新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

カジノ船という要塞

ドナルド・E・ウェストレイクは作風の広い作家でユーモア色の強いものから、本書「悪党パーカー」もののようにリアルを追求したものもある。すでに2作ほど紹介しているこのシリーズ、恋人(というより情人?)クレア以外は決まったレギュラーがおらず、パー…

プライバシーのない村

インターネットで情報が飛び交うようになって、個人情報の悪用のリスクが高まっている。欧州を中心にプライバシー保護強化の声はたかくなるばかりだ。ただ、インターネットはおろかコンピューターすらない時代、すでにプライバシー危機はあったようだ。 本書…

「オクトーバー」という好敵手

ジャック・コグリン(&ドナルド・A・デイヴィス)の描く「狙撃手」シリーズの主人公カイル・スワンソンには、同等の狙撃能力を持った好敵手「ジューバ」がいる。これと同じようなテイストの、好敵手物語に出会った。作者のダニエル・シルヴァは、本書が二作…

昭和11年2月26日の密室殺人

とにかく読み進むのに重くて、手が疲れる小説だった。宮部みゆきのSF・歴史小説「蒲生邸事件」は、新書版で530ページの大長編である。作者は1986年に「オール読物推理小説新人賞」の候補になって以降、数々のミステリー・SF・ファンタジー・時代小説を書き、…

長距離戦闘機の価値

今や警察小説作家となった佐々木譲。1979年「鉄騎兵、飛んだ」でデビューして後、その名を有名にしたのが本書から始まる第二次世界大戦秘録3部作である。元は本田技研に勤めていて、F-1プロジェクトで知り合ったエンジニアに零戦の設計に携わった人がいたと…

桂冠詩人セシル・デイ・ルイス

ミステリーのカタログや裏表紙などに、簡単な内容紹介が載っている。これが、書籍を買うかどうかの判断材料になることは多い。本格ミステリー好きのNINJA青年は「xxミステリー100選」などという書評とともに、内容紹介文を見て購入する優先順位をつけてい…

過去を背負った事件記者

キース・ピータースンは1983年に別名でMWAペーパーバック賞を受賞した作家、なぜかその作品は単発で終わり、5年を経て本書で再デビューを果たしている。主人公に選んだのは、ニューヨーク<スター紙>の事件記者、ジョン・ウェルズ45歳である。 ウェルズは…

ニッキー・ポーターの誕生

エラリー・クイーンは有名な「国名シリーズ」・「悲劇4連作」・「ライツヴィルもの」などの長編のほか、多くの短編や脚本、少年向け作品を手掛けている。中期以降のこれらの作品には、作家/探偵であるエラリー・クイーンの秘書としてニッキー・ポーターと…

室町末期の美濃の国

本書は岩井三四二が第五回の歴史群像大賞を得た、忠実な時代考証に基づいた歴史小説である。主人公は、若いころの斎藤道三。小説やTVドラマ等では濃尾地方をとりあげるのは織田信長時代以降がほとんどだから、斎藤道三は冒頭悪役風の老人として出てきて直ぐ…

戦後ミステリー第二期の金字塔

本書は、隠れもない日本ミステリーの代表作である。改めて手に取ってみて、こんなに短い小説だったのかと驚かされた。全部で200ページ余り、昨今800ページから1,000ページの大作が当たり前になっているが、横溝正史の「本陣殺人事件」も200ページ弱の中編だ…

Science Fact小説の草分け

新型コロナウィルスが暴れまわっているからというわけではないが、本棚から本書を引っ張り出してきた。作者マイクル・クライトンは、ハーバード・メディカルスクール在学中から小説を書き始め「緊急の場合は」(1968年発表)でデビュー、本書(1969年発表)…

関東軍の謀略

檜山良昭という作家は、1980年前後に第二次大戦をテーマにした歴史ものを書いた人である。いわゆる「架空戦記」も多いのだが、「とんでも架空戦記」まではいかない、あり得た歴史ものが中心だったと思う。本書も1983年発表で、当時はやっていた史実を無視し…

浦上伸介自身の事件

書き下ろしを含めて、津村秀介は数々のアリバイ崩しものを書いた。その多くは2時間ドラマになって放映されたのでメインのトリックはTVで見覚えがあるものも多い。本書もそんな一冊なのだが、作者は主人公のルポライター浦上伸介に特別の試練を課した。こ…

ダルジール警視登場

レジナルド・ヒルは英国のミステリー作家。1970年に「A Clubbable Woman」でデビューし、1971年発表の本書が第三作にあたる。日本への紹介は少し遅れ、1980年にハヤカワが本書を翻訳したのが最初である。街の名前は分からないが、ロンドンに近い海岸の町のよ…

旅行者のカメラ、1938

エリック・アンブラーはイギリス生まれのスパイものを得意とした作家である。エリオット・リード名義のものも含めて20作あまりの長編小説を残した。1936年に「暗い国境」でデビューし、それまでの「外套と短剣」型のスパイ小説に飽き足りなかった読者に、リ…

素人探偵の事件への関わり方

深谷忠記の美緒&壮シリーズは、2時間ドラマそのままの面白さがあってそれなりに評価できるのだが、雑誌編集者の笹谷美緒と数学者の黒江壮の2人では、官憲の捜査に関わるやり方が難しい。それをよく現したのが本書である。 以前紹介したようにおしゃべり女…

大統領!Situationです。

トム・クランシーは生涯で何人もの共著者を使った。戦略・作戦級ゲームデザイナーのラリー・ボンドに始まり、最後に戦術・戦闘級のチャンピオンであるマーク・グリーニーと組んだ。クランシーの死後も、グリーニー流の軍事スリラーを書き続けている。クラン…

「センパー、ファイ」が口癖

あとがきの後の解説には、本書のようなものを「軽ハードボイルド」というのだとある。表紙のアニメも含めて、いかにも軽めの私立探偵ものだなという印象を与えている。シアトルを舞台に活躍する私立探偵ジェィグ・ロシターとその仲間たちの物語で、本書に続…

火星と地球の運命

レイ・ブラッドベリは不思議な作家である。一応SF作家と分類されているようだが、幻想文学者という表現の方が正しい。単にファンタジー作家というには、作風が重すぎるのだ。どちらかというと短編のキレに鋭さがあり、「十月は黄昏の国」という短編集は高…

円には端がない

本書はアイザック・アシモフの「銀河帝国興亡史」第三巻、ここで宇宙大河ドラマは一応の終わりを迎える。一応の・・・と言ったのは、この後30年を経てアシモフが第四巻「ファウンデーションの彼方へ」を発表、第五巻にも取り掛かるという情報があったからだ。 …

北大西洋航路の「笑劇」

本格ミステリーの黄金期、イギリスとアメリカにわたって不可能犯罪を追い続けたのが、ジョン・ディクスン・カー。すでに何作か紹介しているが、本書は1934年発表で全編北大西洋航路上のクイーン・ヴィクトリア号で物語が展開する。脱出トリックという意味で…

武装中立、3カ国の場合

第二次欧州大戦では、ヨーロッパのほとんどの国が戦果に巻き込まれた。しかしトルコ(これは小アジアの国に分類できるかも)と、ここに取り上げる3カ国だけは中立を保った。本書にあるように中立を守れた事情や理由は異なるが、共通しているのは「武装中立…

読者への挑戦

日中戦争から第二次世界大戦の期間、日本の探偵小説は弾圧されていた。世間をいたずらに騒がす犯罪ものはけしからんというのが直接的な原因のようだ。英米発の探偵小説を、敵性文化と見たということもあろう。作家たちは徴兵されないまでも、筆を折るか戦記…

逆説とトリックの小箱

ギルバート・キース・チェスタトンはイギリスの作家、詩人、批評家、随筆家である。1905年ころ長編ミステリー「木曜の男」を発表しているが、推理作家としての地歩を築いたのは「ブラウン神父」という、小柄でコウモリ傘に帽子とマント、丸顔であどけない神…

ダートムーアという荒れ地

イギリスの小説を読んでいると、時々ダートムーアという土地の名前が出てくる。特に怪奇小説に多いような気がするが、描写を見ても陰鬱なところらしいと思っていた。それ以上は調べる気もなくて、雰囲気だけ味わっていたのだが、コナン・ドイルの「バスカヴ…

WWWAのトラブルコンサルタント

SFはあまり読まない僕だし、ましてやスペースオペラというジャンルは全くといっていいほど読んでいない。E・E・スミスのレンズマンシリーズなど、手に取ったこともない。それでも、このシリーズだけは読んでいた。高千穂遥のダーティペアシリーズ。「S-…

夜の蝶が乗った玉の輿

ミステリーの翻訳や評論をしている人が自分でもミステリーを書くというのは、珍しいことではない。以前ハードボイルド小説に詳しい小鷹信光の「探偵物語」を紹介したが、舞台は日本、登場人物は日本人になっていても、テイストはすっかりアメリカンハードボ…

予想できなかった歴史

本書はアイザック・アシモフの「銀河帝国興亡史」の第二作。巨大な帝国の衰退を予知した歴史心理学者ハリ・セルダンは、帝国崩壊後の暗黒時代を短くするため2つのファウンデーション(百科事典財団)を辺境に設けた。第一作は第一ファウンデーションが誕生…

顔認証プログラムが暗殺者

作者のデイヴィッド・メイスンは、英国の近衛連隊の出身。特殊部隊にいたがどうかは分からないが、ドーハ戦争で武勲を立てて除隊、オックスフォードシャーの州長官も務めた。本書はデビュー作「バビロンの影~特殊部隊の狼たち」に続く第二作である。デビュ…