新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スコットランドの6人の画家

本書(1931年発表)はドロシー・L・セイヤーズの「ピーター・ウィムジー卿もの」の第六作。原題の「Red Herrings」は燻製のニシンのことだが、ここではミスディレクションを差す。軍用犬などの追跡を逃れるため、匂いの強い燻製ニシンを使って逃走路を欺瞞した…

法人検死報告書(コロナ編)

本書は、以前「あの会社はこうして潰れた」を紹介した、帝国データバンク情報部による「COVID-19」禍における倒産状況分析の続編。2021年5月の出版で、おおむね2020年度の倒産劇を扱っている。 実は「COVID-19」対策として政府が数々の支援策を出していて、…

技術革命だけでは人類を変えきれない

2017年発表の本書は、5人の知の巨人にサイエンスライターの吉成真由美氏がインタビューしたまとめたもの。昨日紹介した「知の逆転」の後日談とも言え、テーマは「人類とテクノロジーの関係」である。登場する巨人は、 ノーム・チョムスキー(数学・言語学・…

限りなく真実を求めて

2012年発表の本書は、当代最大の(理系)知性を持った巨人6人へのインタビューをまとめたもの。インタビュアーはサイエンスライター吉成真由美氏である。その巨人たちとは、 ■ジャレド・ダイアモンド(UCLA教授) 生物学者でピューリッツア賞受賞者「文明は…

市民参加の司法・・・の舞台裏

自身はさほどの多作家でもないが、ミステリーの厳正さにかけては人後に落ちない作家佐野洋。評論家は彼を、「当代一流の読み手」と称する。そんな作者の研究熱心さが顕れたのが、長編でも短篇集でもなく「連作推理小説」という本書(1995年発表)である。 最…

貴族探偵ホーン・フィッシャー

1922年発表の本書は「ブラウン神父シリーズ」などで知られたG・K・チェスタトンの短編集。ブラウン神父は逆説と皮肉に満ちたユニークな探偵で、シャーロック・ホームズのライヴァルたちに数えられることもあるのだが、全く次元の違った物語である。ホームズが…

警官の父親を殺した容疑者

エド・マクベインの大河ドラマ「87分署シリーズ」は、1956年から約50年間書き継がれた。前回1990年発表の「晩課」を紹介したが、本書はその次の作品(1991年発表)。1990年代後半以降の作品は手に入っておらず、本棚の残りも少なくなった。本書では、9作目…

コミュニケーションが苦手な日本人へ

2017年発表の本書は、経済学者暉峻淑子(てるおかいつこ)氏のコミュニケーションを基軸に据えた社会論。冒頭「対話が続いているうちは、殴り合いは起きない」というドイツ人の言葉が紹介されている。これは真実で、 ・誘拐やたてこもり事件でも交渉している…

日本の新本格1965

1965年発表の本書は、高木彬光の「検事霧島三郎」シリーズの第三作。1948年「刺青殺人事件」でデビューした作者のレギュラー探偵は、天才神津恭介だった。初期の神津シリーズは、ある意味米英の「探偵小説」を基にしたもの。しかしデビューから20年近く経っ…

アベ政治とは何だったのか

2021年発表の本書は、菅政権末期の同年8月前後に「自民党」を長く見てきた8名の関係者・有識者に宝島社がインタビューした結果をまとめたもの。安倍・菅政権の9年間に批判的な人ばかりで、政権の功罪というよりは「罪」ばかりを取り上げた内容となってい…

再生可能エネルギーへの転換

本書は3・11東日本大震災と、それに続く福島第一原発(F1)事故当時、総理大臣を務めていた菅直人議員(立憲民主党)が2021年に発表されたもの。昨年「東電福島原発事故、総理大臣として考えたこと」を紹介しているが「これも読んで」と送ってもらった。 世界…

勇気は出るけど、蛮勇かも

昨日別ブログで、ニューオータニでの「正論大賞授賞式」に参加したことを書いた。僕が早々に引き揚げてから、岸田総理もお出でになったらしい。なかなか政治力のある月刊誌ということだ。その時、引き出物としてもらったのが本書。大賞受賞の織田元空将と、…

心中事件に3発の銃声

1949年発表の本書は、A・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」の1冊。本書も訳者が田中小実昌氏(通称コミさん)で、なかなか味のある訳文になっている。<おれ>ことラム君は、腕っ節はからきしだが「抜け目のない羊」としての才覚を発揮し、…

狂乱経済・社会の是正はなるか

今日3/8は「国際女性デイ」、中国の通販サイト等では11/11(独身の日)と並ぶ「女王節」の書き入れ時である。2022年発表の本書は、中国通のジャーナリスト青樹明子氏の現代中国経済レポート。習大人が、巨大ITを叩き、教育改革と称して塾などを潰し、有名俳…

南北統一への夢と現実

2020年発表の本書は、東大名誉教授(政治学)姜尚中氏の東アジア展望。政権批判番組「サンデーモーニング」のコメンテーターである筆者は、僕には日本政府批判の急先鋒に見える。同番組で、福島原発処理水のことを「汚染水」と言うのは、筆者と青木理氏の2…

賤民長屋の探偵団

都筑道夫という作家は非常に作風の広い人で、本書のような時代推理ものから現代もの、SFに至るまで多くの小説を残した。その大半は短編もしくはショートショートで、いずれも皮肉なユーモアが感じられる。ペンネームも10くらいはあり、シリーズものも多い。…

書きたい放題書いてみた

2018年英国で発表された本書は翌年日本でも出版され、早々にBook-offの100円コーナーに並ぶスピード感である。読み始めて驚いたのは、「・・・」という会話を表わすカギカッコが一つもないこと。確かにおれことジャック・プライスの独白が9割を占める小説なの…

日本はその時何ができるか

以前、台湾有事にあたっての米中戦争シミュレーション、渡部元陸自総監著「米中戦争~その時日本は」を紹介した。2017年出版とやや古い書だったが、作戦級のシミュレーションとしては充分勉強になった。 Air Sea Battle(ASB)はどう展開する? - 新城彰の本…

懐かしいジュブナイル

日本の「SF御三家」といえば、小松左京・星新一と本書の作者筒井康隆を指す。あまりSFを読まなかった学生時代の僕だが、小松左京のハードでシリアスなSFは嫌いではなかった。星新一のショートショートは、正直何が書いてあるのかわからずほとんど読んでいな…

キンジーの新しい「職場」

本書はご存じ、Aから順番にタイトルを付けていくスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第9作。30歳代の女私立探偵で主人公にした人気シリーズとしては、サラ・パレツキーの「VICもの」があるが、これがどんどん長編化してついには上下巻になる…

英国紳士流のアイロニー

本書は、以前デビュー作「百万ドルを取り返せ」を紹介したストーリーテラー、ジェフリー・アーチャーの短編集。デビュー作以下、多くの長編サスペンスを発表している作者だが、意外なことに短編集は1980年に発表された本書だけらしい。作者はオックスフォー…

3人のドイツ航空技術者

第一次世界大戦で敗戦国となり、多くの「枷」を掛けられたドイツだが、1930年代に奇跡とも思える復活を遂げる。政治的統一・産業振興・軍備の拡張のいずれもが、上手くいっているように見えた。その中の一つに、航空機産業がある。日本も含めて各国が航空機…

温故知新のサラリーマン論

「梟の城」で直木賞を獲り「竜馬がゆく」などの大作で知られる作家司馬遼太郎は、戦後いくつかの新聞社で記者をしていた。30歳を過ぎたら作家になろうと考え、文章修行をしたのがこの時代。新聞記者はプロフェッショナルだが、サラリーマンでもある。若い大…

5人の亀取二郎

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の、鬼貫警部ものの長編。作者の長編は、以前発表したものに手を入れて再発表するものがいくつかあるが、これもその1編。1979年に「王」と題して「野生時代」に発表したものに加筆し、「王を探せ」と改題して1987年にカドカワノ…

ファンのためのギブスの物語

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン9。この中の14作目「運命の分かれ道」で通算200話を達成している。記念すべき200話は「ファンのためのギブスの物語」と位置付けられ、シーズン1からずっと主役を続けてきたギブス捜査官(マーク・…

青年医師ヴィンスの淡い恋

1989年発表の本書は、アランナ・ナイトの「ファロ警部補もの」の第三作。3日続けて紹介することになったのは、1980年代のエジンバラを舞台にした特色あるミステリーである上に、第二作「エジンバラの古い棺」の事件では主人公ファロ一家に歴史的な大事件が…

メアリー女王とダーンリー卿のカメオ

1989年発表の本書は、昨日「修道院の第二の殺人」を紹介した、アランナ・ナイトの「ファロ警部補もの」の第二作。実は3作買ってあって、前作が面白かったものだから連続して読むことにした。「軽快な犯人探し」という紹介文にも魅かれたし、19世紀のスコッ…

エジンバラ警察1890

1988年発表の本書は、ノンフィクションからゴシック・ロマンまで、幅広い作風で知られるアランナ・ナイトの歴史ミステリー。舞台はヴィクトリア朝時代のエジンバラ、スコットランドの首都でもあり独自の文化が栄えた街だ。作者の60作ほどの作品中、17作に登…

政治とは何か?リーダーはどうか?

本書は民主党政権末期の2012年に発表された、政治記者橋本五郎氏の政治リーダー論。第一次安倍内閣以降、政権は1年単位で交代していた。筆者はこれらの総理大臣を、政治リーダーとは見ていないようだ。筆者がまだ駆け出しだったころからの名だたる総理大臣…

主張の見えにくいレポート

2021年発表の本書は、朝日新聞の東京本社経済部長の伊藤裕香子氏の税制論。菅内閣が「COVID-19」対策の説明不備などあって、支持率を下げているころの出版である。菅総理の言葉にある「自助・共助・公助」の順番が違うのではないかと、野党が責め立てている…