新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

高度の水平飛行に入った女王

1920年に「スタイルズ荘の怪事件」でデビューしたアガサ・クリスティ、20年代は「明るいスパイもの」に欲があって本格ミステリーにいまいち身が入らない面もあった。しかし最初の夫と離婚し考古学者マックス・マーロワンと再婚してからは、私生活も安定し作…

壮大な架空戦記

佐藤大輔という人はもともとゲームデザイナーだった。日本の短いシミュレーション・ウォーゲーム全盛期に、やりたい放題といえるくらい派手な作品を発表した「アドテクノス」の一員である。代表作は「Red Sun & Black Cross」のシリーズで、僕も続編である「…

ミステリ作家への指南書

高校生の頃、本気でミステリー作家になろうとしていた僕は、普通の小説のほかにも関係しそうなものを乱読した。人はどうやったら死ぬのか、気を失うのかといった医学関係のもの、犯罪を犯しても罪を免れたり、軽く済ませる法律関係のもの、銃器や爆発物の作…

ロシアの「オプ・センター」

トム・クランシーが精神科医であるスティーブ・ピチェニックと共著した「オプ・センター」シリーズ、第六作の「国連制圧」が割と面白かったので、さかのぼって第二作である本書を読んでみた。 国際紛争の中で緊急事態を察知するハイテク情報網を持ち、強制排…

悪魔のように頑固な娘

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、最初の結婚に失敗した後14歳年下の考古学者マックス・マーロワンと結婚し安定した生活を取り戻した。それが1930年のことだから、ミステリー界の「黄金の1930年代」に間に合ったと言うべきかもしれない。このころから…

薄く、分かりやすく

昨年経団連が翻訳出版した「サイバーセキュティハンドブック」については、これをセミナーで解説した人が、薄い、専門用語がない、経営者が質問する項目を書いているとして、とかく難しいサイバーセキュリティ対策について、文系出身者も多く忙しい経営者が…

石山本願寺攻防異聞

ミステリー作家というよりは、歴史家と言った方が井沢元彦という人を正しく表すかもしれない。デビュー作「猿丸幻視行」からして、SF的な手法も入れながら豊富な歴史考証を背景にしたものだった。一般のミステリー読者にはあまりなじみのない国文学者折口…

圧巻の山岳冒険ストーリー

冒険小説の重鎮ジャック・ヒギンスの諸作は大好きでまだ何作か残っているのが楽しみなのだが、彼が「比類なき傑作」と評したのが本書である。ボブ・ラングレーという作者の名前は何度か聞いたことがあるが、読むのは初めてだろう。背景や主人公を代えた10作…

ダルグリッシュ警視の影

世評の高いミステリー作家でも、僕個人が苦手にしている人は何人かいる。その中で代表的なのが、本書の作者P・D・ジェイムズ女史(Phillis Dorothy James)。生涯で20作ほどのミステリーを書き、3度英国推理作家協会のシルバーダガー賞など多くの受賞歴があり…

主任警部のクロスワード

本書は一時期アガサ・クリスティーの後継者とも評された本格ミステリー作家、コリン・デクスターの第三作。しばらく前にデビュー作「ウッドストック行き最終バス」と第二作「キドリントンから消えた娘」を読んだのだが、ちょっとコメントを書く気にならず残…

死刑囚と事件記者の一日

「暗闇の終わり」に始まる事件記者ジョン・ウェルズが主人公の4部作については、先月から今月にかけて全てご紹介した。息子を自殺させ妻にも逃げられた記者の悩みと事件追及の情熱が、全編を貫いていた。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/02/23/…

護衛艦「ふゆづき」の海賊狩り

本書は海上自衛隊護衛艦艦長、幹部学校教官、護衛隊司令、総監部防衛部長などを歴任した渡邉直が、ミリタリーマガジンの携帯サイトに連載していた「南海の虎ー小説海賊物語」を文庫出版したものである。時代は20xx年となっているが、登場する艦艇から見て202…

救急救命医療の現実

本書は、海堂尊の「田口・白鳥シリーズ」の第三作。「チーム・バチスタの栄光」「ナイチゲールの沈黙」に続くもので、竹内結子・阿部寛主演で映画化されたシリーズでもある。舞台は東城大学医学部付属病院、第一作で心臓外科を、第二作で小児科を扱って、本…

リアルな「ちょい悪刑事」

カッパノベルズは、正直あまりたくさん買った記憶はない。日本のものばかりであることも理由の一つだが、お値段がやや高めで1冊の体積も大きいのが問題。お値段の方は、Book-offの110円コーナーで探すのならハヤカワや創元社のものと同じになった。しかし体…

海兵隊員の死闘

75年前の今日は、硫黄島の栗林兵団が組織的抵抗を終えた日である。2週間前の3月10日は東京大空襲の日で、10万人以上の市民が犠牲になっている。グァムやサイパンからのB-29だけでもこれほどの被害を受けるのだから、東京からわずか1,000kmしか離れていな…

サイバー戦争を予言したシリーズ

軍事スリラーものの大家トム・クランシーは、生涯で何度も共著者を変えている。1998年頃から、近未来スリラーの新しいシリーズ「Power Plays」を始めたが、この時の共著者がマーティン・グリーンバーグ。同名のSF評論家がいて、Wikiでもなかなか正体がわから…

会社は株主のもの・・・

本書は、以前「憲法おもしろ事典」「民法おもしろ事典」を紹介した、弁護士ミステリー作家和久峻三の「おもしろ法律シリーズ」の一冊。のちの生活の安定を思って工学部に進学し、法学者になることをあきらめた僕にとって、大学生以降「法律は趣味」になって…

クライシス・コミュニケーション

今年初めに三菱電機や日本電気へのサイバー攻撃があったとの報道があり、いずれも1~2年過去のものだったにもかかわらず、しばらく世間を騒がせた。産業界ではこのような事態を受けて、改めて「クライシス・コミュニケーションどうあるべき」の議論が始ま…

Global TAX Warfare

いわゆるGAFAのような企業が税金を十分に払っていないという指摘は昨年急に脚光を浴びてきて、フランスなどは(ルクセンブルグにEU本社のある某社に)独自の課税をすると息巻いている。EU内のサービス提供は、どこかの加盟国で税金を払えばいいはずなのに・・・…

小説の形をした教科書

柘植久慶という作家には多くの軍事スリラーの著書があって、「前進か死か」全6冊などは本当にリアルな作品で何度も読んだ。一方ビジネス書やサバイバル書も多く、「パーフェクトコマンダー」という前線指揮官の心得を書いた本は、以前紹介している。 https:…

北方領土ビジネスとの闘い

鈴木宗男議員は、昨年の参議院議員選挙で「日本維新の会」から当選、三度目の国政復帰を果たした。もともとは中川一郎衆議院議員の秘書で、中川議員の死後衆議院議員選挙に当選した。地盤を奪ったという噂もあり、息子の中川昭一議員との確執は(本書には触…

包丁より推理が切れる料理店主

作者の陳舜臣は、僕にとっては中国史の大家。「小説十八史記」や「秘本三国志」から、「中国五千年」「中国の歴史」「耶律楚材」などたくさん読ませてもらった。1924年神戸市生まれの中国人だが、日中両国の文化を十二分に理解した人で、両国関係が微妙な昨…

アイデアそのものは不滅

広田厚司という人は、会社勤めのかたわら欧州大戦史を研究し、雑誌「丸」などに多くの投稿をしている。この光人社NF文庫にも多くの著作があり、先日紹介した三野正洋とは少し違った視点で第二次世界大戦の兵器を分析している。 本書は第二次欧州戦線に現れた…

惑星タイタンのナメクジ

「宇宙の戦士」などのSF作品で有名なロバート・A・ハインラインは、5年間海軍士官として駆逐艦などに乗り組んでいた。しかし第二次世界大戦を前に病気を得てエンジニアリングの世界に転じ、大戦中はレーダー関係の技術者として「カミカゼ」の検知技術向上に貢…

極寒シカゴの女探偵

サラ・パレッキーのV・I・ウォーショースキーものの第三作が本書。ヴィクことミズ・ウォーショースキーはアラサーのバツイチ女探偵、ホームグラウンドはシカゴである。僕は経験がないが、シカゴの冬は零下30度にもなるという。この極寒の街で、ヴィクは大掛か…

純粋心理推理の物語

本格ミステリーというのは、非常に幅の狭い文学ジャンルである。数々の宿命や先人の作品という制約の中で、大家たちは挑戦を続けたものだ。その意味では、後年精彩を欠いた(編集に傾倒し過ぎた?)エラリー・クイーン、密室を隅々まで掘り返しやがて歴史も…

事件記者対悪徳警官

キース・ピータースンの、事件記者ジョン・ウェルズものの4作目で最後の作品が本書。なんどもウェルズの前に現れていた悪徳警官、トム・ワッツとの決着をつけることになった。ワッツは以前警部だったが、ウェルズに不正を摘発され警部補に格下げになった。…

人道主義者との闘い

本書はトム・クランシーとスティーヴ・ピチェニックの共著による、米国の危機管理組織「オプ・センター」ものの第6作。舞台はニューヨークなのだが、アメリカであってアメリカでないところ「国連」である。 今回の悪役は、5人のテロリスト。ブルガリア人傭…

ヒッピーたちのその後

ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズも本書(2003年発表)で30作となった。スペンサーは朝鮮戦争従軍経験もあるということだったから、普通ならこの時点で70歳を越えているはずだが、私生活含めて若々しい。ただスーザンと飼っていた愛犬パールは前作…

悪女の皮肉な戦い

パトリシア・マガーは本格手法での変格ミステリーを得意とした作家だと、以前紹介した。彼女は大学でジャーナリズムを専攻、道路建設協会の広告部勤務を経て「建設技術」という雑誌の編集を担当、戦後間もない1946年に「被害者を探せ」でデビューしている。…