峡を越えていたら

僕がシミュレーション・ウォーゲームを好きなのは、そしてSFゲームやファンタジーゲームを好まないのは、歴史のIF「あの時こうしていたら・・・」を自分の手でやってみることができるからだ。例えば、アリューシャンのような支作戦に「龍驤」「隼鷹」を割かずに…

不思議な遺言状の波紋

ドロシー・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿シリーズの第四作が本書(1928年発表)。表紙にカードの絵があるように、コントラクトブリッジの用語が全編の小見出しに使われる趣向になっている。 ・ピーター卿、切り札を刈る (刈る:相手の切り札を使い切…

ヘイスティングズ大尉の恋

ミステリーの女王アガサ・クリスティーの長編第3作が本書。1920年に「スタイルズ荘の怪事件」で、ベルギーからの亡命者ポアロ探偵を登場させた彼女だったが、第2作「秘密機関」では冒険好きな若い二人トミー&タペンス・ベリフォードを主人公にした。察す…

名探偵あるところ常に犯罪あり

「オリエント急行殺人事件」(1934年発表)で大技を決めたアガサ・クリスティー。翌1935年に発表した本書も、旅行先でポアロが事件に遭遇する。雪に閉じ込められた豪華列車というのが前作の舞台だったが、今度はパリ発ロンドン行きの旅客機の中での殺人事件…

正統派大人のミステリー

D・M・デヴァインは、生涯で13作のミステリーを残した。そのほとんどは日本でも出版されたが、今では手に入らないものもあり僕は本書でようやく過半数、7作目を読むことができた。以前12番目の作品「跡形なく沈む」を紹介しているが、これぞイギリスの本…

泥縄のイタリア勉強

昨年6月に夫婦でローマ旅行に行ってとても良かったので、また行くことにした。今度は冬、初夏とは違うローマを見物したい。その前にちょっとイタリア事情を勉強しておこうと思って、本書を買ってきて読んだ。 2003年の出版でやや古いが、かの国は3,000年の…

名探偵明智小五郎

日本のミステリー界の先駆者と言えば、この人を措いて他には考えられないのが江戸川乱歩。ミステリーの創始者であるエドガー・アラン・ポーの名前をもじったペンネームで、第二次世界大戦前から欧米ミステリーを紹介している。特に気に入ったロジャー・スカ…

「車引き」の戦果と限界

太平洋戦争前に建造され、戦いの中でほぼ全て失われた特型駆逐艦という艦種は、帝国海軍に特有のものだ。同時期の他国の駆逐艦に比べ大型で、速力も航続力も高い。もちろん武装も強力だ。駆逐艦はといえば、もともとは主力艦や船団を魚雷艇のような小艦艇の…

本物の「探偵小説」

古典的な本格ミステリーを、「明晰神のごとき名探偵が・・・」などと評するが、オーギュスト・デュパンを先祖とするこの種の人たちが「私立探偵」を業として営んでいる例は多くない。ファイロ・ヴァンスは貴族の遊民だし、エラリー・クィーンは作家、ミス・マー…

死期の迫る名探偵

エラリー・クィーンの絶頂期に書かれた4作のうち、「Xの飛檄」と「Yの悲劇」に続くのが本書(1933年発表)。悲劇4部作の3作目にあたる。株式仲買人ロングストリートがトラムの中で毒殺された事件、名家ハッター家の事件を解決した名優ドルリー・レーン…

神田三河町の親分

歴史ミステリーという分野はいくつもの国で書かれているが、日本には独自のものとして「捕物帳」というジャンルがある。大江戸808町の治安を守る警察組織の現場として、岡っ引きたちの活躍を描いたシリーズである。その開拓者と言われるのが、「半七捕物帳」…

漸減要撃作戦で始まったが

横山信義の何作目(もう数えられない)の第二次世界大戦、日米対決ものである。「八八艦隊物語」以降、よく同じテーマで数冊の連続ものを書けると思うのだが、読んでしまう方(僕のこと)もどうかしている。今回はBook-offで数カ月かけて買い溜めておいた、…

スペースオペラ、ここに始まる

いわゆるサイエンスフィクション(SF)の古典と言えば、フランスのジュール・ヴェルヌ「月世界へ行く」、イギリスのH・G・ウェルズ「宇宙戦争」などが挙げられるだろう。SFっぽいものも残したE・A・ポーはアメリカ人だが、アメリカで始祖と言えば本…

エラリー・クイーン最後の事件

1929年「ローマ帽子の謎」でデビューした作家エラリー・クイーンと探偵エラリー・クイーン。1971年発表の本書が、最後の事件になった。ミステリー通ならだれでも知っているように、作家エラリー・クイーンは2人のいとこ同士フレデリック・ダネイとマンフレ…

米国出版業界の内幕

SF小説の大家アイザック・アシモフは、本当にミステリーが好きで「黒後家蜘蛛の会」という短編集を5冊も出版している。以前紹介した「鋼鉄都市」(1953年)は背景こそSFなのだが、手法は本格ミステリーをなぞったものである。この作品は世界ミステリー…

米中対立の見事な予測

現在の戦略兵器としては、国際関係上ほぼ使えない戦略核兵器を除けば、空母機動部隊が一番に挙げられるだろう。1941年末、南雲機動部隊が真珠湾で旧式戦艦7隻を撃沈破して以降、その地位は揺らいでいない。しかしいつかは空母機動部隊を破る「戦略兵器」が…

3つのトリック

森村誠一はホテル業界に10年勤めた後、推理作家に転じた。第二作「新幹線殺人事件」は、緻密なアリバイトリックと地道な捜査を描いてベストセラーになった。新幹線車中で起きた第一の事件に続いては、高級ホテルが舞台となる第二の殺人が起きる。この作品に…

浦上伸介最初の事件

デビュー作「影の複合」(1982年)があまり売れず、第二作「時間の風蝕」(1983年)で盛り返した津村秀介は、第五作の本書(1984年発表)で、ついにレギュラー探偵浦上伸介を登場させる。以後、ほとんどの作品に伸介は登場するのだが、その姿(地味なブルゾ…