新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

卑しき街の孤高の騎士

正統的ハードボイルドというと、ダシール・ハメット⇒レイモンド・チャンドラー⇒ロス・マクドナルドという系譜が思いつく。今回はその次男坊、レイモンド・チャンドラーをご紹介したい。主人公フィリップ・マーロウは、ハリウッドに住む私立探偵。作中では、…

デフ・マン三度目の挑戦

1956年に第一作「警官嫌い」が発表されてから、エド・マクベインはコンスタントに87分署シリーズを発表し、1973年に出版された本編は27作目である。12作目「電話魔」で登場しキャレラ刑事に重傷を負わせ、22作目「警官(サツ)」でもおなじみの刑事たちを…

監視社会アメリカ、2012(後編)

ATS(アダプティブ・テクノロジ・ソリューションズ)は国家安全保障会議にも入り込んでいて、極秘抹殺予定者リスト(題名ともなっているブラック・リスト)に勝手に名前を付け加えることも出来る。本来は、オサマ・ビン=ラディンのようなアメリカに敵対…

監視社会アメリカ、2012(前編)

作者ブラッド・ソーはライター、プロデューサーなどを経て「傭兵部隊<ライオン>を追え」でデビューしたミリタリー作家である。驚いたことに共和党のシンクタンク「ヘリテージ財団」のメンバーでもある。本書の中にもブルッキングス研究所のレポートが紹介…

陪審員たちの闘い

ミステリーのひとつのジャンルに「法廷もの」がある。有名なのはE・S・ガードナーの「ペリー・メイスンシリーズ」だが、これはハイライトを法廷に持って行った普通のミステリーと言えなくもない。法廷もののマニアの中では「最初から最後まで法廷だけを描写…

SAS出身の覆面作家

クリス・ライアンという作家は、イギリス軍の特殊部隊SAS(Special Air Service)で狙撃手の務め、湾岸戦争でイラクでの戦果によりミリタリー・メダルを授与されている。湾岸戦争では、スマートな爆弾が使用され目標に向かって軌道を修正しながら命中させ…

一人称ミステリー

ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドなどのハードボイルド小説は、「私」の視点で書かれた一人称ミステリーだった。この手法は主人公の考えや人柄を表すのに向いているものの、私の視野以外のことがらを書くことができないので制約も大きい。 本格ミ…

ヘンリー・メリヴェール卿登場

第一次世界大戦時の海軍大臣でガリポリ上陸作戦の失敗を経験したウィンストン・チャーチル卿は、第二次世界大戦の勃発で「戦時首相」の職に就く。本書の発表1934年当時は、政権から距離を置き不遇をかこっていたころである。それでも有名人であったことに間…

南から北へ、12のお城

海音寺潮五郎という作家には、あまり縁がなかった。歴史ものを多く残した人で、故郷の英雄西郷隆盛の史伝を執筆中に亡くなったという。僕自身は、小学生のころに「天と地と」を読んだくらいしか記憶がない。その年大河ドラマで「天と地と」が放映されていて…

黄金の20年代の始まり

エドガー・アラン・ポーの創始になるミステリーというもののうち、本格探偵小説という分野が黄金時代を迎えたのは1920年代からだろう。アガサ・クリスティのデビューも今回紹介するフリーマン・ウィルズ・クロフツのデビューも1920年である。 1926年には、S…

雪に閉じ込められた列車で

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、初期のころは特に「意外な犯人」を追及した。古典的なミステリーファンに聞くと、彼女のベスト3は、「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺害事件」と、本作「オリエント急行の殺人」との声が多い。いずれの作品…

インドの軍事スリラー

高級織物カシミアを産し、カラコルム山脈を背景にした美しい土地であるカシミール地方。ここを舞台にした、インド発のミステリーに出会った。ミステリーと言えば英米が主体、フランスのものは少し経験したが、ドイツ・ロシアのものは過去に1編づつしか読ん…

鉄道考古学者の旅

作者の宮脇俊三という人は、中央公論社の役員まで務めた後は好きな鉄道を追いかけて、中国、シベリア、インドまでも行ったうらやましい人である。在職中から金曜日になると落ち着かないという理由は、来週金曜日の夜行列車の予約をするかどうか迷うから。か…

デンマークの現代アクション小説

ギャビン・ライアル「もっとも危険なゲーム」で扱われたのは、銃を持った人間を最後の狩りの相手とするまでエスカレートしたハンターの異常心理だった。この作品は1963年の発表だが、その50年後やはり北欧を舞台にした同じテーマのアクション小説が生まれて…

悪い奴のお金の話

ドナルド・E・ウェストレイクという作家は作風の広い人で、いくつかのペンネームを使い分けている。その一つがリチャード・スターク。かれはこの名前で「悪党パーカー」シリーズを20作近く発表している。その第一作が本書(1962年)。 冒頭ニューヨークと思…

等身大の私立探偵

本書はインディアナポリスで一番安い私立探偵だと、自らも言うアルバート・サムスンの二度目の登場作品である。1日$35+経費というのは確かに安い。フィリップ・マーロウは$100、スペンサーは$200だった。本書の発表は1973年だから、マーロウよりは大分…

香港、1968

およそ50年前の香港。イギリスの施政権下にあり返還の期限までまだ30年近くあるのだが、1万人あまりのイギリス人に対し100倍以上の中国人が生活していて「毛沢東の影」が色濃く指している。おなじみのCIAエージェント、プリンス・マルコ・リンゲ大公殿下は…

核戦争の危機とファンタジー

フィリップ・K・ディックという作家も、不思議なひとである。スタンリー・エリンとも、G・K・チェスタトンとも、ロアルド・ダールとも違う。作品もSFというべきか怪奇ものというか、区分しづらい。一番大きな括りで、ファンタジー作家というのが適切なよう…

中台もし戦わば

21世紀初頭、民主化勢力の蜂起によって内戦が拡大した中国に対して、民主化勢力と呼応した台湾軍が本土に逆上陸するというIFを描いたのがこれ。以前紹介した「ステルス駆逐艦カニガム」の第二作である。前作で単艦でアルゼンチン軍のほとんど全てを相手取る…

本格ミステリーからSFまで

ミステリー界に短編の名手と言われる作家は多いが、本書の著者フレドリック・ブラウンはそのジャンルの広さが際立っている。膨大な作品で知られるアイザック・アシモフも本格ミステリー、サスペンスもの、SFと書き分けるが、ブラウンもこれに匹敵する。 本…

リンカーン・ライムシリーズへのステップ

「どんでん返し職人」ジェフリー・ディーヴァーの1995年の作品が本書。同年の前作「監禁」については、少々辛口のコメントをした。その後ほぼ全身不随の捜査官リンカーン・ライムを主人公にしてブレイクしたディーヴァーだが、それまではそこまで傑出した作…

名探偵らしい名探偵

今まであまり日本の作家を取り上げてこなかったのだが、久し振りに「神津恭介」の名前を見つけて本書を買ってきた。高木彬光の代表的な名探偵だが、高校生時代にずいぶん読んだのだがそれ以降ご無沙汰してしまっていた。今回40年ぶりの再会である。 日本の本…

バハマ諸島、1967

神聖ローマ帝国第18代大公殿下マルコ・リンゲが、ハリケーン荒れ狂うバハマ諸島で誘拐された技術者の奪還(か暗殺)を図る物語。アメリカ合衆国の裏庭ともいえるカリブ海に、キューバ革命(~1959年)キューバ危機(1963年)が起きて不安定化していたころの…

第六天魔王の秘密

加藤廣という歴史作家は、中小企業金融公庫や山一證券を経てビジネスコンサルタントをしていたのだが、2005年75歳の時に「信長の棺」でデビューしている。信長公記の作者太田牛一を主人公に、本能寺の変の真相に迫った出色の歴史ミステリーである。 「信長の…

副砲の役割

戦艦は、20世紀前半の「最終兵器」だった。空母機動部隊や長距離爆撃機、核兵器が現れるまで、保有する戦艦の質×量は、国力の大きな指標だった。戦艦の基本性能は、搭載している巨大な大砲のそれと言っていい。戦艦とは、巨砲を運ぶプラットフォームである。…

ミステリーの長さ

ミステリーの創始者と言われるエドガー・A・ポーが著わしたのは、短編小説だけだった。(翻訳の文庫本で:以下同じ基準)20~40ページくらい。中学生なら興味を切らさず、読み終えることができる長さである。その後ウィルキー・コリンズが500ページ級の「月…

インディアナポリスの探偵

ハメット・チャンドラー・マクドナルドという正統派ハードボイルド小説も、第二次大戦後特に1970年代になるとかなり変わってきた。以前紹介したロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズもそのひとつだが、マイクル・Z・リューインのアルバート・サムスン…

安楽椅子探偵のサロン

アガサ・クリスティーは、長編小説だけでなく戯曲や短編小説でも多くの名作を残した。短編集の数も多い。本書は、その中でもミス・マープルものを集めた短編集である。クリスティーは本書の序文で、「ミス・マープルは私の祖母に似ている」と深い愛着を示し…

太平洋の長距離戦闘機(後編)

第二次世界大戦も後半、米国の巨大な工業力と技術力は続々と新鋭兵器を開発・配備させることができた。日本が結局持つことができなかった四発の戦略爆撃機B-17⇒B-29、空母艦隊に随伴可能な高速戦艦アイオワ級、対空火力を飛躍的に向上させる近接信管…

太平洋の長距離戦闘機(前編)

もうじき、真珠湾作戦から78年になる。世界一広い太平洋を巡って、2つの海棲国家が覇権を争った。当時すでに軍縮条約の期限は切れていたが、条約に定めた「英・米・日の主力艦等の比率は5・5・3」というのは割合実態を表していて、この3国が世界をリー…