新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

5区警察署長アダムスベルグ

フランスのミステリーというと、多くはサスペンス。本格ミステリーと言われるメグレ警部(警視)ものにしても、英米の本格とはちょっと味の違ったものだ。しかし近代には本格ミステリーも増えて来て、本書(1996年発表)の作者フレッド・ヴァルガス(女性で…

ミステリー作家の楽屋裏

先日ミステリー界の「当代一の読み手」と紹介した佐野洋の「同名異人の4人が死んだ」の評に、推理作家って大変なんだと書いた。犯罪を扱うものだけに、万一にも現実の何かを想起させてはいけない。特に人名の扱いには、慎重の上にも慎重をとのスタンスがに…

日本人の思考1940(後編)

本書は「日本軍の小失敗の研究」の続編、1996年に発表されたものだ。著者三野正洋は技術者でありながら、本書には「未来を見すえる太平洋戦争文化人類学」と副題を付けている。日本軍が合理的でない思考をしていたことは前編でも何度も指摘されているが、本…

日本人の思考1940(前編)

三野正洋と言う人は日大講師の傍ら、技術者の視点から「戦略・作戦・戦術」に関する独自の分析をした著作を多く著わしている。以前「戦車対戦車」「戦闘機対戦闘機」という兵器の比較研究書は紹介している。今回は技術論ではなく軍(あるいは国)の思考にメ…

文豪の試技

特にイギリスに多いのだが、文豪と呼ばれる人たちが本職はだしのミステリーを書くことがある。多くは作家として成功してから「余技」として何作か書くというものだ。イーデン・フィルポッツ、A・A・ミルン、E・C・ベントレーらの手になる、古典のなかで…

親分衆の前での「名探偵」振り

笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」でも、指折りの面白さを持つのがこの中編集。60~70ページの中に事件があり、謎があり、意外な結末があるのがお約束だが、本書の中の「桜が隠す嘘二つ」ほど見事な時代劇ミステリーは滅多にない。下総の国境町では、地場…

テロ組織<マカベア>の長、ユダ

本書(1997年発表)は、ジャック・ヒギンズのショーン・ディロンものの1冊。以前紹介した「悪魔と手を組め」に続く作品で、英国首相の私兵であるファーガスン准将、バーンスタイン主任警部とディロンの3名が活躍するシリーズだ。1992年「嵐の眼」で主役と…

100年前の「スモール・ベースボール」

トランプ先生が「中国ウイルス」と連呼したのをきっかけに、米国で東洋人へのヘイト・クライムが増えてきている。日系・韓国系の人も含めて、生命・財産の危険にさらされているが、これは長く蓄積されてきたプアホワイトたちの不満が噴出したものだろう。こ…

捜査検事霧島三郎

高木彬光が産み出した名探偵は、神津恭介に始まり、百谷泉一郎夫婦、大前田栄策、墨野隴人などがいるが、TVドラマにもなったせいか本書の霧島三郎の知名度が高い。神津恭介シリーズもTVで放映されるのだが、何しろ天才過ぎて長続きしなかったようにも思う。…

World Intelligence 2019

本書は、元NHKワシントン支局長でジャーナリストの手嶋龍一氏と外務省で「ラスプーチン」のあだ名で呼ばれた主任分析官だった佐藤優氏が、当時の世界情勢を語ったもの。「中央公論」2019年8~11月号の記事向けに行われた対談がベースになっている。 題名は…

伊賀と甲賀

昔少年サンデーというマンガ雑誌があり、小学生の僕は「伊賀の影丸」という連載を一番の楽しみにしていた。先年事故で亡くなった横山光輝の作品としては、「鉄人28号」よりずっと好きだった。忍者というものの実像はかなり歪められていたのだが、それは子…

異文化だからこそ、大好き

僕ら夫婦の国内での旅行先と言えば、一番多いのは函館、次は宜野湾である。沖縄には10余年前に仕事で行って、それからちょくちょく通うようになった。一時期中国からの観光客(ビザ不要のエリアなので)に締め出されていたのだが、昨年3年ぶりに1週間の滞…

ピーターとアイリスの出会い

パトリック・クェンティンという作家は、非常に複雑な執筆体制をとっていた。これ自身ペンネームで、ほかにQ・パトリックというペンネームも持っていた。実態は、 リチャード・ウィルスン・ウェッブ ヒュー・キャリンガム・ホイーラー の共作である。1931~…

東京駅の新幹線ホーム

東京駅に東海道新幹線以外の新幹線が乗り入れたのは、いつのことだったろうか?東北新幹線、上越新幹線は上野どまりだったはずだ。もちろん秋田新幹線、山形新幹線や北陸新幹線も。だからあまたのアリバイ崩しミステリーはあるのだが、複数の新幹線を絡めた…

殺人犯を追いながらグルメ

一昨年亡くなった内田康夫は多作家である。浅見光彦、信濃のコロンボ、岡部警部などのシリーズもののほかノンシリーズのミステリー、紀行文など作品は140冊にも及ぶ。累計発行部数は2007年の時点で1億部を越えている。ミステリー作家というと自らの私生活は…

ブルックリンを愛するあまり

スタンリー・エリンは不思議な作家である。EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)が発掘したひとりで、「特別料理」という奇妙な味の短編でデビューした。生涯に長編14作と短編集4つを残した。ずっとブルックリンに棲み続け、70年弱の間の大き…

シルクロード経済圏構想

AIIBこと「アジアインフラ投資銀行」は、2013年APECの会場で習大人が設立構想を説明し、本書が出版された2015年に正式に発足している。筆者の真壁昭夫氏は元第一勧銀の銀行マン、第一勧銀総研などを経て信州大学経済学部教授となった人。中国が「シルクロー…

板門店での銃撃事件

多分韓国のミステリー(軍事スリラーか?)を紹介するのは、これが初めて。南北の休戦状態を題材にした映画としては「シュリ」(1999年)が有名だが、本書はそれを超える人気を博したという映画(2000年)の原作。原題を「DMZ:非武装中立地帯」という。作者…

ファーストクラスの娼館チェーン

先日「スクールデイズ」を紹介したロバート・B・パーカーの「スペンサーもの」の、次の巻が本書(2006年発表)。前作で「スペンサー一家」に仲間入りしたような黒人ギャングメージャーや弁護士リタは登場せず、スーザンとホークが帰ってくる。そしてもう一人、…

手近な最後のフロンティアか?

いろいろな国のこと(米国・欧州・英国・中国・韓国)を、何冊もの新書で勉強してきた。しかし手近なところの1国はまだ手付かず、それが北朝鮮だ。トランプ政権の宥和とも見える政策がバイデン政権に代わってどうなるのか、かの国の指導者は心配しているは…

分かりやすく、子供にも分かるよう

先日、歴史探偵半藤先生と本書の筆者池上彰氏の対談風の本を紹介した。僕は筆者がNHKの人だったということしか知らず、TV番組で種々のニュース解説をされているのは知っていたが、まともに視聴したことは無い。だが上記の本を読んで、一度著作を読んでみたい…

ラストベルトの環境汚染

1988年発表の本書は、サラ・パレツキーの「シカゴの女探偵V・I・ウォーショースキーもの」の第五作。V・Iことヴィクは子供のころを過ごしたサウス・シカゴで、赤ん坊のころから知っている娘の「父親を捜して」という依頼を受けたことをきっかけに、この街で蠢く…

マクギー捜査官の成長

欧米への海外出張のフライトで、必ず見ていたのが「ネイビー犯罪捜査班(NCIS)」。スピーディなストーリー展開、アクションにユーモア、さらにサイエンスと意外な結末が揃っていて、楽しませてもらった。どのエピソードも往復見るので、大体3回以上は見た…

懐かしや、特捜部会田刑事

TV朝日系で1973年から1980年まで放映された刑事ドラマ「非情のライセンス」。刑事ものを各局が競っていたころのシリーズで、それらの中では最もハードボイルド色が強かった印象がある。そのシリーズの原作となったのが、生島治郎作の本書である。主人公の会…

何も高齢者ばかりを責めなくても

本書は「失われた20年」がどうして起きたのか、その処方箋は何かを筆者なりの視点で提案したもの。筆者の藤野英人氏は投資信託ファンドマネージャー、「レオスキャピタルワークス」を立ち上げて日本の成長企業に投資している人だ。 本書の前半は日本の産業界…

ヘンリー卿の銃器コレクション

第二次世界大戦直後の1946年に発表された本書は、アガサ・クリスティーのポワロものの1冊。「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした作者と探偵のコンビは、26年間英国推理文壇に大きな足跡を残していた。しかし当初は「明るいスパイもの」が好きだった作者…

三国志最大のヒーロー

本書は1991年に5年にわたる連載が終わって文庫化されたもの。作者の陳舜臣については、これまでにも「小説十八史略」や「耶律楚材」など中国の歴史小説をいくつも紹介している。三国志についても「秘本三国志」や「曹操」を読んだことがある。その紹介記事…

マニピュレーションの到達点

本書(1963年発表)は、エラリー・クイーン後期の作品。ライツヴィルものではなく、ニューヨークを舞台にクイーン父子とお馴染みのヴェリー部長刑事らが登場する。とてもニューヨークにあるとは思えない四角形の古い洋館である「ヨーク館」、四隅を対称形の…

財政再建はもちろん必要

本書は「霞ヶ関埋蔵金伝説」で知られた、ユニークな経済学者髙橋洋一の初期(まだ財務省勤務だった?)の著作。実は僕の一番の苦手が「お金」、自分の生活に必要なくらいのものは理解できるのだが、デジタル技術や軍事戦略と違って大きなお金のセンスには自…

10万円一律給付要求のルーツ

以前、NPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典理事の「下流老人」を紹介した。本書はその続編、貧困老人を量産するようになってしまった社会の構造改革はこうあるべきだとの「解決篇」である。著者は現在「10万円一律給付」を求める記事を毎日のように投稿してい…