新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

河川砲艦での救出劇

1960年発表の本書は、これまで「黒海奇襲作戦」など4冊を紹介した英国冒険作家ダグラス・リーマンが、今話題の東シナ海を舞台に描いた活劇。作者の本領は、小型もしくは老朽の戦闘艦が、より強大な敵と戦う姿。本書では、本来河川で運用される旧式の河川砲…

パートナーになったラム君

1941年発表の本書は、以前「屠所の羊」や「大当たりをあてろ」を紹介した、A・A・フェア(昨日紹介したE・S・ガードナーの別名)の「バーサ&ラム君シリーズ」。小柄で頼りなさげだが、頭の切れは抜群のドナルド・ラム。女丈夫バーサ・クールの調査会社に雇われ…

街角オーディションの目的

1946年発表の本書は、久しぶりに見つけたE・S・ガードナーの「ペリイ・メイソンもの」。法廷シーンも多く(70ページほどある)、本格ミステリーとしても楽しめる作品に仕上がっている。第二次世界大戦直後なのだが、戦勝国米国には戦争の傷跡も見られない。ロ…

海兵隊幹部から見た沖縄問題

2016年発表の本書は、日本文化にも造詣の深い政治学者で在沖縄海兵隊にも所属したことのあるロバート・D・エルドリッジの「オキナワ論」。沖縄にある米軍(専用)基地の再編や削減などについて、米軍も日本政府も失敗したという。例えば、最も大きな争点である…

タイムマシンで行く15の道

2016年発表の本書は、3人の歴史学者(*1)による京都の歴史探訪で、15の道を紹介している。ガイドブックにある「○○は何年に建立されました」的な紹介と、歴史書にある「このような時代で、××のために必要だった」的な解説を融合した書である。ある種の道や…

500万ドルの相続人たち

1996年発表の本書は、アルファベット順にタイトルを重ねるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第13作。作中、リアルタイムで年をとるキンジーは36歳になった。「探偵のG」でキンジーと恋に落ちながらもドイツに去っていった、タフガイ探偵ロ…

大戦間の黄金時代を舞台に

1992年発表の本書は、13人の作家が2つの条件を提示されて「アガサ・クリスティに捧げる短編」を書き下ろしたアンソロジー。その条件とは、 ・黄金期たるWWⅠ~WWⅡの時期を舞台 ・少なくとも一つの死体を登場させる殺人物語 であるが、何人かの作家は尻込みし…

冤罪者を決して出さぬよう

以前、高木彬光短篇集「5人の名探偵」を紹介したが、その5人の内で僕が最後まで読まなかったのが、本書(1968年発表)の探偵役近松茂道検事のシリーズ。神津恭介を始めとして、作者の探偵役は颯爽とした青年のイメージが強い。しかし近松検事だけは、牛の…

誰のため、何のための2.6兆円

2018年発表の本書は、毎日新聞記者で福島第一原発事故のその後を取材し続けている日野行介氏が「21世紀最悪の公共事業」の実態を綴ったもの。福島県を中心に広範囲に放射性物質が散布された事故で、その除染のため2016年度までで2.6兆円とのべ3,000万人の従…

クライシスコミュニケーションの実例

本書は、戦後日本最大の危機だった東日本大震災と、それに伴って起きた福島第一原発事故の数日間を、TVメディアがどう伝えたかをダイジェストしたもの。筆者の伊藤守氏は、社会学専攻で早稲田大学メディア・シティズンシップ研究所所長。震災後1年経った201…

「赤狩り」の中、キャシディ家の闘い

2015年発表の本書は、ロサンゼルスで20年余り映画・TVのライターをしていたデイヴィッド・C・テイラーの作家デビュー作品。日本人があまり知らない米国の「赤狩り」の時代に、ソ連から米国に逃れてきたトム・キャシディ(旧名トマス・カスナヴィエツキ)一家の…

泥棒探偵バーニイ登場

なかなかの手腕を持つ「変わった作家」ローレンス・ブロック、これまでアル中探偵マット・スカダーものや、ノンシリーズ「殺し屋」を紹介してきた。作者には他にもシリーズものがあるのだが、今回ようやく「泥棒探偵バーニイもの」を見つけることができた。…

家族制度に見る世界の行方

本書は、何度か紹介しているフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏のインタビュー記事の書籍化。2013~21年に文芸春秋誌に掲載された記事を11編収録している。英米から欧州、ロシア、中国に言及するとともに、日本の現状課題や将来の方向性について…

名脚本家のミステリー

1964年発表の本書は、ウィリアム・ゴールドマンを有名にしたサイコ・サスペンス。作者の名前は、かなりのミステリ通でも知らないかもしれないが、逆に映画通の人なら「ああ、あの脚本家」とひざを打つかもしれない。何しろ作者が脚色を担当した名画は、20を…

バスティーユで出会った3青年

本書(1997年発表)は、以前「ウィーンの密使」「聖アントニウスの殺人」を紹介した藤本ひとみの、やはりフランス革命を背景にした作品。フランス革命についてはバスティーユ監獄の襲撃や、革命勢力(ジャコバン派など)の内紛、王政諸国の介入くらいしか僕…

国境紛争を裁く委員の不審死

先日横浜馬車道で古書店を見つけふらりと入ったところ、最近見かけることのないパトリシア・モイーズの作品を3冊見つけることができた。古書店主も「モイーズ面白いですよね」と言ってくれた。今月から1冊/月のペースで紹介したい。 1968年発表の本書は、…

ユリとケイの新人時代

1998年発表の本書は、以前「ダーティペアの大復活」を紹介した高千穂遥のSFシリーズ。WWWAのトラブルコンサルタントである黒髪のぶりっ子ユリと、赤毛のボーイッシュなケイのコンビの物語。本編は唯一の外伝で、コンビの新人時代のエピソードが語られる。 大…

エジンバラでハイド氏を追う

以前スティーブンソンの「ジーキル博士とハイド氏」を紹介したが、英国の古典であるこの作品をモチーフにした作者も少なくないようだ。イアン・ランキンもその一人で、昨日紹介したデビュー作「紐と十字架」には何ヵ所かこの書が出てきた。第二作である本書…

SAS出身の刑事ジョン・リーバス登場

本書の作者イアン・ランキンは、スコットランドのファイフ生まれの作家。1986年のデビュー作は普通小説だったが、翌年発表の本書でエジンバラ署の一匹狼刑事ジョン・リーバスを主人公としたシリーズを始める。これまで1ダース以上の作品が、本国では出版さ…

女王のB級スリラー

女王アガサ・クリスティは、本書発表の1927年には私生活で非常に不安定な状況にあった。翌年には最初の夫アーチボルトと離婚することになるし、この年には失踪事件も起こしている。後に二度目の夫マックス・マーロワンと再婚してから、長期にわたり高品質の…

日本型州構想の(ちょっとだけ)具体策

2019年発表の本書は、以前「この国のたたみかた」を紹介した中央大学名誉教授佐々木信夫氏の日本列島構造改革論。「この国・・・」同様、全国を10州に再編し、東京・大阪の2都市州を加えることで、130年前の「廃藩置県」に相当する「廃県置州」をなすとある。…

フレンチ・ノワールの名作

本書(1953年発表)は、フランス暗黒文壇の大御所オーギュスト・ル・ブルトンのデビュー作。ただ日本では作者の作品は、「シシリアン」「無法の群れ」の2作品しか出版されていない。本書も2003年になって、ようやくハヤカワ・ポケミス>に加わっている。 1950…

陸軍参謀本部作戦課長

服部卓四郎という名前は、何度も戦史・戦記の中で見ている。しかしどういう人物だったか、印象はあまりない。帝国陸軍のエリートとして、選択肢として常に強硬な方針を示し、結果として日本を破滅の淵に追いやったとされるが、そんな軍人は大勢いた。歴史に…

捜査指揮官ファイロ・ヴァンス

1935年発表の本書は、S・S・ヴァン・ダインの長編第9作。前半6作に比べ後半6作の評価は一般に高くない作者の作品だが、第7作「ドラゴン殺人事件」と本編は堂々たる仕上がりだと思う。高校生の時に読んで、夏休みの読書感想文に選んだ書でもある。 普通素人…

最初から強権的な独裁者だった

2年前の今日、世界の秩序を変えたプーチンのウクライナ侵攻が始まっている。本書は、その年の6月に軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏が過去の記事も引用して、プーチンの所業からその正体に迫るべく発表したもの。著者の書は以前「イスラム国の正体」を紹介…

市役所建設部長の3つの悩み

本書は以前「殺人の棋譜」「奥の細道殺人事件」などを紹介した、斎藤栄のノンシリーズ。作者は1970年までは1作/年のペースだったのに、それ以降作品を量産し始める。かつて紹介した「Nの悲劇」も、野口英世の死の真相を探るというテーマは面白かったのだ…

外からだから見える事

今日2月22日は、忍者の日。2019年発表の本書は、直木賞作家姫野カオルコさんが、故郷滋賀県のことをやや自虐的に綴ったもの。筆者は1958年甲賀市生まれ、「昭和の犬」で直木賞を受賞し、東京と故郷を往復しながら作家活動を続けている。その滋賀県だが、あ…

女性たちの東シナ海海戦

2015年発表の本書は、元航空自衛隊員だった数多久遠(あまた くおん)の架空戦記。意味ありげなペンネームである。ネット作品「日本海クライシス2012」でデビューし、リアルな冒険小説作家として知られるとある。 本書の舞台は尖閣列島周辺の東シナ海、中国…

プロたちのツールへのこだわり

本書(1965年発表)は、先月「死者を鞭打て」を紹介した冒険小説の雄ギャビン・ライアルの作品の中で、本棚に残った最後の作品。僕は後年の<マクシム少佐もの>、例えば「砂漠の標的」あたりが大好きなのだが、マニアが好むのが1970年代前に発表された単発…

邦人保護担当特別領事、黒田康作

2009年発表の本書は、真保裕一の日本人作家には珍しい軍事スリラー。作者はアニメータ出身の作家・脚本家で、ドラえもん映画の脚本も手掛ける。1991年「連鎖」で江戸川乱歩賞を受賞するなど、多彩な作品で吉川英治・山本周五郎・新田次郎賞も獲得している。…