新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ムルマンスク・コンボイの悲劇

本書(1955年発表)は、以前「荒鷲の要塞」「金門橋」を紹介した冒険小説の大家アリステア・マクリーンのデビュー作である。舞台は北緯70度近辺の北極圏、何もかもが凍り付く厳寒の海だ。なぜこんなところで戦闘が発生するかと言うと、1943年の時点では欧州…

日本発の国際謀略小説

シミュレーション・ウォーゲームの中には戦争・戦闘だけでなく、国際謀略(外交ともいう)をテーマにしたものもあった。この種のゲームを漁っていた30歳前後、必然的に国際謀略小説(含むノンフィクション)も読むようになっていた。なかなか日本人作家でリ…

「象牙の塔」の異常殺人者

本書(1985年発表)は、ポーラ・ゴズリングの第6作。毎回テーマやスタイルを変える作者は本当につかみどころがない。前作「赤の女」はスペインを舞台にしたラブサスペンスだったが、本書は米国北部(ラストベルト?)の田舎町にある大学で全てが完結する。…

反日原理主義の国

3月に韓国大統領選挙があるのだが、それを前にして与党・野党・もうひとつの野党の候補者が、暗闘を続けている。人気だった野党候補者は、内輪もめで選挙対策本部を解散させるし、与党候補者は「髪の毛の植毛」などと意味不明の政策を主張している。日本人…

人間にとって経済とは何か

2016年発表の本書は、マクロ経済学者吉川洋東大名誉教授が、人口減少ペシミズムを打破する意図で書かれたもの。とかく人口減少続く日本では「失われた30年」もあって意気消沈していると、筆者には見えたらしい。 本書で筆者は、紀元前5,000年まで遡っての人…

カーが好きだった江戸川乱歩

本書は創元社が独自に編集したジョン・ディクスン・カー(別名カーター・ディクスン)の最後の短編集。長編はいくつか紹介しているが、作者は多くの短編や脚本も遺した。本書には、ラジオドラマ脚本2本、シャーロック・ホームズのパロディを含む4編の短編…

シャム猫<ココ>のデビュー作

1966年、本書によって「シャム猫ココシリーズ」が始まる。作者のリリアン・J・ブラウンは、デトロイトの新聞社に30年務めた記者。マンションの10階から飼い猫が突き落されて殺されたのをきっかけに、EQMMで作家デビューを果たす。本格的な長編第一作として執筆…

「タックスヘイブン」の仕組み

2016年4月、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、パナマにある法律事務所<モサック・フォンセカ>から流出した1千万件を超えるデータを公表した。いわゆる「パナマ文書」である。この法律事務所は違法・合法すれすれの租税回避措置などを扱ってい…

国境をまたがる「重婚罪」

本書は、ご存じE・S・ガードナーのペリー・メイスンものの1冊。解説には、1940年代の代表作だとある(1949年発表)。このシリーズは1933年の「ビロードの爪」に始まり、作者の死後の1976年まで合計82作品が出版され、その多くが邦訳されている。 ある夜、秘書…

プロットそのものがトリック

本書は、多作家西村京太郎の1971年の作品。まだレギュラー探偵十津川警部らが登場する以前の作品だが、このころの著作には力作が目立つ。本書はある意味、パズラーの極限を目指したもので、プロットそのものがトリックのようなミステリーだ。「プロトリック…

キンジーの危険な年末年始

これまで「アリバイのA」からはじまり、「欺しのD」までを紹介したスー・グラフトンの連作。主人公の私立探偵キンジー・ミルホーンは、サンタテレサに住む離婚歴2度の32歳。ジム通いやジョギングを欠かさない彼女だが、決してマッチョな私立探偵ではない…

おちこぼれ諜報員の闘い

以前元警視総監吉野氏の著書「情報機関を作る」を紹介したが、実際体験した例ではなく、諜報活動の実態例をジョン・ル・カレやフレデリック・フォーサイスの著書を引いて説明していた。近年よりリアルなスパイスリラーが増えていて、吉野氏も引用できる小説に…

トレッキーが描く後日譚

先週「Mission Impossible」のビデオを紹介したが、中学生の時やはり毎週楽しみにしていたのが「Star Trek」。重巡洋艦「エンタープライズ」が23世紀ころの宇宙を駆け回るSFドラマだった。原作者ジーン・ロッデンベリーは、一度TV局にこのシリーズを持ち込ん…

探偵をするスペンサー

そんなの当たり前だろうと言われそうだ。ロバート・B・パーカーの描く「スペンサーの世界」では、主人公のスペンサーはボストンで開業している私立探偵である。ただしもう30余冊読んだ限りでは、彼が探偵をするのは本当に珍しい。どちらかというと犯罪者を懲ら…

探偵小説はやはり短編

ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーが残したのは、20~50ページほどの短編ばかり。その後「月長石」のような600ページ以上の長編も出るのだが、初期の頃どうしても本格ミステリーは短編が主流だった。本書はアーサー・コナン・ドイルの最初のシャーロッ…

効能伝説・俗説を斬る

本書(2016年発表)は、農学畑から協和発酵、サントネージュワイン研究所などを経て、フード&ビバレッジ東京代表を務める清水健一氏が、ワインの伝説・俗説を科学者の視点から検証したもの。 著者はお酒大好き人種でもあり、「3人でワイン8本空けた」など…

このテープは自動的に消滅する

僕が中学生の頃、大好きで毎週見ていたのがこの番組「Mission Impossible」。邦題は「スパイ大作戦」というのだが、この題名は好きでなかった。後にトム・クルーズ主演でシリーズ映画になるが、僕はオリジナルの方がずっと好きだ。先日伊勢佐木町のBook-off…

不滅の内政・外交教本

「小さな政府」を標榜して、レーガン・サッチャー改革、日本では評判の悪い小泉・竹中改革を支持しておられるのが塩野七生さん。これまでにも何冊か著書を紹介しているが、本書は中世フィレンツェの政治家ニッコロ・マキャベリの遺した言葉を、著者の感性で…

記念すべきクイーン父子登場作

本書は(S・S・ヴァン・ダインはいたものの)米国ミステリー界を大きく飛躍させる新世代を拓いた1冊である。1929年、いとこ同士で24歳だった2人が共著したもので、ある雑誌の懸賞に応募し当選したもの。雑誌は廃刊になってしまったが、単行本として陽の目を見…

赤ん坊殺しと100万ドルのブツ

1989年、本書の発表でエド・マクベインの87分署シリーズは41作目になった。本書の帯によると、マクベインがこのころ初来日しているらしい。1956年「警官嫌い」で始まったシリーズは34年続いているわけだ。刑事たちはほとんど年を取らないし、昇進もしない。…

モーナの挑戦を受ける新婚夫婦

1941年発表の本書は、以前紹介した「大はずれ殺人事件」の続編。独立した2冊のように見えるが、クレイグ・ライスは2冊を通じた罠を読者に仕掛けている。それは社交界の花形美女(で大富豪!)の、モーナ・マクレーンが前作で公言したこと。 「私が多くの目…

市民視点のサイバーパニック

2013年発表の本書は、マシュー・メイザーの2作目の小説。もとは自費出版のEブックとして世に出たのだが、サイバー攻撃の脅威をヴィヴィッドに描いていることが評判を呼び、20ヵ国ほどで出版されている。映画化の話もあったと言うが、実現したかどうかは定…

ちょっとは和食も勉強して

何度かワインや洋食のレシピ、料理法などの書を紹介した。どこまで実践できるかは別にして、当家のディナーが多少豊かになったのは確か。それでは・・・と今度は和食の本を読んでみた。以前北大路魯山人を紹介した本は読んだのだが、ちょっと大物過ぎて参考にす…

日本メディア再生のヒント

2020年発表の本書は、半世紀にわたり日本を取材してきた伝説のジャーナリスト、ヘンリー・S・ストークス氏が、日本メディアの問題点を指摘した書。筆者は、 ・フィナンシャル・タイムズ ・ロンドン・タイムズ ・ニューヨーク・タイムズ の東京支社長を歴任した…

この国の本質は「外華内貧」

韓国では来年の大統領選挙に向け、史上最も汚らしい選挙戦との揶揄される候補者間のけなし合いが続いている。国を二分する選挙戦なのは確かなのだが、なぜこんなことになるのか不思議な思いをして本棚から引っ張りだしたのが本書。 まだ韓国がOECDに加盟した…

被害者のねじれた性格

本書(1938年発表)は、女王アガサ・クリスティが脂の乗り切っていたころの作品。「スタイルズ荘の怪事件」でデビューし「アクロイド殺害事件」でソロホーマーは打ったものの、明るいスパイものなどの評価は高くない。しかし彼女は、1930年代中盤から連続ヒ…

ウィチタの極寒のイブ

2000年発表の本書は、カンザス州ウィチタ生まれのスコット・フィリップスのデビュー作。作者は現在南カリフォルニア在住とのことだが、この作品の舞台もやはりウィチタだ。地図を見るとテキサス州の北、米国のアラスカ・ハワイを除く国土のちょうどど真ん中…

帝国海軍の「歩」

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「小艦艇」である。俗に「歩のない将棋は負け将棋」というが、海軍の作戦遂行は戦闘艦だけでは行えない。さまざまな用途をこなす艦艇(必ずしも小さいとは限らない)の支えが必要だ。本書は、そんな目立たない艦艇を…

三民主議を目指した政治的軍人

先週、竹内実著「毛沢東」を紹介したが、本書はそのライバルだった国民政府総統蒋介石について、歴史探偵の一人保坂正康氏が記したもの。現在のホットスポットである、台湾海峡の緊張を産んだ人物でもある。 軍事史に詳しい松村劭元陸将補によれば、蒋介石率…

内海薫刑事登場

本書は2006~2008年にかけて、いくつかの雑誌に掲載された「湯川学もの」中・短編を5編収めたもの。「予知夢」に続く第三短篇集である。2007年にフジTV「月9」枠で連続ドラマ「ガリレオ」が放映されている。当初の短編では警視庁捜査一課の草薙刑事が、同…